第5話
前回のあらすじ
縁と有岡との会話を盗み聞きしていた事を光と久遠が白状し、僅かながら気まずい空気が払拭された途端クロノギアスが襲来する。
クロノギアスを駆るソルトを撃破したのだが、戦闘終了後縁が再び意識を失ってしまった。
縁がソルトとの戦闘後に気を失ってから三日後のジャナ部の部室では、白部と花音、ゼシアの三人がキーボードを叩く音だけが響き渡る。三人共会話はしていないが、重たい空気が部室を包み込み、花音が思わず言葉を零す。
「……とうとう来ませんでしたね」
「前と同じ怪我をするとはな、有沢部員は気が抜けてないのか?」
「光も、不完全燃焼だったな……」
三人は本日あった体力測定で、本来であれば光と縁、そしてゼシアの三人の勝負を次の新聞のメインとして取り上げる予定だったのだが、縁が諸事情で学校に来れず、光とゼシアだけの勝負となった。
結果は全種目で光が一位を取りトップになったが、当の光は見るからに不機嫌そうだったのは花音とゼシアの記憶に新しく、彼にとって縁を下していないトップの称号は価値の無いものだと見てとれる。
「滝音さんも高坂も、学校が終わってすぐに有沢君の見舞いに行ったけど、私達も行った方がいいのかしら……?」
新聞作りをしている最中にふと花音がそう零すが、白部がそれに首を振る。
「いいや、俺達は先にこちらを済ましてからだ」
「……ですね」
自分達の仕事を終わらせてからだと白部が言い、花音もその通りだと頷いて新聞作りを再開する。しばらくするとゼシアの持つ携帯からアラームが鳴り、ゼシアは小さく頭を下げて席を立った。
「それでは、お疲れ様でした」
「お疲れ様ー」
「お疲れ様、気を付けて帰るんだぞ」
帰宅する旨を伝えて頭を下げるゼシアに、そう別れの挨拶をする白部と花音。
それを聞いたゼシアは部室を出て行き扉を閉め、足音が遠退いて行くと二人は小さく溜め息を零した。
「……行ったか」
「誤魔化すのも大変ですね……」
「フォトンガードナーに関する話は、基本的に機密だからな」
ゼシアが遠くに離れたのを確認してから二人はフォトンガードナー関係の話を始める。花音だけでなく白部もまた光達より縁の欠席の理由を聞かされていた。
「それにしても、戦闘後の気絶か……」
「それだけ消耗したって事じゃ無いでしょうか。前回の戦いはそれなりに苦戦したそうですし」
白部は腕を組み気を失っている縁について頭を悩ませていると、気絶の原因として花音が戦闘での消耗を口にするが、白部はそれに首を振る。
「それは無い、少なくとも前回の戦い以上に気が抜けない戦闘は過去にも多々あった。だが、その翌日にはちゃんと有沢部員は登校している」
「それじゃあ、一体何が原因だっていうんですか」
自分の推測を否定された花音が白部に自身の推測を口にする様促すと、白部は僅かに考える素振りを見せると、徐に口を開いた。
「……前に、有沢部員が本来は裏方の仕事を自分達のトレーニングよりも優先しようとしていた時があっただろう?」
「ああ、初めて気を失って休む前の事ですね……それがどうしました?」
「その時、俺が何かを言いかけたのを覚えているか?」
白部にそう問いかけられて花音はその時のやり取りを思い浮かべる。ゼシアが家庭の事情で部室に居らず、四人で縁の事について話しており、その後にクロノイド制圧軍による襲撃があったのを思い出すと、その際に起きた地震で白部が何か言おうとしたのが遮られた事も思い出す。
「そういえばクロノイド制圧軍の襲撃で有耶無耶になってましたね……あれ、あの後何て言おうとしてたんですか?」
「彼が裏方の仕事を積極的に手伝おうとし始めた事に対する違和感についてだ。戦闘チームの一番中核を担うパイロットがそんな事をしている余裕があるか?普通は無い」
白部の言葉に花音は頷く。光からクロノイド制圧軍との戦いは夏休み中にあった一度撃退したクロノギアス再襲来を除けば、基本的に苦戦するものばかりだと聞かされている。そんな中でトレーニングよりも裏方の仕事を優先する余裕があるとは、花音は全く思えない。
花音も同意見だと頷くと、白部は再び話を続ける。
「それなのに彼が裏方の仕事に手を伸ばし始めた理由……それを俺は、もう戦えそうにないと言っている様なものだと思ったんだ」
「っ!待ってください!確か、あの三機のパイロットって……」
「ああ、フォトンファイターの動力炉が発する特殊な波動に耐えられる人選の元に選ばれているのは、前に光平氏から俺達は聞いている」
白部の推測を聞いた花音が目を見開き待ったをかけると、白部は何故彼女が待ったをかけたのか理由を説明し、花音はそれに頷く。
前にフォトンガードナーの基地に二人で忍び込んだ際に、光平の口より何故あの三人がフォトングラストのパイロットとして選ばれたのか、その理由を聞いていたからこそ戦えなくなったという事に引っ掛かりを覚えたのだ。
それに対して、白部は指を二本立たせながら説明を始める。
「そこで考えられる可能性は二つ、有沢部員の適性が下がりつつあるのか、フォトングラストから発せられる波動が強まっているか、の二択だ」
個人的には後者が理由だと思うがな、と言うと手を下げながら言う白部に花音は怪訝な表情を向ける。何故そう思ったのか今一解っていない様子であり、花音の視線に気付いた白部は再び説明を始める。
「今までの怪獣染みた姿のクロノギアスを相手にしていた時は、パイロット側の創意工夫や、事前のシミュレーションで解決していたが、人型になるとその手の事が無くなり、代わりに土壇場でのパワーアップが目立っているだろう?土壇場のパワーアップが、動力炉の出力の増加から来るものだと考えれば、理屈は通る」
「それで、有沢君が耐えられる限界を越えた、と……」
花音の言葉に白部が頷くと、花音も改めて白部の語った理屈について考える。今までは縁の耐えられる範囲で解決出来ていたが、苦戦する相手に対抗するための土壇場のパワーアップに、縁がついてこれなくなったと認識すると、ふと一つ疑問を抱く。
「……あれ?」
「どうした、水代部員?」
「いえ……何で出力が勝手に上がったりしたんでしょう……って思いまして。ああいうのって、基本的に最大出力が決められている筈では?」
人の手で作り上げられたものなら、規定値を越える様な出力は発揮されないものだと花音は疑問を問うが、それに白部は呆れた様な視線を向ける。
「……何ですかその目は」
「いやいや水代部員……分からないのか?」
「……そう言う部長は、分かるんですか?」
「もちろん」
何も知らない自分を見て、呆れる様にやれやれと首を振ってそう言う白部に花音は思わずムッとして、若干怒り混じりに反論するとさも当然と言わんばかりに自信満々に頷かれて呆気にとられた。
「創意工夫でもどうにもならない窮地に陥ったスーパーロボットが、秘めた力を解放するのはお約束だろう!」
「あ、そうですか……アニメじゃあるまいし……」
意気揚々とフォトングラストのパワーアップの理由を語る白部に、その内容を聞いた花音は呆れた様に溜め息をついた。
「ぐあぁぁぁぁぁっ!!」
クロノイド制圧軍技術局内部、職員の中でも一部の人間しか知らない極秘工場に、一人の男の悲鳴が響き渡る。
工場の中心にはほとんどをシートで覆われた人型の巨大な建造物が鎮座しており、そこから伸びるケーブルは工場隣の計測室に繋がり建造物とその中に居る男の状況をモニタリングしていた。
「稼働状況30%、候補者No.50、バイタル低下!」
「ふむ、リアクターカット、すぐに医療班を送れ」
「はっ!」
計測室の中では極秘工場の存在を知る数名の職員とシュタインが、建造物から送られてきたデータを元に何らかのテストを行っている。
人型の建造物の胸部から候補者と呼ばれた男が医療班により救出され、担架に乗せられ運ばれて行く様を横目にシュタインが手元の候補者の資料に×印を付けていると、突如として計測室の扉が開いた。
「シュタインは居るか!!」
「おやジェネル将軍、何用で?」
入室早々怒りを込めた声でシュタインを呼びつけるジェネルに、シュタインは何の用件か問いかけるとズンズンと足音を鳴らし近寄ると、勢いよく胸ぐらに掴み掛かる。
「軍部から何人かを実験台にしていると聞いた!!事実か!!」
「うぐ……っ!」
胸ぐらを掴まれて宙に浮かばせられるシュタインは喉が締まり言葉を発せずにいるが、ヒートアップしたジェネルはそれに気付かず掴み掛かったまま顔を近付け問い詰める。
「お離しくださいジェネル将軍!それでは応答できません!」
シュタインの顔が青くなって行くのに気が付いた職員が慌てて止めに入ると、ジェネルは鼻を鳴らしてシュタインを地面へと放り投げた。
「ごほっ……ごほっ……相も変わらず手荒いのう……」
「御託はいい、実験台にしているかどうか、それだけ答えろ。事によっては再び皇帝陛下へ報告するからな」
呼吸を整える際にかけられた軽口にジェネルは鋭い視線と最終告知で答え、堅物めと言いたげにシュタインは鼻を鳴らすと立ち上がり、極秘工場を一望出来る窓へと近付き手招きをする。
怪訝な表情を浮かべてジェネルはシュタインの誘いに乗り窓際まで近付くと、彼の目にシートで覆われた人型の建造物が目に入った。
「シュタイン、これは何だ?」
「かつて噂となっていた、フォトライト夫妻により作り上げられた既存のクロノギアスを凌駕する新世代のクロノギアスじゃよ。藁にもすがる思いで研究所跡に探しに行った際に見つけたデータより、儂が再現したものじゃ」
「それが、件の実験台と何の関係がある」
「実験台とは人聞きの悪い、候補者と言ってくれ」
「候補者だと?」
実験台ではなく候補者と言い直すシュタインにジェネルが眉をひそめていると、シュタインは視線を人型の建造物──クロノギアスへと向けて言葉を続ける。
「新世代というだけあって、二十年前の設計図といえど現代のクロノギアスを大きく上回る性能を誇っておった。表面上はな」
「表面上は……というと、何かしらの欠陥があった様だな」
致命的な欠陥を示唆する様な口振りに眉をピクリと動かしたジェネルが問いかけると、シュタインはそれに頷き手持ちの端末にクロノギアスのデータを表示してジェネルへと手渡す。
「新世代型クロノギアス……タキオルドの動力炉、それそのものが特別仕様でな、稼働させると特殊な振動──仮称『Tウェイブ』を放つのじゃ」
「Tウェイブ……」
「Tウェイブはエネルギーパスを通じて機体全体に発せられ、パイロットがそれに耐えられなければ戦う事はは愚か、動かす事すら出来ぬのじゃよ」
「……なるほど、故の候補者か……」
眼前のクロノギアス──タキオルドがTウェイブに耐えられる素養を持たなければ動かす事すら出来ぬ代物だと聞かされ、ジェネルはシュタインがパイロットを確保している理由に気付く。タキオルドを動かせる素養を持ったパイロット探しのために、軍部からパイロットをかき集めていたのだ。
「新型クロノギアスの搭乗者の募集をかけたら、簡単に百人程集まりおったわ」
「……向上心の表れ、そう判断しよう」
勝手に軍部からパイロット候補を募集し、さらにそれに百人も募ったと聞き、ジェネルは複雑そうな表情で眉間に指を宛て、自身へと知らせなかったシュタインと兵士達への怒りを抑え込もうと眉間を揉む。
「……それで、現在はどの様な状況だ?」
眉間を揉んである程度怒りを沈めると、咳払いをして現在候補生がどれ程居るのかを問いかける。百人も募れば候補者の一人や二人、いや十人位は居るだろうと考えたのだが、ジェネルの問いにシュタインは顔を伏せて首を振った。
「現在五十人が起動テストを行ったが、そのほとんどが出力の30%にも耐えられぬ状況じゃ。しかも耐えられる出力には個人差もある。リミッターを課した運用も想定しておるが、それでも50%は最低限保証したい……」
「……そうか」
一人二人所か零人だった事にジェネルは目を見開き、同時に小さく舌打ちを打つ。候補者の中からタキオルドを動かせるものが現れず、リーリスの息の掛かったパイロットがタキオルドを動かしてしまうとジェネルの政治的発言力が大きく減少してしまう。
「ひとまず残る五十人のテストを行い、その結果を後で伝えさせてもらうの」
「ああ、くれぐれもこの事はリーリスには伝えない様に頼む」
新世代のクロノギアスのパイロットに自派発のものが選ばれるという可能性を、リーリスへと渡さない様に秘匿する様にジェネルは告げるが、シュタインは困った様な表情で返す。
「それは無理な相談じゃの、儂が募集をかけてすぐにあやつはこれの事を嗅ぎ付けおったわ」
「だろうな、万が一奴が握っていない事にかけて念のために言っただけだ」
既にリーリスがタキオルドの情報を掴んでいると言われるも、納得のいった表情でジェネルは頷く。若くして諜報部隊のトップに成り上がったリーリスの情報収集能力は、目を見張るものがあった。
「……それではな、全員のテストが終わり次第、俺に連絡は回せ」
「うむ」
自身に連絡をする様にジェネルは言い計測室より出て行き、室内には技術局の職員だけが残る。急な上司の来訪に全員は静まり返っていたが、シュタイン手を叩くと正気に戻り計測作業を再開する。
「さて……と……お主の求める繰り手とは一体どの様なものなのじゃろうな……」
作業が再開された計測室を見て小さく頷くと、シュタインはシートに覆われたタキオルドを目にしてそう呟いた。
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