story10 交渉にもならない愚かな交渉
前回の投稿の際に言おうとしたのですが、明けましておめでとうございます。
これからも出来る限り、たくさんの皆様に拙作をご覧いただけるように精進していきます。
「……早くしろ、B組。私のクラスのメンバーはもう選出済みだぞ」
ニヤニヤしながら嫌味を言うように、準備ができたことを言って来たのは、A組の担任だった。
それに不快な表情を浮かべながら返答するのは、B組の担任であるフランク。
「すまない。我らがB組が一度も負けないように策を考えていたのだよ」
反撃をするように、フランクはそう言い放った。
そのようすをB組の生徒たちは、フランクの策を聞いてほっとしているのか、静観している。
もっとも、作戦と言ってもその名の通りでなく、雑なものであるのだが。
「ふん! せいぜい足掻くがいい、普通科の諸君」
フランクの返答がよほど気に入らなかったのか、眼鏡は普通科の部分を強調して、そう言い返してきた。
それに対して、そこまで力量差があるわけでもないだろう、とセンは呆れながら聞いていた。
言うだけ言って満足したのか、A組の眼鏡の担任はその場から立ち去って行った。
それに対して、B組の生徒の反応は――
「何だよ、あの眼鏡」
「性格悪すぎー」
「目にもの見せてやろうぜ!」
――最悪である。
センとしては、自分がこの勝負に出ていくことも、面倒だし何よりB組のためにならないと思いながらも、渋々と承諾しているわけである。
参加すらしない男子生徒が、人任せにするような発言に少しのいら立ちを感じながらも、センが反応することはなかった。
「じゃあ、さっき言った通りだ。メンバーはさっき話した通りに――」
一番手、セン。
しかし、本人は不承不承。フランクはここで勝負を大方決めるつもりのようである。
勝負に勝ちたい気持ちは分からなくもないが、センに頼り切り、勝手に個人情報も晒したことから、センの評価はダダ下がりである。
二番手、バジル。
今回の勝負は、剣術や魔術の制限はなく、実践を模したものらしい。
よって、バトルシステムによって威力が弱くなる魔術師は外し、剣術が優秀な男子生徒をいれるというフランクの戦略だ。
三番手、セレスト・バルドー。
威力が軽減されるからと言って、魔術の有用性が損なわれるわけではない。という線の助言による人選である。
つまり、B組の中では魔術が秀でており、座学も得意らしい。
B組の委員長とも聞いたので、女子で話しにくそうだが、話を聞いてみるのもありかもしれないとセンは考えた。
四番手、エルザ・ダヴィット
委員長の親友らしい。教室でもよくつるんでいるのをセンは確認していた。
ちなみにここら辺になると、一年生である故、能力の格差もないも同然なので、クラスで出たい人物を集めて人選したらしい。
五番手、エリック。
これも、希望者から募って決めた人物である。
一言付け足すなら、センが教室に入ってきたときに、顔がいいと発言していたクラスのお調子者。
「この五人で、A組に目にものを見せてやれ!」
「「はいっ!」」
確認を行った後、フランクがそう言って激励の言葉を言うと、セン以外の四人は皆元気よく返事をした。
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審判は、中立である剣術担任の中年教師に行ってもらえるようになったようである。
一度、両クラスが正面から対面する機会があった。
まぁ、ほんとうに一瞬みたいなものだったが。
そのとき、あきらかにA組はB組を舐めているような態度をとっていたので、少し不快に思ったセンは、フランクの言うことも分からんでもないと、少し納得した。
一方、A組サイドの観客席では――
「へへ、また俺らとやろうってのか。どうせ負けるくせによ」
「当たり前だ。俺たちは誇り高きソレイド国の貴族だからな」
「下民や、下級貴族になど負けるはずがないだろう。今回もあの人たちが圧勝するさ」
こんな感じで随分と舐めた表情で、真逆のB組の生徒がいる観客席の方を見つめながら、話をしている。
よっぽどの自信があるのだろうと、センは盗み聞きをしながら勘違いを助長させていた。
なぜ学園長と本気で戦ってない状態で勝ったのに、このように思うかは謎である。
「ま、いつものように楽しみながら見ておこうぜ。そうだ、またB組と賭け事をしないか?」
「これ以上あいつらから取るもんなんてないだろう」
そう、実は事あるごとにA組はB組にかけ事の話を持ち掛けて、勝利しているのだ。
例えば、食堂の食事をA組に譲る、など最初は些細なものであったが、それは最近になって規模も大きくなっており、学園側も困っているのだ。
「いや、それがあるんだよな。ほら、あいつの持ってるあのナイフ見ろよ」
「あのナイフ?」
そう言って、センの方をA組の生徒は見る。
すると、すぐにその眼は欲望に染まった目になり、生徒に問いかけた。
「あれは? 見たことのない顔だぞ」
「今日編入してきたらしい。父上が軍の元帥と親しげに話していたと言っていた」
「は? 元帥!? そんな奴に手を出したら……」
「いや、逆だ。元帥が一人に肩入れしているのも不公平だし、何よりこれを手柄にすれば、父上にも認められる」
上級貴族で、権利を乱用してきたおぼっちゃまが、不公平などというのも変な話である。
ちなみにこの生徒は、美人の平民を無理やり連れ去って事をなすことで、ある意味有名な生徒だった。
「オラス君の父上に……。しかも学生同士のかけ事だし、関係ないよな」
ここで引きとまっていればいいものの、生徒は変な欲に駆られて、最終的には賭け事の交渉に踏み切った。
ちなみに、このときセンの持っていたナイフは、装飾用のお守りみたいなものであり、正直戦闘には全く使えない。
もっとも、センにとってはレイネから貰ったものであり大事なものであることは変わりない。
「そうと決まれば交渉だ」
「ああ、B組の観客席に行くぞ」
試合が始まるまでまだ時間があると見た、二人の生徒はB組の観客席へ意気揚々と向かったのだった。
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「おい」
B組の観客席にかけられたその声は自然と、その場にいる全員が認識した。
特に声が大きくもなく、特徴があるわけでもないのだが、ただ単に悪意がはっきりわかるからかもしれない。
「何でしょう?」
そこで応じたのは、B組のリーダー的存在である男子生徒。
その生徒も試合に出ることを望んだが、運悪く選抜されなかったため、今回は観客席にいるのだ。
普段は軽い口調の彼だが、今は話し相手が高位の貴族であることを認識してか、敬語で話している。
「何、今回も賭け事だ。勿論受けてくれるよなぁ?」
最初に話しかけた貴族の生徒ではない方の生徒が、威圧するように話しかけた。
それを見て、少しうろたえたが、悟られないように落ち着いて対応することに成功する。
「私の一存では決められません。何せクラス全体の問題ですから」
「と言ってもな、お前らの先生や委員長は試合に参加するみたいだしよ」
顎をしゃくって貴族の生徒は、試合場の方を指した。
それを見て対応する生徒は落ち着いて考える。
「それに毎回のように俺たちの賭けに乗ってきているだろう? それともなんだ、勝負を受けたくせに怖気図いているのか?」
もちろん、皆が皆対応する生徒のような考え方をできるわけもなく、挑発に乗る生徒は一人は必ずいた。
「いいじゃねぇかジーク。あいつらに目にものを見せてやれ」
こんな感じである。
ちなみに、貴族の生徒に対応しているジークも下級貴族なのだが、それを平民の生徒がこのように呼び捨てできると言うのは、それくらいB組の生徒に信頼されているのだ。
「むぅ、そうは言ってもな。A組……あなたたちの要求は何なんですか?」
たいしてA組の中では目立っていない(悪い意味では目立っているが)生徒たちが、こちらに交渉をしに来たことで、ジークはそう言いなおした。
「あいつが持っているあのナイフが欲しいんだよ」
試合場にいるセンを見据えながら、貴族の生徒はそう言った。
しかし、これならばB組の生徒に迷惑をかけることもないかもしれないと、ジークは思案し始めた。
「なら私に交渉を仕掛けてくるのはお門違いです。セン君と交渉してくるのが筋なのではないでしょうか」
「……」
「運がいいことに、あなたの家の従属貴族の方が一番手を務めるようではないですか。ならば話は早い。セン君も一番手ですよ」
「……ならいいんだな。本人に確認をとっても」
「いいも何も、本人に確認をとらなければならないでしょう。それとも何か、わざわざB組で仲介すると思いましたか?」
一応表向きでは、学園では地位などのしがらみは関係なしという校則がある。
自分より成績の良いジークを相手に、その校則を表立って破るような真似をしたくなかったのか、貴族の生徒たちは舌打ちをしながら、試合場へ向かって話しかけようとした。
ちなみに数分前から、この交渉の内容はセンに駄々洩れしていた。
普通ならばジークの評価を上げる状況なのだが、あまりセンの中の心情は良くなかった。
B組を守るため、敵の目的がセンのナイフだったとはいえ、それを全てセンに押し付けられたのはたまったものではないのだ。
「おいっ! そこにいる黒髪!」
そんなことをセンが考えていると、案の定先ほどジークと交渉――否論破を食らっていた貴族の生徒が、試合場に向かって叫んでくる。
あと一人の貴族生徒も、センの方をにらんでくる。
「聞こえねぇのか! そこの黒髪!」
周りの生徒も何事かと騒ぎ始めたので、面倒だとセンは思いながらも、だるそうに反応した。
しかしこれからこのような絡みをまた受けないとも関わらない。
むしろ、これから何もしなかったら絡まれることも多くなるだろうと目星をつけて、センは一瞬思考した後、言葉を発した。
「すまない。まさか編入初日に絡まれるとは思っていなかった。まぁ、【音声拡張】も使えないような低俗な人間には絡まれるのかもしれないとは思っていたが」
それをセンが言うと、貴族生徒の二人は憤慨して、更に大声を出した。
ちなみに【音声拡張】というのは風魔術の一種で、初歩中の初歩の魔術である。
「う、うるさい! 人には得意な属性と不得意な属性があるのを知らないのか!?」
知らないこともないが、自分にほとんど適性属性がないのにほとんどの属性の魔術を使えることから、不思議に思う。
「で、要件は何だ?」
わざわざ質問に答える必要すらないと判断したセンは、話を進めることにした。
「お前がA組の一番手に負けたら、お前のナイフを貰う!」
「……は?」
「聞いているのか!? さっさと返事をしろ!」
「……それは俺にメリットがないな」
発せられた要求が、あまりにも部不相応で、なおかつ愚かすぎて、センは何を言っているのか最初理解できなかった。
ちなみにセンは、たまに賭けをレイネともやっていたのだが、一回も勝てたことはない。
「お前が平民である限り、貴族の我らに要求できることは何もない! 平民は俺の言うことを聞いていればいいんだ!」
この言葉に、さすがのセンも来るものがあったのか、どうやって相手を仕留めようか考え始めた。
ちなみに、貴族生徒の言葉にB組の生徒たちは皆、冷ややかな視線を送っていた。
「しょうがない。だが――」
「だがなんだ? 少しくらいなら話を聞いてやっても構わんぞ?」
「顔を晒すなとは言わん。二度と俺に、俺に関する一切のものに関わってくるな。俺が勝ったらな」
「……いいだろう。もしもお前が勝てたらの事だがな」
貴族の生徒は、これで父への手柄を手土産にできると考え、心を躍らせ始めた。
だが、十数分後に彼は気づく。
自分が手を出してはいけない相手に、手を出してしまってことに。
2018.1.17 試合の挨拶が二回あったので、そこを修正しました。




