【番外編】ちちのひ
羽宮町に棲む怪異と人間のお話。
※人外描写、流血・暴力表現、死亡描写、一部BL的表現を含みます。
「旦那さま! 明日の朝昼晩のご飯はあたしが作るから!」
夕食を食べている途中、祈の言葉に透は目を丸くしながら箸を止めた。
明日、と言うことは二十一日のことだろうか? 一体何があったか……と思考を巡らせようやく辿り着いたのは、
「えー……っと、父の日……だから?」
透がそう言えば、祈は力強く頷いた。
今の祈は、娘であり妻である、なんだか不思議な関係だ。今まで父の日を気にしたことがなかったはずなのだが、国木田から教えてもらったのだろうか? しかしながら"今"の祈に父の日にプレゼントを貰うのは、透はどこかむず痒さを感じた。
「あっでもまこちゃんの分がないのは不公平よね、まこちゃんの分も作らなきゃ」
「……祈、どうして急に父の日にプレゼントしようとしてくれたの?」
祈はにっこりと笑い、少し恥ずかしそうに目を伏せた。
「だって、大切な日なんでしょう? なら、大切な日にお祝いしたり、プレゼントをしたり……ぜーんぶやったら、あたしも旦那さまも幸せかな〜って、思って……」
段々と小さくなっていく言葉を聞きながら、透は席を立ち、テーブルを挟んで向かい側に座っていた祈を優しく抱きしめた。
「ふふっそうだね、それはとても幸せだ。でも祈、明日の私のお昼ご飯はお弁当にしてくれるかい?」
シェーズでの昼食は基本、その時に余っている食材で適当に作る賄いがメインだ。たまに国木田は廻に弁当を持たされていることもある。
だが、透が弁当を持参でシェーズのカウンターに立つことは、今までなかった。妻子が二人で生きていた頃から、ずっと。
透に抱きしめられながら、不思議そうに「どうして?」と問う祈に、透は照れ隠しに小さな咳払いをしてから、口を開いた。
「だって、祈が私だけのために作ってくれたご飯が食べたい……って言うわがまま。ダメかな?」
「ダメじゃない! ダメじゃないわ!!」
──これは、国木田への嫉妬だ。祈が私だけのものではないと言う、醜い嫉妬。
祈の交友関係が広がることに、透は喜びを感じているし、なにより国木田が祈と仲良くしてくれていることに、歪な関係な二人をありのまま受け入れている国木田に、透は心から感謝している。
だが、それとこれとは話が別なのだ。今の祈は、古賀 透だけの古賀 祈なのだから。
「国木田くんへの賄いは二人で作ろうね。少しだけ、豪華にしてあげよう。彼には本当にお世話になっているから」
「ふふっそうね。あっ、旦那さまはお弁当のおかずなにが良い?」
「そうだなぁ……甘い卵焼きかなぁ」
「卵焼き…………上手く巻けるかしら……あたし、頑張るからね! 旦那さま!」
祈が妻子の記憶を持っていない、形だけを真似た化け物なのは、透は痛いほど知っている。
ならこうして、また一から互いに知っていけば良いのだ。
今までも、そしてこれからも。ずっとそうしていくのだから。




