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35.決着は 15カウントの 攻防に

 この話はいったんここまでです。

 ひとまずお付き合いありがとうございました。

 ドッペルゲンガーは空中に浮き、両手を前に出して精神の集中を始めていた。

 彼の目前に巨大な赤黒く光る紋様環が彼の目の前に現れ、そこに白く輝く炎が瞬きながら出現し、成長を開始しようとしている。


 ま、まずい。明らかに、どう見ても、最後っ屁のど派手な攻撃魔法だ。発動を一刻も早く止めないと、広場ごと一掃されかねない!

 残り時間は、15数えるほどの時間かな。20は無さそうだ。


 私は眉間にしわを寄せて解決方法を全力で思案し始めた。


 まず、使う魔法。この短時間で発動できて、ドッペルゲンガーを一撃で打ち倒せなければならない。

 "雷撃"や"雷撃嵐"、"暴風雪"は建物に被害が行かないのはいいけど、パワー不足でアウト。"魔導砲"はチャージに時間が掛かるのでダメ。

 つまり、"業火の息吹"しかないんだけど……問題は、ドッペルゲンガーが教会の建物を背景にしている事。このまま撃ってしまうと、貫通して建物が崩壊し、恐らく逃げ込んでいるであろう市民達の頭上に瓦礫が雪崩れ落ちてしまうだろう。

 建物は結構大きいから、少々の左右の移動じゃダメだ。うん、せっかく相手が浮いているんだから、足下に潜り込むしかない!


 ここまで瞬時に考えた私は、接近方法の思案に入った。仮に脚が万全だったとしても、ドッペルゲンガーの足下に走り込んで、それから詠唱を始めたんじゃ、間に合わない。つまり、移動しながら、威力が下がる省略型ではなく、正規の魔法を詠唱しなきゃならない。しかも、この挫いた足で!


 と、なれば……


「――浮遊(レビテーション)!」


 私は詠唱省略型、つまり口には出さず頭の中でぱぱっと唱えたつもりになるスタイル、の"浮遊"を唱えて僅かに浮き上がった。そしてむち打ちにならないように左手で頭を抱えながら、背後のマリアにお願いする。


「マリア、今すぐ、私をあいつの足下にまで投げ飛ばして!」

「え? あ、はい!」


 彼女は一瞬当惑した声を上げたが、私の姿勢を見て直ぐに理解の声を上げる。


「それじゃ、いっき、まっす、よぉっ!」


 彼女は準備運動に右肩を軽く二三回まわすと、サイドスローのような形で私の背中に手の平をあてがい、軽く走り込みながら一気に私をドッペルゲンガーの足下に向かって投げ出した。

 摩擦の無い空中に浮いている私は、そのまま走るよりも遙かに速い速度でかっ飛んで行く。


 あと、10カウント!


 私は、"浮遊"の効果が切れないように精神を集中しながら、次なる魔法の詠唱を開始した。


「"マナよ、地獄の業火となりて"……」


 詠唱中の間にも私は移動を続け、ドッペルゲンガーの足下近くに辿り着いていた。ドッペルゲンガーの作り出している火球は、彼の身長ほどの大きさにまで成長を続け、今にも発射されそう。ただ逆に、彼の視界を遮っているから、接近している私には気がついてないようだ。


 あと、5カウント!


 私はドッペルゲンガーの目前で、"浮遊"をカットし、そのまま腰を下ろしてスライディングの姿勢を取った。挫いた足は地面に触れないように、少し足首を上げておく。


「"我が前に立ちふさがりし"……」


 滑らかな石畳とはいえ、何しろ硬い石の上をお尻で滑っているのでかなり痛い! それでも私は集中が途切れないように顔をしかめながら、詠唱を続けていた。


「"全ての愚か者に裁きを下さん"!」


 私は、ドッペルゲンガーの背後にあった、メイドさんが収監されている鉄製の檻の土台に両足をついて、滑り込んだ勢いを生かして立ち上がる。足首の衝撃は、声が出そうなほど痛い。でも、そこは必死で我慢する!

 振り向いた私は、頭上のドッペルゲンガーを仰ぎ見る。


 よし、これで、ドッペルゲンガーと彼の火球が一直線上に並んだ状態になった!


 ドッペルゲンガーは、いきなり背後に現れた私に、驚愕を隠せないようだった。


「なっ!?」


 そして、発射直前の火球を私の方に向けようとしたが、それを待つほど私はお人好しじゃない。


「非力な人間を、舐めるんじゃないわよ――業火の息吹(インフェルノブレス)!」


 私は魔法を完成させ、目の前に出現している魔法陣から、ドッペルゲンガーに向かって白く輝く灼熱の業火を吹き出させたのだった。


「ぐうああああああああああああああっ!!」


 灼熱の奔流はドッペルゲンガーを飲み込み、彼が呼び出した火球も巻き込んで空高く延びていく。


 そして、業火の放射が止まった十数秒後、ドッペルゲンガー()()()()()は、私の目の前にぼとりと落ちてきたのだった。

 火球を巻き込むために下半身を中心に狙ったから、胸から上が焼け残っているようだった。もちろん、完全に息絶えている。

 そして執事のものであったその顔は、みるみるうちに姿形を変え、全然知らない顔の青年に変わっていった。恐らく、これがドッペルゲンガーが憑依した、もともとの人間の顔なんだろう。ドッペルゲンガーの能力は、相手の知識や経験、外見を喰らって化けてしまうものだからね。

 周りを見ると、未だ戦闘中であったデーモン達も、召喚者が失われたからか、その動きを止め、次々と崩れ去っていった。


 うん、これでなんとか戦闘は終わったようだ。あとは、シャイラさんとクリスだけど……


 吹き飛ばされていた彼女たちの方を見ると、それぞれマリアと別のパーティの神官さんがついてくれていて、私に向かって問題無い事を示す仕草を返してくれた。

 軽く息をついた私は、膝の力が抜け、ぺたんと地面に座り込んでしまった。気が抜けたからか、あちこちの痛みが一気に押し寄せてきている。

 ともあれ私は、冒険者達に向かって笑みを浮かべながら、戦いの終了を告げたのだった。


「作戦成功、みんな、お疲れさま!」

「「おおおおおおおおおおおおっ!!」」


 冒険者達の勝ち(どき)を聞いた私は、ニコリと笑ってサムズアップで応えておく。座り込んだままだから、余り格好は付いてなかったけどね。



              ◇   ◇   ◇



 それから10日後。


 私たち一行は新市街の中心部にある城館の車寄せで、馬車がやってくるのを待っていた。

 この事件の後処理を終えた私たちは、ようやく本来の目的地であるダンジョン都市クエンカに向かう事ができるようになったんだけど、そこまで領主所有の馬車で送ってくれる事になったのだ。

 見送りに来てくれたのは、前領主代行の伯爵夫人、領主の少年と逮捕されていたメイド、そして、王都から派遣された現領主代行だ。


 ふと見ると、伯爵夫人はシャイラさんの両手を掴み、飛び跳ねんばかりの勢いで話しかけている。


「シャイラさま! ワレンティアを訪れた際には、ぜひご連絡くださいね! わたくしの全力を以て歓迎いたしますわ!」


 と、目をキラキラさせている伯爵夫人。


 なんでこうなっちゃったかと言うと、王都に報告書を送ってから新しい領主代行が着任するまでの間、まずは当時の領主代行であった伯爵夫人が、戦後処理を行おうとしたんだよね。それが、予想通りといえば予想通りだったんだけど、執事がいない状態では、まあ、それがグダグダな事になっちゃって。

 それを見かねたシャイラさんが伯爵夫人を一喝して、領主代行代行的な役割をバリバリこなしてしまった、というわけ。

 で、その結果、シャイラさんは伯爵夫人に懐かれてしまった、と。


 まあ、しっかりした領主代行も来た事だし、領主の少年もこのまま成長すれば立派な領主になりそうだし、彼が成人するまで無事に繋ぐことができれば、ワレンティアは安泰だろうね。


「短い間ですが、本当に見事な差配でした。私としては、今すぐにでも執事として働いて頂きたいくらいなんですよ」

「お誘いはありがたいのですが、私は冒険者が性に合っていますので」


 なんて考えている間にも、シャイラさんは新領主代行と握手をしている。


 ちなみに、栗色の髪を持つ、私達より少し年上の()()は、私たちと面識がある人物だった。以前、冒険者の宿にやってきていた騎士隊長、クレアさんが、実は領主の少年の叔母に相当する、子爵閣下だったのだ。


 その時は白く輝く板金鎧を身につけていたけど、今は勿論、領主代行なので、仕立ての良い平服で、スカートではなくスラックスを穿いている。

 クレアさんは、シャイラさんと握手した後、私やマリア、クリスにも握手を求めてきた。


「アニー殿も、今回はご助力ありがとうございました。あなたのお力が無ければ、この街は魔族が跋扈する土地になっていたかも知れません」

「私自身のやらかしが元ですから、おかまいなく。それに、十分な礼金も貰いましたから!」


 と、懐をぽんと叩いて返答する。


 そう、今回の騒動を収めた報酬として、私達のパーティは礼金として一人あたり金貨50枚を貰っていたのだ。

 私達はCランク冒険者だけど、倒したのがAランクのモンスターである事と、街の危機を救ったと言うことでAランク相当の報酬になったみたい。一年くらいは遊んで暮らせる額なんだけど、まあ、私達の冒険はお金が目当てじゃないし、使い道としては当面、宿のランクを少し上げるくらいかなぁ。

 そういえば他の冒険者の人達も、十分な報酬を貰ったようで、ほくほく顔をしていたみたい。


 クレアさんとの握手を終えた後、ふと領主の少年に目を向けると、にっこり笑って近づいてきた。


「アニーさん、聞きましたよ? 市場で大立ち回りがあったそうですね」


 今度は領主の少年が話しかけてきた。彼の後ろには逮捕されていたメイドが、無言で付き従っている。


「あははははははは……」

「下っ手くそなスリやったからなぁ。うちの目を盗むには百年早かったで」


 彼の指摘に、私は苦笑で応えるしかない。


 シャイラさんは後始末に駆り出されていたけど、私を含めた他の3人は、落ち着くまで時間を潰す必要があったんだよね。

 まず、マリアは、普段冒険しているとなかなかできない、神殿での修行や奉仕活動に専念していたみたい。


 で、残る私とクリスは、仕方ないから観光に精を出すしかなかった。まあ、懐も暖まってたし、食べ歩いたり名所を見たりとプラプラ歩き回ってたりしてたんだけど。

 ところが、市場でうっかり私が財布をスられちゃって。私は気がついてなかったんだけど、逃げる犯人のオッサンの足にクリスが鞭を絡めてひっくり返してくれた、というわけ。


 ちなみにそのスリは逆ギレして暴れたんだけど、混雑した市場で魔法を使うわけにも行かず、久しぶりに私が自らの拳で叩きのめしちゃった。伊達に正義の味方やってた訳じゃないのだよ。


「領主殿も、たまにお忍びもいいと思いますけどね、懐には気をつけて下さいね」

「それ以前に、スリが出ること自体が問題ですので。叔母様と共に、次にご来訪いただけるまでには、より良い街にしたいと思います!」


 と、元気な宣言を聞きつつ、私は笑みを浮かべながら領主の少年と握手を交わしたのだった。



              ◇   ◇   ◇



 なんてやっている間に、私達を送ってくれる馬車が到着したようだ。メイドさんが客室の扉を開け、私達は馬車に乗り込んでいく。

 扉を閉めたこと確認した御者の人が軽く鞭を振るうと、馬車はカラコロと音を立てて進み始めた。


「それじゃね!」

「またお会いしましょう」

「色々楽しかったで!」

「神のご加護がありますように!」


 そして私達は、次第に遠ざかる見送りの人達に向けて、馬車の窓から口々に声をかけたのだった。

 初夏のよく晴れた青空の下、馬車は軽やかに街の外に向かっていく。


 さあ、今度こそダンジョン都市、クエンカだ!

 今後どの作品を中心に続けていくかに関してですが、有り難い事にこの作品がもっとも多い評価ポイントを頂いております。

 ただ、ブックマーク数に関しては前作の「フライブルクの魔法少女」を下回っており、ご期待に応えた作品が提供できているとは考えづらい状況です。

 今回のキャンペーンそのものの総括は、「へっぽこ小説書き斯く戦えり」で報告させていただくつもりです。


 続きを書くつもりはありますが、まずは、力量を上げるため、当面は本作とは別の、短い話をなるべく短いスパンで掲載したいと考えています。

 お気に入りユーザに登録していただければ、それをお知らせできるので、ぜひ登録いただけると嬉しいです。


 何か動きがある時には、こちらも更新させていただきますので、できればブックマークを登録したままにしていただけると助かります。

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