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癒ししかできない無能聖女として追放されましたが、私がいなくなった国はもう保ちません  作者: 蒼井 玲


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第95話 侵食体

 黒が、落ちてくる。


 ゆっくりと。


 だが確実に。


 空からではない。


 “外側”から。


「……でかいな」


 レオンの声が低くなる。


 目の前のそれは、


 今までの個体とは比べ物にならない。


 形が定まらない。


 だが。


 存在が濃い。


 ただそこにいるだけで、


 空間が歪む。


 リリアの融合領域が、


 軋む。


「……っ」


 わずかに、揺れる。


 イリスが言う。


「……干渉強度、限界」


 短い。


 だが明確。


 これ以上は、


 持たない。


 エルナが歯を食いしばる。


「冗談でしょ……」


 だが現実だ。


 黒い“本体”が、


 丘へ降りる。


 その瞬間。


 世界が、音を失う。


 風が止まる。


 光が沈む。


 すべてが、


 押し潰される。


「――ッ!」


 レオンが膝をつく。


 重い。


 だが今までとは違う。


 これは圧ではない。


 “侵食”。


 存在そのものが、


 塗り替えられる感覚。


「……まずい」


 リリアの声が低い。


 その瞬間。


 黒が、


 広がる。


 地面へ。


 空間へ。


 そして。


 人へ。


「やめろ!!」


 レオンが叫ぶ。


 だが。


 止まらない。


 触れていない。


 だが。


 “近づくだけで”、


 侵食が始まる。


 セレナの腕が、


 わずかに黒く染まる。


「……っ!」


 彼女が息を呑む。


 光が消えかける。


 エルナが引き寄せる。


「離れなさい!」


 だが遅い。


 黒が、


 じわじわと広がる。


 レオンが歯を食いしばる。


「……くそ」


 どうする。


 触れられない。


 近づけない。


 その時。


 イリスが言う。


「……遮断不能」


 短い結論。


 だが。


 続ける。


「だが」


 ほんの一瞬。


 間を置く。


「侵食は“方向”を持つ」


 レオンが顔を上げる。


「……方向?」


 リリアが即座に理解する。


「……流れですか」


 イリスが頷く。


「均一ではない」


 侵食は、


 無差別ではない。


 “進む”。


 なら。


「……逆流させます」


 リリアが言う。


 レオンが笑う。


「やっとわかりやすくなったな」


 その瞬間。


 三人が動く。


 融合。


 だが今度は、


 広げない。


 一点に絞る。


 黒の本体へ。


 流れを読む。


 侵食の方向。


 そして。


 逆に流す。


 光を。


「――ッ!」


 ぶつかる。


 黒と白が、


 正面から衝突する。


 空間が裂ける。


 音が歪む。


 だが。


 今度は逃げない。


 レオンが叫ぶ。


「押し返せ!!」


 光を叩き込む。


 イリスが支える。


 収束を強める。


 リリアが調整する。


 均衡を保つ。


 三つが、


 一つになる。


 黒の流れが、


 止まる。


「……効いてる!」


 エルナが叫ぶ。


 確かに。


 侵食が止まる。


 セレナの腕の黒が、


 わずかに後退する。


 レオンが踏み込む。


「もっとだ!」


 さらに押す。


 その瞬間。


 黒の本体が、


 “反応”する。


 形が変わる。


 流れが、


 複雑になる。


「……っ」


 イリスの顔が歪む。


「……分岐」


 侵食が、


 分かれる。


 一方向ではない。


 複数方向。


 逆流が、


 追いつかない。


 レオンが歯を食いしばる。


「またかよ……!」


 リリアが言う。


「……違います」


 その声は、


 わずかに鋭かった。


「これは」


 理解している。


「“学習”ではありません」


 黒を見つめる。


「本来の形です」


 その瞬間。


 レオンの背筋が凍る。


「……最初から、これかよ」


 つまり。


 今までの個体は、


 “制限されていた”。


 今は違う。


 本来の力。


 完全な侵食。


 その時。


 黒の奥で、


 “中心”が見える。


 今までとは違う。


 外界の中心。


 侵食の核。


 それが、


 こちらを見ている。


 リリアが言う。


「……あれです」


 レオンが笑う。


「わかりやすくて助かる」


 拳を握る。


「壊せばいいんだろ」


 イリスが言う。


「……不可能ではない」


 短い肯定。


 だが。


「確率、低」


 現実。


 レオンが肩を回す。


「上等だ」


 その瞬間。


 黒の本体が、


 大きく動いた。


 侵食が、


 一気に加速する。


 丘全体が、


 黒に飲まれ始める。


 リリアの声が、


 わずかに震える。


「……間に合いません」


 レオンの顔が歪む。


「……マジかよ」


 その時。


 遠くから、


 “光”が走る。


 一つではない。


 複数。


 無数。


 分散した適性者たち。


 遠くの誰か。


 知らない誰か。


 その全てが、


 ここへ向かっている。


 イリスが呟く。


「……接続、再開」


 リリアの目が見開かれる。


「……繋がりました」


 レオンが笑う。


「間に合ったな」


 だが。


 その瞬間。


 黒の中心が、


 さらに濃くなる。


 そして。


 初めて。


 “意思”を持って動いた。

ついに「侵食体の本体」との戦いに入りました。


ここからは単なる戦術ではなく、

“世界規模の総力戦”になります。


そしてついに、

分散した仲間たちが戻ってきました。


ここまで読んでいただきありがとうございます!

面白いと感じていただけたら、ぜひブックマーク・評価で応援いただけると嬉しいです。


次回、「全接続」。

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