第94話 外界存在
空の黒が、さらに広がった。
さっきの“裂け目”とは違う。
これは、
世界そのものが侵食されている。
「……数が、増えてる」
レオンの声が低い。
目を凝らす。
黒の奥。
ゆらめく影が、
一つではない。
二つ。
三つ。
……もっと。
数えきれない。
リリアが静かに言う。
「……個体ではありません」
その声は、重かった。
「群れです」
その瞬間。
黒の中から、
“それら”が落ちてくる。
音もなく。
だが一斉に。
丘の上に、
複数の黒い存在が“配置される”。
今度は包囲ではない。
“侵入”。
空間のどこにでも、
現れる。
「くそっ……!」
レオンが反応する。
だが追えない。
動きではない。
“存在位置が変わる”。
イリスが即座に言う。
「……非連続移動」
アルゴリズムに乗らない。
予測不能。
今までの戦いとは、
完全に別次元。
その時。
一体が、
マナのすぐ背後に現れる。
「――ッ!」
レオンが叫ぶ。
だが間に合わない。
黒い手が、
マナに触れる。
その瞬間。
光が、消えた。
「……え?」
マナの声が、震える。
胸の奥の震え。
それが、
完全に消失している。
「光が……ない……」
崩れ落ちる。
レオンの血の気が引く。
「……奪った?」
イリスが低く言う。
「……消去」
短い結論。
リリアが動く。
即座に。
マナへ触れる。
光を流す。
だが。
「……戻らない」
声がわずかに揺れる。
今までのどんな状況よりも、
重い。
レオンが歯を食いしばる。
「ふざけんな……!」
踏み込む。
黒い存在へ。
拳を振るう。
だが。
当たらない。
すり抜ける。
いや。
“存在していない場所にいる”。
「……クソが!」
その時。
別の個体が、
ルークの前に現れる。
同じように手を伸ばす。
「やめろ!!」
レオンが叫ぶ。
だが。
止まらない。
その瞬間。
リリアが言う。
「……重ねます」
短い指示。
レオンが即座に理解する。
「やるぞ!」
イリスも同時に動く。
三人の光が、
再び重なる。
一点。
集中ではない。
融合。
その瞬間。
空間が、歪む。
黒い存在が、
“引っかかる”。
「……効いた!」
レオンが叫ぶ。
初めて。
明確に。
干渉できた。
イリスが低く言う。
「……同位相干渉」
理解する。
この存在は、
“別位相”。
だから触れられない。
だが。
三人の重なりで、
位相が合う。
その瞬間だけ、
触れる。
レオンが踏み込む。
拳を叩き込む。
「――ッ!」
今度は当たる。
黒が揺れる。
崩れる。
一体が、
霧のように消える。
エルナが叫ぶ。
「いける!」
だが。
その瞬間。
残りの黒が、
一斉に動く。
今度は。
“同時”。
複数の個体が、
一斉に接触しようとする。
「……っ!」
レオンが歯を食いしばる。
一つは止められる。
だが。
二つ。
三つ。
無理だ。
その時。
リリアが言う。
「……拡張します」
その声は、
覚悟が乗っていた。
レオンが振り向く。
「何を」
リリアは答える。
「融合範囲を広げます」
イリスが即座に否定する。
「危険」
「負荷過多」
だが。
リリアは止まらない。
「必要です」
短い言葉。
その瞬間。
光が、
爆発的に広がる。
三人の融合が、
丘全体を覆う。
白い領域。
その中で。
黒い存在が、
“固定される”。
「……動けない」
エルナが呟く。
黒が、
止まっている。
位相が合わされ、
逃げられない。
レオンが叫ぶ。
「今だ!」
全員が動く。
残っている適性者たちも、
わずかに繋がる。
光が重なる。
黒を削る。
一体。
二体。
三体。
次々と消えていく。
だが。
リリアの体が、
揺れる。
「……っ」
レオンが気づく。
「おい」
リリアの目が、
ほんのわずかに霞む。
「……まだ」
言葉が途切れる。
負荷。
限界に近い。
イリスが言う。
「……維持不能」
その瞬間。
黒の奥で、
さらに大きな影が動いた。
全員が凍る。
今までの個体とは違う。
大きい。
濃い。
そして。
“意思”が明確。
リリアの声が、
かすれる。
「……来ます」
レオンの顔が歪む。
「……まだ上がいるのかよ」
黒が、
ゆっくりと形を成す。
人ではない。
獣でもない。
ただ。
“侵食そのもの”。
それが、
丘へ降りようとしていた。
ここで「外界存在の本体」が登場しました。
これまでの個体はあくまで“先触れ”です。
ここからが本当の戦いになります。
ここまで読んでいただきありがとうございます!
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次回、「侵食体」。




