↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

40/41

エピローグ

 そして、時は流れる。




 ……エルフの女王様たちは、困難な状況におちいっていました。


 魔軍は強力な竜を生み出し、エルフィラントを追い詰めてきたのです。


 そのとき、西方守護を任されていた聖騎士が言いました。


「わたしが敵の本拠地に乗り込み、門を破壊しましょう」


 そして、聖騎士は部下を率いて魔法の門を開き、見事に魔族の力の源を破壊したのです。


 そのさなか、聖騎士は少女を救出します。


 その少女は、魔軍に捕らえられていた聖なる巫女でした。


 部下を先に帰した聖騎士に同行した巫女は、浄化の力をつかい、エルフィラントのあちこちで魔素に汚染された地を浄化していきます。


 そして、聖騎士が帰りついたとき、魔族はおそろしいことにエルフの女王様を殺し、空飛ぶ都市、ヴェルイーンを乗っ取っていました。


 聖騎士は先に返した部下を集め、ヴェルイーンに攻撃をかけます。


 聖騎士はみずから、敵の王である悪竜に挑み、聖なる巫女の力を借りて討ち果たします。


 しかし、聖騎士は悪竜と相打ちになってしまいました。


 それから巫女は新たに王女となり、この地を治めることとなりました。


 世界を救った聖騎士、そしてあの戦争で犠牲になった勇士を讃えるため、この式典は毎年、二代目女王であるエイル様のご列席のもと、ヴェルイーン門にて、聖騎士の誕生日に開催されます。


 かつての戦いを、この式典で知ってください。


 帝暦9226年 世界大戦戦勝記念行事実行委員会




「はー! わざわざ来たかいがあるってものだね! ネットでは知ってたけど、聞くと見るとじゃ大違いってやつ!」


 つば広帽をかぶった黒髪の若い女性は感に堪えたようにつぶやくと、読み終えたパンフレットをくるくると折りたたんでバッグにしまい、人間はもちろん、オークやダークエルフ、ゴブリンなどさまざまな種族があちこちに見える路上を歩き出す。


 道路いっぱいに広がった、お祭りにつきもののさまざまな屋台を見定めつつ歩いていく。


 そのうちのひとつ、カリーヴルストの屋台の前でぴた、と女性は足を止めた。小銭を取り出すとトッピングをあれこれ選んでいく。


「はい、5ルマークね。おや嬢ちゃん、ひょっとしてミズホのオニかい?」


「えへへ、よくわかりますねえ」


 人の良さそうなオークの店主の言葉に、帽子から突き出た角と、紅い肌をさらしながらにこ、と「鬼」の女性、ホノカは人懐っこい笑みを浮かべた。


 出来上がったパンに挟まれ、香辛料とケチャップの混じった食欲をそそる香りをたてるヴルストをもち、女性はまた歩き出した。


 軍服を着た兵士が慌ただしく動き出す。

 古い軍用のものとおもわれる腕時計を確認すると、そろそろ女王陛下が来るころだ。


(そういやうちのばっちゃんが亡くなる前に、この式典をテレビで見て、やたら懐かしがってたなあ。衛兵の人を指差してアタシはこの服を着て戦ったんだよ、って言ってたし。さすがにそれは冗談だと思うけど)


 などと考えながらかれらを横目で見つつ、彼女は袋から湯気が立つヴルストを取り出す。

 あむ、と食いつくと厚い皮がぱりっ、と音を立てて、それからじんわりと香辛料混じりの肉汁が口内を満たしていく。


「んーおいひい♪ ま、おばあちゃんが戦争に行ったのは事実だし? あの時代に戦わなかったひとはいないんだしさ……、と、来た! 女王さまだ!」


 わぁっ、と群衆から歓声が上がる。


 エルフィラント古典様式である、白いローブを身につけたエルフの女性が馬車から降りてきて、降下猟兵の制服を身にまとった衛兵にエスコートされ、地面に敷かれたカーペットを歩いていく。


 それに引き続き、礼服に身を包んだエルフがふたり、馬車から降りてきた。


 ひとりは一見それとはわからないが義手をつけ、もう一人は古い型の将校用帽子をかぶり左目に無骨な眼帯をかけていた。


 女王は衛兵からふたつの花輪を受け取り、記念碑とモニュメントの方に歩いていく。


 そのモニュメントとはかつて竜、ファフニールを倒したティゲールそのものであった。


 また今年も来ました、お姉ちゃん。


 女王を襲名したエイルは、心の中でつぶやいた。

 ゆっくりと心があのころへと戻っていく。


 「偉大なる指導者」ファフニールを倒してから数日後、蜂起が起きようとした都市の真上をヴェルイーンで飛んだり。


 エルフの女王のみならず、評議会や親衛隊も全滅していたので、マコトさんの知恵を借りて立憲君主、と言われる政体に移行して、帝国から共和国に国名を変えて。


 旅の仲間たちも、各々の道を歩いて行って。


 パウルくんは軍が引き留めるのを振り切って、実家に帰って料理屋を継ぎました。

 たまにこっそりお忍びで食べに行ったけど、いつも暖かく迎えてくれたね。


 ブルグミュラーさんは大学に戻り、専門の考古学の道に戻って学生に教えながら、趣味のモータースポーツを楽しんでいました。


 シノさんはギムレントさんのところに弟子入りしてからしばらくして、ミズホノクニに帰られました。現地で工場を開き、それなりに成功したと聞いています。

 あのひとがミズホノクニに戻るとき、お姉ちゃんの腕時計を渡したんだっけ。

 ずっとずっとわたしたちのことを忘れないように、と願って。


 みんな地上を去ってしまったけど、あの旅であなたたちと過ごした記憶は、わたしの心にある。


 花輪をシグルドリファの横顔が彫られた記念碑と、モニュメントとなったティゲールに捧げる。

 あのとき、夕闇迫る工場の片隅で願ったように。


 あの戦いのあと、ティゲールの中を改めると、守り人形が裂けて中身を晒すように落ちていていた。

 中には、守護の護りが施されていたのがわかった。

 だから、ティゲールは誘爆も暴走もかろうじて抑え込まれたのだ。


 お人形さんもありがとう。お姉ちゃんと最後にお話しさせてくれて。


 花輪を捧げると、彼女の心はズィー(少女)からエイル(王女)へと戻っていった。

 笑顔を浮かべ、王女を一目見ようと集まっている民衆に向かって手を振る。


 その中に、あの鬼の女性、ホノカもいた。


 ばっちゃん、見てるかなあ。ばっちゃんの形見の時計を通して


 腕時計をはめている左腕を女王に振り返しながら、彼女はそんなことを思う。


 

『どうか、良き未来が訪れますように』



 ふと、そんな声が聞こえたような気がした。

 はて、どこからだろうとホノカは首をかしげる。



 そんなホノカをよそに、周りの人たちから自然と合唱が始まる。


 エルフィラント共和国国歌「生命の樹」だ。




 ああ! 生命の樹よ!


 我が心とともにある樹よ


 その麗しき姿は我が生命とともにある


 翠の葉は春を告げるために開き


 甘き香りとともに夏を告げる花をつける


 故郷とともにある大樹よ! 麗しの生命の樹よ!


 


 ああ! 生命の樹よ!


 その身に紅葉をまといしときは秋を告げ


 その輝きに満ちた真紅の実は冬を語る


 美しき幹には名が刻まれ


 我らの父祖を讃えるだろう


 その幹を通じて流れる讃歌は決して忘れられることなく


 私の心深くに刻み込まれていくだろう


 


 ああ! 生命の樹よ!




 歌はヴェルイーンの上空へ溶け消えていく。


 騎士が竜を討ったあの日と同じ、蒼く澄み切った空だった。




 Das Ende

 皆様、旅路にお付き合いいただき、誠にありがとうございました。

 これでシグルドリファの物語は一区切りがつきます。

 ここからは外伝というかたちで進めさせていただきます。

 戦後の話や書ききれなかった道中のエピソードを掲載していく予定です。

 書き溜めはないので更新頻度は落ちますが……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
本編完結お疲れ様でした…大きな犠牲を支払いましたが、平和な時代がやってきたんですね。やってきたのはシノさんのお孫さんでしたか…今頃天国でみんな再開してるんですかねえ。サラリと立憲君主制という、結構成立…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。