第7話
前回のあらすじ
怪我の完治を告げられた光達の元に自分達を助けたロボット部隊が来訪し、その隊長がシュリウスだと知る。
驚く光達を他所にシュリウスは、国連の指示の元フォトンガードナーの基地を接収した。
「……………………」(ポケー……)
「た……高坂……?」
「た……高坂部員……?」
「…………」
シュリウス達によりフォトンガードナーの基地が押収された翌日、光と久遠は三日振りに学校へと来たのだが、光は光平に一週間の来訪禁止を受けて以来意識が明後日の方へと飛んでおり、見るからに何かしらあったのだと感付かされる。
そんな光の様子に戸惑いの表情を浮かべて花音と白部が呼びかけるも光は何の反応も返さず、久遠は一人頭を抱えて溜め息をついていた。
「た、滝音部員……!一体あれは何なのだ……!三日前はあんな様子では無かったぞ……!」
「何があったの!?教えて滝音さん!」
反応を返さない光に限界が来たのか、何かしら理由を知っているであろう久遠へと花音と白部の追及の矛先が向き、久遠は再び溜め息をつく。
「済まない、それは話せない……」
自分達が敗れ、その窮地を救ってくれた連中に基地を接収されたと聞かされれば、間違い無くこの二人は穏やかではいられない。そう判断した久遠は二人から目を逸らすと一言そう言い、小さく頭を下げた。
「そ、そうか……」
久遠が口を閉ざした様子から何か尋常ではない事だと気付いた白部は退くが、何が何だか理解出来ていない花音は追及を続ける。
「でも、高坂があんなになるなんて初めてなの!お願い!何があったのか少しだけでも……!」
「むぅ……」
手を合わせて頭を下げる花音に何とも言い難い表情を久遠は浮かべ、そんな久遠の様子を見て白部はすぐさま花音を引き剥がす。
「そこまでだ水代部員、これ以上は流石に駄目だ」
「何でですか!こういうの部長が真っ先に追及しそうなのに!」
「光平氏との取り決めがあるんだ!だからこれ以上は踏み込めない……!」
フォトンガードナーの事を知る権利と引き換えに、一部の機密については言及しないという光平と白部との間に交わされた取り決め。それが探究心の暴走を起こしかねない白部を縛る鎖となり、フォトンガードナー関係の情報を知る際のブレーキとなっていた。
白部ですらのその様子から迂闊に踏み込めないと実感したのか、花音もずこずこと引き下がるが、視線が再び光へと向けられ、二人の視線も釣られてゆく。
「……………………」(ポケー……)
視線の先では光が相も変わらずポケーっとしており、三人は再び溜め息をついた。
「流石に何時までもこうしていられると、作業の邪魔なのですが……」
「だが、今日は諸事情で基地に行けないのだが……」
花音はジャナ部の活動を行う様子の無い光をどうしたものかと考え、久遠は自分と一緒にフォトンガードナーに向かうのは今日は難しいと言う。女子二人がどうしたものかと頭を悩ませていると、傍らで腕を組んで目を瞑っていた白部がくわっと音が聞こえる程勢いよく目を開ける。
突然の事に驚く二人を他所に白部は立ち上がると光の元へと徐に歩いて行き、彼が肘をついている机に勢いよく両手をついて顔を近付けた。
「高坂部員っ!」
「……………………」(ポケー……)
「…………高坂部員っ!!」(パンッ!!)
「おわあっ!?」
最初は至近距離で呼びかけたが何の反応も返さず、次の手段とばかりに先程より大声で呼びかけながら眼前で猫だましを放つ。
流石に視覚に訴えかける猫だましは聞いたのか、体の反射で光の意識が肉体へと引き戻され驚きの声をあげる。
「あ、部長、どうしたんですか?」
「どうしたんですか?じゃないが……」
ようやく正気に戻った光の第一声を聞いて、白部は眉間に指を宛てながらどうしたものかと言いたげな表情を浮かべて沈黙する。そんな彼の様子に光は首を傾げ、久遠と花音は何を言い出すのか身構えていると、白部は眉間を揉んでいた指を光へと指差し口を開いた。
「間食に滝原工房の菓子パンが食べたくなった。仕事に手がつかないのなら、その買い出しに行ってくるのだ!」
「へ、あ、はい」
白部の口から出てきたのは部室でつまむお菓子の買い出し、それを聞いた光は困惑した表情で椅子から立ち上がるとそそくさと部室を出て行く。
部室から遠のく足音を耳にして小さく頷く白部に、久遠は光の去っていった方向を見つめてポカンとし、花音はおずおずと手をあげて白部へと声をかけた。
「あの、部長……」
「何だね?水代部員」
「何で光をパシらせたんですか。しかも滝原工房に……彼、正気に戻ったばっかりで頭回ってませんよ……?」
花音は白部に何故光を買い出しに行かせたのかを問いかける。滝原工房は滝音市にある手作りパンの店で、オーソドックスなパンや菓子パンといった一手間加わった一品等多くの品揃えがあり、愛好家達にも人気な店である。しかし常磐高校から五キロ程離れた山中にある店で、部活のおやつとして食べるにしては買い出しに手間が掛かるため好まれるものでは無い。
むしろ遠くの店に向かわせて一定時間光を部室へと入れない思惑が見て取れ、花音はその事を白部へと指摘する。
それに対して白部はその指摘は最もだと言いたげに小さく頷くと、何故滝原工房に買い出しに向かわせたのか説明し始めた。
「ああ、あれはただの方便だ。一人で頭を冷やさせるために、遠方に向かわしたのだ」
「あ、そうなんですか……」
「……心遣い、感謝します」
光の整理をつけさせるために一人にさせたのだと聞いて、納得の声を花音があげる傍らで久遠は白部の気遣いに頭を下げる。
「よせ、そこまでに褒められる様な事はしていない……どちらにしても、後は彼次第なのだからな」
頭を下げる久遠を制し白部はそう言い、光が去っていった方向へと目を向ける。二人も白部と同じく光の去っていった方向へと視線を向け、一人になった光がどの様になって帰ってくるかを思い浮かべた。
「はぁ…………」
常磐高校から滝原工房へと菓子パンの買い出しに向かった駆け足で向かった光だが、パンを買い終えて学校へと戻らんとした所で白部が何故自分に買い出しを指示したのか気付き、行きと違って歩いて学校へと向かう。
その道中で通った滝音市を一望できる公園の展望台で、一人街を見ながら頭を悩ませていた。
「これから俺、どうなるんだろうな……」
シュリウスに基地を押収され戦闘行為を禁じられた事を思い返し、光は小さく溜め息をつく。
フォトンガードナーが国連の管轄から外れ、戦闘行為が禁止されたという事は、暗に光はもう戦わなくてもいいと言われた様なものだ。元々縁が戦っているのに自分は逃げるのかという葛藤から戦っていた光にとって、縁が戦えない現状と新たな地球を守るための戦力は、彼の戦意を大きく削ぐ要因となっていた。
「何を黄昏ているんだ」
「っ……と」
街を見下ろしながら溜め息をついていた光に突然背後から声をかけられ、驚きの余り手摺からずり落ちそうになるのを何とかこらえる。
「何だよ久遠、お前部室に居たんじゃ無いのか?」
「部長がそろそろ店に着く頃だから、見に行ってくれと言われたんだ」
光の背後から声をかけてきた久遠は、危うく展望台から落ちそうになった光を見て小さく息を吐くとそう言いながら彼の隣に並ぶ。
久遠も展望台から街の景色を見下ろして感嘆の声をあげ始め、部長からの指示はどうしたのかと苦笑いを浮かべながら光も再び街を眺め始める。
秋も深まり木々が色付く中、秋風に枯れ葉が揺れる音を耳にしながら気分を落ち着け沈黙する二人。その沈黙を破る様に、光が徐に口を開いた。
「…………なあ、これからどうなるんだろうな」
「どうなる、か……」
「シュリウスさんが今後戦う以上俺達はお役御免、縁のやつはそれ以前に重症だ。……正直、俺が戦う理由がピンと来ねぇんだよ」
「……そうだな」
光の戦う理由を知る久遠は、それこそが学校で光が心ここにあらずといった様子で過ごしていた原因だと気付き話に乗る。その気遣いを知ってか知らずか、光は改めて話を続ける。
「前にお前はゼシアと話をして、あいつらが戦う理由を聞けっていったよな?その機会すら無くなりそうだ……」
「……そうだな、彼らが今後クロノイド制圧軍を相手に戦うとなると、お前が戦場に立つ機会も無くなる。そうなったら、あの話も夢物語に終わるな……」
「一体何が、夢物語に終わるんだ?」
「「っ!?」」
突如として会話に割り込んできた声、聞き覚えのあるがここに居るとは欠片も考えなかった声に二人は咄嗟に振り向き、声の主を目にして驚きの余り動きを止め、声の主は二人の様子など気にも留めずに近付く。
「ゼシア……!」
「久し振りだな、光、滝音さん」
光に名前を呼ばれた声の主──ゼシアは、二人の元に並ぶと先程まで二人がしていた様に展望台の手摺に腕を乗せながら街を眺め始める。
「……急に転校してどうしたんだ?クラスでも話題になっていたんだぞ?」
「それに関しては申し訳ないと思っているさ。こちらとて急な事だったんだから」
光がおそるおそると当たり障りの無い話題を振り、ゼシアはそれに苦笑しながら答える。一見すれば前まで学校で見せていた穏和な笑みだが、今の表情からは何処か作り物めいた感覚を光達は感じ取った。
「…………正体がバレたからか?」
「────」
違和感が拭い切れず思わず口から言葉が零れた久遠に光が目を見開き、完全に耳に入ったゼシアも穏和な笑みを崩さぬも雰囲気ががらりと切り替わる。
「お前がクロノイドである事が誰かにバレた。だから拡散されない内に姿を消した……違うか?」
「ばっ!おまっ!」
訝しげな表情を浮かべながらゼシアへと問い詰める久遠に光が慌てて釘を刺すが時既に遅く、久遠の憶測を聞いたゼシアの表情から穏和な笑みは消え失せ、何処か底知れない雰囲気を感じさせる笑みへと切り替わった。
「やっぱり、君達には見られていた訳か」
「「──っ!」」
ゼシアのその一言で光達に緊張が走る。光達がフォトングラストのパイロットだと知らなければ出てこない言葉を言ったゼシアに二人は僅かに身構える。
「……見られてたって、一体何の事だ?」
「しらばっくれなくていい、君達がフォトングラストのパイロットだというのは、既に知っている」
その一言を聞いて二人の体により力が入る。それを知ってか知らずか余裕の態度を崩さないゼシアは、二人へと目配りするとある事を二人へと問う。
「それにしても、今は二人なんだな。てっきり有沢君を含めて行動していると思ったのだけれど……そう言えば前の戦闘でフォトンファイターは出ていなかったな、なにかあったのかい?」
「──っ!」
縁が欠けている事に首を傾げるゼシアに久遠が歯を食いしばるが、すぐさま光が腕を久遠の前に差し出して制すると逆に問いかける。
「そういうお前こそ、どうしてここに居るんだ?てっきりクロノシアスへと戻っていったと思ったんだがな」
「タキオルドは確かに向こうに返したさ。ただ、僕だけがここに残っている」
タキオルドだけクロノシアスへと返されたと聞き、いつの間に脱出したのかが光達の疑問に浮かぶ。そんな二人に向かい改めて口を開く。
「さて、君の質問には答えたんだから、僕の質問にも答えてほしいな」
「光……」
先程答えた質問の対価に、ゼシアは自分の質問への回答を要求してくる。久遠は光に目配りして言わない様に伝えるが、光は小さく首を振り驚愕に目を見開く久遠を他所に答え始める。
「お前との戦いの反動で、今は治療中だ」
「……おかしいな、フォトンファイターには余りダメージは与えていない筈だけど?」
光の回答にゼシアは違和感を覚えて顎に手を当てて、前の戦闘を振り返る。ゼシアの言う通りタキオルドとの戦闘ではフォトンランダーやグライダーは回避や迎撃でダメージを負ったが、フォトンファイターは余りダメージを受けていない。
それを察したゼシアは視線で理由を聞こうと訴えるも光は口を開かず、自分の知る限りで何か近しいものが無いかを思い返し、ある一つの事を思い出した。
「まさか、機体に痛めつけられた……何て事は無いよね」
「「──っ!」」
ゼシア本人も今までフォトングラストが戦い抜いていた事から、ある訳が無いと確信し冗談で言った理由。しかし当てられた光と久遠は驚愕の余り顔に出してしまい、それを見逃さなかったゼシアが訝しげな表情を浮かべる。
「……本当に、機体に痛めつけられたとでも……?」
「…………ああそうだよ」
「光っ!」
「無理を言うな、もう誤魔化せねぇ……」
「──っ!」
自分達の反応で気付かれ、ゼシアから更なる追及を受けた光は自棄っぱちにフォトングラスト──否、フォトンファイターの事に関して説明しようとする。久遠に止められたが誤魔化せないと小声で伝えて黙らすと、改めてフォトンファイターに関して説明する。
膨大なエネルギーを生成しクロノギアスと互角以上に戦えた要因となっているフォトンリアクター、そのフォトンリアクターより生じる副産物のP波動、そしてそれに耐えうるP因子の存在。
そして今まではリミッターを課した運用をしていたが、ゼシアの駆るタキオルドとの戦闘でリミッターが完全に外れ、大出力のP波動が縁の体を痛めつけたと伝えると、ゼシアは何か考え込む様に顎に手を宛ててぶつぶつと呟き始めた。
「外見だけでなく動力炉の特性まで同一だと……?」
「ゼシア?」
「っと済まない、少し考え事をしていた」
一人ぶつぶつと呟くゼシアに光が声をかけると、はっとなって顔をあげ頭を下げられ光達は何とも言えない表情を浮かべる。
「さて、余り長居も出来ないから、そろそろ帰らせてもらうよ」
「っ!待て!」
光達の表情を知ってか知らずか、話を終わらせて帰ろうと踵を返すゼシアを光が慌てて呼び止めると、ゼシアは振り返り小さく口角をあげながら口を開く。
「意外だな、敵に何か用があるとは思えないのに」
「どの口が言う……」
ゼシアの言葉に久遠がそう吐き捨てるがゼシアは特に反応を返さず、光も無視してゼシアへと問いかける。
「お前達は……クロノイド制圧軍は、どうして地球へと侵攻してきてんだ?」
「……は?」
光の問いかけにゼシアは目を丸くして首を傾げ、何を聞いてるんだと言いたげな声をあげる。それに対して光はもう一度言う。
「俺達はクロノイド制圧軍が地球に侵攻してくる理由を何一つ知らない。だから教えてほしいんだよ、何で地球を攻めてくるのか」
「…………理由を話せば、はいどうぞと君は差し出せるのかい?」
「──っ」
ゼシアの返答と共に彼の体から湧き上がったプレッシャーに光達は身体中から冷や汗を流すも、光は目を離さずにゼシアを睨み付ける。その視線を受けてゼシアは冗談だと言って放っていたプレッシャーを引っ込め、光達は安堵の息をつく。
「そうだな……これはクロノイド制圧軍というより、僕が戦いに出る理由なんだけど……『クロノイドのため』かな」
「クロノイドのため……?」
クロノイド制圧軍ではなくゼシアの戦う理由を聞き、久遠は思わず首を傾げる。光も僅かに困惑の表情を浮かべつつも更に踏み込む。
「クロノイドのためって、どういうことだよ」
「それは……む?」
光の問いかけに答えようとした最中何かに感付いた様子で辺りを見回すと、小さく溜め息をついて首を振る。
「どうやら、時間切れだな」
「は?時間切れって一た「ゼシア様──っ!!」い……」
溜め息をついて小さく呟いたゼシアに何事か光が問おうとした瞬間、公園の外よりオーラの声が響き渡る。今は三人を見つけてはいないが、間違い無くゼシアを探しにきていた。
「悪いけど、話はこれまでだ。君達と密会していたことはバレたく無いからな」
「っ待て!ここまで来てそれは──」
踵を返してオーラの声が聞こえた方へと歩き出すゼシアを久遠が呼び止めようとした瞬間、ゼシアの体より先程以上の圧が放たれ光達は揃って冷や汗を滝の様に流す。
紫の波動を身に纏いその影響か髪が僅かに宙に浮かび、向けられた左目は赤く輝いており明らかに尋常では無い雰囲気を漂わせていた。
「っ久遠!!」
光は咄嗟に久遠を抱えると展望台の手摺を飛び越え斜面を滑り降りて一気にゼシアから距離を取る。
ゼシアはそれを特に何もする事無く見送り身に纏っていた波動を納めると、公園の入口よりオーラがゼシアの元へと駆け寄ってきた。
「ゼシア様!探しましたよ!」
「済まない、少し面白いものを見つけてな」
「面白いもの、ですか……」
ゼシアは笑いながらそう口にするが、オーラはゼシアを見つける切っ掛けとなった圧を感じ取り何事かあったのかと邪推する。
そんな彼女を他所にゼシアは二人が飛び越えた展望台の手摺に手を置くと、二人が走り去っていったであろう方向に向かって小さく呟く。
「光、久遠……また会えたら、先程の話を続けようか」
帰るぞ、と口にしてゼシアはオーラを引き連れ水からの潜伏先に向かって歩き始める。最後にゼシアが目を向けた先では、久遠を抱えた光がゼシアから距離を取らんと必死に走っていた。
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