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タヌキと俺と、時々坊主  作者: 黒辺あゆみ
2話 ひとちがい

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13 いじける郁也

「……」


「橘くぅ~ん?

 こっちでお茶を飲もうよぉ♪」


隅っこで無になっている郁也に、崎山が話しかけてくる。

 清水の膝の上から降りた郁也は、とんでもない姿を見られた羞恥心から、部屋の隅っこにデカい図体で頭を突っ込んでいじけていた。


 ――恥ずかしすぎる、もうダメ、帰りたい……。


 ずーんと暗い影を背負った背中越しに、清水が覗いてきた。


「橘くん、ココアを飲みますか?

 雨が降ると案外冷えますから、温かいものを飲むといいですよ」


ココアと聞いて、郁也の背中がピクリと動く。


「……飲みます」


そして隅っこからモソモソと出てきた。

 周りからは「ブラックコーヒー愛飲者」だというレッテルを貼られている郁也だが、実はお子様な味覚の持ち主だったりする。

 辛かったり苦かったりはどちらかというと嫌いで、甘い味が好き。

 なので清水が勧めたのがブラックコーヒーではなくてココアだったことに、心をときめかせたのだ。

 ちなみにケチャップ味も大好物だ。


「お、釣れた!」


崎山がなにか言っているが、郁也はそれを気にするより、ココアが飲みたい。


「どうぞ」


「ありがとうございます」


清水から受け取ったのは、インスタントのココアをポットのお湯で溶いただけのものだが、それでもすこぶる美味しい。


「よくそんな甘いの飲めるねぇ~?

 アタシは苦手ぇ♪」


そうコメントしながら崎山が飲んでいるのは、ブラックコーヒーである。


「愛は甘いものがダメな質ですものね」


そう話す清水はカフェオレだ。

 見事に飲み物の好みがバラバラのようだ。


「……あの、崎山先輩、ブラックを飲むのはイメージ崩れるって言われませんか?」


郁也は昔から言われていることを、崎山にぶつけてみた。

 いや、肉体派という面ではイメージ通りなのか?

 清水はそのあたりの情報が混線気味なので、判断が難しい。

 郁也が中学生の頃、周りで「ブラックコーヒー」ブームが巻き起こった。

 ブラックコーヒーを飲むのが男であり、甘いものを飲むのはお子様だという風潮が、男子の間にあったのだ。

 ブラックコーヒーなんて絶対に飲めない郁也は、その頃は絶対に外で飲み物を飲まなかったものだ。

 祖父曰く、この現象は中学生男子が平等にかかる病気で、その名を「中二病」というらしいが。

 それで言うと、女子は甘いものを好むものだという風潮も、同時にあったと思う。


「え~? そんなの気にするより、自分が美味しいのを飲みたくない?」


けれど崎山からバッサリと真理を叩きつけられる。

 彼女はどうやら「中二病」を患わなかったらしい。

このやり取りを聞いていた清水が、小さく笑った。


「ふふっ、橘くんの言いたいことはわかりますよ、男はカッコつけですからね。

 僕もどちらかというと、甘いものを好むものですから。

 こういうのは女子の方が現実的なんです」


「そうなんですかね?」


崎山は、男二人の話に「なんのこと?」と首を傾げていた。



「で? どうしたんですか一体?」


ココアを飲んで落ち着いたのを見計らったのか、清水に尋ねられた。

 郁也は他人に言えば信じてはもらえない話だろうとは思うが、同時に誰かに話してスッキリしてしまいたい。

 それに清水ならば大丈夫だろうし、崎山はその清水の親類だ。


「あの、実は……」


彼らを信じて、郁也は朝からの流れをかくかくしかじかと語った。


「なるほどぉ?

 同じ女子が二人いるって不思議だねぇ♪」


崎山が目をキラキラさせている。


「さっき見た二人のうち、片方から人ではない気配がしましたねぇ」


清水がそんなことを言うのに、郁也はポン助の話を思い出す。


「あの、あまのじゃく、とか、かなって」


崎山がいる手前「ポン助が言っていた」とは口にできないので、しどろもどろになってしまう。

 しかしこれを聞いた崎山が、目をカッと見開く。


「天邪鬼!? すごい! すごいよ橘くん!」


そう叫んで立ち上がったのに、郁也はビックリした。

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