14 吠える崎山
「やっと、やっと私もホンモノを拝める時が来たのよぅ!」
雄たけびを上げる崎山に、郁也はきょとんとするばかりだ。
「見てなさい、積年の恨みを拳に込めてやるんだからぁ!」
雨のせいで夕日の拝めない窓に向かって、拳を突き出している崎山。
その突き方が力強くて、まるで熟練の格闘家のようだ。
「あの、これ、なんです?」
郁也がヒソッと尋ねると、清水が苦笑する。
「愛は幽霊やおばけの類が全く見えないし感じない体質で、昔からそれがコンプレックスるなんですよ」
「そんなの、見えない方が普通では?」
それがコンプレックスだなんて、毎日が平和なことを誇るべきではなかろうか?
そう思う郁也に、清水は「そうなんですがね」と続ける。
「愛はなまじ姉であるウチの母を訪ねて、寺に小さい頃から出入りしていたんで、普通がおかしいんですかねぇ」
言われればまあ、そういうこともあるかもしれないとは、郁也も思う。
けれど、なにか物騒なことも叫んでいたのだが。
「積年の恨みって?」
「あれはですね、愛は見えないけれど、幼い時分は人外に好かれるというか、からかわれることが多くてですねぇ」
清水曰く、見えないなにかに転ばされたり、髪を引っ張られたりが頻繁にあったそうだ。
それらはささいないたずらと言えばそうなのだが、わけのわからないなにかに転ばされる経験は、幼い子どもにとっては恐ろしいもので。
その恐怖が積もり積もって、怒りに変わったらしい。
しかし崎山は生憎と、清水のような悪霊退散の技を身に着けることができなかった。
それで考えたのが「霊力がないなら腕力を鍛えよう」であるとか。
「何故そうなる?」と郁也は問いたい。
そこは絶対に「頑張って逃げる」の一択だろうに。
そして盛り上がっているところを申し訳ないが、郁也は基本的な質問をしたい。
「ところであの、あまのじゃくって、なんでしたっけ?」
恐る恐るの質問に、清水が「おや」と首を傾げる。
「橘くんは知りませんか?
まあ今どきはしないかもしれませんねぇ、『アイツは天邪鬼だ』なんて言い方」
そう前置きして、清水が教えてくれた。
「天邪鬼は、姿を真似たりや声を真似たりをして、人を騙すという悪さをする妖怪とされていますね」
最後には滅ぼされるという悪役の典型らしいが、特徴が人の心中を探るのが得意なのだとか。
「だから誰かに化けて嘘八百を並べるなんて、天邪鬼の得意技といったところでしょうか」
「はぁ~、そんな怖いことをするんですね」
本人そっくりに化けられてあれやこれやと言われたら、郁也なんかはそのまま信じてしまいそうだ。
それで数少ないであろう貴重な友達を失ったら、悔やんでも悔やみきれないに違いない。
「友だちの女子とかくっつかれている男子とかは、その天邪鬼を本物だと思っているわけでしょ?
そりゃあケンカになるよねぇ」
崎山がしたり顔で頷く。
「どうすれば、いいんですかね?」
化けられた女子が可哀想になって、大きな身体でしょんぼりとなってしまう郁也の様子を見た崎山が「う~ん」と唸る。
「その女子二人を顔合わせさせたら、なにか起きるんじゃない?」
「まあ、化かされ系の昔話でのお約束ではありますね」
崎山の意見に、清水が頷く。
「よぅし、じゃあそれを行動の基本にして、計画を立てようよ♪」
崎山がパン! と手を叩いた。
「これはオカルト部の活動にピッタリだネッ!
でかした橘くん♪」
早速話し合いだと、崎山は室内にあったホワイトボードを動かしに行く。
どうやら天邪鬼退治が、オカルト部の活動内容に組み込まれてしまったようだ。
「あの、先生がやっつけちゃったら、ダメなんですか?」
郁也は手っ取り早い方法を提案してみる。
「そうなると、愛がふてくされますね」
するとそう言われてしまうと、郁也はなにも返せない。
「それ以前に、僕にメリットがなにもありません」
「……そうですか」
続けてキラキラした笑顔で告げた清水に、郁也は頬が引き攣りそうになる。
――この人、坊主としてはどうなんだろうか?
郁也は考えずにはいられない。




