仲間に裏切られ殺された勇者は転生して元魔王と辺境の地でスローライフを目指します
目を開くとワシはベッドの上にいた。
ということは転生魔術はうまくいったのじゃな。
「なんとか、助かったみたいね」
ベッドの横にいたのは、頭にツノが生え紫の肌を持つ、長身の魔族の女であった。
「おお、ジェラートか。久しぶりじゃのう。お主に助けられるのもこれで三度目か……」
「全く、また仲間に裏切られたのね。いいかげん次は本当に見捨てるわよ。ローシュ」
「はは、お主がそれを言うか。それに今のワシの名はローガンじゃ」
ワシは魔術研究家ローガン、
否、真の名をローシュという。
そう、100年前に名を馳せた、
『開眼の勇者』ローシュその人である。
ワシの持つ勇者の固有スキル『新規能力覚醒』。
新たなスキルを作成し、自分や仲間に習得させることのできるスキルである。
作成数、習得数ともに上限はない。
最強クラスのスキルじゃが、スキルの効果、仕組み、発動、全てを熟知していなければ使いこなせない大変難儀なスキルであり、ワシもまだ完全には使いこなせていない。
100年前に王国から勇者認定を受けたワシは
仲間たちと共に勇者パーティ『明日への開眼』を結成。
強力なスキルを仲間たちに与えて魔王討伐の旅を始めた。
……まではよかったが、
戦いは裏切りの連続。
毎週のように誰かが裏切ってパーティを抜けていった。
「手柄を奪うため」
「魔王軍のスパイだった」
「殺しの依頼を受けた」
「ヒロインを奪うため」
「うらやましかった」
「金がほしかった」
「とっておいたプリンを食われた」
などといったくだらぬ理由で、
総勢30人以上が裏切ってパーティを抜けてしまった。
挙句の果てに当時の国王にすら裏切られる始末。
ワシが仲間を信じて与えた強力なスキルも悪用されるばかり。
ワシはたいへん心を痛めた。
それでもなんとか単身魔王城にまでたどりつき、
激しい死闘のすえなんとか魔王を倒した。
魔王城から出た直後にワシは元仲間に暗殺された。
動機は手柄を奪うため。
魔王討伐の功績までも奪われてしまったのだ。
しかしワシは死んではいなかった。
ジェラートが……
魔王ジェラートが助けてくれたのである。
ワシは魔王ジェラートに情けをかけ、あえてとどめを刺さないでいたのだ。
側近に裏切られていたジェラートが、ワシの境遇と重なったからかもしれない。
何度も人を信じては裏切られてきたワシじゃが、
ジェラートに助けられたとき、初めて人を信じてよかったと感じた。
ジェラートに助けられたワシは、
ワシは自分が死んだことになっていること、
魔王討伐の手柄を奪われたことを知った。
しかし既にワシには勇者という肩書きへの未練はなかった。
その後ワシはローガンを名乗り各地を放浪。
スキル『新規能力覚醒』を応用し、新魔術の開発に没頭した。
しかしそこでも魔術論文の盗用に遭う始末。
紆余曲折あって、ワシの魔術研究家としての名も上がり、魔術研究会にも認められた。
そして一ヶ月ほど前、今代勇者レフにパーティ加入のスカウトを受けた。
そこから先は読者様のご存知の通り、
毎週仲間を切り捨てる卑劣な勇者レフに裏切られ、
『自爆特攻魔法』を使わされてワシは死亡した。
恨み言を言うつもりはない。
かつてワシが仲間に幾度となく裏切られたことを考えると、レフのやり方は間違いとは言いがたい。
自爆して死んだワシは、
生前に開発していた『自動転生魔術』の発動に成功。
新たな人間として蘇ったワシを、ジェラートが転移術でここまで運んできたのである。
なぜジェラートがワシの死を察知したかは謎じゃ。
ずっと見張ってたんじゃろうか?いや、まさかのう。
「転生したんだからもうローガンじゃないでしょ。カガミを見てみなさい」
ジェラートは手鏡を貸してくれた。
覗き込むと、若い頃の自分にどこか似ているが、それを何倍もかっこよくしたような顔が映っていた。
「おお、これはなかなか、自分で言うのも難じゃが、男前じゃのう」
おっと、もっと若者っぽくしゃべらなくてはな。
ええっと、
「俺は、マジで、イケメン、だなあ」
「それじゃただのナルシストね」
新しい名前はどうしようか。
もう主人公でもないし、老眼でもないし、
そうだ、自分の孫くらいの年齢だから、
「ロ◯ソンはどうかな」
「相変わらずね。その現実世界の固有名詞を出す悪癖」
「じゃあロー◯製薬」
「……ローゼスにしときなさい」
ジェラートがあきれた顔で言った。
「ローゼス。良い名前だな」
「気に入った?」
「よし、俺は今日からローゼスだ!」
俺は高らかに叫んだ。
「近所迷惑よ。それで、このあとどうするつもり?」
このあとどうするか。
まだ考えてはいなかったが、
正直、戦いはもう嫌になった。
「悩むなんて、らしくないわね」
「お前と同じだよ。裏切られ続けて……。人を信じるのをやめたりはしないけどさ。さすがにもう疲れた。魔王との戦いは若い人にまかせておきたい」
「今の貴方は若いのよ」
「身体は、な。でも心は確実に老いた」
ジェラートは少し考えてから、言った。
「前に私が言ったこと覚えてる?この村で暮らしてみるの」
そういえば最初に助けられたときにも言われた。
「私とこの村で暮らさない?」って。
あのときは断ってしまったが、今ならその気持ちがわかる。
「ああ、俺からも頼みたい。ジェラート、この村で一緒に暮らさせてくれ」
「よかった」
ジェラートの顔が明るくなった。
「あと、この村では私のことはジェラって呼んでね」
この村は魔族のはみだしものたちが住む村である。
どこの国にも属さない辺境の地。
魔族だけでなく人間やエルフ、ドワーフなども少数住んでいる。全員なにか事情を抱えてこの村にやってきた、世捨て人だ。
そんな村だからこそ、戦いに嫌気がさした俺が住むにはぴったりだと思う。
こうして俺の最強スローライフが幕を開けた。
続きません




