第2話
前回のあらすじ
久遠と縁の二人によって光は滝音コーポレーションに連行されると、そこから未知の施設へと連れて行かれる。
そこで光を待っていたのは大人達からの歓迎の声だった。
「…………は?」
司令部という厳格な雰囲気を漂わせる部屋の名前からは全く想像出来ない歓迎の声に、光は呆けて固まってしまう。
そんな光とは裏腹に司令部に居る大人達だけでなく、先に司令部に入った縁も手を叩いて光を見ている。
縁と博士、そして久遠の三人を除いた全員は白を基調として青いラインが入ったスーツを身に付け、男性は青いズボン、女性は青いタイトスカートを履いており共通の集団に属している事が窺えた。
「さ、此方だよ」
唯一我関せずの空気を貫く久遠へと光が目を向けていると、縁が光の手を取って案内し、光は手を引かれるまま一人の壮年の男の前に連れて行かれる。
男は灰色の髪をキチッと整え、大人達と同様の制服を身に纏いながらも肩や胸元に金のラインが入っており、襟首には襟章が取り付けられておりこの集団のトップに位置する人間だと見てとれる。
そんな男に光は警戒の意を込めて僅かに身を引くと、男は光の近くまで歩いて笑みを浮かべて口を開いた。
「改めて、君が高坂光君だね?私の名前は滝音光平、この組織の司令官さ」
そう言うと男──光平は光に向かっておもむろに手を伸ばす。それが握手だと気付いた光は、半ば流される様に光平と握手をする。
「その声…………って、″滝音″?」
流される様に握手をした光は光平の声に聞き覚えを感じて意識を戻すと、彼の姓に眉をひそめ、その反応を見た光平は手を離すと自分を誇る様に口を開いた。
「そう。君にフォトンシリーズの真の力を教えたのは私で、普段滝音コーポレーションの社長をしているのさ」
声の聞き覚えに関しては先の戦いで三人に合体するよう指示を出していた声と同じで、当人の口から合体するよう言ったのは自分だと明かされる。
それと同時に、光には聞き逃せない肩書きを名乗っていた事にも気が付いた。
「しゃ、社長!?この滝音コーポレーションの!?って事はまさか……!?」
光はそう言うと視線がある一人の人物、昨日のジャナ部部室にて白部からインタビューを受け、滝音コーポレーション社長令嬢と自己紹介した人物──久遠の元へと目が行く。
光平は光の視線が久遠に向いているのに気が付くと、笑みを浮かべて我関せずの態度を貫いていた久遠の肩を抱き寄せて来た。
「そう、君の気付いた通り久遠の父親さ」
「あくまで義理です。それに指令、今は仕事中ですので自重してください」
「ええ~?こういう時位お父さんって呼んでもいいじゃないか~」
「それはプライベートで、今は一応勤務時間の筈です」
久遠に父親としての態度で接する光平に対し、久遠は親子関係が義理であると口にしてあくまで組織の一員と指令としての態度で接するが、それでも親子として絡んで来る光平を無理に引き剥がそうとせずに口頭注意で留めるだけな辺り、親子仲は悪くないと思わせる。
そんな滝音親子のやり取りに場が和みかかっていた所で、正気に戻った光が光平に問い掛けた。
「っと、それよりも……此処って一体何なんですか!?それに俺は一体何のために此処に呼ばれたんですか!?」
「っと、そうだね……君にはちゃんと説明しなければ……」
光の問いを聞いた光平は久遠を離して小さく咳払いをする。それを合図に先程までほんわかしていた空気が引き締まる中、光平は光に向かって説明し始めた。
「我々は対クロノイド制圧軍防衛特務機関、通称『フォトンガードナー』だ。君が昨日二人と共に戦ったクロノドローンとクロノギアス……その双方を操る存在である異世界人クロノイドから地球を守る部隊だ」
「待て待て待て!!」
最初の説明の情報量の多さに光が思わず待ったを掛ける。光平は律儀にそこで説明を一旦止めると、光は一息ついて噛み締める様に聞いていく。
「クロノイド!?それに異世界人って……!?」
「言葉の通り、地球とは異なる世界に住まう人々の事だ。彼等は理由は不明だが、クロノドローンやクロノギアスを用いて地球を侵略しようとしているんだ」
「異世界からの侵略者って、ガチでSFみたいじゃねぇか……」
光平から受けた説明に光は思わず頭を抱える。そしてあることに気付いたのかはっとした表情を浮かべて光平へと問い掛ける。
「まさか、あの三機は……!?」
光が口にした三機、その正体に気付いた光平は笑みを浮かべると誇る様に声高らかに説明し始めた。
「そう!!あの三機こそ地球の希望!!クロノイドの部隊に対抗するためにフォトンガードナーによって造られた三機の守護者!!フォトンシリーズさ!!」
光平の叫び紛いの説明に合わせて司令部奥の大型モニターに光が点る。
そこにはフォトンファイター、ランダー、グライダーの三機がロボットアニメのワンシーンを思わせる様に画面を三分割して映し出されていた。
「えっと……ひとまずそれは解りました。それでまだ聞きたいんですが……」
「もちろん、君には聞く権利があるからな」
「だったら、何で俺を呼んだんですか?」
「……やはり気になるか?」
光平は光の問いに顔を真顔に戻すと、腰の後ろに両手を宛ててモニターへと振り返りそう聞き返し、光はそれに頷く。
「いいだろう。君を此処に呼んだ理由、それは……」
あえてそこで焦らすように間を開け場の空気を緊張させる。緊張感に当てられた光は固唾を呑んで言葉を待ち、場の緊張感が最高潮に達した瞬間光平は光の方を振り向いて答えた。
「それは、君にフォトンガードナーの一員となってもらい、フォトンランダーのパイロットとしてその力を貸して貰いたいのだ!!」
ドンッ!!と効果音が聞こえそうな勢いの言葉に、光は衝撃を受けて呑まれかける。しかしそれは光平から感じた圧以上の驚愕と混乱により免れ、混乱のまま光は光平へと口を開いた。
「な……なあ!?俺が!?」
「そうだとも!!君なら……いや、君にしか出来ない事だ!!」
「いやいやいや!!俺はただの十六歳の子供なんですよ!?それが何で世界の危機と戦わなくちゃいけないんですか!!」
「歳なら気にしなくていい!!同い年の二人も戦っている!!」
子供だからと戦う事に混乱する光に対し、光平は久遠と縁の二人を指差しそう答える。
しかし、それは却って光に反撃のカードを与える結果となった。
「あの二人の事もそうだ!!こんなに大人が居るのに何でまだ十代半ばの子供を戦わすんですか!!スーパーロボットアニメでも大人が操縦するのはあるのに!!」
「ぐ……っ!?それはだな……!」
ゴッド◯グマやゴッド◯ーズみたいに!と大人がスーパーロボに乗る作品をあげて否定すると、光平はよく昔の作品を知ってるなと突っ込みを入れつつも、光からの問い掛けに対する言葉に詰まる。
「適性の問題じゃよ」
「!!」
突如として話に割り込んで来た声が聞こえた方へと光が咄嗟に振り向く。そこには人垣の中から抜け出る様に博士が現れて、博士はそのまま光平の隣へと歩いて行く。
「博士……?」
「フォトンシリーズのコアロボット、フォトンファイターの動力炉である『フォトンリアクター』は少々特殊でな、稼働の際に特殊な波動を発するのじゃよ」
そう告げるとモニターの映像が切り替わり、フォトンファイターの図解となって博士が説明する。
「波動を遮断しようにもその波動はフォトンリアクターの出力を上げれば上げるほど強力となり、現状の技術ではその波動を抑え込む事が出来んのじゃ」
「じゃあ……その適性ってのは……」
「フォトンリアクターより放たれる固有波動『P波動』、それに耐えうる適正因子『P因子』を持つ者……それこそがフォトンシリーズに乗る上での第一条件なのじゃよ」
P波動とP因子という専用用語が出て来て光は思わず頭痛を感じる。一つ解ったのはフォトンシリーズは動力炉の都合でパイロットを選ぶ機体だと言うことだった。
「それじゃあ、有沢と滝音が戦っているのって……」
「儂等とて大人に戦える者が居ったら彼等が戦っとるよ、けれど戦闘行為を取る処か、動かす事すらままならない程度の適性しか大人達が持っておらんかったのじゃ。しかしあの二人は常人を越えるP因子を保有しておっての、故にフォトンシリーズのパイロットに選ばれたのじゃ」
博士の話から大人達も好きで子供を戦わせている訳では無いと分かり、光は多少落ち着きを取り戻す。
それと同時に、何故自分がフォトンガードナーにスカウトされたのかも、凡そだが見当がついた。
「それじゃあ、俺のスカウト理由は……」
「うむ、お主は初めてフォトンランダーに乗ったにも関わらず問題なく操縦し、更に戦闘行為をこなしたお主にはあの二人に次ぐずば抜けたP因子がある!故に儂等はお主をスカウトしようとしておったのじゃよ」
「コホン……候補生の中でも君のP因子を上回った者は居ない。P因子の量はそのままフォトングラストの強さに繋がる以上、負けられない戦いを常にしなければならない我々にとっては縁、久遠、そして君の三人がベストメンバーなのだ……頼む!!君の力を貸して貰いたい!!」
博士の言葉を咳払いして引き継いだ光平が、光に対して頭を下げてそう言ってくる。
光も言ってる事の意味が理解でき、余りの出来事に困惑する。そんな中光は弱々しくある一言を呟く。
「少し……考えさせてください……」
それは問題の先送りという、その場しのぎの解答だった。
少し考える時間が欲しいというその場しのぎの解答は、予想外にも受け入れられた。
「急な話だった以上、心が決まっていないのは当然なのかもしれない」
そう光平は言うと、光にフォトンガードナーに関する事は秘密にするよう言って彼を家まで送り届けさせた。
光が車を降りるのを確認して運転手が車を出そうとした瞬間、光と共に来ていた縁が待ったを掛けて窓を開けて光に話し掛けてくる。
「高坂」
「何だよ有沢……幻滅でもしたか?」
昨日光を連れて行く際に世界の為に戦う覚悟を問い掛けた縁が声を掛けて来て、光は先の自分の状態を思い出してそう吐き捨てると、縁はそれを否定して口を開く。
「いいや。流される訳でも無く、場に酔って安請け合いする訳でも無かった君の選択は間違ってないよ。自分の意思で決めた戦いの理由は、本当に強固だからね」
「自分で決めた理由……」
縁はそう言うと運転手に声を掛けて、窓を閉めてその場を離れ始める。
車が加速し始める際にスモーク越しとはいえ縁が小さく手を振ったのが見えた光は、相変わらずだと言いたげに小さく息を吐いて家の中へと戻って行った。
「ただいま」
「あらお帰り。あ、そうそうあんたが出掛けた後に部長さんと花音ちゃんが来たけど、あんた連絡入れてなかったの?」
帰宅した事を茜に告げると茜から白部達が家に来たと聞き、タイミングを見計らったかの様に光の携帯から通知音が鳴り響く。
音に顔をしかめながら光が携帯を手に取るとそこには二人から光を心配するメッセージが届いていた。
「あ~ごめん、電源落としてた……」
「全く……明日ちゃんと話をしたいって言ってたから、ちゃんと二人の所に行くんだよ」
「はいよ……」
茜から明日は二人の元へと向かうよう言われて光はそれに投げやりに返事を返すと自分の部屋に戻って行き、力なくベッドに倒れ込む。
そのまま目を閉じながら今日あった出来事を脳内に巡らせ、最後の縁との会話を思い出した。
「俺の戦う理由……か……」
そう呟くと光は寝返りを打って仰向けになり目を覆う様に腕を目に当てる。
昨日の戦いは縁によって流れるまま戦わされて、どんな理由で戦うといった考えは何一つ無かった。
けれど今自分の意思での戦いを求められて、光はどうしたらいいのか考えられずに顔をしかめる。
「次攻めてくるのが何時か分からない以上、早く出さなきゃいけねぇんだろうな……」
何時攻めてくるか分からないクロノイドの事を考え、光は顔を歪めて頭を掻きむしった。
「……縁」
「ん?久遠、どうしたんだい?」
光を送り届けて滝音コーポレーションに戻る車の中、光が乗っている間は一言も発さなかった久遠が縁に声を掛ける。
急に声を掛けられた縁は不思議そうに首を傾げると久遠は光の家のある方を目にして口を開く。
「お前は、あいつが本当に戦うと思っているのか?」
それは光平からのスカウトに対して、その場しのぎの解答をした光への不信感が形になった言葉だった。しかしそれだけではない、その言葉には縁に対する訝しみの色も含まれている。
「お前はあいつが必ず戦いの舞台に立つと言ったな、けれどあの様で本当に立つのか?」
「立つさ」
久遠の疑問に縁はそう断言して答え、久遠は縁のその根拠が何処から来ているのか眉を寄せる。それを知ってか知らずか縁はそのまま言葉を続けた。
「世界のためとかそういう大それた理由じゃない、高坂は高坂の答えで戦うさ」
「……その理由は?」
光に対する一種の信頼、それを口にする縁に首を傾げた久遠はそう問い掛けると、縁は小さく笑って指を口に宛てる。
「ふふっ、内緒」
そう言って縁はこれ以上は話はしないと言わんばかりに外へと目を向ける。久遠は縁の信頼が何処から来ているのか全く解らず、首を傾げる事しか出来なかった。
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