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落雷ゴブリンのどたばた奮闘記  作者: Nera
第四章 蘇えりし無垢な聖女と怨霊になった少女
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54話 運命の出会い

損害を被ってもなお、敵軍が雄叫びを挙げてこちらに向かって進軍しており、眼前の敵は、浮遊状態で湿地原の地形を無視してオレに向かって坂を駆けあがってくる。

さて、この浮遊状態、エルティアナによってオレも一時的だがなったことがある。

一番乗りを目指す敵が居るのに暢気すぎると自分でも思うので結論を言うと…。


「おりゃあ!」

「ぐぎゃああ!」


ジャンプしても0.2フィートも跳べず盛り土を乗り越えられず、それどころか登ることもできずに武器を捨てて必死に手掴みで登ろうとするゴブリンの脳天に一撃をかまして葬った。

うん、これは酷い。


「なんで浮遊状態なのにここまで登れないんだ?」

「アルフォンス、簡潔に言うと浮遊状態だとこの程度の盛り土の壁でも絶壁になるんだ」

「意味が分かりません」


浮遊状態になると、地面から一定の高さで浮遊するので文字通り地面の障害物を無視して進む事ができる。

それは沼地など凍結した地面の他に、ある程度地面から突き出ている障害物も乗り越えられる。

いや、正確に言うと、障害物を乗り越える為に一定の高さになるように調整された坂道を登っていくという感じか。


「つまり、浮遊状態は一定の高さでしか機能できないから、ジャンプしてもその制限のせいで高く跳べないんだ」

「あーなるほど!だから力んでも全然跳べなかったんですか!」

「そして、地面から飛び出している障害物を乗り越えるときは、土壇場で一定の高さになるように坂道を登る感じなので、この程度の高さだといきなり断崖絶壁を登ることになるんだ」


【90度の坂道】という名の【壁】を駆け上がれますかと、問われたら無理と答えるだろう。

つまり、そういう事である。


「平地じゃなくて坂道に塹壕を構築したというのは、この為だったんですか」

「多分な。手前に掘った凹みとそのすぐ傍にある盛り土のせいで完封できる感じ」


さて、この浮遊状態、魔法だとオレの時みたいに時間経過で解除される。


「浮遊状態になっている間に倒さないと、時間経過で解除されて登って来るぞ!」

「そうなる前に少しでも数を減らさないっと!!」

「あ!がっ!!」


そういってアルフォンスは、分銅を敵の顔面に叩き付けて隙ができた瞬間、鎌で急所を斬り付けて瞬く間に絶命させてしまった。

『鎖鎌』なんて一般兵が持つ装備じゃないだろう。

なんでこんなものを装備してるんだ…と思ったが普通にオレより強いので黙って、別の敵を警戒した。


「火炎 初級魔法 “火球(ファイアボール)”!」


一方、エミリーは楽しそうに敵を火炎魔法で焼き尽くしていた。

大丈夫?人間性が薄れて生者を殺す事だけに快感を覚える幽鬼(レイス)になってない?


「なあエミリー!」

「火炎 中級魔法“火の大矢(ファイアボルト)”!」

「エミリー!」

「どうしたんですか!?耳元で声を出さなくても聞こえてますよ?」


今まで浮かない表情だった彼女であったが、今はやけに楽しそうである。


「人間性が薄まって悪霊になったかと思って声をかけた」

「そんなひどい!だって、ゴブタロウさんが私に手を貸して欲しいって懇願してきたから、私も参戦していますのにその発言は酷くありませんか!?」


ころころ表情を変えるのも肉体を失い、感情がそのまま表情に反映されているせいだろう。

本来、エミリーは魂だけの存在であり姿が見えるのは、彼女が他者に認識させているに過ぎないのだから。


「さっきからゴブタロウさん、誰と話しているんですか?」

「え?あー、自然界に居る妖精みたいなもの!ほら、人間より感覚が鋭くて感知できない物も見えるんだ」

「そういえば、『ゴンサレス魔導国』は精霊や妖精を召喚すると聴きます。なるほど、意外と妖精って近くにいるのかー」


よし、なんとか誤魔化せた。

とはいえ、エミリーを識別できる条件がさっぱり分からん。



「ふふふ、ゴブタロウさん!私が妖精さんに見えますか!?」

「うん、地獄の業火で焼き尽くす妖精さんに見えるよ」

「絶対、褒めてませんよね!?」


ところでエミリーの声はアルフォンスに聴こえていないのか?

魔力で空気を振動させる事で、声にしているので聴こえていないはずはないんだけどな。


「よぉ!ゴブタロウ無事か!?」

「見ての通りピンピンしているよ」

「そいつは良かった。良し、そのまま塹壕から出て打って出るぞ!」

「やだよ!タイラーだけで行ってこいよ!的になるのは御免だ!」

「そうっすよーなんで自分から優位性を捨てて馬鹿みたいに突撃するんですか」


部下を引き連れてきた好戦的なタイラーは打って出たいようだが、わざわざ塹壕から出て攻勢に出る必要性が分からん。

アルフォンスもどうやらオレの味方のようで嬉しい。


「もうすぐ奴らの浮遊状態が切れる!その前に少しでも数を減らすぞ!」

「なーに言ってるんですか!殲滅作戦じゃなくて、援軍が来るまで持ち堪えるだけでいいじゃないか!」

「馬鹿だな!その援軍が来るとは限らないじゃないか!今のうちに倒せる敵は倒しちまえ!」


獣人(ビーストマン)の考えは分かり易い分、なんか反論する気力も薄れてきた。

エルティアナ曰く、獣人(ビーストマン)の国家がデュラント教国に滅ぼされたそうだけど、こんな感じに自信過剰で軽率な行動を見抜かれて滅ぼされたんじゃないかと思い込んでしまうほどだ。


「よし!お前ら丸太持ったか!?」

「「「「おーーー!!!!」」」」

「奴らにぶつけちまえ!!」


どっから持ってきたんだその丸太!?

ちなみに獣人(ビーストマン)の戦闘力は人間の3倍と言われている。

だから獣人(ビーストマン)が二人組であの太さの丸太を持ち運びする事態には驚きはない。


「「オラァ!!」」

「びぎ!?」

「ぎゅあぁあああっ!」


勢いよく放り投げられた複数の丸太は、坂道を転がっていき進撃していた敵を巻き込んだ。

さきほど、浮遊状態はジャンプが意味をなさないとはいったが、それ以外にも伏せることや勢いよく飛び出して緊急回避もできない。

よって、沼地から出て塹壕を攻略するべく突っ込んできた敵は、良い的と言わんばかりに巻き込んで、そのまま転がって丸太は、沼地に勢いよく落ちて大きな水しぶきを後続にぶっかけて沈んでいった。

冷たい泥水が目に入ったり鼻に入るなどして進撃が止まった。


「おお!やるじゃないかタイラー!」

「今がチャンスだ!突撃ー!!」

「「「「うおおおおおおお!!!」」」」

「うおおおおお!!」


つい、タイラーの号令に乗せられて塹壕を飛び出して、丸太に直撃した敵に向かってしまった。

やっちまった事は仕方がないので、複数の敵に止めを刺した。

泥水で顔を覆ってしまった敵兵は、まず自身の状況を打開するので精一杯らしく狙撃兵の良い的になっていった。


「よし、浮遊状態が解除されたな!」

「あらら、勢いよく沼に飛び込みましたね。寒中水泳ならぬ寒中泥水泳とは恐れ入った」


一部の敵に掛かっていた浮遊魔法が時間制限で切れたらしく、沼地に落ちていった。

ゴブリンなどの軽装備はともかく、漆黒の鎧に纏った敵兵は、なすすべなく二度と顔を出すことなく沈んでいった。

もちろん、足掻く為に武器などを放棄しても少しずつ埋まっていったり、まだ浮遊状態の兵士の脚にしがみ付いたりと、もはや大混乱していて部隊の統制が取れない状態だ。



「お身体に失礼しますね!“身体憑依(ベゼッセンハイト)”!」

「ぐぎゃ!?」

「“身体憑依(ベゼッセンハイト)”!」

「がっ!?」

「ふふふ、これ癖になりそうですよ!“身体憑依(ベゼッセンハイト)”!」


一方、エミリーは浮遊状態の敵の身体に乗り移った後、不意打ちをかまして、また別の敵の肉体に乗り移って攻撃をしていた。

敵視点からみれば、味方が急に裏切って致命傷の奇襲攻撃を仕掛けたにしか見えず、裏切り行為を許せず、乗っ取られた被害者を一方的に数で袋叩きにされて殺害されていた。


自分の姿が見えない事を良い事に、不意打ちで奇襲するわ、同士討ちを誘うわで効率のいい作戦で思わず、エミリーの成長に感慨深くなると同時に、なんか生者から亡霊(ゴースト)の思考になりつつある気がしてならない。


「なんか裏切りが発生していますが…なんかあったんですか?」

「そりゃあ、不利を悟って逃げようとしているんだろう」

「だったら戦闘の最中でどさくさに紛れて逃亡すると思うんですけど」

「知らんがな。オレだってどうしてこうなったか訊きたいくらいだ」


おそらく【五芒星将】が創り上げた岩人形(ロックゴーレム)泥人形(マッドゴーレム)の身体に乗り移った経験が活きていると思うのだが、エミリーが段々、殺しに躊躇いがなくなってきたのが気になる。

彷徨う魂が悪霊になっていく段階を目撃しているようで、背筋が寒くなる。


「ゴブタロウさん!アルフォンスお待たせしました!」

「ラザール、負傷兵の手当ては終わったのか?」

「僕に任せれば、そんな物すぐに終わらせられますよ!」

「それは良かった、適当に蹴散らしたら塹壕に戻るぞ!」

「「アイサー!」」


まだまだ敵が湧いてくる!

次は、浮遊状態でこちらに向かって来る漆黒の鎧を纏った槍兵だ。


「暗雲に囚われた我の肉体に刹那の助けを 電撃 中級魔法“雷系身体活性化(エレキテルドーピング)”!」


身体能力を底上げして、懐に飛び込んで巧みな槍術を回避してそのまま勢いよく斬り上げると、左腕を切断することに成功した。

そのまま切り返して頭を狙ったが兜に弾かれたので距離をとる。

名も分からぬ人間型の魔族はこちらを睨んでいたが首に矢が刺さり倒れ込んだ。


「ナイスだ!ラザール!」

「いいから早く後退しましょう!そろそろ援軍が来る頃です」

「ああ、そうだな…ん!?」


沼地からブクブクと泡立っているのに気が付き、思わず早足で後退すると、揺れとと共に何かが飛び出してきた!


「なんだあれ!?」

暴君蚯蚓タイラントアースワームだ!?」

「でっか!?あれミミズなんですか!?」


沼地から飛び出してきたのは見える分ですら64フィート(19.5m)くらいありそうな大蚯蚓だった。

前世の記憶によると、暴君蚯蚓タイラントアースワームというミミズの一種であり【Dランク討伐対象】である。

正規軍の1個小隊であれば、まず負ける魔物ではない。


「どうやって倒せばいいんですか!?」

「知るか!一旦退くぞ!」


もちろん、こんな地形が悪い所で戦うべきではない。

なにせ、奴の方に地の利があるのだから。


「砲兵部隊!何をやっている!?」

「さっきから砲兵部隊の援護がありません!」

「援軍はまだか!」

「まだのようであります!」


近くから味方の声が聴こえてくるがあまり良い話が聴こえてこない。


「うわ!?来やがった!!」


ド畜生!思ったより動きが早い!

目なんか見えないのに的確にオレを圧し潰しに来やがった!

生半可な斬撃や矢では歯が経たないどころか、接近戦に挑む事態無理がある体格差だ。

だが、オレには切り札がある!


「うおおお!喰らえ!!」


二度目の押し潰し攻撃を回避して隙を見せた瞬間、柔らかな皮膚に手を当てて自分の体内にある魔力を放出するイメージをする!


「我の領域に踏み込む者に無慈悲な裁きを 電撃 中級魔法“接触防衛放電エレクトリックディスチャージ”!」


前にジャイアントゴブリンに使った放電攻撃である!

雷系身体活性化(エレキテルドーピング)”の魔力をそのまま攻撃に転用した放電攻撃は功を奏して、暴君蚯蚓タイラントアースワームは大きく痙攣して動かなくなった。

弾力性のある肉体の一部が割れて発火していたところを見ると倒したか、再起不能になったようだ。


「『電撃魔法』が使えたんですか!?」

「まあ、いろいろ縁があってな…」

「さすがDランク冒険者、正規軍の一等兵より強いって訳ですね」

「そこまで褒めなくて良いぞ?まだ凄い奴がたくさん居るし…」


ラザールとアルフォンスは驚きながら拍手して迎えてくれたが、どうしてもDランクのエルティアナという存在が忘れられず脳裏にこびり付いて、彼女だったらどうやって倒すのかと考えてしまう。


「そんな事より塹壕に逃げるぞ!…っておい!もう逃げてるのかよ!!」

「当然です!僕は泥や血で汚れたくないですからねええええ!」

「自分も!というか、もう敵軍が持ち直しているので逃げる一択ですよおおお!」

「せめてもう少しまともな大義名分を語れよお前らああああ!!」


さっさと塹壕に向かっている2人の後を追いかける。

まだタイラーが残っているって?知らんがな、勝手に戦え!


「そこか!!」

「まだ居たか!」


またもや浮遊状態で、漆黒の鎧を纏った槍使いと大剣使いのゴブリンが居た。

急いで剣帯に手を伸ばして短剣を手に取り槍使いに投げつけた。

不意打ちではない為に槍術で弾かれたが、その隙に大剣を振り下ろしてきたゴブリンの攻撃を回避して一太刀浴びせた。


「っ!ががああ!!」

「次!」


首を半分以上斬り付けたおかげで血が噴水のように噴くのを確認して、両手で必死に無駄な止血しているゴブリンを介錯して槍使いに集中する。


「なに!?」


エルティアナの主導による特訓、槍使いの動きを何度も覚えさせられたおかげで、パターンが読めた。

敵は片手剣を封じる事に念を置いているのを見破り、右手で片手剣の柄を握りしめ、あえて打って出て槍の間合いに近づいた瞬間、左手に握っていた予備の短剣を投げつける。

予測できなかったのか慌てて槍術で叩き落した瞬間、振り下ろされた柄に目掛けて片手剣を思いっきり叩き付けると木製の柄をへし折ることに成功した。

敵はすぐに槍を捨てたが隙を見逃さず追撃して剣を叩き付ける。


「げっ!?」

「ぐおお!」

「待て待て待て!!嘘だろう!?」


ところが漆黒の鎧に刃が弾かれてしまったばかりか、嫌な音と共に刃が折れてしまった。

それどころか、いつの間にかさきほどのゴブリンの死体の場所におり、奴は、大剣に手を取ってこちらに見せびらかせるように構えてきた。

思わず、折れた剣を投げつけるが弾かれる音を聞く前に全力で逃げ出した。


「誰か!助けてくれ!!」


悲しいかな、種族差のせいで全力で逃走しているのに間が縮まるだけであった。

そして、人気が無い所に行ってしまったのか近くでは戦闘すら起こっていないようである。

魔法を使いたいが布マスクのせいで息苦しく魔力を集めるイメージをするどころではなく、武器を全て失っ

てしまい、逃げるしかなかった。


「ハァハァハァ!あ、あれは」


もう駄目だと思った瞬間、ある物を見つけた。

まるで台座に突き刺さるエクスカリバーのようであった。

思わず駆け寄って手に取ると手によく馴染んだのですぐさま構えて振り下ろされた大剣の一撃をガードした。

よし、耐えた!

思いっきり胴体を蹴り飛ばして改めて円匙(シャベル)を握りしめる!


「うおおおお!!」

「ぐがっ!」

「おらあああああ!!!」

「ごっがっ!」


姿勢を崩した隙を見逃さず、円匙(シャベル)を首元に思いっきり突き刺す!

まだだ!怯んだ隙に腕に突き刺して手放した大剣を蹴り飛ばし更に叩き付ける!

この!眼球を叩き潰し!悲鳴をあげた口の中を突き刺し舌を潰し!

既に浮遊状態が解除されており地面に倒れ込んだ奴の首に片足を乗せてもっと顔に叩き付けて!刺して!捻って!もっと叩いて刺す!


「ハァハァ…!」


殺した?殺した。殺したんだ!円匙(シャベル)で!敵を殺したんだ!

痙攣が収まって二度と動くことない肉体に背を向けると、塹壕を構築する為に使用された円匙(シャベル)が何十本も盛り土に刺さっていた。

すぐそばに大剣が落ちていたがオレの体格、技術では扱えない。

円匙(シャベル)を見ると金属部分のさじ部が歪んで血で汚れていたがまだまだ現役のようだ。

他に武器になりそうな物が無かったので護身用にこのまま拝借、いや、盗む事にする。


「ささっと味方に合流しなければ…」


刺さっていた円匙(シャベル)を足掛かりに塹壕に入り、友軍との合流を急ぐ。

そして持ち出した円匙(シャベル)だが、金属部分を削れば鋭利な刃物になるし、盾にもなる事に気付き、意外と武器に適している事に気付いた。


これは運命の出会いか何かかな?まあいいや。

もしエルティアナに再会できたら円匙(シャベル)を用いた護身術を訊きたい。

そして、オレは…!


「貴様!何をしている!」

「何って敵兵を仕留めて塹壕にいる友軍と合流する途中ですが!」

「本当か?」

「あそこに死体が転がって、オレの円匙(シャベル)に血が付いているのが証拠です!」


へりくだった言い訳をしたのは訳がある。

それは、階級が分からないのもあったが包囲されており剣を向けられたからだ。

なによりこいつらは…。


「信じられんな?本当はスパイなのでは?」

「徴兵された冒険者ですよ!ほらここにドッグタグ!水色!Dランクです!」


こいつらはデュラント教国の聖印騎士団!

緑のマントを羽織って顔を隠すようにバイザー付けて銀色の鎧を纏っている騎士達!

人間至高主義国家の騎士団とは聞いていたが、実際にこうして面を合わせると亜人種を見下している感じがひしひしと伝わってくる。

いや、一度、こいつらより格上の部隊に逢っているけど、エルティアナが傍に居ないとここまで心細くなるものなのか。


「フィスカー中尉!間違いなく冒険者だと思われます!」

「なるほど、逃走していた敵を追撃していたら戦場から離れた…それ良いのか?」

「はい!その通りです!」

「なら、ささっと第三軍団と合流せんか!もう奴らはサンクトグラードを目指して進軍しているのに貴様はそこでいつまで遊んでいるつもりだ!」


いきなりとんでもない事を聞いた。

そんな馬鹿な!進軍する話なんて聞いてないし、なにより晩飯で戦力が手薄になっていただけでちゃんとここで防衛する任務に就いていた。


「え?そんな話!塹壕で警備していたオレ達には…」

「この塹壕を含む駐屯地の警備は我々聖印騎士団が受け持つことになった!」

「…はい、分かりました。できれば、塹壕の警備兵達と合流したいのですがどこに居るかご存じないですか?」

「一度、駐屯地に戻り装備を整えたら出発するといい。まだ進軍して間もないからすぐに合流できるであろう」

「ありがとうございます!これにて失礼します!」


気が付いたらあれだけ騒がしかった戦場が静かになっており、日はもう沈みかけていた。

想像以上に逃げ回っていたのかと疑問に思ったが真実を確かめる為に駐屯地に向かう事にした。

フィスカー中尉、この名前だけはしっかりと覚えて眼前に迫る2つ目の塹壕目指して走った。

さじ部が血で汚れて歪んだ円匙(シャベル)を携えて。



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