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タヌキと俺と、時々坊主  作者: 黒辺あゆみ
2話 ひとちがい

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29/63

9 廊下にて

学食から教室へ戻ると、教室で駄弁っていたクラスメイトたちの視線が突き刺さる。

 「なんだろう?」と不思議に思うものの、見られるのはいつものことかと気にしないことにする。


「ケガはなさそう」


「どうやらガチンコ対決にはならなかったか」


クラスメイトたちがひそひそとそんな会話をしているなんて、郁也は気付かない。

 実は愛は武闘派で知られている地元でも有名な生徒で、強そうな相手を見ると戦いを挑みたくなるという癖があるため、今回もそれかと心配されていた郁也であった。

 そして昼休みの後の授業は化学で、理科室への移動教室だ。

 郁也はぼちぼち移動を始めるクラスメイトにまじって教科書とノートを持って教室を出て、理科室へ向かって廊下を歩いていると。


≪あ、なんかいる≫


ポン助が呟いた。

 なんかとはなんだろうか?

 と内心で首を傾げていると、廊下の端で話し込んでいる男子と女子が目についた。

 というか、その内の女子の声に、郁也は聞き覚えがある。

 今朝廊下に響いていたケンカしていたらしい女子の声の、片方ではないだろうか? 郁也だって普段ならば女子の声なんて聴いても覚えてなんかいないが、恐怖の感情と一緒に記憶にインプットされていたのだ。

 その彼女は顔はそこそこ可愛いのだろうが、特にお洒落をしているわけではない。

 ヘアアレンジせずに長い髪を後ろで一つに括り、色付きリップを塗っている風でもなく、この時期は合服な制服を着崩さずにかっちりと着ている、どちらかと言えば地味な見た目の女子だ。

 特に都会の女子高生を見慣れた郁也からすると、「田舎の女子高生」というイメージそのものだと言ってもいいだろう。

 けれど、その会話はちっとも地味ではなかった。


「でね、あの娘ったら手癖が悪いの、私のものをすぐ盗っちゃうんだから」


「え、そんな話聞いたことないけど」


「本人が言うわけないでしょ。私が言うんだから本当よ?

 きっとあなたの前では可愛い娘ぶっているだけ」


「……」


彼女の声が大きめなので、会話の内容が聞こえてくる。

 どうやら誰かの悪口を言っている様子で、相手の男子は困っているのが遠目にもわかる。


 ――たぶんだけど、悪口の相手は朝のケンカの相手かな。


 怖い女子だなぁと思いつつ、郁也には関係のないことなのでそのまま通り過ぎる。


≪ガッコウってところ、色々いるんだなぁ。はぁ~コワイ!≫


ポン助が脳内でそう零し、ブルブルっとした悪寒のようなものが背筋を走る。

 ポン助が脳内で震えたのだろうか?

 我ながら身体がどうなっているのか謎だ。

 けれどタヌキ耳と尻尾が生えることに比べたら、些細なことな気がする。

 それから理科室のある別棟への渡り廊下を通り、階段を上ったところで数人の女子がたむろっていた。


「でね~、それが……」


「なにそれ、おっかしぃ~!」


話が盛り上がっているが、その一人の女子を見てギョッとする。

 彼女が、先程の悪口女子に声も姿もソックリなのだ。

 後ろで一つ括りにしている髪型も、色付きリップを塗っていないのも、かっちりときている制服も、まるで同じだ。

 しかしこちらは友だちの女子とおしゃべりしながら、楽しそうに笑っている

 その女子集団は郁也が通り過ぎるのをチラッと見て、ひそひそと話をしている。

 おそらくは、昨日の清水による横抱き事件についてだろう。

 朝からいたるところでヒソヒソされているので、もう慣れたものだ。

 それにしても、こちらは先ほどの彼女とはまるで雰囲気が違う。


 ――双子か? でも表情で全く違うもんだな。


 郁也はそんな風に思いつつ、なんとなく彼女たちのことが意識に片隅に引っかかりながらも、だからといってなにかあったわけでもなく午後の授業を過ごした。

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