あなたは前世を信じますか?
「殿下、前世って信じますか?」
呼び出したカトリーヌの第一声に、サミュエルの思考はぴたりと止まった。
一瞬、何を言われたのか理解できなかった。
そのくらい、カトリーヌの言葉は唐突だった。
サミュエルは一度目を閉じ、思考を落ち着ける。そして、カトリーヌが何を言いたいのか、その言葉の裏の裏まで思考を巡らせてみた。
そしてその結果。
「カトリーヌ」
「なんでしょう、殿下?」
「今日はパフ嬢について問いたいと思い、呼び出した」
思いっきりスルーした。
「殿下」
「なんだね、カトリーヌ」
「お兄様にも相談したのですが、お医者様と祈祷師様を呼ばれてしまいましたの、酷いと思いません?」
しかし、カトリーヌは自分が出した話題を流す気がないようだった。
「カトリーヌ嬢」
「なんでしょうか、殿下?」
「場所を変えようか」
「畏まりました」
椅子から立ち上がったサミュエルにカトリーヌは素直に頷いた。
サミュエルが呼び出した場所は執務室、婚約同士といってもドアは開けられている。
二人の会話の内容を聞こうと思えば聞ける距離でもある。
前世、などという非現実的な話を真剣に語ろうとすつカトリーヌの外聞にも響く事だろうという考えがひとつ。そしてもう一つは、
(一度、外の空気を吸って、気持ちを切り替える必要がある)
ちょっとした、心の準備である。
時折、カトリーヌは明後日の方向に思いつめる事がある。原因は様々だが、かなりどうでもいい事である事が大半だ。
浮世離れと言えば聞こえは良いが、相談を受ける側は現実から離れすぎたその発想に追いつくのが大変なのである。
この場に彼女の兄であるアンリがいれば、上手く舵取りをして、こちらにも理解の及ぶ範囲の着地点へと導いてくれるものだが、今回ばかりは彼ですら、医者や祈祷師にぶん投げるような案件であるらしい。
サミュエルはカトリーヌに手を差し伸べ、そのまま流れるような所作で学園内のテラスへ向けてエスコートするのだった。