第8話
前回のあらすじ
病室から姿を消した縁を探し回った光と久遠。トレーニングルームにてリハビリをしていた縁を見つけた光は、縁にちゃんと連絡を入れるよう釘を刺す。
一方クロノシアスではタキオルドのパイロット候補者が全滅し、シュタインの研究によりタキオンドライヴに適応出来る因子──Tファクターが発見される。
検査の結果、Tファクターが最も多かった人物──ゼシアがタキオルドのパイロットに選ばれた。
「縁、お前何か痩せたか?」
フォトンガードナー基地内のトレーニングルーム、昏睡状態から覚醒した縁のリハビリとして筋トレが行われているそこで、チェストプレスを行っている縁を見ながら隣でランニングマシンを走る光がそう呟く。
「え?」
「いや、腕回りとか足回りとか、何か全体的に細くなってると思ってな」
突然何を言われたのか解らずに首を傾げる縁に光がそう説明すると、縁はチェストプレスを一旦止めて、自分の二の腕や脹ら脛といった各所を触る。
光の言う通り今までに比べて細くなっていたが、縁はそれを当然だと言わんばかりに頷いて答えた。
「光、僕は立て続けに気絶して昏睡状態になって、寝たきりの日が続いたんだよ?そりゃあ筋肉だって落ちるよ」
「縁の言う通りだ。だからこうしてリハビリをしていのだろう?」
縁の言い分を肯定する様に久遠も頷き、失った筋肉を取り戻すためにリハビリをしているのだと言うと光は腹筋を止めて小さく首を傾げる。
「そうかぁ?俺も昔インフルエンザで三日間位寝たきりになった事あったけど、今の縁程筋肉は落ちなかったぞ?」
「お前は三日、縁は間に目が覚めていた期間があったとはいえ約一週間の昏睡だ。落ちる筋肉に差があって当然だ」
「…………ははっ!」
インフルエンザで寝込んでた時の現象具合を光は引き合いに出すも、日数の時点で差がある以上落ちる筋肉に差が出来て当然だと久遠は呆れ返り、そんなやり取りを見て縁は思わず笑いが零れる。
突然笑い声をあげた縁に二人がキョトンとして視線を向けると、縁は目尻に浮かんだ涙を拭いながら口を開いた。
「いやぁ……二人共ずいぶんと軽口を言い合える様になったんだね」
「そりゃあまあな、お前が居なきゃ基地内で話すの久遠だけだし」
「変に不仲になって連携が取れなくなるよりかは、マシだと思うがな」
二人の仲が縮まっている事を指摘すると二人は首を傾げつつも、状況が故にこうなったと答える。
二人のやり取りがごく自然に行われているのを目にして縁は柔らかく微笑むと、話を戻そうと光が咳払いをした。
「コホン……とりあえず、まずは筋トレして筋肉を戻さねぇとな」
「そうだね……それにしても……」
リハビリをして筋肉を取り戻すという光の言葉に縁は頷くが、その後に訝しげな視線を二人へと向ける。突然そんな視線を向けられた二人は困惑しつつ、何事かと縁へと問いかける。
「な……何だよ?」
「何で二人まで筋トレに付き合ってるのかなって思ってさ……」
あくまでリハビリの筋トレは縁だけに課せられたものだが、光と久遠の二人は率先してそれに付き合っている。前に裏方の仕事をトレーニングと引き換えに手伝おうとしていた縁としては、戦闘中におけるコンディションを維持するためという名目で行われている二人の筋トレにケチを付けるのは憚られたが、どうも今の二人には無駄に思えてしまう。
そう二人に縁が問うと光と久遠は互いに顔を見合わせ、再び縁の方へと顔を向けると呆れた様な溜め息をついて答えた。
「お前が無茶しないかどうかの監視を言われてんだよ」
「聞けば、まだ安静にしている様にと言われていたみたいじゃないか。それなのにリハビリを強行している時点で、監視の目が入るのは当然だと思え」
「う……」
二人から揃って責められ、縁は思わず呻き声が零れる。久遠の言う通り縁は観月にしばらくは安静にしておく様にと言われていたが、いてもたってもいられずリハビリ位はさせてもらえる様に頼み込んだ覚えがある。
その際は根気強く頼んで観月を根負けさせて認めさせたが、それが原因で二人に環視の役割が回ってきたと考えると気まずく感じてしまう。
「けど、何時クロノイド制圧軍が来るか分からない以上、ちゃんとコンディションは整えておきたいんだよ」
「確かに何時来るかは分からないけど、多少はゆっくりでいいんじゃねぇか?」
何時来るか分からない襲撃に備え体調を万全にせんとする縁に対し、光も何時襲撃が来るかは危惧しながらも、もう少しペースを落とした方がいいのではないかと言い、縁はそれにキッとした表情で言い返す。
「そんな事言ってると、今みたいなタイミングで襲撃が──」
縁が言い返している途中で、三人の耳にけたたましい警報が鳴り響く。クロノイド制圧軍襲来を告げる警報が鳴り響き、光と久遠は思わず縁にジト目を向け、そんな二人の視線を受けた縁は気まずそうに目を逸らした。
「これは……」
「フラグってやつだったな……」
「~~~~っ!!ああもう!!行くよ二人共!!」
自分の不用意な発言がこの事態を招いたみたいな目を向けられた縁は癇癪の余り大声で二人にそう告げて一人先にフォトンファイターの元へと向かう。
去り行く背中を見て光は小さく溜め息をつくと、久遠に向かって自分達も向かうよう声をかけた。
「久遠、俺達も行くぞ……って、久遠?」
「っ!?な、何だ!?」
マシンの元へと向かおうと久遠に声をかけた光だったが、久遠が顎に手を宛てて何かを考える素振りをしていて思わず首を傾げる。久遠も声をかけられてはっとなり、光へ何故声をかけたのかを聞いてくる。
「いや、俺達も行くぞって……」
「そ、そうだな、急ぐぞ!!」
「あ……何なんだ一体……?」
光の言葉を聞いてその最中に久遠はフォトングライダーの元へと駆け出す。取り残された光は何だったのか困惑するも、緊急事態という事もあって慌てて二人の後に続いてフォトンランダーの元へと向かっていった。
滝音市に開かれた時空転移ゲート、そこより飛来するクロノドローンが街を破壊して行く。
編隊を組み飛んでは眼下の街にビームを放つクロノドローンから多くの人々が逃げ惑う中、ただ黙々と破壊作業に徹するクロノドローンに向かい、彼方よりビームが放たれる。
認識外より放たれたビームにクロノドローンは対応出来ずに頭部を撃ち抜かれ撃墜され、編隊を組んでいた一機が落とされた事で残るクロノドローンが警戒体勢に入るが、その尽くに上空からビームの雨が降り注いだ。
「まずは一個小隊!!」
「まだ残っている、気を抜くな」
街を破壊していたクロノドローンの一個状態を壊滅させガッツポーズをする光に、久遠がたしなめ残るクロノドローンへと意識を向けさせる。
不意打ちという形で一個小隊を落とした事で感付かれたのか、残る五個小隊に気付かれて排除すべき敵として狙われ始める。
放たれるビームを避けながら縁は二人へと指示を出す。
「君達二人で二個小隊を落として、僕が三個小隊落とす」
十八機のクロノドローンを一人で相手にすると口にした縁に、光は目を見開きながら口を挟む。幾ら機体性能に差があるとはいえ、数の暴力に晒されていた二つ前の戦闘を思い返すと、はいそうですかと光は頷けなかった。
「出来るのかそんな事!?」
「無茶をするな!!病み上がりだぞ!?」
「やれるさ、今のフォトンファイターなら!!」
光と久遠の制止の声を聞かずに、縁はフォトンファイターのスラスターを吹かしてクロノドローンの小隊に向かって飛び込んで行く。
フォトンリアクターの出力上昇に伴い推進力が上昇したスラスターを吹かし、フォトングライダーすらも置き去りにして三個小隊の中へと縁は飛び込むと、自身に向かって放たれるクロノドローンのビームを隙間を縫う様に避けてゆく。
上昇した推進力にものを言わせた回避にクロノドローンは翻弄され、しっちゃかめっちゃかにビームを放つも、命中する所か徐々に上昇して行くフォトンファイターに合わせてビームも射線が上に向いて行き、街から銃口が外れる。
クロノドローンの射線から街が外れるや、背を向けて宙へと飛び上がっていたフォトンファイターをクロノドローンへと反転させ、縁は両腕を突き付けた。
「パーティクルマシンガン!!」
フォトンファイターの手首より連続して放たれるビームが、雨の如くクロノドローンへと降り注ぐ。クロノドローンのビーム砲同様両腕の動きに合わせて弾がばら蒔かれ、避けようとするクロノドローンを撃ち抜いていく。
一発一発の威力は小さくとも立て続けに放たれるそれを浴びせ続けられたクロノドローンは、装甲に孔を穿たれ内部系を破壊されて尽く爆散していき、十八対一という圧倒的な数の不利を縁はパーティクルマシンガンだけで覆し全滅させた。
「うっそだろ?マジでやりやがった……」
「縁…………」
縁より離れた位置で残る二個小隊を相手にしていた光と久遠は、縁が宣言通り一人で三個小隊を全滅させた事に驚きの表情を浮かべる。
光は病み上がりなのに有言実行した縁の力に舌を巻いているが、久遠は縁に何処か不安げな視線を向けていた。
「残りはそっち!!」
「わっ!?」「っ!?」
三個小隊を全滅させた縁は光達がまだクロノドローンを倒し終わっていない事に気付くと、フォトンファイターを二人の元へと向かわし、残る五機のクロノドローン達の真ん中へと降り立つ。
突然やって来たフォトンファイターに光と久遠が驚きの声をあげる傍らで、クロノドローン達の狙いが光達から一番脅威度の高い縁へと切り替わり指先のビーム砲が向けられる。だがそれよりも早くフォトンファイターが両腕を振るい、放たれたパーティクルマシンガンのビームをクロノドローンに向かって放ち、周囲を囲うクロノドローンを全て撃ち落とした。
「ふぅ……」
「……なあ、久遠……フォトンファイターって、ここまで強かったか……?」
「…………」
地球へと襲来したクロノドローンを全滅させて一息つく縁の傍らで、光はフォトンファイターの戦闘能力に疑問を抱き久遠に問いかけるが、久遠は一人口許に手を宛てて考え込んでいる。
「二人共、気を緩めないで。時空転移ゲートはまだ閉じてない、クロノギアスがまだ──っ!?」
縁が光達へと注意を促した瞬間、突然フォトンファイターのコックピット内からアラートが鳴り始める。それに合わせてフォトンファイターのカメラアイの光が明滅し始め、地面へと膝をついた。
「なっ!?」
「縁!?どうしたんだ!?」
「何だこれは……!フォトンリアクターの出力の大幅な減少だって……!?」
突然膝をついたフォトンファイターに光と久遠は驚きの声をあげ、縁に何が起きたのかを聞くと、フォトンリアクターが原因不明の出力の低下を引き起こしたと告げられる。
縁がどうにかして出力をあげようとした瞬間、三機のレーダーが時空転移ゲートに反応を新たな反応を捉えた。
「っ!?」
「このタイミングでかよ……!」
「来る…………!」
時空転移ゲートより観測された新たな敵の転送、光と久遠の二人は不調のフォトンファイターを守る様に前に出て、時空転移ゲートより姿を現さんとするクロノギアスに身構えた。
クロノイド制圧軍諜報部隊が拠点とする屋敷の一室、クロノギアスへの転送装置のある部屋にて転送作業を行う兵士達が最終確認を行う。
そんな彼らの傍らで、先の戦闘でクロノギアス・チャリオスティアよりギリギリ脱出したソルトと、オーラの二人が転送装置内に居るゼシアに向かい不安げな表情を向けていた。
「ゼシア様、本当に出撃なさるおつもりですか……?」
先の戦闘で打撲を負い包帯を腕や肩に巻いたソルトがゼシアに向かい心配の声をかけると、ゼシアはそれに頷く。
「これから転送されるクロノギアスはパイロットを選ぶ、そして僕はそのパイロットとして高い適性があると通信が来たんだ。なら、僕が乗る以外にないだろう?」
「しかし、地球にはオーラも居ます。わざわざゼシア様が赴く事など……」
「くどいぞソルト。それに、あの機体は適性の無い者が乗れば命を失うとも言われている様ではないか。もしオーラが乗っても適性が足らず機体の中で力尽きたとしたら、無傷で敵に渡す事になるだろう?」
「それは……そうです……」
ソルトはゼシアが戦場に立つ事にやんわりと拒否の意向を示すも、適性の無いパイロットを乗せて中で死亡した際に無傷でクロノギアスを渡してしまう可能性を指摘されると言葉に詰まる。
パイロットを選ぶ都合上量産に向かない分機体性能は破格で、もし敵の手に渡ればフォトングラストと並ぶ脅威となってしまうと見て取れており、敵に渡さないためには一番適性のあるパイロットを乗せる以外に方法が無かった。
「そうならないために、適性のある僕が乗るんだ」
「むぅ…………」
ゼシアが乗せられる理由について説明を改めて受けるもソルトは納得のいかないという表情を浮かべる。その傍らで二人の話を聞いていたオーラが一歩前に踏み出す。
「オーラ?」
「御武運を、貴方の帰還をお待ちしております」
そう言うとオーラはゼシアに向かって敬礼し、戦場に向かう彼を見送る姿勢を取る。それを見てゼシアとソルトの二人は目を丸くすると、ゼシアは笑みを浮かべてそれに頷くと表情を引き締め、転送装置の準備を行っている隊員へと声をかけた。
「転送を始めろ」
「了解です。転送開始します」
ゼシアの号令を聞いた隊員が装置を起動させ、転送装置から光が放たれると装置の中のゼシアは視界が光に包まれる。
白んだ視界が元に戻ると、ゼシアはタキオルドのコックピット内に転送され、眼前の機体状況を表すモニターへと目を向ける。そこにはタキオンドライヴの稼働率が表示されており、その値はクロノシアス側ではついぞ有人では達成出来なかった50%となっていた。
「タキオンドライヴ稼働率、50%を記録……体調に変化は無し」
多くのパイロットの血を啜ってきたタキオルド、それを誰も成し得なかった出力で動かしているゼシアには今まで感じた事の無い充足感が満ち溢れていた。彼はその充足感に小さく口角を持ち上げると、眼下に広がる滝音市の街──そこに集うフォトングラストを構成する三機のマシンへと目を落とす。
「さて……勝負と行こうじゃないか」
一人コックピット内で小さくそう呟くと、時空転移ゲートよりタキオルドを存在感を伝えんと地球へゆっくりと降下させて行った。
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