第9話
前回のあらすじ
タキネ祭りを守るために郊外で分離・合体するクロノギアスを相手に戦った光達。
分離した形態で同型のマシンを同時に落とさなければ倒せないという状況の中、光は縁から操縦を代わりフォトンライフルの二挺持ちで殲滅した。
クロノドローンと合体・分離するクロノギアスとの戦闘から一夜明けたタキネ祭り当日、光や縁、白部のジャナ部男性陣はタキネ祭りが行われる滝音中央公園に集まっていた。
「よくやってくれたよ、こうして無事にタキネ祭りが開催されたのだからな」
頷きながらそう言う白部は周囲を見回し、白部の言葉に光達も頷くと、タキネ祭りの活気で溢れる会場へと目を向ける。
昨日のクロノドローン襲来と破壊行為によってタキネ祭りは開催は絶望視されていたのだが、クロノドローンの破壊行為があくまでフォトングラストを誘き出すために行っていたものであったためか最低限であり、その後の戦闘も光達が郊外の森林地帯に誘導した結果街に被害があまり無かったのが幸いとタキネ祭りは開催されたのだ。
「それにしても、ずいぶんと遅いな……」
祭りの景色を見て上機嫌な白部だったが、ふと腕時計へと目を落として僅かに顔をしかめる。開催決定の告知が出回った途端白部がジャナ部に送った集合時間は過ぎたというのにまだ女性陣が集まっておらず、企画の勝負が行えない事に若干不機嫌になりつつある。
「部長、流石に今回は誤差ですって」
「女性は準備に時間が掛かりますからね」
「人混みの誤差も、身支度を整える時間も加味しての時間だったのだぞ!?それを越えられると「すみません!遅れました!」──っと、やっと来たか」
不機嫌になる白部を宥める様に光と縁が声をかけるが、宥める理由を加味した結果の時間を越えられた事に白部は声をあげようとするが、その瞬間に花音の謝罪の声が公園の入口より聞こえて来る。ようやく来た二人に呆れた様な声を出しながら白部が声の方へと振り向き、光達もそちらへと振り向く。
「ごめんなさい!少し面倒な手合いに絡まれてて……!」
「……なあ、本当におかしく無いんだな?あんなのに絡まれると些か気になるのだが……」
そこに居たのは陽光を思わす薄い黄色に牡丹の花をあしらった柄の浴衣の花音と、淡い水色に睡蓮をあしらった柄の浴衣の久遠が居た。
「変な輩か、十中八九余所者だろうな」
「……まあ、少し気持ちは解らなくもないな」
白部は二人に絡んだという連中に思わず顔をしかめるが、光は二人を見て思わずそんな言葉を漏らす。花音と久遠、どちらも学校でよく見知っているというのに衣服一つ違うだけでここまで化けるとは想像出来ず、白部が口を開くまで見とれていたのだから。
「そ、そう……?」
「…………やっぱりおかしいのか……」
光の呟きが聞こえたのか花音は照れた様子で髪の毛を弄るが、久遠はむしろ不機嫌な表情を浮かべるとこの場を去ろうとし始める。彼女は自分の格好がおかしいから声をかけられたのだと思っていたが故に、光の言葉は逆効果だった。
「あー待て待て!変って訳で声掛けようとした訳じゃねぇ!似合ってるから声かけたい、お近づきになりたいって気持ちで声掛けようとしたんだよ!」
「そ、そうなのか……?」
「そうそう」
慌てた光が何で声を掛けられたのかを説明すると、先程の光の呟きの意味を理解して久遠が顔を背けてそっぽを向く。自分でも墓穴を掘ったと気付いた光は頭を抱えながらも立ち直り、改めて白部の方を向く。
「……ひとまず、これで全員集まりましたな」
「うむ!それでは常磐高校ジャーナリスト部企画!高坂VS有沢五番勝負INタキネ祭り、開始だ!」
白部による企画始まりのコールを合図に、光達は勝負の舞台となる屋台へと足を運んで行く。祭りの喧騒に包まれる五人の表情には、確かな楽しみの色が浮かんでいた。
「…………………………」(ズーン……)
「た、高坂……大丈夫……?」
五番勝負の最初の一番として訪れた射的屋、そこで行われた光と縁の勝負は今までに無い程に白熱した。
二分間の制限時間の間にどれだけ景品を落とせるかという勝負で光は早速二挺持ちを披露し、素早い片手リローデッド等真似出来る様なものではな技術を見せて観客を沸かす。
その後に続く縁にも観客達も光の様な常人離れした技術を縁に求める様な目を向け、縁はそれに応えた。
一発のコルクが景品にぶつかるとその跳弾を利用して立て続けにもう一つ落とす。そんな偶然起こるか分からない事を縁は狙って起こし、立て続けに景品を落として行く。
最後の三十秒では跳弾は全て最上段の大物に当たり続け、ラスト一秒に放たれた一発は狙いの景品を落とすだけで無く、跳弾が命中していた大物をも落とすというとんでもない技術を見せ、光を完膚無きまでに叩き潰した。
大敗北を喫した光はそのショックが尾を引き、後の勝負でも平常ならもう少し食らい付けるものすら食らい付けずに全敗し、その結果中央公園のベンチで項垂れている。
「ほ、ほら!元気出しなって!焼きそば買ってきたから!」
「…………」
花音は項垂れる光を元気付けようとちょうど手に握っていた焼きそばを差し出すと、光は横目にそれを見て力なく手を伸ばして受け取る。
そのまま上体を起こして膝に焼きそばの容器を置き、割り箸を割って蓋を開けると、鬱憤を晴らすかの様に一気に焼きそばを掻き込んだ。
「んぐ……っぶはあっ!だーっ!また負けたーっ!」
一気食いして暗い雰囲気は吹き飛びはしたが、負けた悔しさは残っている様で焼きそばが半分無くなった容器を膝に置くとそう力強く叫ぶ。
まだ負けは引き摺ってはいるも元気を取り戻した光を見て花音は安堵し、手にしていたラムネ瓶を差し出しながら声を掛ける。
「よかった、元気になって……ほら、ラムネ」
「っと、済まんな水代。金は払うから……合わせていくら?」
「八百円」
「了解。あ、余りは迷惑料な」
ラムネ瓶を受け取った光は財布を取り出しながら焼きそばとラムネの値段を聞き、花音から告げられた値段より多めの千円札を手渡す。
花音が千円札を財布の中に仕舞っている最中、光は公園の中央の櫓を囲んで踊る人達の姿を見つめていた。
「高坂?どうしたの?」
「ん?ああいや…………約束を守った結果、こんな光景を見る事が出来たんだなぁって思ってさ」
「──」
光の言葉を聞いて花音は目を見開き言葉を無くすが、光はそれに気付かずに言葉を続ける。
「クロノドローンが出現した時、俺は内心こりゃあ駄目だって思ったんだよ。こんな事になっちまっちゃあ、開催される訳が無いってさ」
「確かにその時には縁と勝負するつもりだったし、その機会が潰されるのは我慢ならなかった。けど、仕方無いっても思ってた。けどな……」
そこで言葉を区切ると光は花音へと顔を向ける。その顔には心から救われたと思える微笑が浮かんでいた。
「お前が俺とした約束、それが俺を立ち直らせたんだよ。約束があるんだ、潰させてたまるかってな」
「光……」
「だからさ……ありがとう、お前のお陰で今の時間があるんだ」
そう言って光は花音の手を取る。光の雰囲気に呑まれていた花音は、手に伝わる感触で正気に戻ると顔を真っ赤にして手を振りほどく。
「ちょ、ちょっとどうしたの高坂!なんからしくないよ!」
「あー……やっぱり?ちょっとキザったらしかったか?」
顔を真っ赤にして光の様子に文句を言う花音を見て、光も下手なキャラをやってたと反省して頭を掻く。それを見て何時もの光に戻ったと花音は安堵して、目線を踊る人達の方へと向ける。
無邪気に笑う子供達にそんな子供を見守る両親達、祭りの音頭に合わせて一緒に躍り互いに笑うカップル達、長年続いていた伝統の祭りが止めどなく行われて年に一度の楽しみに笑い合う老人達、多くの笑顔が溢れていた。
そんな笑顔を失わせなかった切っ掛けに自分との約束があると知ると、花音はむず痒い様な感覚に顔がニヤけて来る。
「水代?」
「何?」
「なんだよその顔、締まりねぇぞ」
「いいの、気にしないで」
ニヤける花音を不思議に思った光が何故そんな表情をするのか問い掛けるが、花音はそれを微笑んではぐらかす。
はぐらかされた光は釈然としなくとも、花音が心から笑っていると見るとこれ以上追求する事はせずに再び視線を中央の櫓へと向ける。
そのまま二人は躍りを眺め、無言の空間が広がる中静かな時が流れて行き、クライマックスの花火の時間が迫って来るのを二人が座って待っていると、二人の元へ近付く足音が聞こえて来た。
「光、水代、縁は見なかったか?」
「久遠?縁がどうしたんだ?」
二人だけの空間に特に気にする様子も無しに入って来て、久遠は二人にそう訪ねる。
むず痒い空気が霧散した中で光は縁の居場所を思い出そうとするが、勝負を終えて別れて以来出会ってはいない事を思い出す。それを伝えようとした瞬間、久遠の背後に人影が現れた。
「こーら滝音部員!野暮天だぞ今のやり取りは!」
「部長まで、どうしたんですか」
久遠の背後に現れ軽くチョップを放つ白部に花音も目を丸くする。対してチョップを受けた久遠は頭を抑えながら首を傾げて問い掛ける。
「私が何をやったのか……?私はあくまで縁の居場所を聞きに来ただけなのだが……」
「それでも時と場合があるのだよ。せっかくいい雰囲気だったというのに……」
自分が何故叩かれたのか判らない久遠に白部が理由を説枚するが、後半は周囲の喧騒に紛れて久遠だけで無く光と花音も聞き取れずに首を傾げる。
「それに有沢部員はたこ焼きを食べた際に歯に青のりがついたらしくてな、今人目のつかない所で口をゆすぎに行っているぞ」
「何で部長が知ってるんですか?」
「途中ですれ違った時に聞いた。後で来ると入っていたからもう此所で待つか」
そう言うと白部は光の横に腰を下ろしアメリカンドッグにかじりつき、久遠も花音の隣に座りかき氷を食める。そんな二人に挟まれた光と花音は目をぱちくりさせて顔を見合わすと、揃って苦笑して再び櫓へと目を移す。
「もうそろそろ花火が始まるぞ!」
腕時計を見てそう言った白部が視線を空へと向け、三人も揃って空へと目を向ける。周囲の人々も空を見上げる中、夜空に一筋の光が登り大爆発と共に大輪の華を咲かせた。
「…………っぺっ!!……はぁ……はぁ……っ」
櫓から遠く離れた位置に設置された水飲み場にて、縁が一人口をゆすぐ。
木々に覆われた場所に設置された影響か人気の無い場所でゆすいでいた水を吐いた縁は、普通にゆすぐのではあり得ない程に息を荒げていた。
「はぁ……はぁ……花火、か……行かないと……」
息を荒げる縁の耳に空へと撃ち上がる花火の音が聞こえ、締めの花火が撃ち上がり始めたのを知ると、口を拭って光達の元へと歩き出す。
彼が去った水飲み場の排水口から、口をゆすいだにしてら些か赤みがかった水が下水へと流れ落ちて行った。
この話にて第6節は完結となり、次回より第7節が始まります。
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