5 山頂
ということで、コンビニを出発した清水の車は、子どもを乗せて山を登っていくのだが。
祖父母の家のある集落へ続く道への分岐から外れると、道がとたんにぬかるんだ泥交じりになる。
この道の先が、清水の自宅である寺だという。
祖父母の家から寺へ向かう際、徒歩だと違うルートに細い砂利道があるのだが、まさか車道側がこうなっているとは思わなかった。
――道理でこんなゴツい車が必要になるわけだ。
道幅もそれほど余裕があるわけではなく、正直に言えば非常に怖い。
そんなある意味ジェットコースター並みに怖い道を行くと。
「さて、到着です」
「はぁ……」
寺の本堂が見えてきた時には、郁也はだいぶ顔色が悪かった。
――ココ、雨降りの日は絶対車で来ない!
というか、祖父母の家に一旦帰ってから、徒歩の道を来ればよかったと後悔している。
郁也が傘を開いて車から降りると、子どもも尻尾を握ったまま続いて降りてくる。
そう、あれから尻尾を握りっぱなしなのだ。
どうやら気に入られてしまったようだ。
確かに我ながら、というかポン助のものながら、フカフカでモフモフな尻尾だとは思うけれども。
そんな郁也たちを横目に、清水も車から降りて傘をさす。
「こっちです。
山頂には祠があるんですけど、そのあたりがいいでしょう」
清水がそう言って郁也たちに手招きしながら、山道を登っていく。
――まだ上るのか。
足元が悪い中を、えっちらおっちらと歩ていくこと、しばし。
急に視界が開けて、見晴らしの良い場所に出た。
「おぉ」
郁也は思わず声を漏らす。
生憎と目の前が一面の雲なのだが、おそらくは景色が一望できるはずだ。
「これ、雨が降っていなければ良い景色でしょうね」
「春には山桜も綺麗なんですよ、そうなったら一緒にお花見をしましょうね」
清水にそう言われながら、郁也はキョロキョロと周りを見ると、清水が言っていた通り、祠があるのが見えた。
手掘りの洞窟のような粗削りな祠で、入口には縄がかけられている。
――なんの祠だろう、お地蔵さんとかが置いてあるのかな?
郁也がそちらを気にしていると、清水もその視線に気付いた。
「ああ、あの祠は昔、修行に使われていたという話ですね。
今は危ないので入れませんけど」
「なるほど、修行ですか」
確かに、この山は修行の場になりそうである。
寺も、昔は修業のための寺だったりするのかもしれない。
≪そっちイヤ~! 滅されそう~!≫
ポン助が脳内でイヤイヤしているけれども、滅される空気でも漂っているのだろうか?
「ところで、子どもの様子はどうですか?」
清水に尋ねられ、郁也はポン助から意識を離して下を見る。
ここまで郁也のお尻の尻尾を握ったままである子どもが、ポカーンと口を開けて上を見ていた。
「……どうかな? あの、ヒヨリくん、探せそう?」
――どうやって探すのか、さっぱりわからないんだけどね。
郁也は自信がないながらも、とりあえず聞いてみる。
「お空が近いね」
「そうだね、空が近いよね」
子どもが言うことに、郁也はウンウンと頷く。
「ヒヨリ、いるかも!
おぉ~い! ヒヨリぃ!
見えるっ!? 僕ココだよぉ~!」
子どもが空いた手を空に向かってブンブンと振る。
――いや、尻尾から手を放そうか?
もしかして、握っていることを忘れているのかもしれない。
釣られるように振られる手に引っ張られた尻尾が、地味に痛い。
≪尻尾ぉ!? でも怖くて言えないぃ!≫
ポン助は何故か泣き寝入りの体勢である。
なんだかポン助はこの子どもに怯え気味なのだが、それも謎である。
「ヒヨリぃ~、ヒヨリぃ~!」
子どもが友達の名前を叫び続けていると。
「はぁ~い!」
どこからか別の子どもの声で返事がした。
「えっ!?」
郁也が突然響いたその声にギョッとしていると、いつの間にか山頂に、子どもと同じくらいの年頃の男の子が立っていた。




