そういうのじゃないから~ひろしの初めての恋~
9月1日、夏休みを終えたばかりの始業式の放課後は、どこか浮かれた空気が漂っている。黒板の前で教卓を囲んで、たくみ、クラスメイト2人と俺が話しているのは何故か初恋の話だ。話している順番から察するに、次が俺の番となる。
さて、何と答えるかなと思いを巡らす。幼き自分の過去を振り返ってみるとゆいこの笑っている顔ばかり浮かぶ。黄色のタンポポが咲く芝生の上で、俺が作ったシロツメクサの花冠を頭に乗せると「ありがとう!」と満面の笑みで答えたゆいこの顔は今でもよく覚えている。
「で、ひろしは?」
はっと現実に戻され、男子3人の視線を集めてることに気付く。
「いつも一緒に帰ってるあの幼馴染み?」
「いや、そういうのじゃないから」
すると、たくみが挑発するように言う
「へー、じゃあ誰?」
ゆいこの笑顔を思い浮かべながら、用意していた言葉を発する。
「小5の時の教育実習生。」
「ひろし、おっとなー。」
「やっぱマセてるな。」
2人はやんや、やんやと囃し立ていたが、たくみだけは涼やかな視線で俺を見ていた。
「そろそろ次へ移ろって。」
と、俺は訴え掛ける。
「ラストはたくみだな。たくみも幼馴染みじゃないの?」
「俺の初恋はゆいこだよ。」
たくみは俺をしっかりと見て宣言した。
そう言うと思っていた。中3男子の初恋話なんて、ただの雑談に過ぎない。とはいえ、俺とたくみがゆいこを初恋の人に挙げれば、茶化されることは目に見えていた。だからこそ、無難で、でも信憑性がある、絶妙なラインとして教育実習生をあげた。
それにしてもたくみの言葉を実際に耳にすると、ちょっと堪える。
「そろそろ帰れー!」
担任の一声で、初恋暴露大会は突如お開きとなった。そのまま、昇降口に行くとゆいこが待っていた。
「ひろし、たくみ、おっそーい。」
「悪い、ゆいこ。」
答えるたくみを見ながら、クラスメイトが俺の肘をつついてくる。まるで「2人にしてやれよっ」と言っているように。
ゆいこはきょとんとしながら、
「ひろし行くよ?」
と、俺に近寄り腕を掴んで引っ張っていく。そして、もう片方の手でたくみの腕も掴んで、ゆいこはいつもの定位置ついた。
「やれやれ、俺の気持ちも知らないで。」
と心のなかで呟くのだった。ゆいこに握られた腕はいつもより力強さを感じながら。




