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外伝 ティゲール重戦車

今回は本編から離れ、主人公たちが駆る「ティゲール」について語ります。

この世界の「虎」はどのように開発されたか、技術面からどうぞ御覧ください。

 MK.512。

 のちに伝説となったⅤ号重戦車「ティゲール」の、試作時の名称である。


 帝歴9139年、首都奪還戦争を続けるエルフィラント帝国軍に激震が走った。

 帝国軍に強化兵と呼称される、魔素を大量に注入され身体能力が強化された魔軍の兵士に、凶悪な種が加わったのだ。


 「オルグ」と名付けられたその種は、いままで上位魔族が使うのみだった攻撃魔法を身体の一部に魔素を注ぐことで形成、発射できるように発展させた「魔力弾」を放ち、さらには防御魔法である魔術障壁(マナ・シールド)すら使いこなしていた。


 その攻防にバランスの取れた性能に当時、対強化兵用に運用されていた帝国軍主力戦車であるⅢ号戦車「ルフォス」F型(48mm砲搭載型)は、攻守ともに圧倒的に劣っていたのだ。


 帝国軍は対処として、かろうじてまさっていたルフォスの機動力を生かし魔術障壁(マナ・シールド)が薄い側面、後面に回り込む、もしくは野砲の一斉射撃、武装飛行船による空からの攻撃で食い止める、などをおこなっていた。


 しかし、どれもが付け焼刃にしかならないのを、帝国軍は痛感していた。


 のちに「オルグショック」と名付けられたこの魔種の登場により、次期主力戦車として設計されていた仮称MK.411、通称Ⅳ号戦車の計画は破棄され、より強力な戦車が求められた。


 しかし、設計陣はさっそく壁に突き当たった。

 魔動機(エンジン)の出力不足である。


 約200年前、あるエルフの技術者によって開発された魔動機(エンジン)は、大陸の各地から湧き出すこの世界の技術である「魔法」を使うための素である「マナ」を凝縮、精製して「エーテル」と呼ばれる液体へと変化させたものを燃料として稼働する。

 そして、魔動機(エンジン)により燃料として分解されたエーテルはマナへと還り、大地に再度吸収されるという完璧といっていいエコシステムを形成していた。


 が、その複雑な仕組みゆえか、出力が容積、重量の割に伸び悩んでいた。


 例えば、ルフォスに搭載していた魔動機(エンジン)は1.5tの重量で260馬力。


 この出力では20t程度の車両が精一杯である。


 余談であるが、エルフィラント帝国で飛行船が発達したのも、単独の飛行機械を作るには魔動機(エンジン)では出力重量比(パワーウエイトレシオ)が足りず、魔動機(エンジン)自体も大きすぎたからである。


 ゆえにエーテル貯蔵タンクも兼ねた、飛行術式を刻印した小屋ほどの大きさの魔法銀(ミスリル)を複数使い、船体を浮遊させる。

 そして浮遊した船体を複数の魔動機(エンジン)で操作する、という魔法と機械のハイブリッド方式が一般化していったのである。


 話を戻す。


 難航する設計をよそに、当初の楽観的な予想を裏切り、前線に出現するオルグはその数を増やしていった。

 帝国軍はつなぎとして、600mでオルグの正面魔術障壁(マナ・シールド)を貫通できる主砲を40口径72mm砲に換装し、前面装甲を50mmと厚くしたルフォスH型を前線に投入した。

 が、魔動機(エンジン)の出力がようやく300馬力に至っただけなのに、主砲、装甲強化による重量増は機動力、信頼性の悪化につながった。


 さらに悪いことに前線には「オルグ」をさらに強化した「トロル」も出現しだしていた。


 前線からの悲痛な報告、そしてエルフィラント帝国女王からの新型戦車開発の催促に苦悩していた設計局に、帝歴9141年の初頭に朗報が届く。


 汚染されたエーテルとしか扱われていなかった魔素を燃料とし、一挙に出力増加させる新型魔動機(エンジン)の開発に成功した、との報が入ったのだ。


 試作魔動機(エンジン)の出力は、従来のものと比べても3倍の900馬力を叩き出していた。


 この報を聞いた設計局は喜びに沸いた。

 魔素の危険性に対する懸念は一部にあったが、それは戦時であるという声にかき消されてしまった。


 そして、試案MK.512は一気に形となっていく。


 新開発の「ヴォルタン鋼板」を採用した、ルフォスH型の倍である100mm前面装甲。

 飛行戦艦に搭載、または対強化兵砲として運用され、数々のオルグを屠ってきた64口径88ミリ砲。

 振動を無効化させ、低速なら行進間射撃すら可能にした砲安定装置。

 ゴーレム制御技術を応用した、弾道計算や運転補助を目的とした統制・補助操縦装置。

 そして、魔素を利用した新型魔動機(エンジン)


 新技術をあるだけ盛り込んだ試作戦車は、昼夜を分かたぬ殺人的な突貫作業の末にいままでの遅れを取り返すかのように急ピッチで形になっていき、帝歴9141年の冬、ついに試作車が前線に到着した。


 結果は驚異的なものだった。


 主砲はいままでの3倍以上の距離、2000mよりオルグの正面魔術障壁(マナ・シールド)を貫通し、接近されても重戦車とは思えないほど俊敏な動きで強化兵を翻弄し、容易に撃破されない。

 また、有り余る魔動機(エンジン)出力は高強度の魔術障壁(マナ・シールド)を展開させ、降り注ぐ敵弾をことごとく跳ね返した。


 たちまち、うわさを聞きつけた前線部隊からMK.512の大量配備の要望が殺到する。


 報じられた戦果に満足したエルフの女王はしかし、次に差し出された車両価格を載せた書類に目を剝いた。

 そこには、ルフォスH型の8倍以上の価格が記載されていたのだ。


 あまりにも新機軸を詰め込み、戦力化を急いだゆえにコスト最適化という概念をどこかに置き忘れてきた設計の、妥当な末路と言える。


 いったんは調達中止を叫んだ女王であったが、これから魔軍がどれだけ強大化するかわからず、装備を簡略化し量産することによりいくらかのコストダウンは期待できる、と強硬に説得され、しぶしぶながらも女王は量産許可を出した。


 同時に、MK.512は正式名称として「ティゲール」の名を授かる。


 しかしながら装甲、特に100mmにも達する前面装甲には戦略物資である魔法銀(ミスリル)を大量に使用するため、しばしば供給が滞っていた。

 加えてここまでの厚さの浸魔力甲板の制作ノウハウも洗練されていなかったので、その生産量は最盛期でも月に100両弱、総生産量は1100両程度であった。


 そして、ティゲールのノウハウを使い、ルフォスの拡大発展型として開発された「ファンテラ」中戦車が採用されると、その生産は縮小していく。


 兵器としてはいろいろな意味で「高すぎた」ティゲールであったが、師団直属の重戦車隊として配備された虎の群れは、進撃・防御と数々の戦役において伝説を残していく。

 次回予告


 旅を続ける一行。

 しかし、目標であった補給所は廃墟と化していた。

 物資が心もとない中、シグルドリファは民間の村と取引することを決断する。


 次回、「魔に喰われし村①」

 日常という書き割りに、悪意が潜む。

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― 新着の感想 ―
このオルグショックはT-34相当ですかね…エーテルではなく魔素をダイレクトに使えるエンジンのお陰でこの重戦車は完成しましたが、なんかモチーフ元以上の価格高騰ですねこれは…寧ろよくぞ1100台も作り上げ…
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