2 ギュッと
朝からなにもせずとも朝食が出てくるなんて、素晴らしい。
郁也としてはこのことだけでもありがたく、感謝しきりである。
昨日のお昼のキャラ弁だって、清水や保険医などがいたから恥ずかしかったけれども、本当は小学校の頃に憧れていた弁当であった。
学校で遠足に行った時、他の子どもたちが親の手作り弁当である中、郁也がコンビニのおにぎりだった時は寂しかったものだ。
この感謝を表するのに、もし自分がもっと幼いならば「ばあちゃん大好き!」とギュッとしに行けるのだろう。
図体がデカくなった今の郁也にされても祖母には恐怖だろうから、やらないけれども。
立っているだけで威圧感があると言われるのに、ギュッは止めを刺しに行っていると思われかねない。
――そういうのに憧れるんだけど、俺、もっと背が小さかったらよかったなぁ……。
こんなヤクザに間違われる見た目じゃなくて、愛らしいものだったら、両親の態度も違ったのか?
父だって郁也を引き取ったのか?
そんな考えても仕方ないとわかっていても、ふと考えてしまうことがある。
郁也が思考の迷路に迷い込んでいると、祖母は郁也が腹を空かせていると思ったのかもしれない。
「お代わりあるからね、たんとお食べ」
祖母がそう言いつつお茶碗にご飯を山盛りにしてくれた。
寝起きからそんなに入らないかもしれないと思っても、せっかくの好意なので気合で食べる。
育ち盛りなのだから、きっと身体が消化してくれるはずだ。
こうして朝食を食べていると。
≪ん~? あ、ご飯だぁ≫
ポン助がようやく目を覚ましたらしく、脳内でモゴモゴと話をし始める。
別段、目を覚ます時間は好きにしてくれていいのだが。
≪人間のご飯って、豪勢でいいなぁ。
ボクなんて根っこを掘って齧ったり、水しか飲めなかったりだったのにぃ……≫
何故かポン助が寝起きからメソメソしている。
どうやら餌の確保が下手な化けタヌキであったらしい。
その食生活は可哀想だとは思うが、それを郁也がまさに食べている間にモノローグでたれ流すのは、食欲が失せるのでやめて欲しい。
(よかったじゃないか、だったら俺の中にいる間は飯に困らないってことだろう)
心の中で語り掛けてやる。
≪あ、そっか、そうだよね! ラッキ~♪≫
するとこんな風に急に調子を変えるポン助。
今更気付いたとは、やはりポンコツポン助だ。
(にしても昨日まで静かだったじゃないか、なんで急にお喋りなんだ?)
郁也はふと気になって聞いてみる。
≪だって、黙っているのに飽きたんだもの≫
するとなるほどな解答であった。
このように郁也はポン助を適当にあしらいつつ、山盛りご飯をモリモリと食べ終えたら学校へ行く準備をする。
雨が止まないので、雨カッパを着て原付バイクに跨る郁也を、祖父母が見送ってくれた。
「いってらっしゃい」
「雨だから気ぃ付けてな」
二人が心配そうなのは、事故を起こしたのが雨の日だから無理はないとは自分でも思う。
「うん、わかってるって。ゆっくり行くよ」
郁也はそう祖父母に言いつつ、原付バイクを走らせた。
今日はまだ弱い雨なのだが、それでも走り出した途端にヘルメットに雨が打ちつけてくる。
≪ニンゲンって、こんなので移動しているんだぁ≫
ポン助は原付バイクでの移動が面白いのか、脳内でわちゃわちゃ騒いでいるが、相手をしていたら事故るので無視だ。
それにしても、やはり雨は鬱陶しい。
――これ、雨が強くなったらバイクはやめた方がいいかもな。
けれどそうなった場合、バスなどの代替交通手段がない以上、歩いて山を降りることになるのだろうか?
それも嫌だが、かといって祖父に車を出してもらうのも申し訳ない。
郁也が代わりの足をなんとかひねり出そうと考えている間に、学校の近くの交差点までやって来た時。
パパァン♪
郁也が赤信号で停車中にすぐ横に車が停まり、クラクションが鳴らされると同時に助手席側の窓が開いた。




