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作戦

合流したジェラルドはアレリア達を端から順に見定め口を開いた。


「俺はとりあえず賊が侵入するのを止めようと思うんだが、協力してくれそうな奴はいたりする?」


彼の熱い視線はジルに向いている。多分この中で一番の戦闘実力派ではあるので、その慧眼は間違ってはいない。肝心のジルは嫌そうにアレリアの後ろに隠れようとする。隠れきれるわけはないが。


「ちょ、ちょっと!本人が嫌がってるならダメだからね」


教国で帝国の騎士が助力しているなんて噂が流れたら大変だ。何より本人がそこまで乗り気ではないのに参戦させるのは反対だった。ジェラルドは一度アレリアを見て笑った後、もう一度ジルを見て言った。


「あいつらを止めるってのはこの子を守る事にも繋がるんだぜ?」

「やる」


ジルーーー!?


せっかくのアレリアの牽制は無駄に終わった。

その後にラエルとジークとルイを見て、子供は家に隠れてなと言われたルイは怒り出したが、アレリアもそう思うので黙っていた。


「あんたはいらないかな、死にたがりはいらないんでね?嬉々として死なれちゃ後味悪いし」


そう言ってジークを除外した。どういう意味だろうと思ったが、ジークが何も言わないでスルーした。


「おお!いい身体してんな、お前は欲しいかな」

「言葉に気を付けろ」


鳥肌を立てて少し距離をとったラエルに、ジェラルドはさらに近づいて気安く肩を叩いた。


「ぶっちゃけこの国で聖騎士以外に頼りになるのって屈強な町人くらいしかいないんだよ。ほら、神官とかひょろひょろだろ?戦闘経験があって率れる奴ほしいわけ」


ひょろいと言われ指を差された神官がむっとしながらジェラルドに話しかける。


「あ…なたもまさかひとりで来られたわけじゃないでしょう?他に兵はいないんですか?」

「いやだって、あいつらうるさいじゃん。やれ服装に気を付けろとか、鳥を射るな食うなとか…、結構旅の序盤で撒いたんだよなあ」


呑気に話すジェラルドに神官が笑顔で頬をつねった。


「怒りますよ?」

「ひてててっ」


とうとう痴話喧嘩を始めた二人を余所に、アレリアはラエルに話しかけた。


「ラエルも危ない事はやめておいた方がいいよ」

「あー…いや、そもそも戦闘経験あっても指揮官の経験もないしな。集団をまとめるのは無理だ」


うーん、そういう意味ではジルも同じな気が…


ジルは確かに騎士団長だが、全体的な参謀は副団長だったはずだ。単独行動が多くそれでも絶対的な力で作戦を成功させるので、もう勝手にやらせてる節も見えなくもない。


「ああ、そういう意味ではないよ。指揮は聖騎士に任せればいいが、俺の考えを知って動いてくれる奴が東西に欲しいのさ」

「東西?」


ジェラルドは屈んで、地面に何やら街の地図らしきものを書き始めた。


「ここには通常外部の人間用通行口のでかい北門、俺達が通ってきたところな。それに商人専用の東門、そして関係者用裏口のような西門、北だけじゃなく同時に守らないといけない。あわよくば撃退して裏から回って北門に攻めている奴らの背後を攻撃してほしい。その為に東西に少し多めの兵を分ける」


つまり挟撃しろという事だろうが、それだと北門の防衛がもつのだろうか?


「突破できなかったら?」


ラエルが即座に作戦に口を出す。確かに相手の戦力がよくわからない以上それも十分ありえる。


「しろ、と言いたいが出来なくても良い。ただし…」


ジェラルドは太陽を見上げて、少し考えながら先を続けた。時間を見ているのだろうか。


「一刻は抜かれるな。あっミケ!あれ寄越せ」


ジェラルドの視線の先にいたのは大神官で、なんとその彼を呼び捨てにしている。

唖然として見ていると、神官がやれやれという表情で一度神殿の中に入り、しばらくして出てきた。その手には二本の長剣が握られていた。そしてご武運をいう言葉を添えて、ラエルとジルに手渡す。


「聖剣です。貴方は必要ありませんよね」


神官はジェラルドを見ながらそう言うと、本人は頷きながら自身の剣を見せた。腰に二本のやや短い剣を差している。


ジルの長剣は雷鳴の剣、ラエルの長剣は退魔の剣と説明を受けた。


「聖剣は人外の力が宿っていると言われています。雷鳴は使い手の感情に合わせて天候を操る自然の強大な力を、退魔はあらゆる魔の心を打ち払い、使い手の大事なものを守る力を授けてくれるでしょう」


アレリアは聖剣を見ながら、帝国にもそんなものがあったなと思い出した。神殿が管理しているが、聖物を使いこなせたものを見たことがない。


まあ、誰でも使える物じゃないしね


「え、俺参戦するっていったっけ?」


往生際の悪いラエルの言葉に、ジェラルドが腹をくくれと言うが、お前が言うなと思う。


「この無茶ぶり二号が…」


ラエルの恨み言にアレリアは、もしかして一号は私じゃないよねと心の中で突っ込む。

聖騎士と血の気の多い若者を集めて、それぞれの場所に配置する。この国ではまず大神官の言葉に逆らう者はいないらしく、皆が何の反論もなく了承する。


アレリアは西門に向かう準備をするジルに話しかける。


「ジル…」

「リアが戦いに参戦しなくて良かった。いたらきっと集中できないから」

「私は剣術もそんな得意じゃないからね」


弱い者を庇いながらだとジルの足手まといになってしまう、そんな気持ちで落ち込みながら言ったのだが、ジルはきょとんと首を傾げながら言った。


「そうじゃなく、戦場で大事な物を思い出さないようにしてるんだ。どうしても心が緩むと油断に繋がるから。それに命を懸ける場では殺す者から決して目を逸らしてはいけないんだ、それが命を奪う者の義務だと教えられた」


ジルの生きてきた戦場はいつだって命の奪い合いだ。けれど騎士たちは決して憎しみあって戦っているわけではない。国同士の考えの違いで自分たちの仰ぐ正義のために剣を取っている。


「ジルは命の重さを知ってるんだね…」

「そうじゃないと、俺はただの殺人鬼になってしまう」


一応顔を隠して西門に行くジルの後姿を見送った。結局帝国から出ても、自分のせいで戦場に赴かせてしまったのが悲しかった。

ラエルも渋々と言った感じで東に行くために馬を支給されている所だった。気性の荒そうな馬と喧嘩しそうになって町人に笑われていた。すぐに誰とでも打ち解けるのはラエルの長所だと思う。


「僕らは門が見える所まで行こうか」


ジークの言葉にアレリアは頷いてついて行く。ジークが話さないので何となくこちらも話しかけにくい。無言の時間が続いて気まずく思っていると、ジークが口を開いた。


「先ほどは、どうして簡単に命を投げ出そうとしたの?」

「え?」

「アセノーではそうではなかったでしょ?もしかして神託に関係ある?」


びくりとして視線を泳がせた。決して意識的に行動したわけじゃないが、もしかしたらどこかでどうせ死ぬのならと、そんな気持ちがあったかもしれない。

死にたくないと言いつつも、矛盾するような相反する気持ちはやはり神託を聞いたからだろうか。


「僕もね、自分の生死について教えてもらったんだ」


とても穏やかに、どこか嬉しそうに語るジークが少し怖かった。

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