第9話
前回のあらすじ
海中にてクロノギアスと遭遇した縁達は光の機転で勝利を収めるも、クロノギアスが保持していたカプセルは回収されてしまう。
他に何か見つからないか探していたら、砂の中に埋もれた未知の物体を発見した。
「……これが、海中からサルベージされた未知の物体の正体、か……」
格納庫の一角にてブルーシートが広げられ、その上には縁達が海底よりサルベージして来た謎の残骸が置かれていた。
その残骸には詳しく解析するために数多のコードが取り付けられており、それ等は解析様の機器に繋がっている。
「今の段階で解るのは、これが金属探知機に引っ掛かった以上謎の金属という事だけじゃの」
残骸を傍目に博士はそう呟くと、更新され行く情報を目にしながら光平の方へと視線を向ける。
「ここにある機器ではそれ位の事しか解らん……本部の機器なら詳しく解析が行えるのじゃが……」
「それでも上からの命令なんだ。これを無視したら今後の活動も危うくなる」
光平の言葉を聞いて博士は思わず溜め息をつく。二人は国連から今回の調査の際に、何か発見や遺物があった場合はそれ等全てを国連に提出する様命じられているのを知っていた。
今回の調査で見つかったのがこの残骸である以上、これはフォトンガードナーの基地で詳しく解析されること無く国連に押収されるのだ。
「勿体無いのう……この素材を用いればいい緩衝材として機能するじゃろうに……」
「どちらにしろ私達に出来る選択は無いんだ。受け入れて最善を尽くして行くしか無いんだよ」
残骸を見て惜しい物を無くす様に溜め息をつく博士に光平が仕方無いと言いたげにそう告げると、博士は更に深い溜め息をつく。
「そもそも、クロノドローンやクロノギアスの残骸もあやつ等が持って行っとるじゃろうが。お陰で儂等にはなーんもテクノロジーが回ってこんわ」
「クロノイドを囲っているから、残骸からの技術解析は要らないと思われてるんだろう」
「技術はそうじゃが物資が足りんよ物資が。技術があってもそれを活かす素材が無ければ意味が無いのじゃよ」
博士は何処までも回収した残骸の引き渡しを渋るが、間に立つ光平としては反感を買って潰されるのは避けたい事態だった。
「上には逆らえないよ。例えどんな思惑があろうと、ここで潰されたらクロノイド制圧軍との戦いは地球の敗北で終わってしまうのだから」
「……解っとるわい」
博士は残骸の押収をどうしようもない事だと呑み込むと、苛立ちを抑えようとして白衣のポッケからココアシガレットを取り出して口にする。
そのまま何度か口で上下に動かしていると、ふと何かを思い出したかの様な表情を浮かべて光平へと顔を向けた。
「そういや、あいつ等はどうなったかの?今回無茶をやらかした三人は」
博士からの問い──ある三人の現状を聞かれ、光平は困った様な表情を浮かべると話し出す。
「今頃、司令部で説教でも受けてるんじゃないかな?」
「……ま、自業自得じゃな」
三人が説教を受けていると聞いた博士はそう割り切りココアシガレットを口に含んだ。
帰投から一夜明けた朝からオペレーター総出の説教を受けた光達。その反動で光は一人コテージのベッドでげっそりとした表情で昼間の間はずっと眠りに就いていた。
「だー……ずっと寝てた……もう夜かよ……」
そうしてようやく体力が回復したのは深夜で既に時計の針は午前零時を過ぎており、時計を目にした光は溜め息をつく。
「明日……ってか今日の昼には帰るのに、勿体無い事したな……」
頭を掻きながら光は思わずそんな事を呟く。光来島への調査に向かう際に、光平から調査が終わったら最終日を完全に休みにすると説明されており、光が眠っていた間他の人達は自由な休暇を楽しんでいたと思うと、どうしても後悔が沸き上がって来る。
そんな事を思ったからか、光は光来島の景色を最後に目にしようと眠っている白部を起こさない様にコテージを出て行く。
コテージ間を繋ぐ橋を一人ゆったりと歩きながら潮風を浴び、一夏の思い出に浸っていると何処からともなく水音が聞こえて来た。
「ん……ああ、あいつか……」
最初は水音に僅かに眉を寄せるも、すぐにその音を立てた主に心当たりが見つかった光は音の聞こえた方向──コテージ群から離れた釣り場へと向かう。
前の様に足音を忍ばせるのでは無く靴音を鳴らして釣り場へと向かうと、そこには光が予想した人物──久遠が前と同じ様に水着で海の中に居た。
「滝音!」
「っ!……高坂か」
釣り場から光が久遠に声を掛けると、久遠は一瞬肩を驚きに跳ね上がらせるもすぐに声をかけて来たのが光だと知ると安堵の表情を浮かべて釣り場へと近付いて行く。
「よく私が居ると気付いたな」
「ちょっと外を歩いていたら水音が聞こえてな、この時間帯で海に居るのはお前かと思って来たんだよ」
そう言って光は釣り場に腰掛けると、久遠も海からあがって光の隣に腰掛ける。
そうして二人して無言で海を見つめながら潮の音を耳にして過ごしていると、徐に光が口を開いた。
「……昨日はありがとな、俺の提案に乗ってくれて」
「提案……ああ、あれか。不服ではあったがあれ以外に勝機が見つからなかった以上、乗るしかなかったといった感じだがな」
「それでも、乗ってくれたのは事実だしな」
「そう言うんだったら、お前はもう少し自分を大切にしろ。あれは一歩間違えれば死んでいたんだぞ」
光を嗜める様に久遠が肩を小突くと、僅かに光の体が前につんのめる。光は小突かれた所を擦りながら苦笑いを浮かべた。
「わりぃ、次から気を付けるから」
「そうだ、しっかり気を付けろ……それと」
「ん?」
光からそっぽを向いた久遠に、光は首を傾げてその背を見る。すると背中越しに久遠の呟きが聞こえた。
「……お前の考えた案なら、あいつを倒せると判断したから、乗ろうとも思ったんだ」
「滝音……!」
久遠から告げられた予想外の信頼の言葉に光は思わず感極まる。そんな光の姿を見て久遠は思わず溜め息をつく。
「そこまで喜ぶものなのか?」
「いやぁ……滝音って他と一線引いてるだろ?だからそういう信頼が嬉しいんだよ」
「……そ、そういうものか……」
久遠は光を一線の内に入れていた事に改めて気付かされ、気恥ずかしさに顔を背ける。そんな彼女の様子を知らずに、光は名案だと言いたげに手を叩いた。
「そうだ!せっかくだから呼び名を変えようぜ!」
「呼び名……?」
「そう!縁に関しては俺達二人共名前呼びだけど、俺達事態は苗字呼びじゃないか。何かチーム組んでてそれは収まり悪いなーって思ってたんだよ」
光と縁は一種のライバル関係で、久遠と縁は前々からのチームメイトとして互いに名前で呼び合っている。けれど光と久遠はあくまで同級生でチームメイトでしかなく、中々名前呼びする様な関係にならず二人の名前を呼ぶ際に、片方は名前で呼ぶのにもう一方が苗字で呼ばれると言いづらい状況が続いていた。
それを今回、久遠から光に対する信頼が窺えた事で光は全員名前呼びに統一しようと提案したのだ。
「名前呼び……高坂……光……光……」
久遠は光の提案を聞き、キョトンと目を丸くするも少しして光の名前を口で転がす様に呟き始め、それを三十秒程繰り返すと小さく微笑んで頷き、改めて光の方へと向き直る。
「……そうだな、これを機に変えるのもありか。改めて……よろしくな、光」
「っ!……ああ、此方こそだ、久遠」
二人はそう互いの名前を呼び合うと、新しい関係を祝して握手を行った。
クロノイド制圧軍基地内の格納庫にて、リーリスとシュタインを始めたとした今回の作戦の参加者が格納庫内に集まる。
彼等の眼前には今回の作戦でクロノギアスが回収した残骸を内に入れたカプセルがワイヤーで吊るされており、そのカプセルを開けんと職員達が重機を操作していた。
「クロノギアスが破壊され、奴等にあたし達の行動がバレた以上、作戦は終了だね」
「そうじゃの、このカプセルが最後となるか……」
リーリスとシュタインはカプセルの前に立ちながら開封の準備を待っていた。その最中にリーリスはシュタインへと気になる事を問い掛ける。
「所で……こいつの正体は何なのさ?」
「正体じゃと?」
「そうだよ、あたしはあくまで時空転移ゲート改良に必要なものとしか聞かされて無いんだからね」
そう言いながらリーリスは親指で今まで回収した残骸を指差して言う。リーリスはクロノギアスである残骸を集めて来てほしいとシュタインに頼まれてそれを受けはしたが、その残骸が何の残骸かは聞いていなかった。
その正体を協力者である自分は知る権利があると、リーリスは主張してシュタインを睨み付ける。
リーリスからそう言われたシュタインは一度カプセルへと視線を戻すと、小さく頷いて口を開いた。
「今から十年以上昔の話じゃ、ある科学者夫婦がクロノシアスで初めて時空転移ゲートを開発したのじゃ」
「っ!……てっきりあんたが作ったものかと思ったら、先達が居たのかい」
リーリスはクロノイド制圧軍で使っているシュタイン作の時空転移ゲートよりも先に、別の科学者によって作り出されていた事に目を丸くする。
「しかし奴等は皇帝陛下に従わず、同様に従わない者達を逃がすためにその時空転移ゲートを使用。そして証拠隠滅を込めて自爆させたのじゃ。儂はその後に時空転移ゲートがあった施設へと赴き、破損したデータベースから時空転移ゲートの情報をあるサルベージした。そうして作り上げたのが儂の作った時空転移ゲートじゃ」
今自分達が使用している時空転移ゲートの成り立ちを語るシュタインに、リーリスは訝しげな表情を向ける。彼女が求めているのは理由ではない。
「……それが、カプセルの中身と何の関係があるんだい?」
「……儂はデータの他にも、自爆した時空転移ゲートの残骸を探しにむかったのじゃ。しかし……」
「しかし……?」
「そこには、不自然な程に残骸は転がって無かったのじゃよ。そこに何かあったという痕跡も無い、端から全部無くなったかの様に何一つ転がって無かったのじゃ」
「それが、どうしたんだい?」
何も無かった事が一体どういう事を示すのか問い掛けるリーリスの前でカプセルにカッターが入る。もう少しで開封されるカプセルを目にしながらシュタインは答えた。
「儂はその事で一つの仮説を立てた。あやつ等は時空転移ゲートによって生成された時空の歪みに、自爆させた時空転移ゲートの部品を放り込んだのでは無いのか……とな」
「っ!!」
『開くぞ!!全員下がれ──っ!!』
リーリスがシュタインの言わんとしている事に気が付き彼の方を目を見開いて見ると、カプセルの開封作業を行っていた職員の一人がそう声を張り上げる。
その声を合図に職員達はカプセルから離れ、カプセルは重機により左右を引っ張られてカッターによって切られた中心から左右に割れ、その中より一つの残骸が現れた。
「なんと……!これならば一気に進むぞい!」
現れた残骸を目にしたシュタインはそう言って目を見開くと一直線に残骸の元へと駆け寄って行き、リーリスもその後を追い掛け、残骸前で目を輝かせるシュタインに向かって口を開く。
「まさか……この残骸は……!」
「……天才科学者、フォトライト夫妻により作り出されし時空転移ゲート。そのオリジナルの残骸じゃよ」
そうシュタインは残骸を見つめて、狂った様な笑みを浮かべながらリーリスに残骸の正体を告げた。
この話にて第5節は完結となり、次回より第6節が始まります。
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