3話
部屋の中に入って来た7人の男性の姿はそれぞれで、普通の人間がいたり、ケモ耳や尻尾、それに翼がある獣人や、この世のものとは思えない程の美貌を持ったエルフの方達がいた。
「ミナミザワ様、このモノ達が当奴隷商会の中で最も質が高い奴隷───『高級奴隷』でございます」
私の隣に立った奴隷商の男性は、目の前に並ぶ7人の奴隷の種族名から何やらが事細かく書かれた資料を私に渡すと、まずは奴隷を買う数を聞かれた。
「1人……あ、やっぱり2人でお願いします」
「畏まりました。それでは、ミナミザワ様はこの奴隷達の中から、どのモノをお選びになられますか?」
「え~っと……そうですね……」
私は資料を見ながら奴隷達を1人1人眺め、最初に目が合った2人───女性のように綺麗なエルフの奴隷と、黒と白の翼を持つちょっとチャラ男風な鳥の獣人奴隷を買うことに決めた。
「決めました。このアステリアと言う人と、キアランと言う人にします」
ハッキリ言おう。ほぼ顔の好みで決めただけだと。
アステリアと言う奴隷は、物語とかによく出て来るエルフと同じで、耳が長く先端が尖っていた。
顔は流石エルフと言うべきか、すんごい綺麗な顔をしている。
資料によると男性らしいが、髪も少し長くて中性的───というよりも、顔は普通の女性よりも遥かに美しく、体つきも女性と見間違うくらい細くて華奢だ。
身長は流石に男だからなのか、他の奴隷と同じ位高い。
アステリアの他にエルフは2人いたが、恐ろしい程綺麗に整った男性よりも、絶世の美女っぽいエルフの方がお近付きになりやすい感じがしたし、私を見て微笑む姿にヤラれました。
即買いです!
キアランと言う奴隷の方は、背中に大きな翼を持つ鳥の獣人であった。
黒い髪を持っているが、少し長めの前髪と襟足の一部に白いメッシュが入っていて、髪の色と同じく、背中に有る翼も右側の翼が黒で左の翼が白い色をしていた。
一見チャラそうな外見だけれども雰囲気が柔らかかったのと、あとは背中の翼を見て、この奴隷を買えば一緒に空を飛べるかしら? と思い、これまた即決で買うことに決めました。
ただそれだけの理由でその2人を指名すれば、奴隷商の男性はもう一度手を叩き、残りの───選ばれなかった奴隷を元の部屋へ戻るよう指示を出した。
選ばれなかった奴隷達が部屋から出て行き、扉が締まるのを確認した奴隷商の男性は、それから少し困った顔をしながら私を見た。
「ミナミザワ様、本日のお買上商品である『高級奴隷』は、この2人で宜しいでしょうか?」
「はい。……あの、何か不都合がありましたか?」
「いえ、その様な事はございませんが……実は、このキアランとアステリアの奴隷達は、当商店の1、2を争う高価格商品となっておりました」
奴隷の相場なんて知らない私は首を傾げるしか無かった。
「えっと……因みに、いくら位なんでしょうか?」
本人を目の前にして話すことじゃ無い様な気もするが、チラリと2人を盗み見るも、気分を害した様子は見当たらない。
「はい、この奴隷達を2~3日お貸しするのであれば、500万ルビデンドになります。しかし、この奴隷達をお買い上げになるためには……7億ルビデンド以上になります」
「500万ルビデンドに、7億ルビデンドですか」
腕輪の画面を使ってお金の数の数え方を調べてみたら、日本の円と一緒で、円をルビデンドに言い換えればいいだけと書かれていた。
なので、2人を数日借りるなら500万円位で、買うなら7億円以上かかるのだと分かった。
数十分前までの一般ピーポーな私であれば、そんな金額を支払うのは到底無理な話であったが、この世界に来て金額チートになった私に買えない金額ではない。
「分かりました。2人を買いますので、支払いは1回払いでお願いします」
私はお財布携帯ならぬ、お財布腕輪を案内人さんが手に持っている水晶に勝手に近付けて───ピロリン♪ と水晶から音が鳴り、金額の支払いを済ませてしまった。
「なっ!?」
「………………」
「………………」
まさかのまさか、本当にあの高額な金額を私が支払える(しかも1回払い)とは思ってもみなかった奴隷商の男性は、驚いた表情で私を見下ろしていたし、私に買われた当の本人でもある奴隷達も、目を見開いて私を凝視していた。
暫しの間、室内がシーンと静まり返る。
しかし、そんな微妙な空気をいち早く我に返った美女な男性エルフさんが、口を開くことによって終わりを迎えた。
「初めまして、ご主人様。私の名前はアステリアと申します」
私の目の前に音もなく跪き、長年履いて草臥れた状態のパンプスをその綺麗な手で持ち上げ───足の甲へ口付けを落とす。
「これより後、何なりと私めにお申し付け下さいませ」
「…………ッ!?」
目の前の光景に声も出せずにビキッと固まっていると、アステリアと名乗った奴隷がスッと後ろに下がり、白と黒の翼を持つ奴隷がアステリアと同じ位置で跪いて私の足を持ち上げた。
「キアランと申します。貴女のような可愛らしいご主人に仕えることが出来て、幸せで御座います」
柔らかい唇が足の甲へ触れ、そしてゆっくりと離れる。
サラサラの髪が足首をくすぐりながら離れていく───そんな光景をボー然としながら眺めていると、キアランと名乗った奴隷と目が合った。
見た感じはチャラそうではあるが、私を見詰める目がとても優しいもので、つかの間お互い見つめ合いながらニッコリと笑い合う。
そんな私達を見た奴隷商の男性は、ハタとそこで我に帰ったらしく、1つ咳払いをすると、これにて売買契約は完了しましたと言った。
話しを聞けば、『高級奴隷』を買うには普通の奴隷を買うのとは訳が違い、お金の支払いだけでは無理とのこと。
本当であれば『高級奴隷』達が自分の主と認める誓い(主と決めた人物の足の甲に隷属のキスをする)をした後に、支払いをするのだとか。
ここのギルドでは『高級奴隷』が買い手を主と認めない限り、決して売ることはしないらしい。
少々手順は変わってしまったが、買った奴隷達に私は主と認められたらしいので、問題は無いとのこと。
奴隷商の男性は持っていたファイルみたいな物の中から1枚の紙を取り出し、「これは、このモノ達の取扱の説明とその同意書となります」と言って、 A4サイズ程の紙を手渡してきた。
私は紙を手に取ると、それに目を通し───ムムムと唸る。
字が全くもって読めませぬ!
どうしたもんかと思っていると、腕輪が淡く光り出した。
何気なく触るとまた画面が出て来て、ご丁寧に紙に書かれている字を日本語に翻訳されているものが画面の中に出ていた。
私は紙を見るふりをしながら、画面に書かれている文章を読み進める。
それから少しして、私は手に持っていた紙を膝の上に置くと、奴隷商の男性に視線を向けた。
「はい、読みました」
「それでは、これらの事に同意して頂く事で間違いは有りませんね?」
「はい。大丈夫です」
奴隷商の男性の言葉に頷く私であるが───はっきりと言おう。
中の説明文を最後まできちんと読んでません。
書かれている文章をきちんと読まなければならない事は分かっている。
しかし、あまりにもビッシリと書かれていて、最初は真面目に読んでいたが……途中からザッと目を通すだけになり、最後の方は殆んど読んでいなかった。
「……本当に宜しいのですか?」
「? えぇ、大丈夫です」
「分かりました。それではミナミザワ様、今回は『高級奴隷』のお買い上げ、誠にありがとうございました。又何かお入り用のモノがございましたら、当奴隷商会へお越し下さいませ」
「はい。今日はありがとうございました」
ペコリと頭を下げた私は、手に入れた奴隷達と共にこの奴隷商を出た。
後に、同意書を軽く読み流した事をめちゃくちゃ後悔することになるとは、この時の私は思いもしないのである。




