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タヌキと俺と、時々坊主  作者: 黒辺あゆみ
3話 雨のち晴れ

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6 ヒヨリとモコモコ

突然出現したかのようなその子どもに、郁也は驚く。


 ――誰!? っていうか、どっから湧いたんだこの子!?


 なんだかキラキラした見た目をしていて、とにかく綺麗な子どもであった。

 その子どもに向かって、郁也の傍らの子どもが「ヒヨリ!」と叫んでピョンピョンと跳ぶ。

 それと一緒に尻尾も引っ張られる。いい加減に尻尾を手放してほしいのだけれども。


「ごめんごめん、あにさまやあねさまの話し相手をしていたら、うっかり時間が過ぎちゃってたよ!」


急に現れた子ども――ヒヨリが、そう言って謝る。


「もう! こっちは心配したんだからぁ!」


こちらの子どもは涙はすっかり引っ込んだものの、むくれ顔である。

 そんな彼に、ヒヨリが「ごめんって!」って何度も謝ったところで。


「ほら、帰ろう?」


そう言って手を出してきたヒヨリに「うん!」と大きく頷いた子どもだったが。


「あ……」


差し出された手を握ろうとしたところで、初めて握りっぱなしの尻尾の存在に気付いたようだ。


 ――よかった、やっと解放される……。


 郁也はホッとしたのだけれども。


「これ、モコモコ、持っていきたい」


子どもがそうボソッと呟いた。


≪ヒイッ!≫


これにポン助が悲鳴を上げるし、郁也もヒュッと息を呑むと、尻尾がブワッと膨れる。

 すると子どもが「わあっ!」とさらに尻尾をギュムッと握ってきた。

 そんな尻尾と郁也を見比べたヒヨリが、「人間か?」と首を捻っているが、本人はしっかりと人間のつもりなので、疑問形はやめてほしい。

 ただ、脳内にタヌキが住み着いているが。


「稲荷神の遣い共だって、モコモコだろう?」


ヒヨリが尻尾を持っていくのは拙いと思ったのか、そんな風に子どもに言うが。


「でも、こっちのがもっとモコモコだもの」


子どもは不満そうである。

 お稲荷様と比べられた、そして勝ってしまった。

 なんだかお稲荷様に申し訳ない。

 それとももしかして、ポン助に比べてお稲荷様は働き過ぎてヘロヘロになっていて、それでモコモコ具合が減っているのかもしれない。

 どうすればいいのかと困っていると、郁也はクイクイと袖を引かれた。

 引いているのは清水である。


「橘くん、どうなっています?」


「え、さっき唐突に現れた子どもと、尻尾を持って帰りたいってことで揉めていますけど?」


これを聞いて、清水は「尻尾?」と不思議そうにしている。

 清水はこの子のことも見えていないようであるし、もしかして、子どもがずっと尻尾を握っていることを知らないのだろうか?


「もしかして、だからずっと尻尾と耳を仕舞わないのですか?」


「……です、なんか、気に入っちゃったみたいで」


清水の疑問に、郁也は頷く。

 耳はなにもされていないので仕舞えばいいと思うのだが、尻尾とセットなのか耳だけ消すことができないでいた。

 単に郁也が不器用なだけという可能性もあるが。


「清水先生にはどう見えているんですか?」


清水に郁也からも質問すると。


「とにかくこのあたりが眩しくて、目が痛いです」


そんな返答であった。言われてみれば、清水は眩しそうにメヲショボショボしている。

 清水のためにも、まずは子どもに尻尾を諦めてもらわなければならない。


「ごめんね、コレ、飾りじゃないからあげられないんだ」


郁也がそう告げると、子どもは尻尾をモフモフしたりギュッと抱きしめたりしながらも、ガッカリした様子だったが。


「触りに来ていい?」


気を取り直してそう言った。どれだけポン助の尻尾を気に入ったのか。


「まあ、触るくらい、いいかな」


持ち帰ると言い張られるより、断然いいだろう。

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