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悪魔令嬢  作者: 滝革患
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挿絵(By みてみん)


私は魔界の侯爵の一人娘・ビスティエ=コンビフス。

別に喧嘩が強いだとか、魔力が強いとかではないけど、侯爵令嬢の私に逆らうやつはほとんどいない。

ちなみに魔界で私に逆らう奴は王様と公爵だけ。



いつも屋敷で一人パーティーで遊び歩いている。

友達とパーティーしたいけど貴族だからつるむ相手がいないのだ。


寂しくなんてない。

肉とワインがあれば私は幸せ。


「ちょっと!私ビーフは缶詰めのしか食べないわよ!!」

「ははっ!」

「今はスパムの気分だわ」

まあ注文と違うけど食べる。


「もうしわけありません!!」

新しくもってきたのも食べる。


だけどちょっぴり我儘な、魔界ではマダマダ若い女の子の私だって…。


恋くらいはしている。



相手は悪魔が忌むべき天使。

彼の名は天使長ヤミュエール。

金髪に白い羽、厳格そうなオーラ。

眩しくてたまらない存在に一目で恋に落ちた。


だけど休戦協定があって戦いではないにしても、いくら自由な魔界といえど皆心中で天界と敵対している。

恋を叶えるなど夢のまた夢だった。



私は缶詰めとワインボトルを持って屋敷の庭を散歩している。


「髪の毛ぬーいた」

木の下でピクニックをしていたら、背後からいきなり髪を抜かれた。


「セポル…アンタ死にたいのね…!」

この無礼な奴は同じく侯爵家の子息で幼馴染みのセポル=ラムリスナだ。

悪魔ではないが、両親が冥界出身らしいので、王様が魔界に住ませている。


こいつは他人の髪を抜いて、夜な夜な寿命を減らす黒魔術をやっているという噂。


好かれそうなのに、煙たがられている。

占いで悪い結果がでたら信じないように自分にかかった呪いは信じない

こいつが黒魔術を使おうと気にはしない。


「君たち、相変わらず無駄な時間を過ごしているな」

「ロレウス=ポーグ!」

他所者で貴族でもないが気難しいことで有名な男。


「たしかに無駄だけどね…」

無駄と言われたことは悔しいが事実なので言い返せない。




「フン、気に入らぬ…」

「兄さん、何を見ているんです?」




なんだか向こうから視線を感じたけど、気のせいよね。

二人をまいて、一人になる。

気をとりなおして肉を食べる。



「なあきいたかー」

「ああ、きいたきいた」

何やら下等悪魔達が話している。

これは盗み聞きではない、聴こえてくるだけだ。


「内部分裂だってさー」

「敵が自爆してくれてラッキーだな」

敵…つまり天界の話だと検討がついた。


問いただしたいが、私の姿を見ただけで下等悪魔は逃げ出す。

だから身を潜めたまま、話すのを待つしかない。


ヤミュエルは無事なのか、それだけが心配だ。


こっそり天界を調査しよう。


許可証さえあれば悪魔であっても天界に行ける。

この場合下等悪魔なら手続きは楽だ。

でも、上流悪魔の私が天界にいくのは難しい。


魔力と姿をを隠して手続きをせずに見に行くことにした。


先のことなど、見つかったとき考えればいい。


初めて来た天界は、真っ白でキラキラ。

目が痛くなるくらい明るい。

流石に日光で死にはしないけど、吸血鬼が太陽を苦手とする気持ちがわかった。


青く清んだ空、清浄な雰囲気。

形はともかく本当、真っ黒でよどんだ魔界とは大違い。


だけど魔界は好き。

どんなに黒くて汚れていても私の生まれ育った場所だから。


「君…魔界から来たの?」

姿を消す魔法をかけているのに、どうして気づかれたのか、まったくわからない。


力ある天使ならわかるが、ボロい服で貧困層のようだ。

魔界に平民がいても貧困層はない。

理由は簡単、悪魔は魔法で自分の身のまわりの事をなんでもできるからだ。



でも魔法のない人間ならまだしも、天界にこんな場所があるなんて信じられない。

正義とか偉そうなことを言っているわりに何も出来てないんじゃない。


「そうよ」

彼等はとても弱っている。

悪魔を見たところで、襲いかかる気力もないはず。

それに協定があるのだから何も出来やしないだろう。


「別に弱い者いじめしにきたわけじゃないわ」

雑魚を相手に偉そうにしても、ダサいもの。

それに弱い者を威嚇するのは下等悪魔の役目だ。


「天界がこんなに荒れているなんて、驚いたわ」

「…ここは創造神カミュレットが作った一つ目の天界なのですが、あるとき別の神が現れ、このようになってしまったのです」


その神が天界を荒らしたわけね。

でも天界が一つだけじゃないと言っていたようだけど、ほかにも天界があるのかしら。


「ちょっと待って、神様って一体じゃないの?」

天使は神様が一人だと言っているわりに、沢山神と呼ばれる存在がいて、矛盾を感じる。


「何もおかしいことはありません

神という存在が複数いたとしても

我々が信じ、尊敬する神様はカミュレット様のみです」


彼等は嬉しそうにいっている。

神の存在が一つという意味ではなく、数多いても自分の信じる神を崇高するのだと。


(成程、そういう考え方もあるわね)

彼等の言葉の意味を一応理解した。


「天界に一人で来るなんて、勇気あるね

悪魔のお嬢さんさん」

ヘラヘラとした天使にしてはは珍しい気質の男が、フレンドリーに話しかけてきた。


周りにこんなタイプはいないから困った。

会話する相手がいても内容はまともではない。

こんなときにどう返せばいいのか、全然わからない。


「それって褒め言葉?」

それを気取られないように強気に返す。


「そうだよ、多分ね」

「へー」


「俺はアルセル、君は?」

「名前をお偉い方にリークしたら許さないわよ」

「しないって

別に、ガチガチに禁じられているわけじゃないし」

それもそうか、と名前を教えてやることにした。


「ビスティエ」

「お、悪魔らしい」

小馬鹿にされた気がしてならない。


(なんかむかつく)


――――――

その頃天界では、破壊された神座しんざと、その横に新な椅子を置き、鎮座する神がいた。


「ヤミュエール様…我々にはどうすることも出来ないのですか!?」


この天界を造りし神が、彼等を見放したために仕方がなく新たに現れた神に従うことになった天使。


仲には納得がいかずに反乱し、堕天使となる者も多数いた。


天使の長であるヤミュエールは、自我よりも下にいる天使達の保身の為に、神には逆らえないのだ。


「どうするも何も、始まりの神は去られた

こうなれば新たな神に従うほかあるまい」

「ですが…仲間の天使達も…理不尽に神宮から堕とされました…!」


悔し涙を流す部下達に、ヤミュエールは何も言い返せなかった。


―――



「ふあぁ…こんなとこ彷徨いてもヤミュエルには会えないわね」

「君、天使長・ヤミュエルに会いに来たんだ…」

アルセルは機嫌を悪くしたのか、トーンの暗い声になった。


「取り合えず今日は帰るわ」

「そっかーまたね~!」

(今のはなんだったのかしらね)


意外と警備が緩いが、念のためこっそりと魔界へ戻る。



魔界の屋敷の庭につくと、知らない男が家にいた。


「久しぶりだねぇビスティエ」

カールした黒髪をリボンで結わえていて、動くたびにそれがゆらゆら動く。


「誰よ馴れ馴れしい」

気持ち悪いくらいねっとりした声で甘えてくる。

こいつにくらべればセポルなどまだ可愛く見える。


「数十年前、人間界に行っていた幼馴染みのチェギスだよ~?

忘れるなんてひどいなあ」

名前を聞いて思い出した。


‘チェギス=ニッキー’ニッキー伯爵のドラ息子だ。

「さよならの日なんてベロベロに泣いていたのにね」

顔を黒い涙でベタベタにしながら人間界へ行くこいつを見送ったことは私の中で三番目に嫌な思い出だ。


私はチェギスをまいて、庭の木の下でビーフを食べる。


「貴様がコンビフス侯爵の娘か」

挿絵(By みてみん)

鞭を持ったいかにも貴族らしい格好の男と、学者のように本を抱えた男が現れた。


屋敷に偉そうに入って来たのだ、もしかしなくても、二人は貴族だろう。


「私はネシス=フォルゾイ」

細いリボンで長い髪を結った男は腕が疲れたのか鞭を下げて、私を睨みつける。


「僕はレウス=フォルゾイ」

対照的にこちらに微笑みかけた男は髪で一束ずつ輪を作り後ろで止め、複雑な髪型をしている。


名乗られるまで彼等の身分が下か上かわからなかったが、‘フォルゾイ’は公爵家だ。


私は悪魔で侯爵の娘だしいくらでも我が儘で構わない。

だけどパッパから王と公爵には逆らうな。

と泣きながら頼まれている。


「噂と違って、彼女は大人しいですね兄上」

物腰は低い大人しそうなほうが、偉そうな男に話しかけた。


「つまらん…そう思わないか」

レウスはネシスに、一言も返事をせず興味なさそうに本を開いている。

兄のネシスにへこへこしているのかと思えば、マイペースなようだ。



そんなことより私は自分より偉い相手に間近で会ったことがない。

ため口も命令も出来ない相手に会話する方法などわかるわけない。

早く去ってくれないかしら。



「やはり我が儘放題育った無能な小娘のようだな…今度会うときまで‘はい’くらい言えるようになっていろ」

事実だけどやっぱりむかつく。

相手が公爵家じゃなかったら缶で殴ってた。


「天界で揉め事があったと魔王陛下からのお達しがあった」

朝から機嫌の良さそうなパッパ。

対照的にどんより気味の私。


「そっそう」

知っていることなので驚きはしない。

ただ、天界に忍び込んだことがバレていないか不安ではある。


「そうだ、忘れておった」

「なにを」

丁度いま思い出したような顔で、手をぽんと叩く。


「公爵様が嫁を探しているらしい

だからぜひとも候補にと返事しておいた

断ると鞭でしばかれそうだったからな」

思わず嫌だと叫びそうになったけど、候補に、ならあくまで数多いる中の一人…。

選ばれないようにすればいいだけ。

自問自答で理性的に考える。


悪魔は天使や人間に比べて数が少ないため貧困しない。

他所で言う玉の輿などあまりロマンはないことである。

侯爵が公爵になってもたった1ランク程度の差だ。

どうせなら魔王様のほうが偉そうだものね。

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