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第7話

前回のあらすじ


未だに目覚める予兆の無い縁を前にして、光と久遠の二人は何故縁が気を失ったのか考察を始める。

光と久遠が席を外した後、観月が縁の面倒を見ている間に縁が目覚め、自らが命を捨てる覚悟で戦いに挑んでいるのを縁が呟くと、運悪く部屋の外に居た久遠はそれを聞いてしまった。

「はぁ……なーんかやる気でねぇな……」


縁が目を覚ました事を知らされていない光が、そんな事を呟きながらフォトンガードナー基地内を力無く歩く。

彼は縁が昏睡している間は何処か気が抜けた様子で過ごしており、彼の事を知る人達は競い合う相手である縁が居ないが故に気が抜けているのだと理解していた。


「いい加減目を覚ましてもいいと思うんだけどなー……」

「…………」


そんな彼の横で、光と目を合わせない様に俯きながら久遠が歩く。彼女は前日縁の見舞いに再び行こうとした時に偶然聞いてしまった事について頭を悩ませていた。

縁が光の踏み台になる、その言葉の意味が理解出来ず、その後に彼が口にした耐えられないという言葉が、どうにも彼女の脳裏にシュリウスの事を思い浮かび上がらせてしまいその度に彼女は首を振って追い払う。


「おーい、くおーん?聞いてるのかー?くおーん?」

「…………っきゃっ!?」

「おわっ!?」


勝手に俯いては訳も解らずに首を振るのを何度も繰り返す久遠に、光は顔を近付けて呼びかけると僅かに反応が遅れてはっとした表情を浮かべると、眼前に光の顔があって驚きの声をあげてしまう。

珍しい久遠の悲鳴を聞いた光も、想定外の出来事に自分自身でも驚いてしまい、その反応が却って久遠に冷静さを取り戻させる要因となる。


「光、急に顔を出すな……それと、人の悲鳴を聞いといておわっ!?とは何だ」

「いや……その……すまん、びっくりしちゃって……」

「何がびっくりしたって言うんだ?ん?」


自分の悲鳴を聞いて驚いたと言われ、調子を多少取り戻した久遠が光をジト目で睨み付ける。下から見上げる様にジト目を向けるその姿に光はたじたじになりながら謝罪をした。


「す……すまん……本当にすまん……何かイメージと違って……」

「イメージと違うって何だイメージ違うって。私だって女なんだ、あんな悲鳴を出す時もある」

「いや、いっつも攻撃食らった時に歯を食いしばるような悲鳴しかあげてねぇじゃねぇか……そんなイメージが付いちまうって……」

「何か言ったか?」

「イエ、ナニモ」


久遠からの追及にブリキのロボットを思わせるギシギシと音が聞こえそうな首の振り方をして否定する光に、久遠は小さく溜め息をつくと肩から力が抜ける。

奇しくも光とのやり取りが変に力んでいた久遠を脱力させ、多少は普段の調子へと戻したのだ。


「全く……お前という奴は……」

「も、もういいだろ?早く縁の所行こうぜ?」


溜め息混じりに光の言い分に呆れていると、ばつの悪そうな顔をした光が視線を他所へと向けて医務室へと向かう足を早める。

あくまで自分は早足で歩いているだけだと言わんばかりに常に片足を地面へと着け、前に出した足は前後が入れ替わるまで膝を伸ばしたままの競歩スタイルで医務室へと向かう光に、久遠は呆れた様に溜め息をつきその後に追従して行く。


「縁ー、起きてるかー…………あ?」


医務室へと到着した光が徐に扉を開け、中で横になっているであろう縁に呼びかける。

先んじて目が覚めている事を知っている久遠は彼がどんな反応をするのか内心楽しみにしつつ沈黙していたが、どうも想像していない反応で訝しげな視線を光へと向ける。

視線の先では光が目を見開いて口をわなわなと震わせており、目覚めた縁を見た様な反応では無いと直感的に気付いた久遠はすぐさま視線を医務室の中へと向けると、そこにはベッドで横になっている筈の縁の姿が何処にも無かった。


「「────っ!!」」


もぬけの殻のベッドを見て、ようやく理解が追い付いた二人は開けた医務室の扉に背を向けて廊下を全速力で走り出す。


「お、おい!今の見たか!?」

「ああ……ものの見事にもぬけの殻だ……!」


光は先程の光景が幻覚では無い事を久遠に確認を取り、久遠が頷くのを見て表情を険しくする。目覚めている事を知らない彼にとっては、昨日まで医務室で昏睡していた人間が突如として姿を消したのだ。慌てるのも無理は無い。

建物内の廊下を全力疾走して行き、道中で職員とすれ違いながらも縁が居る可能性が最も場所──司令部に向かって走って行く。


「済みません!縁は居ますか!?」


司令部に到着して早々光が勢いよく扉を開け、中に居る職員達に聞こえる声量で問いかける。それに入口近くの司令席に座っていた光平が目を見開き、何事かと問いかけてきた。


「ど、どうしたんだ二人共、そんなに息を切らして……」

「医務室から縁が居なくなったんです!何処に居るか知りませんか!?」

「っなんだと!?」


光から縁が行方不明になったと聞き、光平が目を見開いて驚愕の声をあげる。光が光平と話している間に司令部を軽く見回した久遠は、司令部内に縁の姿が無いのを確認し小さく舌打ちを打ち、光平も縁の行方について知らないと気付くや、近くの空いたパソコンの前へと一人向かって行く。


「久遠!?」

「少し監視カメラの映像見させてもらいます」


監視カメラに縁の姿が映って無いか確認せんとパソコンを操作し、司令部のモニターに監視カメラの映像を映し出す。

通路や格納庫、医務室等フォトンガードナー基地内の映像がモニターに映し出されるが、そのどれにも縁の姿は無かった。


「監視カメラにも映ってはいないか……」

「となると、監視カメラの無い場所だろ?そこで縁の奴が行きそうな場所を考えると……」


監視カメラの映像に縁の姿が映らない事に久遠が舌打ちを打つと、その傍らで光が監視カメラの無い場所から縁が居そうな場所を絞り出そうと頭を捻る。しばらく考え続けていると、一つ見つけたのかはっとした表情を浮かべて司令部を出ていこうとした。


「光!?」

「トレーニングルームだ!」

「っ!分かった!」

「っ!待つんだ二人共!」


光が縁がトレーニングルームに居ると言い、久遠もそこに居る可能性に気付くと二人はすぐさま司令部を出て行く。

光平の制止の声を背に受けるも二人は足を止めずにトレーニングルームへと向かって走り出し、医務室から司令部に向かう時以上の速度で走りトレーニングルーム前で床を鳴らして停止するや、勢いよく扉を開けた。


「「縁!!」」


トレーニングルームに入って早々縁が居るか確認せんと呼びかける二人に、トレーニングルーム内に居た人影──縁が目を見開いてそれに答えた。


「ど、どうしたんだい?二人共……」

「ど、どうしたって……お前なぁ……」


二人が何故息を切らしているのか解らないと言いたげな事を言う縁に、光は脱力の余り膝から崩れ落ち、久遠は眉間に指を当てて呆れた様な溜め息をつく。

そんな二人の姿を見て、自分が昨日まで昏睡していた事を思い出して縁は苦笑いを浮かべてばつが悪そうな顔をして頭を掻いた。


「あはは……ごめん。でも、眠り続けていた分は、しっかりと取り返さないとね……っと!」


そう言うと縁はチェストプレスを再開し、トレーニングルーム内に重りが上下して金属の擦れる音が鳴り始める。そんな彼の元へと溜め息をつきながら久遠は向かい、チェストプレスの傍らに置いてあった縁のスポーツドリンクを手に取ると、それで勢いよく縁の額を小突いた。


「あうっ!?」

「ちょ、久遠!?」


突然額を小突かれた縁は変な声をあげて首を仰け反らせ、その勢いでグリップから手が離れてシート後ろの重りが一気に落ちて大きな音を鳴らしてしまい、光は突拍子の無い事をした久遠に目を見開いて慌てて二人の元へと駆け寄る。

渦中の久遠はスポーツドリンクを再びチェストプレス横に置くと、小突かれた額を抑える縁に向かって溜め息混じりに口を開いた。


「縁、起きているなら光に連絡位入れろ。お前が何も伝えないから、こいつは今日も腑抜けてたんだぞ?」

「あはは……ごめん……」

「うんうん…………うん?」


起きたのならちゃんとチームにも連絡を入れろと言う久遠に縁は苦笑いを浮かべながら謝り、光はその通りだと頷くがふと久遠の発言に違和感を覚え眉をひそめる。

久遠は連絡を入れろとは言ったがそれは光だけを名指しして言っており、まるで自分には連絡は要らないと取れるその言い方に、光ははっとなって久遠を見た。


「久遠お前!縁が目を覚ましている事知ってたな!?」

「私の義父は誰だ?その人伝に縁が目が覚めた事に関しては連絡が来る」


フォトンガードナー総司令である光平の義娘である自分は、光平から縁が目を覚ました事を伝えられたと言う。

しかし、光が怒っている理由は知らぬ所で久遠が縁の目覚めを知っていたという事では無い。


「ちっがーう!何でそれを俺にも教えなかったんだって聞いてんだ!チームならそういう情報を共有するのが当然だろうが!」

「っ……それは……」


光から縁が目覚めた情報は共有するのが当然だと言われ、久遠は気まずそうに目を逸らす。彼女が縁の目覚めを知った際に盗み聞いた、耐えられないや光の踏み台といった発言が、どうしても気掛かりとなっていた。


「……サプライズ、というやつだ」

「要らねぇよこんなサプライズ……まあ、目ぇ覚ましたんならいいや。お前も、起きたのならちゃんと連絡してくれよ?」

「分かってるよ」

「だったら、まずは司令に報告しろよ?司令もお前が抜け出したの知らないんだし……」


二人に何かあった際にはちゃんと連絡する様に言い、縁を見つけた事を光平に報告するためにトレーニングルームを出て行き、久遠も溜め息をつきつつ光の後に続いてトレーニングルームを出て行く。

二人の背中を苦笑いを浮かべながら縁は見送り二人の足音が遠退いていくのを耳にしながら、再びチェストプレスを再開せんとグリップを握り締めた。






クロノイド制圧軍技術局内極秘工場、タキオルドのパイロット選別が行われているそこに、局長であるシュタインの他にジェネルとリーリスの二人が計測室へと姿を現す。


「やはり来たか……」

「こんな面白いもの、あたしを咬ませないなんていい度胸しているじゃないか」


ジェネルはリーリスが来た事に想定通りだとしても苦虫を噛み潰した様な表情を浮かべ、リーリスは面白いものを見た様な雰囲気で笑みを浮かべる。

口で言い合いながらも二人の視線は硝子越しに見えるタキオルドへと注がれており、今まさに一時募集の候補者百人目が起動テストを行わんとしている場面に二人は立ち合っていた。


「これより、候補者No.100の起動テストを行います」

「うむ。タキオンドライヴ起動、出力を5%に」

「了解、タキオンドライヴ起動、出力5%に固定」


職員の起動実験開始の合図と共にシュタインがタキオルドの動力炉──タキオンドライヴの起動と出力を指定し、それに合わせて職員がタキオンドライヴを遠隔で起動させる。

遠隔操作により動力炉が起動したタキオルドのカメラアイがシート越しに赤い光を放ち、低出力ながらも生産されるエネルギーの強大さを表さんばかりにタキオンドライヴが唸りをあげ始める。それに伴いパイロットのバイタル反応を観測するための機器から、心音や脈拍、血流の状態を伝えんと一定のリズムで電子音が鳴り始めた。


「候補者No.100、バイタル安定しています」

「よし……現状を五分間維持、その後出力を8%に上昇!」

「了解」


シュタインの指示を受けて職員達がそれぞれ時間の測定、パイロットのバイタル確認、タキオンドライヴの状態確認を並列して行う。ジェネルとリーリスの二人が見守る中五分が経過し、出力の上昇を行う時間となった。


「五分経過。これよりタキオンドライヴ、出力上昇します」

「出力上昇……6%……7%……8%」

「パイロット、バイタルに異常無し」


タキオンドライヴの出力が先程シュタインが指定した値まで刻んで引き上げられ、パイロットのバイタルを測定していた職員より異常無しと報告を受けたシュタインは小さく頷く。


「今度は12%じゃ、まずは現状維持五分じゃ」

「了解、測定開始します」


シュタインの指示により再び計測が開始され、タキオンドライヴ出力8%の状態で五分が過ぎる。一見すると先程と変わった様子は見られなかったが、小さな変化は確かに起きていた。


「はぁ……はぁ……」

「候補者No.100、呼吸に乱れがあります」

「むぅ……」


パイロットの呼吸に乱れが起きていると報告を受け、考え込む様に顎に手を宛てるシュタイン。それにリーリスが一歩前に出て口を挟んだ。


「何悩んでんだい、拘束されての疲弊だろうよ。とっとと次に行きな」

「むぅ……」


リーリスは息を荒くしているのはコックピットという密閉空間に拘束されている事から来る消耗だといい、次の段階に進むよう促してくる。

シュタインはそれを聞いて小さく唸りジェネルへと視線を向けると、視線に気付いたジェネルが小さく頷いたのを見て次の段階に進ませるのを決断した。


「……よかろう、出力上昇開始!」

「了解、タキオンドライヴ出力上昇、開始します」


ジェネルから了承を受けたシュタインは出力の上昇を指示し、タキオンドライヴの出力を見ていた職員が出力上昇を宣言する。

9%……10%と出力が上げられて行き、11%になった瞬間、それは起きた。


「ぐ……があぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」

「っ!!候補者No.100、バイタルに異常発生!!」


パイロットの悲鳴と同時にバイタルを測定していた職員の口からパイロットの身に異常が発生したと告げられ、バイタルを測定していた機械からも先程までは一定のリズムで鳴っていた電子音がしっちゃかめっちゃかに鳴り響く。

明らかに異常事態と判断出来る状況に陥った瞬間、シュタインはすぐさま指示を出す。


「タキオンドライヴ緊急停止!!医療班へ緊急通達!!」

「「了解!!」」


シュタインの指示によりタキオンドライヴが強制的に停止させられ、タキオルドの瞳より光が消える。それと同時に工場のシャッターが開き担架を持った医療班が入ってきて、開かれたコックピットよりパイロットを救出し担架に乗せて運んで行った。


「失敗……じゃの」

「これで候補者百名、全員の調査が終わった訳か……」


シュタインの口より起動テストの失敗が告げられ、最後の候補者もタキオルドを完全に動かす事が出来ず、苦虫を噛み潰した表情をジェネルが浮かべる。そんな彼を嘲笑う様に笑みを浮かべ、今度はリーリスがシュタインへと近寄って行く。


「さぁて、次はあたしが集めてきた連中に頼もうかねぇ?」


そう言って自らの派発のパイロットをシュタインへと推薦しようとするが、それは他ならぬシュタインの手で退けられた。


「すまんが、それはもう要らん」

「…………はあ?」

「どういう事だ?パイロットら決まっていないのだろう?」


候補者リストを要らないと切り捨てたシュタインに、リーリスだけでなくジェネルも怪訝な表情を浮かべる。 計百人テストを行ったが動かせる者が居なかったというのにテストを取り止める判断は二人には理解出来ず、疑問が先行していると計測室へと一人の男が入ってくる。


「失礼します、登録者全員分の調査完了しました」

「ご苦労、下がってよいぞ」

「はっ!」


入ってきた男は何か資料をシュタインへと手渡し、そのまま部屋を出て行く。男が出て行くとシュタインは資料を捲り始め、慌てて二人が水を差す。


「待てシュタイン、その書類は何だ?」

「あたしの申し出を断る価値が、その書類にはあるんだろうね?」


二人に呼び止められてシュタインは書類を捲る手を止めて二人へと目を向けると、再び書類を捲り始めながら口を開いた。


「タキオンドライヴに耐えられるパイロットを探すテストの傍ら、儂は適性確認のためにわざわざ乗せては起動してを繰り返すのは、非効率だと考える様になった」


シュタインの脳裏に浮かぶのは起動テストの風景、その中では何人もの優秀なパイロット達が『適性が無いから』という理由で篩に落とされて行く光景が浮かぶ。


「その最中に儂は、多少なりとも適性を持つものには共通点があるのではないかと考えたのじゃ。そして検査していると案の定、ある程度タキオンドライヴから発せられるTウェイブに耐えられる者達には体内に特殊な因子を宿しておった」

「特殊な因子、だと?」

「うむ、特殊な因子……呼称『Tファクター』は、大なり小なりTウェイブに耐えられたパイロット全員に確認され、更にTファクターの量がTウェイブに対する耐性に影響する事も解ったのじゃ」


タキオンドライヴに耐えれる基準となるTファクターの発見、それは確かに一人一人乗せて確認を取るより遥かに価値のある内容だった。そして、その話が今引き出された事で、ジェネルとリーリスはシュタインが目にする書類の内容に感付いた。


「それじゃあ、その書類は……」

「クロノイド制圧軍に所属し、定期検診を受けた者達のデータを元にTファクターの測定データを纏めた書類じゃよ」


シュタインは二人に向かって書類を差し出す。その書類にはクロノイド制圧軍に所属するクロノイドの名前が記され、その横にはTファクターを数値として表した数字が記されている。


「後はこの書類上から、タキオルドを動かせるであろう者を選べば終了じゃの」

「だったら、早く探さねば」

「ほら、とっとと捲るんだよ!」


シュタインからの説明を受けた二人は最も適性の高いクロノイドを自分達の派発へと入れて権力拡大を図らんと、 シュタインに早く書類を捲るよう催促する。

シュタインは二人に促されるまま書類を捲って行き、最後の一枚に今までリストに載っていた者達とは桁外れのTファクターの値が現れた。


「これは……!」

「決めた、こいつをあたしの派発……に……!?」


ジェネルは桁外れのTファクターに息を呑み、リーリスはすぐさまその持ち主を自らの派発に加えんと何者かを確認しようと名前へと目を向けると、そのまま目を見開いて固まる。


「なんと……!」


シュタインもそこに記されていた名前を目にして息を呑んだ。桁外れのTファクターの持ち主として、一番最後の書類に名前を記されてた人物、それは──


『ゼシア・タキオライト・クロノーア』


地球に居る、クロノーア皇帝の実の息子の皇太子だった。


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