慣れない日々と孤島の食材 Lv.1(一話)
眩しい青空が広がる南の国リトラル。
鮮やかに輝く海。
カモメが優雅に飛んでいる。
自然と港街がはっきりと塗り分けられた絵画の様に鮮明に見えた。
海蔵のこの国は、目が眩みそうなほど、賑わっており、港では取ってきたばかりの魚が降ろされている。また、市場では食材を売り買う人々が賑わっていた。
そんな賑やかな通りから離れて行くと次第にシンっと静まり返っている。
祭りを抜け出してきた様な静かさだ。
クリーム色の壁に時々、道を遮る花壇を通り過ぎて行くと赤煉瓦の屋根のお家にたどり着く。
サンサンと照らす太陽を避ける為に家の前には、檸檬の木が植えられていた。
そこに一匹の黄色く輝く鳥が止まる。
鳥は細かく光りながら雷を纏っていた。だが、何事もなく毛繕いを行う。
毛繕いはすぐに終えて、鳥は顔を上げる。
目の前の建物の窓を覗き込んだ。
薄暗く誰もいない様に見える。
雷鳥と呼ばれるこの鳥は、何度か中の住人を起こそうと優しく鳴く。だが、しばらくしても返事が来ない。
雷鳥は待ちきれずに甲高い声で鳴き始めた。
耳をつんざく様な鳴き声は窓を潜り抜け、部屋の中まで響き渡って行く。
薄暗い部屋の中、肌掛け布団を頭から被っていた少女は頭に響く様な鳴き声に飛び起きて、窓を叩き開ける。
「うるっさい! 起きてるって!」
ボサボサの黒髪に跳ねた様な前髪の少女は顔を顰めていた。
彼女の声が届いたのか、雷鳥は鳴くのをすぐにやめて、丁寧にお辞儀をする。
ぼんやりとする少女は重たい瞼を擦りながら、暑い外とのつながりを断つ。
薄暗い部屋は静かなままだった。
クラクラとする意識の中、彼女はため息をこぼす。
「今日も眠れなかった……」
眠る事を諦めた彼女は壁を伝いながら階段を降りて行く。
一階に着くとほんのりと香ばしい香りと落ち着きなく動く音が聞こえる。
見ると朝日が差し込み鮮やかに輝く水色のタイルの前で、食器を洗う女性が立っていた。
すらっとした背中に藍色のふんわりとしたショートヘア。
素敵な立ち姿に少女はいつも見惚れてしまいそうになる。
洗い終わったお皿の水気をしっかり落として端に置く。
隣では赤く輝く小石の台座の上にフライパンを置いていた。
パチパチと音を立てながら目玉焼きが作られているのが分かる。
「おはようございます。マチルダさん」
少女の呼びかけにマチルダと呼ばれた女性はゆっくりと振り返る。
ほっそりとした丸いメガネを掛けた彼女は起きてきた少女に優しく微笑み掛けてくれた。
「おはよう、幸ちゃん。調子はどう?」
彼女の問いかけに幸は首を横に振ってしまう。
「ダメです。今日も全然眠れませんでした」
幸はため息を溢しながら目の前の椅子に腰掛ける。
テーブルに突っ伏しながらぼんやりする意識が少しでもハッキリするようにと目を瞑って、眠れなかった時間を取り戻そうとした。
食器の音が机の前に響く。
重たい瞼を開けるとマチルダが幸の為に朝食を用意してくれていた。
切ったばかりの黒っぽいパンに、少しのサラダ。
真っ白なティーカップにほのかに香る紅茶が、とぽとぽ、と音を立てながら注がれて行く。
最後にふっくらと焼き上がった目玉焼きがギリギリ収まるお皿の上に置かれる。
お陰で少ない量でもボリュームがある様に感じられた。
「お待たせ、目玉焼きと取れたて野菜のサラダよ」
フライパンを置いてからマチルダは椅子に腰掛けた。
「まだ、落ち着かない?」
マチルダは紅茶を啜りながら幸に尋ねる。
目の前に広がった朝食をじっと眺めながら幸は小さく頷く。
「ここに来てから眠れないなんて、不思議なものね。私なんてついた瞬間、バカンス気分だったわ」
のびのびと暮らせていて幸にはとても眩しく見えた。
「どうして何でしょうか?」
不思議がる幸だが、何となく理由に心当たりがある。
と言っても確信がある訳ではない。
この世界に迷い込んだ彼女は不運な事に刑務所の囚人として過ごしていた。しかし、ある事がきっかけでこうして美しい港街にたどり着く事ができた。
考えてみると色んな事が起こって、頭が追いついていない気がする。
「ここに来てしばらく経つのにどうして……」
幸は俯きながら呟く。
彼女の表情には焦りと不安が出ていた。
マチルダはそんな少女に優しく語りかける。
「あれこれ悩んでもしょうがない。ほら、冷めないうちに食べなよ。この国のご飯は全品よ」
ニンマリと微笑みながらお皿を幸の元へ近づけた。
マチルダは紅茶を飲みながら幸が眠れない理由について話す。
「もしかすると環境的に大変なのかも。神の国に比べるとこっちは、とても暑い気候だし、霧の国に比べたら、もう、別格よね」
暑さが理由で寝苦しい夜が続くと言うならば、どれほど良かった事だろうか。
幸は少しずつでも、朝食を口に運ぶ。
卵の黄身は半熟でトロリとしていて、お皿に赤よりの黄色の絵具を広げていく。
濃厚でコクがある味だ。
パンに乗せながら口に押し込んで食べていく。
塩と胡椒だけでも十分いける。
サラダも新鮮でシャキシャキしていて食べやすかった。
「こうやって食べれるから、暑さとは違うかもしれないです」
もしゃもしゃと食べながら幸はしょんぼりと呟く。
マチルダや彼にこうやって美味しい朝食や寝床を用意してもらっているのに体調が万全にならない事が歯痒く思う。
「ふわぁ」
幸は思わずあくびを漏らしてしまう。
頭の中がドロッと解けた様にハッキリとしない。
できる事ならもう一度ベッドに潜っていたい。しかし、居候の身でそんな体たらくをして言い訳がない。
彼女は意識をハッキリさせながら朝食を終わらせる。
水色のタイルが敷かれた洗面台の中に水が張られていた。
食べ終わったお皿を入れてしっかり洗っていた幸は、彼がいない事に気づく。
彼女はお皿を戻しながら、出かける用意をしているマチルダに尋ねる。
「マチルダさん、サウザーはどこに行ったんですか?」
彼女の問いかけに小さな鞄を置きながらマチルダは呆れた顔で遠い目をした。
その表情で何となく幸も想像がつく。
「彼は依頼をこなしに行ったわ……」
あやしいものじゃないよ、あやかしだよ。
どうも、あやかしの濫です。
今月からスタートした「リトラルの鳥使い」
こちらは神の国バシレイアから南に降りて行った海のある国で暖かな気候でバシレイアよりも自然豊かな土地になっております。
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