6 ヒヨリとモコモコ
突然出現したかのようなその子どもに、郁也は驚く。
――誰!? っていうか、どっから湧いたんだこの子!?
なんだかキラキラした見た目をしていて、とにかく綺麗な子どもであった。
その子どもに向かって、郁也の傍らの子どもが「ヒヨリ!」と叫んでピョンピョンと跳ぶ。
それと一緒に尻尾も引っ張られる。いい加減に尻尾を手放してほしいのだけれども。
「ごめんごめん、あにさまやあねさまの話し相手をしていたら、うっかり時間が過ぎちゃってたよ!」
急に現れた子ども――ヒヨリが、そう言って謝る。
「もう! こっちは心配したんだからぁ!」
こちらの子どもは涙はすっかり引っ込んだものの、むくれ顔である。
そんな彼に、ヒヨリが「ごめんって!」って何度も謝ったところで。
「ほら、帰ろう?」
そう言って手を出してきたヒヨリに「うん!」と大きく頷いた子どもだったが。
「あ……」
差し出された手を握ろうとしたところで、初めて握りっぱなしの尻尾の存在に気付いたようだ。
――よかった、やっと解放される……。
郁也はホッとしたのだけれども。
「これ、モコモコ、持っていきたい」
子どもがそうボソッと呟いた。
≪ヒイッ!≫
これにポン助が悲鳴を上げるし、郁也もヒュッと息を呑むと、尻尾がブワッと膨れる。
すると子どもが「わあっ!」とさらに尻尾をギュムッと握ってきた。
そんな尻尾と郁也を見比べたヒヨリが、「人間か?」と首を捻っているが、本人はしっかりと人間のつもりなので、疑問形はやめてほしい。
ただ、脳内にタヌキが住み着いているが。
「稲荷神の遣い共だって、モコモコだろう?」
ヒヨリが尻尾を持っていくのは拙いと思ったのか、そんな風に子どもに言うが。
「でも、こっちのがもっとモコモコだもの」
子どもは不満そうである。
お稲荷様と比べられた、そして勝ってしまった。
なんだかお稲荷様に申し訳ない。
それとももしかして、ポン助に比べてお稲荷様は働き過ぎてヘロヘロになっていて、それでモコモコ具合が減っているのかもしれない。
どうすればいいのかと困っていると、郁也はクイクイと袖を引かれた。
引いているのは清水である。
「橘くん、どうなっています?」
「え、さっき唐突に現れた子どもと、尻尾を持って帰りたいってことで揉めていますけど?」
これを聞いて、清水は「尻尾?」と不思議そうにしている。
清水はこの子のことも見えていないようであるし、もしかして、子どもがずっと尻尾を握っていることを知らないのだろうか?
「もしかして、だからずっと尻尾と耳を仕舞わないのですか?」
「……です、なんか、気に入っちゃったみたいで」
清水の疑問に、郁也は頷く。
耳はなにもされていないので仕舞えばいいと思うのだが、尻尾とセットなのか耳だけ消すことができないでいた。
単に郁也が不器用なだけという可能性もあるが。
「清水先生にはどう見えているんですか?」
清水に郁也からも質問すると。
「とにかくこのあたりが眩しくて、目が痛いです」
そんな返答であった。言われてみれば、清水は眩しそうにメヲショボショボしている。
清水のためにも、まずは子どもに尻尾を諦めてもらわなければならない。
「ごめんね、コレ、飾りじゃないからあげられないんだ」
郁也がそう告げると、子どもは尻尾をモフモフしたりギュッと抱きしめたりしながらも、ガッカリした様子だったが。
「触りに来ていい?」
気を取り直してそう言った。どれだけポン助の尻尾を気に入ったのか。
「まあ、触るくらい、いいかな」
持ち帰ると言い張られるより、断然いいだろう。




