第十三章 -A hard day's night- 僕だけが出来る事、僕にしか出来ない事
「まさか……、これは……、……複合術式の封印結界……? こんな……、古代禁呪まで持ち出して! あなた達は一体何を考えているんですかっ!?」
術の正体に気付いたのか、ティアレが激しい怒りを顕にして叫ぶ。
「ティアレ殿……、この術を……知っているのでござるか……?」
「はい……、やっと全部分かりました……。どうやってノーベンレーンの子供達を攫ったのか。セツカさんも一緒にいる場所から、姫様だけを連れ去る事が出来たのか。それにどうしてイッチーさんのギターの痕跡が途切れていたのか……。……、全部、複合術式……、『昇華魔法』ですね……? そんな事をしても……、魂の復活なんて、絶対に叶いません!」
これまで見た事が無い、恨みや憎しみが篭った目で、ティアレがリーダー格の男を睨みつける。
「オヤオヤぁ~、随分と詳しいのがァ混ざってたみたいでェスネ。せっかく良い値で売れるかァと思ったんでェスガ、厄介な事になる前にィ、殺した方が良さそうでェスネ……。……我々の偉大なる教義を否定するとはァ……、万死に値しますゥ」
さっきまでのねちっこい口調はそのままに、しかしふざけた様子は急に鳴りを潜め、冷酷な死刑宣告の様に男が呟く。
しかしティアレは全く怯む様子もなく続ける。
「別々の術式を無理矢理繋ぎ合わせて、魔術を魔法の領域まで強制昇華させる複合術式……。
多分、ノーベンレーンでも三毛猫亭でも手順は一緒だったと思います……。
地下道に配置した数百人規模の集団で、範囲内の人達を丸ごと睡眠か昏倒の術で眠らせた上で、
そのまま対象だけを転移系の術で地下道に移動させた。
だから私も、エリオさんも、セツカさんでも、気付くどころか起きる事も出来なくて……。
イッチーさんのギターの痕跡が飛んでいたのも、部屋から運んだ訳じゃないからです」
苦しそうな声で淡々と真実を告げるティアレ。
怒りなのか、嘲笑なのか、その表情は見えないが、そんなティアレを黙って見つめるリーダー格の男。
「それじゃあ、この術は? 僕だけは平気なんだけど……」
「それはァ、アナタが何の力もォ、持ってないからでェスヨ」
僕の問い掛けに答えたのは、ティアレではなかった。
「この封印結界はァ、対象の能力にィ比例して効果を発揮しマス……。力の強い者ナラ力を奪われェ、術の得意な者は術を奪われェ。もしアナタにィ、何の効果も無いのだとしたらァ、それはァ……、……アナタが無力でェ、無能だからでェスヨ!!! ヒひゃひゃひゃヒャ」
(……なるほど……。この中で一番何も出来ない僕だけが、今この状況の中で、唯一まともに動ける人間とは、随分と酷い皮肉の効いた術だ……)
「……、……イッチーさんだけでも、逃げて下さい……」
ティアレなら絶対にそう言うだろうな、という完璧に予想通りの言葉だった。
エリオの援軍に合流するという手もなくはないが、それにしたって無視出来ない問題がある。
「いやぁ、さすがにそれは無いでしょ。第一僕1人で逃げたところで、出口も分からないし、下水道にも戻れないよ、ハハッ」
「そんな……」
さすがにここから1人で逃げ出す程人間のクズではないが、仮に逃げられたとしても、僕は一生この3人に顔向け出来ないだろう。
「……拙者が、せめて刺し違えてでも……あの祭壇の男だけは――」
「駄目ですっ! 複合術式は、一人二人減らしても、その分の効果が下がるだけです……。あの人を倒しても、……術は止まりません……」
「しかしこのままではっ!」
「ただやられるぐらいなら、少しでも道連れにした方が、まだ清々するのニャ……」
万策尽きたのか、徐々に捨て鉢になり始めた2人。
そんな2人を宥めながら、まだ諦めずに打開策を練るティアレ。
そんな中にあって、僕だけが、場違いな程落ち着き払った表情で、ホール全体を眺めていた。
決して投げやりな気持ちになってた訳でも、覚悟を決めた訳でもなかった。
なぜなのか理由は良く分からない。
その時の僕には、ただ『出来る』という奇妙な確信だけがあった……。
背中のケースを降ろし、いつも通り相棒を肩から掛ける。
「イ、イッチーさん……何を……?」
「ヒひゃひゃヒャひゃア! そうでしたかァ。アナタがその楽器の持ち主でしたかァ~。こレハ傑作でスネぇ! 自分達の為に鎮魂歌でも奏でますかァあ!? いいでショウ、それぐらいの時間は待ってあげまショウ。イひゃひゃひひいひ」
(何がレクイエムだ……。そもそも僕のレパートリーに、レクイエムなんてないぞ……)
「まァ、それ程素晴らしい楽器デス。イルミドナ様への供物としてェハ、申し分ないでショウ。アナタ程度の下賤が持ってイルのはァ、相応しくないデスかぁらねェ」
「イッチーさん以上に相応しい人なんていません! イッチーさんの演奏を聴いた事もないくせにっ! あなたなんかに、イッチーさんの何が分かるんですか!?」
好き放題言っている祭壇の男に対して、ティアレがこれまで以上の怒りを剥き出しにして叫ぶ。
「チッ……、鬱陶しィエルフですネェ……。アナタはやっぱり一番初めにィ、殺す事にしまショウ……。ちなみにアナタは、楽士となれば話はァ別デス。今後我らが教団の為にィ、我らが偉大なる教義を奏でると言うのなラァ! 命だけは見逃してェ、あげまショウ。ヒひゃひゃヒャハ」
(冗談じゃない……。こんな気色悪い教団の為に、胸糞悪い連中の為に歌うぐらいなら、今この場でギターを叩き折った方がまだマシだろう……)
「……イッチーさん……」
「……イッチー殿……」
「イッチー……」
ここで首を縦に振って、僕だけでも生き延びろ。
恐らく3人共、そんな事を考えているんだろう……。
そっと目を閉じる。
――思い出していたのは、あの夜のティアレの言葉……。
『はい。それで最後の発動なんですけど、術を現象として起こすのは、私達術者じゃなくてあくまでも精霊なんです』
『この精霊への呼びかけ、お願いって言ってもいいかもしれないですね。『力を貸して下さい』っていう。この為には言霊が必要なんです。つまりはそれが詠唱ですね』
『要するに言霊、言葉に出さないと精霊に伝わらない?』
『はい、大正解です』
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・風龍セフィラートの加護により、新たなスキルの習得を確認
・風龍セフィラートの加護により、スキルの進化を確認
・スキル【集音位置設定】が【集音範囲設定】に進化
集音範囲位置、確認 集音範囲設定、完了
・スキル【ヴォリュームコントロール】が進化
【ヴォリュームミニマイズ】、【ヴォリュームマキシマイズ】が可能
【ヴォリュームミニマイズ】の発動を確認
・特殊複合スキル【強制範囲ミュート】の発動を確認
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――……。
一瞬にしてホール全体が、恐ろしい程の静寂に包まれる。
「な、何がどうなって……」
「……結界が……解けている、でござるか……?」
「……体が動くニャ……」
仮面のせいで顔が見えないのは残念だが、今頃全員仮面の下では驚愕の表情を浮かべ、餌を貰う魚の様に口をパクパクとさせている事だろう。
「イ、イッチーさん、一体何を……?」
ティアレだけは、何となく僕の仕業である事を見抜いた様だった。
そんなティアレに向けて、満面の笑みで僕は答える。
「うん。声を奪った」
『……』
3人が放心した様に言葉を失う。
「こ、声を奪ったって……」
「……ここの連中全員の詠唱を、止めたという事でござるか……?」
「全然分からないけど凄いニャ~!」
約一名全く興味のなさそうな子がいるが、とりあえず今は置いておこう。
「とにかく、体さえ自由になればこちらのものでござる! 姫様!」
「はいニャ~! キッチリと、お返しをさせてもらないといけないのニャ!」
「ティアレ殿は、イッチー殿をお願いするでござる!」
「は、はいっ! 任せて下さい!」
さっきまでの鬱憤もあるのか、僕を置き去りに、やる気満々の3人が戦闘態勢を整える。
しかしそんな3人に向かって、僕はさっきまでの笑顔を微塵も崩さずに続ける。
「3人共、ここは大丈夫だと思うけど、念の為しっかりと耳を塞いでくれる?」
『……?』
『コイツは一体何を言ってるんだ』、という表情を隠しもせずに3人が固まる。
「……イッチー殿、こんな時に一体何を言ってるでござるか?」
「今はそれどころじゃないのニャ……、イッチー」
「……」
付き合いの長いティアレだけが、具体的には分からなくても、何かを察したのかじっと考え込む。
「……、セツカさん、姫様! イッチーさんの言う通りにして下さい。出来る限りしっかりと耳を塞いで伏せて下さい!」
そう言って真っ先に、ちょっとだけ尖った耳をガバッと両手で覆うと、その場にしゃがみ込んだ。
全く意味が分からないままの2人も、さすがにそのティアレの様子にただならぬ気配を感じたのか、戸惑いながらもそれに倣う。
セツカもお姫様も、それぞれ頭の上にある兎耳と猫耳をピョコっと倒し、その上から両手で覆う仕草はたまらなく可愛らしく思えた。
そんな様子を微笑ましく見つめていると、ティアレのジト目を感じてすぐに我に返る。
(また余計な誤解を招くのは勘弁して欲しい……)
祭壇の上では、一応腐ってもリーダー格なのか、例の男が必死に身振り手振りで、周りに指示を飛ばしている姿が見えた。
恐らく術ではなくて、腕っ節の強い奴でも送り込もうとしてるのだろう。
再びそっと目を閉じた。
この世界に来てからずっと感じてた事だが、この世界の住人は基本的に大きな音に耐性が無い。
日々イヤホンやヘッドホンで耳を塞ぎ、大音量に慣らされている僕らとは、根本からして違うのは仕方の無い事だろう。
(ましてや僕は、物心付いた頃からずっと爆音の中で育ってきた様なものだ……)
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・スキル【集音位置設定】同時発動 確認
1.ギターピックアップ 設定完了
・スキル【サウンドリフレクション】を習得
リフレクション位置設定、2重、3重、4重 リフレクションボックス構築完了
・スキル【アンプリファイア】が進化 同時展開数リミット解除
【アンプリファイア】位置確認 1,2,3……5……10……20……30……50 設定完了
・スキル【サウンドエフェクト】を習得
エフェクト【ディストーション】レベルMAX 設定完了
・スキル【ヴォリュームコントロール】、【ヴォリュームマキシマイズ】の発動を確認
・スキル【モニタリング】モニタリング位置確認 スキル使用者へのフィードバックをカット 設定完了
・特殊複合スキル【ヴォリュームマキシマイズ、強制ハウリング】の発動を確認
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目を開けると同時に、ギターにピックを叩きつける――
「ギィィイイイイイイイイイイイイイイイイイイイィィィィィィィイイイイイイイイイイイイィイィィイイイィィィィィィィィイイイイイイイイイィイイン!!!!!!!!!!!!!! キィィイィイイイイィィィィィィィィィィイイイイイイイィィイィィィィィィィィィィッィィィィイイィィィィィィィィィィィィィ!!!!!!!!!」
凄まじい轟音が地響きとなってホール全体を、建物全体を容赦なく暴れ回る。
200人以上の気色悪い集団が、耳を塞いだ程度では気休めにもならない音の激流に呑まれて、床をのたうち回る。
いくら反射板で覆ったとはいえ、その反射板の内部である中二階と祭壇が、荒れ狂う爆音とハウリング音で蹂躙され、1分と持たずにガラガラと崩れ始めた。
後に残ったのは、水を打ったような静けさと、キーという微かな耳鳴りだけだった……。
実はこのお話も5章と同じく、この作品を書き始める前から考えていたネタでした。
書いてるのが楽しくて、13章も当初の予定よりかなり長くなってます。
皆さんにも楽しんでもらえていれば嬉しいのですが……。
13章も残りあと僅か。
第二部もそろそろ終わりが近付いて来ています。
イッチーとティアレの冒険はまだまだ続きますので、お付き合い頂ければ嬉しく思います。
海凪美波流





