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暇つぶし



「うっひゃー。やべえね、これ」

「雰囲気あるな。さすがは噂通り」

「何笑ってんのよ。ちょっとやっぱ止めない?」

「止めてもいいけど、どうやって帰るつもりだよ」

「うわーもうホント意地悪。最低。そんな捻じ曲がった神経してるからすぐに彼女に振られんのよ」

「ズバーン!」

「うるせえよ。関係ねえだろ。っていうかそんな捻じ曲がった奴と一緒に付いて来てる時点でお前も同類だろうが」

「またもズバーン!」

「徹ちゃんうるさい! ま、否定は出来ないですわね」

「で、行くのか? 帰るのか?」

「帰るって言っても一人で帰れでしょ? 帰れるわけないじゃん」

「よし、じゃあ行くとしよう」


 懐中電灯の灯りだけを頼りに、私達は暗く細い山道を歩いていく。

 まこととおる、私の三人の足音がざっざと夜に踏み入っていく。


 季節は夏。定期的に行われる暇つぶし肝試しツアー。

 大学生である私が行っている暑さやつまらない日常から一時期に逃れる逃避行のようなこの遊びは、言葉でああは言いながらも私は結構好きだった。


 もともと心霊好きな誠がツアーの発足人で、興味を示した私と徹がメンバーに加えられ、それからは様々な地を訪れた。

 

 実際に怪奇を経験をする事は稀であったが、黄泉の境界線を跨いでいるような独特な空気と緊張感がたまらなく癖になった。

 何かあっても知らないよと、たいがいの女友達は眉をひそめたが、スペックや顔立ちの良さを求めて日々男達と酒を酌み交わす彼女達の行いの方が、私からすれば何が楽しいかも分からない神経を疑うものだった。


「いかにも廃屋があるって場所だな」


 徹は場に似つかわしくない明るい声を出した。

 徹はいつでもそうだ。良く言えば場のムードメーカー。どれだけ恐ろしい事が起きたとしても、彼だけはいつでも笑顔とテンションを崩さない。本人はこれで怖がりだなんていうが、傍から見ている限りは楽しそうにはしゃいでいるようにしか見えない。

 だからこそ彼の存在は大事だった。こういった人間が一人いる事で安心度は劇的に違う。

 正直少しネジが足りない人間ではあるが、事このツアーにおいては必須の貴重な存在だ。


「そろそろ見えても良さそうなんだがな」


 携帯の画面で何やら確認しながら先頭を進む誠。

 リーダー的存在で、オカルト・心霊ものに目がない。こういった怪異に対しての興味が先行し、現場では罰当たりな行動も平気で行う。その癖逃げ足は一番早いときているので迷惑極まりない男ではあるのだが、不思議と過去として振り返ると、刺激的な想い出という笑い話として自分の頭の中に格納されている。

 この男も少しネジがズレている為、日常では女関係でいつもいざこざを引き起こす。無駄に顔立ちが整っているから尚更性質が悪い。


「で、ここって何があるんだっけ?」


 徹の言葉に誠は呆れたように肩をすくめる。


「本当にお前って話聞かねえよな。かおる、代わりに説明してやってくれよ」

「やだよめんどくさい。聞いてない徹ちゃんが悪い」

「えーイジワルー」


 ぶうと拗ねた顔が可愛くて少し笑ってしまったのが悔しい。

 今日訪れた場所は特に有名な心霊スポットという訳ではない。誠がどこかの情報から拾ってきたいわば穴場スポットらしい。

 話自体も他の心霊スポットでもあるような真新しさのないものだ。

 私たちが向かっている先。そこには一軒の廃屋があるらしい。

 そこには昔、仲の良い夫婦がいたという。しかし夫の方がひどい借金を抱え、職を失い、最終的に二人とも首をくくり自殺をしたという。苦しい現実での未練の為か、その魂は今も尚この地を離れず現世に留まっているという。

 実際家の中には、死ぬときに用いた首吊り用の紐も生々しく残っているらしい。


「お、あれだな」


 見ると件の廃屋が懐中電灯に照らされている。廃屋という表現がぴったりな傷だらけの建物がそこにあった。現代的な佇まいではなく、和風な一昔前の建物といった外観は、元の正しく生きた姿であれば趣と風情のあるものであっただろう。


「よーし、行ってみよー」


 相変わらずの徹の様子は馬鹿に映りながらも頼もしい。

 私達は廃屋へと足を踏み入れた。



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