司令官は皇帝に説く。
九十四話
第一広場を抜け、第二広場に入る。本や書類が積まれている。
「お疲れ様です」
本を読みながら、優雅に茶を飲んでいる男性。
「アガリアレプトか」
「はい。私の事を思い出して貰ってからは、お久しぶりです。になるのですかね」
「そうだな」
「なんだか昔を思い出しますね」
アガリアレプトが座っている椅子、そして空席二つの内の一つに座る。もう一つの席は。
「ここにサタを入れて、三人で夜を明かすまで話し合ったこともありましたね」
「あったな。懐かしい話だ」
この世界の事。魔法の事。体の事。果ては金儲けや飲み対決の話等。挙げ始めたらキリが無いほどの話をした。
「ルシファー様。あなたはこの後どうするおつもりなのでしょうか」
「……さぁな。俺ももう良く分からなくなってきた」
「では、一つお話を致しましょう。この世界がこのままどうなるかのお話です」
「……」
「この世界の魔力は尽きかけている。この話はしましたよね」
「あぁ」
「魔力が無くなれば、この世界の住人達の体を作り上げている疑似組織が消えます。そうすると、魂魄の定理より、魄を失った魂は輪廻の輪に帰ります。この世界の家や建物の大半は魔力によって作られています。なので、この世界から魔力が消えれば、ほとんど何も残りません」
「……」
「ルシ様は魔力については?」
「願いを叶えてくれる都合の良いモノだと」
「認識としては間違っていません。しかし、なんでもではありません。魔力が叶える素体ではありません。魔力は、神との通信の媒体なのです」
「神? 神なんているのか?」
「この世界が崩壊する直前、人々は願いました。どうか生かして下さい、神様、と。それによって生まれたのが神です。どこにいるのか、どんな形をしているのかは分かりません。しかし、その神が生まれ、今のこの世界が形成されたのです」
「待て待て。人々の願いが神を生んだのなら、その神は魔力なんじゃないか?」
「その通りです。しかし、今魔力を使えば、神を通しての通信となるのです」
「その証拠は?」
「今、人界で魔法を使うことは、神への祈りと同意なのです。教会が最たる例ですね」
「おぉ神よって言ってたもんな……」
「前の世界では神など考えの宗教じみた考えでしたが、今の世界、これだけの人に願われる神が存在しない事のほうが不自然なのです」
「じゃあその魔力って奴が消えると……」
「神との通信、そしてその神自体も消えます。この世界には本当に何も残らなくなってしまいます」
「……俺はただ」
「魔族を滅ぼしたいだけ。あの子との約束を守りたいだけ。そんな将来は知ったことではなく、なんとかなるだろう。ですか?」
「……」
「なりませんとも。不可能です。もう時を戻す他無いのです。そして、世界丸ごと時を戻すとなれば、大量の魔力が必要となります。王国の書庫の大きさと消費魔力から考えるに、もうほとんど時間は残っていません」
「……」
「ルシ様。それでもあなたは……」
「俺はこの世界の人々を救う。例えそれが無理だったとしても。何としてでも俺は救ってみせる」
「……分かりました。あなたを説得するのが私の役目だったんですがね。そう簡単にはいかないものですね」
「すまない」
「いえ。良く知っていますので」
互いに目を合わせ、軽く笑う。
「ですが、じゃあどうぞと通す訳にはいきません」
アガリアレプトは椅子から立ち上がる。俺も同じように立ち上がる。
「正直こっちは自信が無いんですがね」
そう言って杖を取り出す。
「やりましょうか。通過儀礼ということで」
杖の先に火球が生まれる。それを見て、距離を取り、剣を抜く。
火球は発射され、空中で三個に分裂する。剣に水の魔法を掛け、そして念の為に左手に水球を生み出す。火球はそこまで早くなく、十分剣で対処できる。三個の火球を、流れるように水剣で切り捨てる。
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「お初にお目にかかります。僭越ながら司令官の名を冠させて頂きました、アガリアレプトと申します。以後、よろしくお願いいたします」
第一印象は、礼儀正しい男性だった。
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アガリアレプトは、すでに火球を三つ生み出し、それを発射すると共に、それぞれ三つに分裂させる。計九個の火球。だが十分に切れる。左手の水球を地面に水面の様に張り、水剣で飛んできた火球を切る。
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「災難でしたね」
「本当に……」
「まぁ、しっかりとお手伝いさせて頂きますので」
「助かります……」
机に突っ伏し、うな垂れる俺の背を摩ってくれる。
「皮肉などではなく、私もあなたが適任だと思うのです」
「えぇ……」
「見ていれば自然とそう思うものですよ」
そう言い残し、玉座の間を去るアガリアレプト。優しい近所のお兄さん的存在だ。
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剣に纏わせた水を左手に移す。そしてその水を竜の形にし、飛ばす。
アガリアレプトも火球を五個生み出し、分裂させてこちらに飛ばしてくる。
床を覆っている水に魔力の線を延ばし、棘になるよう命令する。瞬時に床から水の棘が生え、飛んできている火球を刺し消す。その棘の間を縫い、アガリアレプトに近づく。そして。
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「さて、今日は何にしましょうか」
「レプトー。今日は何にすんの?」
厨房を覗き、中にいるレプトに話しかける。
「何が良いですか?」
「おいしいやつで頼むわ」
「困りましたね……」
「肉とか」
「……毎日お肉は体に悪いですよ?」
「大丈夫大丈夫」
「まぁ、私が毎日お肉にすることが無いんですがね」
ボソッとレプトが何かを呟く。聞こえそうで聞こえなかった。何を言っていたんだろうか。
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「やはり……私は戦闘向きではないですね……」
レプトの右胸に剣を刺したまま、その言葉を聞く。
「……あぁ、失敗です……いや、成功かもしれませんね……」
血で染まった手で俺の頬を撫でる。
「私も、サタも、皆も。あなたが幸せになる事を……あの時から祈っていたのです……これが……これがその道なのかもしれませんね……」
「あの時……」
「ゲホッ……あなたが……皆の為に……命を落とした……時です……」
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「こいつらは何もしていない! 現に、こちらにお前の子が入ってきたという情報を耳にした!」
「ええい! 皆の者! 耳を貸すでない! あの者の言葉は悪そのものぞ! 戦え! 戦え!」
「やめてくれ! こちら側にその意思はない! やめろ!」
「貴様は悪だ……悪魔だ!」
「その言葉は聞き捨てならないかな」
「やめろサタ!」
「だけどっ!」
「その理の書き換え! 血に刻む事を形代とし!」
「貴様ぁ!」
「サタ! やめろ! やめてくれ! 俺は大丈夫だ……大丈夫だから……」
「そんな……」
「彼の者に罰を!」
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「あなたは……幸せになって……然るべき……ひ……と……」
レプトの体から力が抜けていく。そして周辺に魔力の変化を感じる。
ソレをゆっくり取り、胸に仕舞う。
俺は……昔は……今も……
そういやサタヌキアから魂取ってないなって気が付きました。
少年漫画みたいな最後になりそうです。




