第1話
前回のあらすじ
数多のクロノギアスの特徴を兼ね備えたクロノギアス・キュマーラに苦戦を強いられる縁とフォトンファイター。
しかし、土壇場で改修の終わったフォトンランダーとグライダーが駆け付け、フォトングラストに合体し逆転した。
星明かりが照らす滝音市に、轟音が響き渡り土煙が立ち込める。土煙内より姿を現したクロノギアスは、眼前に迫って来るフォトングラストの拳を顔面に受け、再び吹き飛ばされて土煙をあげて地面に倒れ伏した。
「縁、今だ!!」
「光子剣、抜刀!!」
倒れたクロノギアスを目にし今が好機だと睨んだ縁は光子剣を抜刀し、クロノギアスの上空へと飛び上がり光子剣を上段に構える。
「光子剣、フォトン・ストライク!!!!」
縁の叫びと共にフォトングラストはクロノギアス目掛けて急降下し、中心線を真っ二つに切り裂き背後へと切り抜ける。切られたクロノギアスは僅かに硬直し、切られた箇所を境に左右へずれると爆発を引き起こす。
フォトングラストは光子剣を血振りをする様に振るい刀身を消し、爆散したクロノギアスへと視線を向け完全に倒した事を確かめると夜空へと飛び去って行った。
クロノギアスが撃破され上空の時空転移ゲートが閉じ、フォトングラストが去って行った滝音コーポレーションとは反対側の山岳部、そこに僅かな光の歪みが起きると歪みは小さな戦闘機となる。
光学迷彩で姿を隠していた戦闘機が山岳部の拓けた場所へと着陸すると、その周りを取り囲む様に黒一色の外装に身を包んだ男達が二十人近く現れ、その内の一人が戦闘機へと近づいて行く。
男が戦闘機へと近付くと、戦闘機は男の接近を待っていたかの様にコックピットハッチが開き、スチームがコックピット周りを包み込む。スチームに覆われて視界が塞がれる中近付いた男はその場で足を止めると何者かがコックピットから降りる音を耳にし、男は深く頭を下げるとその背を見た周りの男達も頭を下げる。
時間が経ちスチームが晴れて来た所で、戦闘機に一番近付いた男が眼前に居るであろう戦闘機のパイロットに向けて、敬愛の情を込めて出迎えの言葉を口にした。
「よくぞいらっしゃいました、皇太子様」
男がそう言うと同時にスチームが晴れ、戦闘機のパイロットの姿が露になる。その人影は周りを囲む男達よりも小柄な、それこそ少年という言葉が相応しい姿のパイロットは、眼前で頭を下げる男に頭をあげる様に手で合図を送り、全員が頭をあげたのを見計らって男へと声をかける。
「準備は出来ているんだろうな?」
「はい、つつがなく進んでおります……それではただ今より案内致します」
男はそう言うと戦闘機を囲む男達を引き連れて木々の中を進んで行く。戦闘機から降りたパイロット──皇太子は手首の操作ユニットのボタンを押し戦闘機の光学迷彩を再度展開すると、 先行く男達の後を追って森の中へと消えて行った。
「あ゛~~~~っ、今日から二学期か~~~~」
「力が抜ける声を出すな……」
夏休みが終わった二学期始業式の日、光は久遠や花音、縁と共に常磐高校の通学路を歩いていた。夏休みが終わり力が抜ける様な声を出す光に久遠が呆れた口調で突っ込みを入れ、そんな光景を縁と花音の二人は苦笑いしながら見つめている。
「今年の夏は休めた気がしねぇ……」
「定期的にクロノイドの侵攻があったものね、三人共お疲れ様」
夏休みの間にもクロノイドの侵攻はあり、その度に光と縁、久遠の三人は迎撃に駆り出されていた。
その事を知っている花音は三人に労いの言葉をかけると光は小さな声でおう……と呟き、久遠は小さく頷き縁も微笑みながら頷く。
そんなやり取りを四人がしていると背後より何者かが走って来る音が聞こえ、久遠と縁は僅かに身構えるも足音に聞き覚えのあった光と花音は気にせずに歩き、足音の主が勢いよく光の背を叩いた。
「いでぇっ!?」
「おはよう!!高坂部員!!水代部員や有沢部員、滝音部員もおはよう!!」
「おはようございます部長。少しは自重してくださいよ」
光の背中を叩いて四人へ声を掛けた白部はそう挨拶をすると返事を返した花音に呆れられ、光もまたかと言いたげな視線を白部へと向ける。
このやり取りが何度も行われている事を表す一幕だった。
「それに関してはおいおい考えよう。それよりも、君達は既に耳にしているか?」
「……?」
「えっと、何をですか?」
「水代、何か知ってるか?」
「いいえ……部長、一体何の事ですか?」
唐突に四人にそんな事を聞いて来て光達は何事かと顔を見合わせると、心当たりが無いと首を傾げる。
「その反応からするに本当に何も知らない様だな……水代部員なら知ってそうだと思ったが……」
「だから何がですか?確かに委員会の活動をしてますけど、何の事について話しているのか判らないと、どう答えればいいのか分からないんですが」
白部の言う何かの正体が判らなければ、どの様な答えを返せばいいのか分からないと花音は言い、光もそれに頷く。
二人のやり取りを見て確かにその通りだと納得した白部が腕を組んで頷くと、改めて四人へと口を開いた。
「どうも今日常磐高校に転校生が来るらしい」
「転校生ですか……?」
「それ、本当なんですよね?」
「本当だ、昨日一昨日に職員室で転校手続きが行われているのを見てたからな」
花音と光にその情報が正しいのか疑われると、不服だと言いたげな視線を向けながら白部は情報の根拠を言う。
教師陣で転校の話が出ていたのを目にしたからこそ委員会で教師陣と接触する機会の多い花音も知っているかと思った問いだったらしい。
「教師間で話が出てるなら、真実なんでしょうね……それで、何処の学年に来るんですか?」
「軽く耳に挟んだら、どうやら二年生らしい。もしかしたら君達と同じクラスになるかもしれん」
転校生が二年のクラスに入って来ると白部が言い、何となく白部が求めているものに気付いた縁が徐に手をあげる。
「もしかして、僕達にその転校生の取材をして来いって事ですか?」
「察しがいいな有沢部員、その通りだ!」
自分が言いたい事を当てた縁に笑みを浮かべながら白部がそう言うと、光と花音は呆れた様な目を向け、久遠は小さく溜め息をつく。そんな三人の様子など気にせず白部は四人に向かって口を開く。
「今日の放課後、転校生が来たクラスに向かい取材をするぞ!」
「そんな急に決めても……」
「何らかの事情で取材出来なかったらどうするつもりなんですか?」
「後日許可を取って行う!」
「取材する事は決定事項なんですね……」
転校生に対して取材を行う事を決定付けている白部を見て光と花音、そして久遠の三人は揃って溜め息をつき、ただ一人縁だけが苦笑いを浮かべていた。
通学の際にそんなやり取りを行い、学校に着いた光達は学年の違う白部と別れて教室へと向かう。
夏休み前と変わり無くきっちりとしているクラスメイトも居れば、夏休みが明けてだらしなくしているクラスメイトが居る教室は、それぞれがどんな風に夏休みを過ごしたかで賑わっている。
往々にして話題にあがるのは夏休みの宿題を初めとした勉強関係、そして白部と同様に昨日一昨日の部活動の際に聞いたのか転校生の話題があがっていた。
「以外と知らなかったの俺達だけだったんだな」
「まあ、昨日一昨日は学校に来てなかったものね」
転校生の話題で持ちきりになっているクラスを見て光がそんな事を呟くが、花音がそんな事は無いとフォローを入れる。
光と縁、久遠の三人は昨日一昨日続けてフォトンガードナーの基地でシミュレーターでのトレーニングを行っており学校には来ておらず、花音は学校に来てはいたものの委員会の方に集中しており職員室で教師の話を聞きに行く様な事が無かった。
その事に気付いた光と花音は、新聞を扱うジャナ部の人間がこれでいいのかと頭を悩ませるも、二人が悩む時間を与える事無く全校集会の時間が差し迫って来ると、教室内から人が体育館へと向かって行く流れが出来始める。
自己嫌悪をそこで止めると光達は体育館へと向かい、生徒達が集まった中見知らぬ顔が居ないかをキョロキョロしながら探すも、人が多過ぎて探しきれなかった。
(こりゃ、放課後に探した方がいいな……)
光は体育館内で噂の転校生を探すのを諦め、始まろうとする全校集会へと意識を向けて壇上にあがる校長へと目を向ける。
そのまま校長からの当たり障りの無い話に、夏休み中にあった大会の表彰等が終わり、全校集会が終了し各々教室へと戻って行く。
そして大掃除を終えて残るはホームルームだけとなった休み時間、光の席を中心にジャナ部の四人は集まっていた。
「──それで、どうやって転校生の居る教室を探すの?」
縁がそう光へと問い掛ける。彼等が集まった理由は、朝に白部より言われた転校生への取材についてどうするのかの話し合いであった。体育館で見つけられなかった以上、白部がやって来る前にどうにかして放課後の短時間で見つける必要があり、こうして頭を捻っていた。
「……まずは、一番騒がしいクラスを探す所からだな。転校生が入って来れば、多少は騒がしくなるだろうし」
「……ああ、そうだな」
縁の問いに対する光の答えを聞いて、久遠は遠い目をして小さく呟く。彼女が転校して来た際の出来事を思い出したのだろう。
「んで後は簡単だ、そこで転校生が誰か聞けばいい」
「……こうして考えると簡単な事ね……何人が沢山居る体育館で探そうとしてたのかしら……」
改めて考えれば簡単に見つける方法があったのに、それに気付かずに体育館の中で探していた馬鹿さ加減に四人揃って溜め息をつく。
すると廊下から足音が聞こえ始め、その足音の正体に気付いた光が三人へと告げた。
「もうすぐ先生が来る、早く席につけ」
光の注意に三人が頷くと揃って各々の席に座り、足音は教室の扉の前で止まると担任の先生が廊下より教室へと入って来る。
「おーい、席につけー!」
教壇に立ち手を叩いて注目を集めるとそう言い、未だに騒いでいるクラスメイトを席へとつかせる。
全員着席したのを見るや、担任は小さく頷くと手元に用意していた名簿を開き、全員が居るのを確認して小さく頷くと口を開く。
「さて、もう幾つかのクラスで噂になっているし、多分ここでも噂になってたんだろうけど……今日から転校生がこのクラスに入って来る」
担任の言葉を聞いて教室内がざわめき出す。噂の転校生がまさか自分達のクラスに来るとは思ってもいなかったからだ。
(……ってか、探す必要無くなったな……)
転校生が自分達のクラスに来ると聞いて、光は思わず頬をひきつらせる。視線を他のジャナ部のメンバーへと向けると花音も光と同様に頬をひきつらせており、久遠は小さく溜め息をつき、縁は若干の苦笑いを浮かべていた。そんな四人とは裏腹に転校生についてヒートアップする教室で、担任が静かにさせる様手を叩いて呼び掛ける。
「はいはい落ち着け……今から呼んで来るから少し待ってろ」
そう言うや担任は教室を出て行き、件の転校生が居るであろう場所へと一人向かって行く。残された生徒達は近場のクラスメイトと転校生について話し合っていた。
「まさかうちに転校生が来るなんてな!」「滝音さんの事もあったし、来るとは思ってなかったんだよなぁ~!」「今度はどっちだろう?」
転校生の事で話題が持ちきりになる教室で、困った様な表情を浮かべながら周りのクラスメイトに相槌を打つ花音、ひとまず後は光達がどうにかすると割り切り、沈黙を貫く久遠、花音と同様に転校生の話を振られ相槌を打つ縁を見ながら、光はふとある事を思い出す。
(大物を退治した後に急に出て来る人物か……)
それはロボットアニメにおける一種のお約束、強敵を倒したら次なる強敵のフラグが立つといったものだった。
そして総じてそれは名ありの幹部のパターンが多く、同時に何でこんな事を思ってしまったのか頭を振る。
(バカらし……転校生がクロノイドって訳でもありゃしないし……)
転校生がクロノイド制圧軍の主要人物では無いかと思わず考えてしまい、そんな事はあり得ないと切って捨てる。
未成年が主役のロボットアニメだと、敵側のエースが主人公の学校に潜入のため転校して来るといったものもあり、ついそちらに思考が行ってしまっていた。
そんな事を思っている間に廊下から二人分の足音が聞こえ、教室内も静かになると扉から担任が入って来て教壇に立つ。
転校生らしき人影を外に待たせたまま全員が静かになるのを見ると、小さく頷いて口を開いた。
「転校生を紹介するが……その前に一つ、彼は少し特別な事情があってな、物珍しさに余り追求するんじゃないぞ」
担任がそう前置きをすると、再び教室内がざわめき出す。訳ありの転校生……話題にならない訳が無い。
「訳ありか……どんなんだ?」「もしかしたら、外国からの留学生だったり!」「あー、ありうるかも。それで慣れてない環境での質問攻めはやめろって事か……」
最初はどの様な事情があるのかの考察だったが、誰かが口にした外国からの留学生に納得がいき、それが決まったかの様な話になる。
担任はざわめく教室を見て小さく溜め息をつくと、手を叩いて注目を集めて生徒達を静かにさせた。
「静かにしろー、転校生を呼べねぇだろー」
担任の注意を受けて教室はすぐに静かになる。全員が静かになったのを確認した担任は、扉へと向かって声を掛ける。
「よし、入って来てくれ」
担任がそう言うと扉が開き、廊下から転校生が教室に入って来る。その姿に男女共々釘付けになる中、光は一気に冷や汗が流れた。
転校生は細身に引き締まった体で肌も透き通る様に白く、顔つきも整っているイケメンという言葉を絵に書いた様な男子だったが、それだけなら光は冷や汗はかかない。
担任の案内の元教壇前に立った転校生は、自分に向けられる注目なぞ意にも返さず冷静にクラスメイトに向かって頭を下げる。
「ゼシア・タキオライトです。よろしくお願いします」
そう自己紹介を終えた転校生──ゼシアの髪が動きに合わせて浮き上がる。アメジストを思わせる透き通った紫の髪、ピジョンブラッドを思わせる深紅の瞳と、現実離れをした容姿に光と久遠、そして縁を除いたクラスメイトは息を呑む。
息を呑まなかった三人は彼の容姿を目にした瞬間、とある事を確信した。
ゼシア・タキオライトは、クロノイドだ──
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