第1話
この話より第9節に入ります。
今後とも超光戦機フォトングラストをよろしくお願いします。
前回のあらすじ
戦いの末にソルトを打ち損じた事を光平へと報告した光達。光は二人が戻った後、光平に犠牲者の一覧を見せてもらうよう懇願し戦いが原因で亡くなった人達の存在を改めて自らへと刻み込む。
一方逃げおおせたソルトは先に地球で活動していた諜報部隊と合流し、彼等の隠れ家へと案内された。
「それじゃあ高坂、さようなら」
「おうゼシア、また明日なー」
学校帰りの帰り道、光とゼシアの二人が別れて各々帰路へとつき歩いて行く。周囲に感じる気配に気付かない素振りを見せながらゼシアは歩き続け、滝音市郊外にポツンと立つ西洋屋敷の敷地の中へと入って行く。
「ただいま」
そう言いながら屋敷の扉を開けて中に入り、外から開けられない様に鍵を閉めるとゼシアは顔に浮かべていた穏和な表情を消し去り、鋭い表情へと変わり屋敷内を歩き始める。
道中で自分の部屋に寄り、学校での荷物を置き制服から紫を基調とした軍服に着替えると屋敷の奥へと進んで行き中より金属が擦れ合う音を響かせる他の部屋より一際大きな一室にたどり着くと、中に誰か居るのかをノックして確かめる様な事をせずに扉を開けて部屋へと入った。
「ずいぶんと退屈そうだな、ソルト」
「っ!お帰りなさいませ、皇太子様!」
ゼシアが入った部屋──トレーニングルームでは先客としてソルトがチェストプレスマシンにて筋トレをしており、ゼシアが入って来たのを目にするやソルトは慌ててチェストプレスマシンから立ち上がり敬礼の姿勢を取る。
「一人寂しく筋トレをするなら、少し僕に付き合え」
「はっ!」
そう言うとゼシアは軍服の上を脱いでシャツだけになるとランニングマシンの元まで行き、時速九キロ距離五キロで設定を行う。
チェストプレスマシンからゼシアの元へと駆け寄ったソルトもゼシアが操作するランニングマシンの隣のマシンで同様の操作をすると、二人並んでランニングマシン上で走り始めた。
「それにしても……」
「どうした」
「まさか皇太子様がこの様な所にいらっしゃるとは思いもよりませんでした」
ランニングマシンで走りながら、二人は他愛の無い話を始める。鍛えられた彼等にとって一定のペースを保ちながら走る事は手慣れたものである。
「リーリスによって送り込まれた部隊に事前に通信を入れ、密かに準備を進めていた結果だ」
「からこの事は、本国はご存知で?」
「諜報部隊には僕の事は秘匿する様に釘は刺していたが、既にバレていると見てもいいだろうな」
ジェネルやリーリス、更には父親であるクロノーア皇帝にすら地球行きを秘匿していたと聞かされソルトはゼシアの行動力に舌を巻くも何処か不安を感じる。
そんな彼の様子を見て自分の地球行きにいい感情を抱いていないと気付いたゼシアは、ソルトに向かって鼻を鳴らしながら口を開く。
「何だ?皇太子は戦場に出るなと言いたいのか?」
「いえ……まあ……はい……」
「正直だな……まあ、否定はしない。僕が戦場に赴くなんて、一般兵なら考えられないだろうしな。気にしないのは父上位だ」
「皇帝陛下が……ですか?」
自分の息子が戦場に立つというのに気にしないと息子自ら言われる事にソルトは疑問の声をあげると、自嘲する様に話し始める。
「父上は他人を信用していない、血を分けた息子である僕でさえもだ。父上にとって自分以外のクロノイドは駒でしかない」
「それは……」
ゼシアの口から語られるクロノーア皇帝に対する在り方にソルトは言葉に詰まる。他者を信用しないその在り方は、力による支配者としては普遍的なものである。しかし総じてその思想の持ち主は数多の敵を作り上げ、やがてただ一人取り残されるのが世の常だ。
しかし、クロノーア皇帝に仕えるソルトは、クロノーア皇帝がクロノシアスに住まうクロノイド全員が団結しても敵わぬ程の力を有している事を知っており、その力をもって支配体制を成り立たせているのだと理解する。
「父上が地球侵攻に自ら出向かないのは、他を全て見下す父上が手駒が居るのに自ら動く意義を見出だせない事と、手駒達に自らの意思で自身の意に沿う行動をさせる事で、手駒の忠誠心を図っているのだろう」
「……それで、よろしいのでしょうか……」
ゼシアの話を聞いてソルトは思わずクロノーア皇帝の行動に否定的な態度を取ってしまい、ゼシアにより睨み付けられ尋常ではないプレッシャーを浴びせられる。クロノーア皇帝の元に謁見した際に浴びせられた圧と酷似したものをぶつけられソルトは冷や汗をかくが、ゼシアはすぐにプレッシャーを引っ込め小さく首を振って口を開いた。
「今のは聞かなかった事にする」
「あ……ありがとうございます……」
失言を聞かなかった事にしてくれたゼシアにソルトは頭を下げると、ランニングマシンが停止しそれに合わせてゼシアが口を開く。
「父上の思惑に乗る事となっても、地球侵攻はすべてのクロノイドのために成し遂げなければならない……それは理解しているな、ソルト」
「はっ!」
ソルトの敬礼を背にゼシアはランニングマシンから離れ、二人のランニング中に来ていた諜報部隊の一人が運んで来たスポーツドリンクを手に取る。
地球産のスポーツドリンクのラベルを目にして、体育の授業で光や縁達が同様のものを飲んでいた事を思い出しジャナ部の面々の顔が脳裏に過り、ゼシアは目を瞑り頭を振って追い払うとキャップを開けて体へと流し込んだ。
誰も居なくなったフォトンガードナー基地を、一人光平が靴音を鳴らしながら歩いて行く。
歩き続けてフォトンファイターが格納されている第一格納庫へと入って行くと、機体の各所にコードが接続されたフォトンファイターとコード全てが集約されたパソコンの前で何かを操作している博士を見つけ、光平は徐に声をかけた。
「フォトンファイターの調子はどうだ?」
「……あまりいいとはいえんの」
光平からフォトンファイターのコンディションに関して問われた博士は、モニター上に表示されているフォトンファイターの機体状況を目にしながらそう答える。
モニターにはフォトンファイターの細部についての情報が映し出され、一見すると異常の無い様に見えるのだが、動力炉であるフォトンリアクター関係の数値がキーボード横に置かれたフォトンファイターの整備マニュアルに記された規定値とは異なっていた。
「フォトンリアクターに掛けたリミッターが外れておる。今は第一段階のリミッターしか外れておらんが、切っ掛けがあれば一気に外れるぞ」
「やはりか……久遠の話から何となく察していたが……」
光平は久遠からフォトンリアクターの出力異常を聞いてから博士に真っ先に調査を依頼した裏で、自分でも出力異常の原因に関して調べていた。そこで思い至ったのがフォトンリアクターに課せられたリミッターで、それが外れたのが原因だと推測して以来博士からの調査結果を待っていた。
「ふむ……どの様な状況でリミッターが解除されたのか、聞いてはおるのか?」
「ああ、光君が縁からフォトングラストのコントロールを奪い取った際に外れたらしい……博士はこの事についてどの様に見る?」
「……光なら、この出力でも大丈夫だとフォトングラスト側で判断したからじゃろうな。どうする?今からでもリミッターを掛け直すか?」
光が操縦した事によってマシン側からリミッターを解除したのだと博士から告げられ、光平は眉間に皺を寄せ考え込む様に目を閉じる。
そんな彼に博士は再度リミッターを掛けようと提案するが、光平は険しい表情のまま小さく首を振りリミッターを掛けるのに反対する。そんな光平の素振りを見て博士は僅かに眉が跳ねると、光平に確認と言わんばかりに問いかけた。
「よいのか?本当にリミッターを掛けなくて……」
「ああ、苛烈となる戦いに余計な制約は持ち込めない。最終的には全てのリミッターを外す事も考慮していてくれ」
光平の口から語られたフォトンリアクターの全てのリミッターの解除、それを聞いて博士は小さく責める様に呟く。
「あの二人に恨まれるぞ」
「彼は覚悟はしているみたいだけどね……やはりあの二人には恨まれるか。けど……それを背負っていかなかければいけないんだ」
その選択も恨まれる事も承知の上で選んだものだと光平は言い、それを聞いた博士はそれ以降何も問わずにフォトンファイターを見上る。光平も懺悔の色を浮かべて、照明で照らされるフォトンファイターを見上げた。
クロノイド制圧軍基地内の、クロノギアス格納庫にて、一機のクロノギアス・ソルジオが運び込まれる。
一週間前にソルトが駆り地球にてフォトングラストを相手に戦った時とは違い、バックパックに一つのコンテナを背負ったそれは、各所の装甲が塗装されていないのも合間って、間に合わせで作り上げられた様にも思える機体だった。
「こんな機体で、フォトングラストの相手が出来るのかねぇ……」
格納庫に運び込まれる最中のクロノギアス・ソルジオを見て、一人格納庫へと来ていたリーリスがその姿を見てそんな事を呟くと、彼女の元へと何者かが近付く足音が聞こえてくる。
「この機体に課せられた役割は戦闘とは別件です。ですが、戦闘行為の可否に関しては十分可能です」
リーリスの背後から年端のいかない少女の声が聞こえ、リーリスは背後へと振り返るとそこにはリーリスより頭一つ分背の低いクロノイド制圧軍の軍服に身を包んだ鋭い瞳の少女が居た。
「あんたは?」
「お初にお目にかかります、リーリス諜報部長。次回の出撃においてこのクロノギアス・ソルジオに搭乗させていただきます、オーラ・ラウムツァイト二等兵であります」
素性を問いかけたリーリスに少女──オーラは綺麗な敬礼を行い自らの素性を明かし、彼女の素性と階級を聞いたリーリスは目を丸くするも、小馬鹿にした様に鼻で笑うとオーラの顎を掴んで顔を持ち上げさせて口を開く。
「へぇ……こんなひょろっこい嬢ちゃんが出るのかい……ジェネルも自棄が回ったのかねぇ?」
「ジェネル将軍の作戦に貴女が口を出す権限はございません」
自分だけで無く上司であるジェネルにも舐めた態度を取られムッとした表情で反論するオーラの態度が癇に障ったのかリーリスはピクリと眉を跳ねあげるとそのままオーラへと問いかける。
「あんたの前に兵長が既に地球に行き、フォトングラスト相手に負けてんだ。二等兵ごときのあんたが相手になると思ってるのかい?」
先の戦闘で階級が上であり、反乱分子掃討の実績を数多く持つソルトが敗れたのはオーラの耳にも入っている。リーリスはその事も踏まえて二等兵止まりのオーラがクロノギアス・ソルジオに乗った所でどうなると言いたげに嘲笑うと、それに対してオーラは何とでも無い様に返す。
「私の任務にフォトングラストとの戦闘は入っていません。あくまで戦闘行為は本来の任務の達成の過程で行わざるを得ない場合のみ行う様に上から言われております」
「ふぅん……つまらないねぇ……」
あくまで自分の命令にはフォトングラストとの戦闘は入っておらず、任務の達成を優先しようとする発言にリーリスはつまらなそうに鼻を鳴らすが、続く言葉に目を見開いた。
「ですが……帰還の際に向こうが妨害する様であったならな、私は戦闘を行うつもりです」
「…………」
任務も果たす、戦闘も行う、あわよくばフォトングラストを倒そうとするオーラの姿勢を聞いて、リーリスは目を見開いていると胸の内より笑いが沸き起こり、オーラの前で思わず噴き出す。
「──ぷっはははははっ!中々欲張りな子じゃないか!気に入ったよ!」
リーリスはそう言うと笑いながらオーラの背をバシバシ叩き、背中を叩かれるオーラから不快感を露にした視線を向けられる。
リーリスはそれを特に気にした様子は無くひとしきり笑い続けると、お腹を抑えながら目尻に浮かんだ涙を拭うと改めてオーラへと向き合いクロノギアス・ソルジオへと目を向けながら問いかけた。
「そう言えば戦闘行為は任務には含まれていないっていってたねぇ?あんたの行う任務って何なんだい?」
「申し訳ありませんが、お答えする事は出来ません」
戦闘行為を含まない地球へと任務と聞き、どの様な内容なのか気にかけるリーリスにオーラ口では謝罪をしつつも素っ気なく答える。
「いいじゃないか、減るもんじゃあるまいし」
「機密性が減ります。ここで話す事で、何処かで任務内容が漏れる可能性がある以上お答え出来ません」
「つれないねぇ……」
任務について気になるリーリスはどうにかして聞き出そうと頭を回し、ふとオーラの階級を思い出して意地悪な笑みを浮かべるとオーラを指差して口を開く。
「それじゃあ、任務について教えな。上官命令だよ」
「──っ!」
あくまで二等兵でしかないオーラに対して、命令という形で任務についての説明をさせようとするリーリス。
オーラも命令という方法で聞き出しに来るとは思っておらず目を見開くと、すぐに苦虫を噛み潰した様な表情を浮かべて俯くとそんな彼女を見てリーリスが嗜虐的な笑みを浮かべて顔を近付けると、彼女の背後より足音が聞こえてきた。
「そこまでだ、うちの部下をこれ以上玩具にするな」
「っ!ジェネル将軍!」
リーリスの背後より現れたジェネルの姿を見つけたオーラはすぐさま彼の元へと駆け寄り、リーリスは邪魔が入った事に舌打ちを打つ。
「ちっ……あと少しだったってのに……」
「たかが二等兵を相手に何をやっているのだ貴様は……それでも諜報部隊の統括なのか?」
「失礼だね、諜報部隊だからこそあんたがその子に命じた任務を聞こうとしてたんじゃないか」
「それでも限度があるぞ貴様……余りに身勝手が過ぎるのなら、軍法会議だぞ」
「っ……はいはい、止めりゃあいいんだろ?」
リーリスがオーラに詰め寄っていた理由を聞くと、リーリスから視線を向けられたオーラは彼女へと鋭い視線を向け、ジェネルはリーリスの態度に眉間に皺を寄せて苦言を呈すると、リーリスは舌打ちしてオーラへの追求を止めると口にする。
それを聞いてもリーリスへの警戒の色を解かないオーラを見て、嫌われたものだねと自嘲しながらリーリスは格納庫より去って行った。
「全く……あの女狐め……」
去り行く背中を見送って悪態をつくジェネルだが、部下の前であった事を思い出してすぐさま咳払いをして誤魔化すとオーラに向き直って口を開く。
「コホン、オーラ二等兵、これよりクロノギアスの最終チェックに移る。明日の出撃に備え、万全にしておけ」
「了解!」
ジェネルの命令を受けたオーラはジェネルに向かって敬礼すると、クロノギアス・ソルジオの元へと駆け足で向かって行く。
そんな彼女を見送るとジェネルは懐からタブレットを取り出し、建造所の映像を映し出す。そこには内部フレームが完成した新たなクロノギアス・ソルジオの姿があった。
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