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タヌキと俺と、時々坊主  作者: 黒辺あゆみ
2話 ひとちがい

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14 吠える崎山

「やっと、やっと私もホンモノを拝める時が来たのよぅ!」


雄たけびを上げる崎山に、郁也はきょとんとするばかりだ。


「見てなさい、積年の恨みを拳に込めてやるんだからぁ!」


雨のせいで夕日の拝めない窓に向かって、拳を突き出している崎山。

 その突き方が力強くて、まるで熟練の格闘家のようだ。


「あの、これ、なんです?」


郁也がヒソッと尋ねると、清水が苦笑する。


「愛は幽霊やおばけの類が全く見えないし感じない体質で、昔からそれがコンプレックスるなんですよ」


「そんなの、見えない方が普通では?」


それがコンプレックスだなんて、毎日が平和なことを誇るべきではなかろうか?

 そう思う郁也に、清水は「そうなんですがね」と続ける。


「愛はなまじ姉であるウチの母を訪ねて、寺に小さい頃から出入りしていたんで、普通がおかしいんですかねぇ」


言われればまあ、そういうこともあるかもしれないとは、郁也も思う。

 けれど、なにか物騒なことも叫んでいたのだが。


「積年の恨みって?」


「あれはですね、愛は見えないけれど、幼い時分は人外に好かれるというか、からかわれることが多くてですねぇ」


清水曰く、見えないなにかに転ばされたり、髪を引っ張られたりが頻繁にあったそうだ。

 それらはささいないたずらと言えばそうなのだが、わけのわからないなにかに転ばされる経験は、幼い子どもにとっては恐ろしいもので。

 その恐怖が積もり積もって、怒りに変わったらしい。

 しかし崎山は生憎と、清水のような悪霊退散の技を身に着けることができなかった。

 それで考えたのが「霊力がないなら腕力を鍛えよう」であるとか。

 「何故そうなる?」と郁也は問いたい。

 そこは絶対に「頑張って逃げる」の一択だろうに。

 そして盛り上がっているところを申し訳ないが、郁也は基本的な質問をしたい。


「ところであの、あまのじゃくって、なんでしたっけ?」


恐る恐るの質問に、清水が「おや」と首を傾げる。


「橘くんは知りませんか?

 まあ今どきはしないかもしれませんねぇ、『アイツは天邪鬼だ』なんて言い方」


そう前置きして、清水が教えてくれた。


「天邪鬼は、姿を真似たりや声を真似たりをして、人を騙すという悪さをする妖怪とされていますね」


最後には滅ぼされるという悪役の典型らしいが、特徴が人の心中を探るのが得意なのだとか。


「だから誰かに化けて嘘八百を並べるなんて、天邪鬼の得意技といったところでしょうか」


「はぁ~、そんな怖いことをするんですね」


本人そっくりに化けられてあれやこれやと言われたら、郁也なんかはそのまま信じてしまいそうだ。

 それで数少ないであろう貴重な友達を失ったら、悔やんでも悔やみきれないに違いない。


「友だちの女子とかくっつかれている男子とかは、その天邪鬼を本物だと思っているわけでしょ?

 そりゃあケンカになるよねぇ」


崎山がしたり顔で頷く。


「どうすれば、いいんですかね?」


化けられた女子が可哀想になって、大きな身体でしょんぼりとなってしまう郁也の様子を見た崎山が「う~ん」と唸る。


「その女子二人を顔合わせさせたら、なにか起きるんじゃない?」


「まあ、化かされ系の昔話でのお約束ではありますね」


崎山の意見に、清水が頷く。


「よぅし、じゃあそれを行動の基本にして、計画を立てようよ♪」


崎山がパン! と手を叩いた。


「これはオカルト部の活動にピッタリだネッ!

 でかした橘くん♪」


早速話し合いだと、崎山は室内にあったホワイトボードを動かしに行く。

 どうやら天邪鬼退治が、オカルト部の活動内容に組み込まれてしまったようだ。


「あの、先生がやっつけちゃったら、ダメなんですか?」


郁也は手っ取り早い方法を提案してみる。


「そうなると、愛がふてくされますね」


するとそう言われてしまうと、郁也はなにも返せない。


「それ以前に、僕にメリットがなにもありません」


「……そうですか」


続けてキラキラした笑顔で告げた清水に、郁也は頬が引き攣りそうになる。


 ――この人、坊主としてはどうなんだろうか?


 郁也は考えずにはいられない。

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