1人脱落
俺たちはSランクダンジョンの探索を開始した。
そもそもダンジョンとは何か。
自然発生するものと人工的なものとがあるが、
端的に言えば密度の濃い魔力の集積体らしい。
遺跡とか廃墟とか昔の神殿とか洞穴とか墓場とかそういった系のやつに長年の魔力がこびりつくとか巨大モンスターが棲家に選ぶとかモンスターの群れが棲みつくとか魔族が拠点を作るとかそういったことが起きるとダンジョンと化すみたいな感じなんだが、俺は専門家じゃないからよく知らん。
掃除を怠った家がダンジョンになってるとかそういうこともないだろうし。わからん。
んでSランクダンジョンと言ってもいろいろある。
全部が全部Sランクモンスターが出るとは限らない。
浅層のモンスターがFで深層につれて強くなるってのも珍しくないし、その逆もあるし、いろんな強さのモンスターが入り乱れてるのもあるし、同種族のモンスターが全種類出るとかもある。
モンスターは大したことなくて、罠とか構造の厄介さでSランクになるっていうのもある。
つまり何もわからん。
わからないが、ダンジョンから発せられる魔力の密度の濃さを鑑みて、Sランクであると判定されるらしい。
ではこのダンジョンはどうなのかというと、
まず原型は洞窟、自然窟っぽい。周りの壁はゴツゴツした岩で整備もされていない。
構造も複雑だ。分岐路がいくつもあるし、道が無限ループしているところもある。
騎士団長の探知魔法『珍々地図』によれば、この先にもループ箇所がかなりあるらしい。
B2を歩いていたのにいつのまにかB1を歩いていたということもあり得るとか。
そんなの某推理漫画でしか見たことないんだが。
事前の計画通り、一度通った道にはヴェンのうんちを少量垂らして目印にしておくことになった。
無論そのままだと臭いでモンスターが集まってしまうので、騎士団長の脱臭魔法『修羅消臭』を重ねがけておく。
で、肝心のモンスターだが、これが結構強い。
初っ端からSランクモンスターが出てくる。
騎士団長の聖魔法『奇怪回避』のモンスター回避効果をすり抜けて俺たちを襲ってくる。
騎士団長お前役に立たねえな!
だが無論、Sランクモンスターごときに俺たちが遅れをとることはない。なぜなら俺たちは強いから。
今日のためにレベルも上げてきた。準備は万端。
このダンジョンを攻略するだけなら簡単だ。
だが問題はクラムの存在。
あいつの固有スキル『消去』は強力無比。
俺はなんとかなったけど俺以外の勇者候補を存在ごと消し去ってしまったおそるべきスキルだ。
以前(数話前)にも俺たちの目の前でモンスターの軍勢を消してみせた。
少なくとも、奴がこのダンジョンのSランクモンスターに苦戦することはないだろうし、ダンジョンボスも出会って1秒で消し去れることだろう。
で、あればクラムより先に俺たちがダンジョンの最奥部へたどり着き、ダンジョンボスを倒すしかない。
それさえできれば契約書の内容が実行され、俺たちは真の勇者になれるんだ。
幸か不幸か、このダンジョンは複雑だ。
騎士団長の探索魔法とヴェンの垂らすうんちの目印を持ってすれば、俺たちが先に奥へ到達できる。
俺たちはSランクモンスターに対処しつつ、少しずつ、されど迅速に歩みを進めていった。
いきなり騎士団長が立ち止まった。
「ここはさっき来たところだ」
「んなわけないだろバカ。うんちがないじゃないか」
「でも確かにここ、なんか見覚えがあるっス」
「ええ……俺は確かに定期的にうんちを垂らしてきたはずだけどなあ?」
「だろ?俺もヴェンがうんちを垂らすところは見てた。それがないってことは、やっぱり似てるだけの別の地形だ」
つまりただの騎士団長の勘違い。
これでクラムに遅れをとったらどうしてくれる。
「いや、ここは一度通った場所で間違いない。クラムがうんちを『消去』したんだ」
あー。その可能性はあるのか。
おのれクラムめ……。
「あっ、なるほど。俺のうんちはクラムに消されたんだ」
「じゃあとりあえずまた垂らしとくのがいいっスね」
ディードに言われるがまま、ヴェンはうんちを出そうとするが一向に出る気配がない。
「ふざけてるのかヴェン?」
「あれ?なんでだろ。出ないや。1週間かけて溜めてきたうんちが……」
「ちょっと待ってくれ……探知魔法『探知淡々』‼︎」
騎士団長はヴェンに向かって探知魔法を唱えた。
なんでこいつの唱える呪文どれもダセーの?
「やはり……。ヴェンのうんち力が0になっている!君が1週間かけて溜めたうんちはなくなってしまったんだ」
「え、ええ!?そんな!?」
「それもクラムがやったんだな?」
「うん……こんなことできるのはクラムの『消去』だけだ」
「え!?遠隔でうんちを消してたってことっスか!?そんなことできるなら俺たち勝ち目なんてないじゃないっスか!!」
やべえな。
俺たちは完全に遊ばれている。
奴がその気になれば俺たちは存在ごと消されかねない。あの日のように……。
「何にせよ、今のヴェンには戦う力がないってわけか。追放はしないが、今は足手まといだから帰っていてもらおう」
「ううっ……」
「残念だけど今回はレフの言う通りだ。僕が転移魔法で送る。『転移転々』‼︎」
騎士団長が転移魔法を唱え、
ヴェンは王都の宿屋まで戻された。
まさかここで1人脱落とは……。




