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館についた。首からぶら下げている鍵を手に持ち、錆びた鍵穴に差し込む。力いっぱいまわして、重いドアを押す。
館の中は、まるでだれもいないかのように静まり返っていた。
ため息をつき、美夜は大広間に向かった。
家具も小物もない大広間のすみに、アリサはいた。膝をかかえて、小さくなっている。
いつものことだ。美夜はそう思った。
りんを探して、でもいなくて、また泣いてる。
100年以上も前から毎日それを繰り返しているんだ。
そう思うと、美夜はどうしようもなく切なくなる。
「……美夜?」
顔をあげ、アリサは美夜をみた。
「あぁ……やっぱり美夜だ……。今日も来てくれたんだ」
その言葉は、おそらく美夜の母親や祖母が、途中でアリサの世話を放棄したことがあるからだろう。
母や祖母は一ヶ月ほどで世話を放棄して二度とアリサの館には近づかなかったという。
美夜はそれを聞き、母と縁を切った。
あの広い館にアリサをひとりぼっちにしても平気でいられる母が、とてつもなく冷酷な人間にみえたのだ。
だから今日も美夜はここにいた。
「私は死ぬまで、ここにくるわよ」
「そっか……」
立ち上がり、アリサは美夜の横を通り過ぎた。
りんを探しに行くんだ。
苛立ちから、美夜は、
「りんは死んだよ」
冷たく言い放った。
アリサは言葉を理解していない赤子のように、首をかしげる。
「りんは死んだ。もう二度と、あなたには会えない」
しばらく首をかしげたまま、りんは
「知ってるよ」
そういった。
「……私ね、りんが死んだことも、どうして死んだのかも覚えてるよ」
今度は美夜がおどろく番だった。
「初めのころは……本気でりんを探した。寂しくて、そうでもしなきゃやってられなかった。ある日、りんの妹が、私のところに来てくれた。そしたら、寂しくなかった。でも、すぐに来なくなる。私はまたりんを探す。繰り返すうちに、りんを探すのが日課になってた。いないのはわかってるんだよ」
美夜をみつめて、アリサは笑う。
「アリサは、私とりん、どっちが好き?」
その質問は、美夜にとって賭けであり、告白でもあった。
「りんがもし目の前に現れたら、りんが好き。でもそんなことありえない。だから私は……」
答えを聞き終わる前に、美夜はアリサを抱きしめた。
「ねぇ、アリサ。私はね……りんの生まれ変わりなんだよ?」
事実だった。
初めてアリサをみたとき、りんだったときのことを、すべてを思い出したのだ。そして、アリサの心が自分から離れていっていることも知った。
そして、今の自分――美夜に好意を抱いていることに気づいた。
それにアリサが苦しんでいることも……
自分がアリサを殺せなかったことがアリサを苦しめていることを知り、美夜はアリサを殺すことにした。
しかし、そのためにはアリサが今本当に好きなのはどっちなのかを知る必要があった。
「りん……りん?」
「そうだよ……りんだよ。見た目は違うけど、りんなんだよ……アリサ」
「そっかぁ……だから……だから美夜はりんと同じにおいがしたんだね。それで、私は、美夜が好きだったんだ」
本当は、生まれ変わったらもっと普通に、アリサと接したかった。
今は、これでよかったと思う。
「アリサ、もう苦しまなくていいよ」
「うん……」
美夜は腰から、かつて自分がりんだったときに命をたつために使った剣を抜いた。
しばらくして、町の歴史が記された書物に、こんなことが記された。
一人の少女が、アリサとともに姿を消した。
おそらく、勇敢な少女は、アリサとともにどこか異界へ消えていったのだろう。
と。
たしかに、アリサと美夜は館から姿を消した。
けれど、どこにいったのか、どうなったのかは、だれも知らない。
紫の町では、脅威が消えたことを喜ぶ町民の姿があった。
二人の思いや、物語を知るものは、だれもいなかった。




