13 いじける郁也
「……」
「橘くぅ~ん?
こっちでお茶を飲もうよぉ♪」
隅っこで無になっている郁也に、崎山が話しかけてくる。
清水の膝の上から降りた郁也は、とんでもない姿を見られた羞恥心から、部屋の隅っこにデカい図体で頭を突っ込んでいじけていた。
――恥ずかしすぎる、もうダメ、帰りたい……。
ずーんと暗い影を背負った背中越しに、清水が覗いてきた。
「橘くん、ココアを飲みますか?
雨が降ると案外冷えますから、温かいものを飲むといいですよ」
ココアと聞いて、郁也の背中がピクリと動く。
「……飲みます」
そして隅っこからモソモソと出てきた。
周りからは「ブラックコーヒー愛飲者」だというレッテルを貼られている郁也だが、実はお子様な味覚の持ち主だったりする。
辛かったり苦かったりはどちらかというと嫌いで、甘い味が好き。
なので清水が勧めたのがブラックコーヒーではなくてココアだったことに、心をときめかせたのだ。
ちなみにケチャップ味も大好物だ。
「お、釣れた!」
崎山がなにか言っているが、郁也はそれを気にするより、ココアが飲みたい。
「どうぞ」
「ありがとうございます」
清水から受け取ったのは、インスタントのココアをポットのお湯で溶いただけのものだが、それでもすこぶる美味しい。
「よくそんな甘いの飲めるねぇ~?
アタシは苦手ぇ♪」
そうコメントしながら崎山が飲んでいるのは、ブラックコーヒーである。
「愛は甘いものがダメな質ですものね」
そう話す清水はカフェオレだ。
見事に飲み物の好みがバラバラのようだ。
「……あの、崎山先輩、ブラックを飲むのはイメージ崩れるって言われませんか?」
郁也は昔から言われていることを、崎山にぶつけてみた。
いや、肉体派という面ではイメージ通りなのか?
清水はそのあたりの情報が混線気味なので、判断が難しい。
郁也が中学生の頃、周りで「ブラックコーヒー」ブームが巻き起こった。
ブラックコーヒーを飲むのが男であり、甘いものを飲むのはお子様だという風潮が、男子の間にあったのだ。
ブラックコーヒーなんて絶対に飲めない郁也は、その頃は絶対に外で飲み物を飲まなかったものだ。
祖父曰く、この現象は中学生男子が平等にかかる病気で、その名を「中二病」というらしいが。
それで言うと、女子は甘いものを好むものだという風潮も、同時にあったと思う。
「え~? そんなの気にするより、自分が美味しいのを飲みたくない?」
けれど崎山からバッサリと真理を叩きつけられる。
彼女はどうやら「中二病」を患わなかったらしい。
このやり取りを聞いていた清水が、小さく笑った。
「ふふっ、橘くんの言いたいことはわかりますよ、男はカッコつけですからね。
僕もどちらかというと、甘いものを好むものですから。
こういうのは女子の方が現実的なんです」
「そうなんですかね?」
崎山は、男二人の話に「なんのこと?」と首を傾げていた。
「で? どうしたんですか一体?」
ココアを飲んで落ち着いたのを見計らったのか、清水に尋ねられた。
郁也は他人に言えば信じてはもらえない話だろうとは思うが、同時に誰かに話してスッキリしてしまいたい。
それに清水ならば大丈夫だろうし、崎山はその清水の親類だ。
「あの、実は……」
彼らを信じて、郁也は朝からの流れをかくかくしかじかと語った。
「なるほどぉ?
同じ女子が二人いるって不思議だねぇ♪」
崎山が目をキラキラさせている。
「さっき見た二人のうち、片方から人ではない気配がしましたねぇ」
清水がそんなことを言うのに、郁也はポン助の話を思い出す。
「あの、あまのじゃく、とか、かなって」
崎山がいる手前「ポン助が言っていた」とは口にできないので、しどろもどろになってしまう。
しかしこれを聞いた崎山が、目をカッと見開く。
「天邪鬼!? すごい! すごいよ橘くん!」
そう叫んで立ち上がったのに、郁也はビックリした。




