表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/9

ゆきの秘密

食後、半ば強引に引っ張られて近所の公園へ。


この前六年生たちが使ってた公園。


今日は誰もいなかった。


そんなわけで俺らが使わせてもらうことに。


そんなに広くない公園なので、真ん中に線を引くだけにした。


…これじゃ六年生と同じように公園占拠してるように見られるかもな。


人が来たら譲るとして…今は練習だ。


「外野は無し。アウトになったら一回抜けて見学と球拾いをやってくれ。俺は一人でいい」


俺VS五年生6人。


ちょうどいいハンデだろう。


負ける気はしないし。


ボールは俺がもらって、練習スタート。


「本気で行くぜ!」


そう言いながらボールを片手で持った。


そして投げる。


全力で。


こむぎを睨みながら。


でも、本当に狙ったのは…。


「ふぇ!?こっち!?」


小春。


狙われていないと思っていたらしく、慌てている。


それでも取るんだから大したもんだと思う。


「いっくよー!トレシュート!」


小春が投げた球はトレ…イタリア語で3を意味するように、ボールが三つに分裂して飛んでくるように見えた。


でもさ、見えるだけで実際は一つなんだぜ。


スピードは速くないので、よく見ればわかる。


…向かって右だ!


「ウソ!ばれた!?」


キャッチしたら小春が驚いていたが、小学生の子供が投げる球。


当たるわけにはいかない。


「秘球・操りドール!」


反撃とばかりに投げた球は俺の一番得意な魔球。


投げた瞬間に手元から消えた球は、大量に分裂して相手コートのそこらじゅうをふよふよ漂う。


ほら、そんなキョロキョロしてるだけだとさ、狙いやすいんだよ。


一定時間経ったところで一人へと散らばったボールが殺到する。


それも、速度には自信があるんだよね。


「キャッ!」


「こむぎアウトー」


だから周り見てるだけじゃダメなんだって。


殺到したボールはこむぎの足に見事ヒット。


こむぎは端っこで見てるだけとなった。


「こむぎの敵ー!」


そう言って投げてきたのは鳴海。


地面すれすれから上へあがるアッパーのような軌道を描く、とんでもない速度の球。


砂煙でボールの位置を確認しにくい。


だから、言ったじゃん。


足狙えって。


パシンとボールを弾く大きな音をさせながらキャッチした。


「足狙ったほうが楽だぜ?わざわざ上にあげる変化球投げなくてもさ」


「っく!」


悔しそうな鳴海。


だが容赦はしない。


本気で行くと言った以上はね!


俺は助走をつけて高くジャンプした。


そして放った。


「辰星!」


投げられたボールは超巨大化して見え、相手のコートに落ちる。


着地するころには普通の大きさに戻るのだが。


これは当てるボールじゃなくてビビらせるパフォーマンスとして使う技。


ペースを握るには丁度いい。


「ま、負けないよおにーちゃん!」


おっかなびっくり投げてきた磨里亜。


正直こいつが一番怖い。


何するかわからない。


遅い球。


でもそれだけじゃないはずなんだ。


あいつが投げるんだから…。


考えているうちに球は目の前。


キャッチするしかない。


覚悟を決めた。


ボールを取りに行く。


手を伸ばす。


すると…。


「…なっ!?」


伸ばした手のすぐ目の前でボールは軌道を変えた。


俺の脚目掛けて落ちてきたのだ。


「うあっ!」


慌てて足を広げたためギリギリで回避したものの、相当危なかった。


「あーっ!おっしー!」


こむぎが悔しがっている。


「残念…」


磨里亜も残念そうだった。


俺にはまだこんな球もある。


高く高くボールを放り投げた。


夏の炎天下、日差しを耐えることなく注ぐ太陽に向かって。


あとは自由落下。


だけど…。


「あっ!」


磨里亜アウト。


少々頭使って投げる必要があるけど、単純ながらなかなか強い。


その名も「相手から見て消える魔球」


太陽と重なる位置で投げて、眩しすぎる太陽光線で目晦ましする。


晴れていて、ベストな時間にしか使えない技。


「おにーちゃん、今のズルい!」


「いや、ズルくはないでしょ!」


磨里亜の抗議を跳ね返して、相手の次の球を待った。


次の投球者は彩萌。


「妙技・星の宿り!」


ジャンプしながら投げられたボールは、持ち味とも言えるとんでもないバックスピンがかかりながら俺を目掛けて飛んできた。


さすがにスピードが速い。


おまけにあの反比例グラフ軌道。


かなり低い。


取るとミスする可能性もあるので一旦回避して見逃すことにした。


「甘いです!」


彩萌の言葉でハッとした。


俺の後ろに飛んで行った球が、着地する直前にまるで跳ね返ってきたかのように俺目掛けて後ろから飛んできたのだ。


もう今更キャッチも回避もできない。


黙って当たるしか方法はなかった…。


ビーンとボールが体に当たった音がした。


アウトか…。


でもさ、ドッジボールのルールを確認するとさ。


…当たってからでも着地する前にキャッチすればセーフなんだぜ!


「そら!」


「なにー!?」


そのまま投げ返して彩萌を仕留めた。


「だから足を狙えとあれほど…」


「まさかあんな取り方が…」


「あとで教えてやっからよ」


公園の隅へ向かう彩萌に声をかけてやった。


これで残りは小春、ゆき、鳴海。


次の投球は鳴海。


正直油断ならない。


「ゴットフェニックスアタック!」


鳴海の球は火の鳥となってこちらに飛んできた。


横幅1メートルくらいの、炎揺らめく火の鳥である。


相変わらずの豪速球。


「ったく、暑いときにんなもん投げんな!」


パーンという乾いた音が響く。


まるで頬をひっぱたかれたような…。


俺は鳴海のボールを、片膝をついて両手を前に突き出して受けた。


掌で受けてやった。


あとは威力を失った球を拾うだけ。


胸のあたりに来る球はこれで取れる。


ただし…。


「…いってー!」


すごく痛い。そして熱い。


手がジンジンする。


「そりゃ私のとっておきの技だもん!受け止めて無傷は許さない!」


得意げに言った鳴海。


腕も腰に当てて偉そうなそぶりをした。


「そうかいそうかい。なら、俺もとっておきを披露するかね!」


大人げないと言われればそれまでだろうけど。


完全に闘争心剥き出しの俺がいた。


「秘球・操りドール!」


投げたのはさっきと同じ球。


投げられた球はすぐに相手のコート上に複数展開された。


「二度目は見切るよ!」


鳴海は腰を落として足元に来た球でも取れる体勢を取った。


「それはどうかな!」


そもそも、鳴海を狙うとは言ってないんだけど…。


まぁ、勝負してやるか。


「集約!」


鳴海に向かってボールが殺到する。


速度も申し分なし。


今度は手を狙ってやった。


突き指しないように手の甲を狙う。


パァンという音がして、ボールは、鳴海の腕に収まった。


「なっ!?取りやがった!?」


「だから言ったでしょ!二度目は取るって!」


まずい。


今俺がいるのは相手コートとの境界線ギリギリ。


普通に投げられただけでも辛い。


相手が鳴海ならなおさらである。


「さらば!」


逃げる間もなく鳴海がボールを投げた。


とりあえずジャンプしよう。


すると、目の前にボールが飛んできた。


これを取って、目の前にいる鳴海に両手で振り下ろすように投げた。


「ぐあ」


「あ、ごめん。大丈夫?」


おなかに直撃したっぽい。


「大丈夫だけど…。なんか思ったように投げれなかった」


「そりゃあね」


そうしたんだもん。


磨里亜が学校で披露した、手から勝手に逃げるボール。


あれをやったのだ。


だから俺は磨里亜が同じ技を使ったとき正直ビビった。


今回は、ジャンプした俺にパスのような球が飛んでくるようなタイミングで、手から逃げるようにした。


これ、マスターするまで相当時間かかったんだぜ?


あとはボールつかんでダンクシュート。


最初の操りドールは囮でしかない。


こういう魔球の使い方もある。


鳴海が当たった拍子でボールがこちらに戻ってきたのでもう一度俺が投げる。


「アルクトゥートス!」


大層な名前の割には大したことはない。


要するにカーブ。


これは簡単に取られた。


「疲れちゃったの?なら、当てちゃうよー」


小春が走りながらボールを投げた。


上下に激しく揺れる球。


下から上にあがるときに、タイミングを合わせてキャッチしてやった。


それからはしばらく魔球なしで対決。


小春とのラリーが続く。


「そろそろいいかな!」


ある程度ラリーが続いたところで横回転を掛けた球を投げた。


「おっと!」


ちょっとびっくりしたようだけど、これもキャッチされた。


次は逆方向に回転を掛けた。


その次はまた逆。


で、ある時、二回連続で同じ方向に回転を掛けてやる。


「わぁ!逆!?」


それでも喰らいついてきた。


なら決めにかかるか。


速球で回転がかかった球を投げた。


…顔目掛けて。


「キャッ!」


慌てて手で顔をガードする小春。


パァンと音を立てて、ボールを上に弾いた。


…つもりでいたらしい。


しかし、ボールはバックスピンがかかった球が壁にぶつかった時のように、速度を上げて着地したのだった。


「お前よく見てんなー。弾いて取ろうとしたんだろ?」


「うん。さっきにーちゃんがやってたやつ」


「そのくらいの対策はできてるってーの」


あれ、本当に顔に当てると可哀そうだから普段はあんまりやらないんだけどね。


小春なら追いつけるだろうと思ったのでやってみた。


最後はゆき。


寧ろ、わざとゆきを残した。


データがない。


ゆきは未知数なのだ。


アウトになった面々は心配そうにゆきを見ている。


ゆきがボールを持って、投げた。


普通の球。


様子を見るのか。


なら、こっちから攻めにいってみるか。


「秘球・操りドール!」


今度は通常版。


展開されたボールが、一気に殺到する。


ゆきはそれに、素直に当たった。



「ゆきは魔球が投げられない」


それを帰宅途中の磨里亜から聞いた。


皆とは公園で解散した。


また明日午後から練習しようと言って。


ゆきは少し元気が無かった。


家までは磨里亜と二人で歩いた。


皆は方向が違うらしい。


「昔はみんなでドッジボールやってたんだけど、クラスでやった時、ゆき、最後の一人になってね。それで当てられちゃって、クラスの男子にいじめられたんだよ」


「…いじめ」


「それ以来、ドッジボール苦手になっちゃったみたいなの。私たちとはやるんだけど、他の人がいるとね…」


「いじめ、今でも続いてるの?」


「うん。でも、私たちはいじめてないよ?」


「そんなこと、疑ってないよ。味方でいてやれ。いじめられてるとき、友達がいるってのは心強いからさ」


「…?うん」


「いじめって何されてるの?」


「男子たちに悪口言われたり、叩かれたり」


「中心人物とかいるか?」


大納屋おおなや一樹かずき。あ、今日言ったことは秘密だよ?」


「大納屋…?そいつの兄貴ってさ、金髪でメガネかけてない?」


「ああ!そう!いっつも『俺に何かしてみろ!兄貴呼ぶぜ』って言ってるよ。一回見た時金髪だった!」


「やっぱり。そいつ、同学年だわ」


「うそー!」


そんな話をしていたら、家の前についた。


ゆきをいじめから救ってやりたいけど…。


どうすりゃいいんだろう…。


悩んでても仕方ないか。


とりあえず、電話を一本入れるのであった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ