第3話
前回のあらすじ
光と縁、そして久遠に関わる秘密を暴こうと光に詰め寄る白部。
光はあの手この手を使い、一日中白部から逃げ回り続けた。
花音に帰る旨を伝えて常磐高校から出て行き、近くの駐車場に停められていた職員の車に乗り滝音コーポレーションまで戻って来た縁と久遠。
二人は地下の駐車場で車を降りると運転手へと一礼して、フォントガードナー基地内のトレーニングルームへと向かう道中で放課後にあった事を話し始めた。
「それにしても、光は凄い逃げっぷりだったね」
「躊躇いもなく雨樋を逃走経路に選べる判断力と、それを実行できる胆力は確かに目を見張るものがあったな」
思い返されるのは白部に追い詰められた時の光の姿。彼は白部が危険な雰囲気を醸し出した瞬間即座に逃げの姿勢を取り、常人であったらまず逃走経路に選ばない教室の外の雨樋へと向かって走っていった姿は、間違いなくそこしか逃げられないと決断しての動きだった。
もし雨樋を掴む事が出来なかったら地面へと落下して行く事しか出来ない──最悪の場合落下死してしまう逃走経路を選ぶ胆力も、白部の意表を突く要因となったのだろう。
現に白部は光が逃げに徹した瞬間彼の逃走経路──この時は廊下と考えていた──を塞ぐ様に光に近い入口へと向かったのだから。
「どちらにしろ、あいつが来るのを待つだけだ」
「そうだね……部長しつこそうだし、撒くの大変そ……う……」
軽口を叩きながら二人はトレーニングルームへと入り、そこにあった光景に言葉を失う。そこには──
「お、意外と遅かったな」
白部から逃げていた筈の光が先にトレーニングルームに居て、ベンチプレスの台に腰掛けながらスポーツドリンクを呷っていたのだから。
「ひ、光……!?」
「お前……どうやってここに来た!?迎えの車は出ていなかったぞ!?まさか走って来たとでも言うんじゃ無いだろうな!?」
縁は光が先に居た事に目をぱちくりさせて驚き、久遠は迎えの車も無しにどうやって来たのかを問い掛ける。
それに対して光は視線を斜め横に向けながら、ばつの悪そうな顔をして頬を掻きながら答えた。
「えーっとな……俺が逃げた後に部長も下に降りて来て、真っ先に入口に張り付いたろ?」
光のの語る当時の状況に二人は頷き、彼等が迎えの車が停まっている駐車場に向かう際に、白部が校門前で見張っていたのを思い出す。
「俺もそん時はまだ校内に居たからさ、どうしたものかと考えてたんだが……」
「校内……あ、解った」
光が二人が学校から出ようとした時にはまだ学校に居たと聞いて、縁は答えが解り指をパチンと鳴らした。
「第三倉庫のエレベーターから来たんだね」
「あそこか……確かにそこは余り人気もないし見られる事も少ないが……」
縁が納得いった様に何度も頷く横で久遠はそう簡単に外部からの直通通路を使った事に眉間の皺を寄せるが、光からジト目を向けられる。
「確かに塀を登ればお前達と合流できたかも知れねぇ、けどな……」
そこまで言って言葉を区切り、光は久遠を指差す。指差された久遠は首を傾げつつも指が差された場所へと視線を向けると、そこには久遠が教室から持って来た光の鞄が握られていた。
「俺の鞄を手にしてたんだ。場合によっちゃつけられてたかも知れねぇだろ?」
「あー……」
光が指差した彼の鞄を見た縁が、光の言い分を聞いて白部が久遠と滝音コーポレーションとの関係を調べるために彼女の帰宅経路を追跡していたのを思い出す。
もし光と二人が同じ車に乗る光景を目撃でもされたら、白部はそれこそ逃がさんばかりに追って来るだろう。
「一応運転手からは尾行して来ている人物は居ないと報告は受けていたが……」
「多分俺が乗ってなかったからだろうな。あくまで部長の目的は、俺からお前達に関する秘密を聞き出す事だし……」
尾行は無かったと言う久遠に対して、それは狙いが自分だったからだと言う光は腕を組んで考え込む。実際電話は光にしか掛かって来ておらず、明らかに白部の標的が光なのだと理解させられる。最も、光達は何故白部の標的が光だけなのかの理由は解っていないのだが……
「幸い明日は学校休みなんだし、追求される事は無いんじゃない?」
「どうだろうなぁ……」
縁から明日は学校が休みだから来ないだろうと言われるも、光は今朝の事を思い出して考え込む。今朝は家を出てすぐに捕まった以上、明日も家に来る可能性があると考えられる。
それ処か学校という逃げ場所自体に行けないとなると、どうやって撒こうか頭を悩ませてしまう。
「あーもう、考えてても仕方ねぇ。今日の分のトレーニング済まさねぇと」
「っと、そうだったね。それじゃあ僕達も準備してくるから」
「鞄はそこに置いておく。後でロッカーに仕舞っておけ」
考えていても仕方が無いと光が頬を叩き頭を切り替えながらそう言うと、縁と久遠の二人も同意して各々トレーニングウェアに着替えに行く。
光も久遠が置いて行った自分の鞄を手にして、一旦ロッカーになおすために更衣室へと向かって行った。
余談だかトレーニングが終わり光が家に帰宅したら、昨日と同じ様に白部が家へと来ていたと茜から告げられ、携帯にも昨日以上に着信が来ていたのは言うまでも無い。
「……それじゃ、いってきまーす。昼飯は要らねぇからー」
「気を付けるんだよー」
翌日の早朝、朝食を食べ終えた光は茜にそう告げると家を出て行く。昨日のトレーニング中に三人でどうするかを話し合った結果、『朝早い内にフォントガードナーの基地に来て、そこで一日を過ごす』という事になり、光は早起きをすると朝食を掻き込んで家を出たのだ。
「右よし……左よし……」
光は家を出るやすぐに塀に身を隠し、僅かに顔を覗かせて道路に誰も居ないかを確認する。誰か隠れている人が居るかまでは調べられないが、下手に体を出して白部に見つかるのは避けたかった光はその可能性に目を瞑り、道路に誰か居ないかだけに留める。
そうして誰も居ない事を確かめた光は足音を極力殺し、近くの駐車場に停めてあったフォントガードナーの職員の車にそそくさと乗り込んで行く。
「朝っぱらからとは、ずいぶんとやる気だな?」
「ちょいと厄介な事情がありましてね……誰か怪しい人は?」
朝早くから光の迎えを受けた運転手は光にそう言うと、光から疲れた様な表情で返されて目をぱちくりさせる。けれど職務には忠実に耳に着けたインカムに指を宛て、外に居る職員へと連絡を取った。
「此方C-3、U-1からU-5に確認、周囲に不振な人影は無いか?」
『此方U-1、問題無し』『此方U-2、此方もだ』『此方U-3、人影一つ見えやしない』『此方U-4、異常無し』『此方U-5、コインランドリーに向かう主婦層しか居ない』
「了解した……居ない様だな、それじゃあ出発するぞ」
外で職員に周囲に人影が居ない事を確認してもらい、怪しい人物は居ないと聞くと運転手は車を駐車場から発車させる。
しかしその瞬間、インカムから慌てた声が聞こえて来た。
『──なっ!?此方U-3!突如として自転車に乗った男子高校生が出現!馬鹿な、何処に隠れていた!?』
職員の一人が突然現れた男子高校生に驚いた様子で報告して来る。普通だったら男子高校生位は軽く流されるだろうが、彼等にはこの男に見覚えがあった。
『しかも……前に久遠を追跡していた男子高校生じゃないか!今度の狙いは光か!?』
前にも彼によるフォントガードナーの車の追跡があり、それ以来彼は要注意人物にリストアップされている。そして光もスモーク越しに後ろを見ると、車を追って自転車を漕いでいる男の正体を見て──通信越しに何となく察していたが──、思わず顔をひきつらせた。
「マジかー……」
違うだろうと現実逃避していた考えは、今まさに車を追い掛けて自転車を漕いでいる男の姿を前に意味を成さないものになる。
車の後を追い掛けて自転車を必死の形相を浮かべて漕ぐ白部の姿を見て、光は思わずか細い声で呟いた。
「知り合いか?」
「うちの部活の部長です……前に滝音コーポレーションの裏について調べようともしてたんですけど……」
「なるほど、それで久遠を……」
光の呟きら彼が既知であると感付いた運転手は光に何者かを聞き、同時に白部が滝音コーポレーションについて調べようとしていた事を知る。
その瞬間彼の脳内でスイッチが入り、気のいい運転手からフォントガードナーのエージェントの物へと思考が切り替わった。
「振り切るぞ、しっかり掴まっていろ!」
「はい!」
運転手は一言光へ声を掛けるとアクセルをより一層深く踏み込み、車体が一気に急加速する。それと同時に光達に急加速によるGが思いっきり掛かり二人の体がシートへと押し付けられる。
急速に上がった速度から距離を取れたのではないかと思った光は再び背後を向いてどうなっているかを確認すると、そこにあった光景に再び顔をひきつらせた。
「ま……マジかよ……」
背後では速度が上がったのにも関わらず、自転車を漕いで追い掛けて来る白部の姿があった。その形相と漕ぐ度に飛び散る汗から明らかに限界を越えているのに、それを成し得る執念に光はドン引きし、バックミラーでその様子を見ていた運転手も表情をひきつらせながらアクセルをより踏み、速度を上げてスタミナを枯らそうと色々な所を迂回しながら走り続ける。
そうして約三十分程車を走らせ続けていると、徐々に車を追い掛ける白部が後退して行った。
「スタミナ切れた見たいです!」
「よし、もう一押し!」
白部のスタミナが切れつつあるのを確認した運転手はあえて入り組んだ道へと入り込み、道路を右往左往して白部を振り回す。
そうした無茶な動きが祟った結果か、白部は何度か角を曲がった段階でスタミナが切れて二人からその姿が見えなくなる。
「見えなくなりました……」
「撒けたか……けれど念のためにもう少し時間を掛けて行くが、それでいいか?」
「はい……」
白部の姿が見えなくなったのを確認すると二人は揃って溜め息をつく。そして念のために遠回りする旨を運転手から伝えられると光は頷き、白部がまだ諦めていないかを見張りながら滝音コーポレーションへと向かって行った。
「──という訳で振り切って来たんだが……」
「あはは……お疲れ様、光……」
「ずいぶんな執念な事だ」
フォトンガードナー基地のトレーニングルームにて、ルームランナーで走りながら今朝あった事を光は二人に話す。
それを聞いた縁はおいかけっこをしていた際の光の心労に苦笑いを浮かべ、久遠はそこまでして知りたがる白部の執念に呆れた息を吐く。
「全くだ、一体何処で張られてたんだか……」
「でもこうして逃げ切れてここに居る訳だし、後は職員の人達に任せなよ」
白部が何処に隠れ潜んでいたのか分からず仕舞いな事に光は溜め息をつくが、そこは気にしなくてもいいと縁は言う。
「そうだな、それに明日も気にしなくていい筈だ」
「明日?……あー……筋肉痛……」
縁に続いて明日も気にしなくていいと言う久遠に光は首を傾げるも、すぐに理由に思い至る。
車についてくる程の速度を出して自転車を漕いでいたら、明日はまともに動けない程の筋肉痛に襲われるだろう。不可抗力だったとはいえ、そんな状態に追いやった事に光は思わず罪悪感を抱く。
「その顔からして罪悪感を抱いているのだろうが、向こうが勝手に調べようとしているんだ。此方からは手出しをしていない以上、何があろうと自業自得だ」
「俺はそこまで割り切れねぇよ……」
筋肉痛は自業自得だと言ってのける久遠に、光はそこまで割り切れないと溜め息をつく。
「どちらにしても、何とかしないとね……」
「あの人の事だからなぁ……別の事に興味を抱けばコロリと忘れるんだろうけどな……」
縁は白部に対してどうにかしようと考え、光も揃って首を傾げる。そうした所で久遠があることを思い付いたらしく手を叩いた。
「そうだ、こうすればよかったんだ」
「どうしたんだ滝音?」
「何かいい案でも思い付いたの?」
手を叩いた音に二人が久遠へと視線を向けると、これなら大丈夫だろうと確信を持って説明し始める。
「あいつはお前達の距離が近くなった秘密を知ろうとしている。そしてその秘密には私が関わっているとも感付いている訳だ」
「だったら偽りの秘密を言ってやればいいだけじゃないか」
「「!!」」
久遠が言った言葉に、二人はその手があったかと言わんばかりに目を見開く。
「そっか……わざわざ隠し通さなくても、そうすれば自ずと興味は外れる!」
「でも生半可な嘘じゃあの人は騙せねぇぞ?そこんとこどうするんだ?」
「それに関してはだな……」
そうして三人はトレーニングの傍らに白部を欺く嘘を考えるのだったが、途中で様子見に来た博士に真剣にやれと怒鳴られたが、事のあらましを光から聞くと博士もその嘘を考えるのに協力したのだった。
余談だがその翌日、光は家を出て車に乗りフォトンガードナーの基地へと向かう際には白部の追跡は無く、久遠の言った通り筋肉痛でダウンしているのだろうと溜め息をついた。
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