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第21話:「だって俺もう二十歳過ぎてるし。と、勇者は内心叫んでいた」

大変長らくお待たせしました。

体調の問題などが重なって更新速度が落ちまくっていますが、またぼちぼちと再開して進めていきます。


人工知能のはずなのに、サーバーからログアウトしてしまったミソラの行方は?

―― 21 ――


 明はスカートが短いのが気に入らなかった。

 まあ、実際には巧妙にできたキュロットなので、何かが見えるということはなかったが、正直彼女は自分の容姿にはあまり自信がなかったから、足の露出自体がとても恥ずかしかったのだ。


 幸いなことに、明は肉体労働と節約のおかげで体がよく絞れていた。ぴちぴち、というわけではないけれどもそこそこ若いので、肌の張りもまだ落ちてはいなかった。そして本人は欠点だと思っていた事なのだが、彼女は童顔だった。だから、全体として彼女には少年的な魅力があった。


 トレーナーの先生は割と平然と言う。


「あなたの年齢でアイドルデビューというのも、それほど珍しくはないですね。声優を目指していたらユニットに参加させられた、とか言って、20代後半の方がレッスンを受けに来ることもあります」

「台所に転がってそうなジャガイモ女なんですけど」

「ジャガイモだろうとごぼうだろうと関係ありません。私たちがきっちり仕込んで、一流のコーディネーターとメイクアーティストの力があれば、どんな人でもそれなりにデビューできるようには仕上げて見せます。それが仕事ですし」


 そういうと、ちら、と、シーナの方を見る。


「あなたがジャガイモなら、彼女はさしずめぬか床の底に忘れられていた胡瓜みたいな感じです」


 言っている端から、シーナはコケて尻もちをついていた。確かにどんくさい。

 いや、男性だった頃の彼はそこまでどんくさいわけでは無かった。それなりのバイカーでいるために割とまめにトレーニングもしていたし、スポーツ自身も嫌いではなかった。

 どうやら、今の体が「設定として」どんくさく出来ているようなのだった。


「ま、まあ。シーナさんは……」

「素性がどうだろうと関係ありませんが、流石にあそこまでなのは、ちょっとやりにくいですね」


 お尻をさすりながら立ち上がったシーナは、トレーナーと明に見られているのを発見して赤面した。


「さあさあ、レッスン始めますよ」


 トレーナーにいわれて、二人は慌てて集合した。


§


 ミソラは見知らぬ世界を見回していた。


「何が……起きたの?」


 見上げた空は、彼女の知っている空とは違う。

 四角かったり、丸かったりする高い塔が無数に立ち並んでいて、その所々にある柱から黒いロープが伸びて、別の柱とつながっていた。

 柱の上には巨大な樽もある。あんな樽が落ちてきたら下にいる人は無事では済まない。おそらくはモンスターがやってきたときに撃退するための仕掛けなのだろうか。


 行きかう人々の服装は、彼女の世界の人々に似てはいても、どこかシンプルで地味だ。

 人々は、彼女を興味深そうにちら、ッとみていくが、大体は無視しているようだ。だが時々、服のポケットやら、バッグの中から四角い板を出して、彼女に向ける人もいる。


――私は珍しい存在だけど、騒ぐほどのものでもない、ということかしら?


 彼らをざっと見て、自分との違いを見つけた。

 耳が丸くてほとんど見えないほどなのだ。


――海岸の種族とかにこの手の人々がいたわね。そういえば、あの勇者様や、魔道士様の耳も短かったっけ。


 ふと足元を見ると、白い線で区分してある。


――なんの線かしら?


 その疑問はすぐにわかった。


「キキ―――ッ!!」


 箱のような乗り物が猛スピードでやってきて、彼女のそばを通り過ぎて止まった。


「バカ野郎!」


 乗物から顔を出した男が罵声を投げかける。


――なんだろう、怖い。でも、私の知っている言葉だわ。


 そして、先ほどの線を思い出した。


――ああ、この世界ではああいう乗り物があるから、人と場所を分けているのね。


 慌てて人が通ると思しき区分まで小走りで戻る。

 すると、淡い青色の半袖の服を着た男がやってきた。黒い帽子には金色のメダルがついている。ミソラは、そのメダルが何らかの権威を表しているものだとは見当がついた。おそらくは警備兵か近衛兵団などの類なのだろうか。


「どうしましたー?」


――騒ぎになるとまずいわ。私はまだこの世界について何も知らないんですもの。


「ごめんなさい、少しぼーっとしてしまって」


 ミソラは誤魔化しにかかった。


「コスプレ、というやつですかねえ。目立つ格好ですね、どこかでイベントでもあるんですか?」

「え、ええまあ」

「とりあえず、交番まで来てください」


――コーバンって何だろう? でも、下手に抵抗するとまずいかも。


「――はい」


 ミソラは、警官に手を取られて、交番まで連れていかれることとなった。


§


 佐々木は、AIサーバーの管理会社に問い合わせていた。


「アクセス権限がないって蹴られるんですよ、確か寄託したサーバーの管理権限は頂いているはずなんですけど」

「はい、ホスティング頂いているAIサーバーの管理権限は、御社にお渡ししているはずですよ」

「じゃあ、ログを見ていただけますか? 15分前の記録なんですが」

「少々お待ちください」


 サーバー管理会社の職員が電話を待機状態にしたので、なんともいえない微妙な音楽が流れ始めた。佐々木はいらいらとしながら返事を待って待機した。だが、数分経っても返事が返ってこない。


「おいおい、なんかトラブルでも起こしてるのかよ」


 佐々木はいったん電話を切ると再度掛け直した。


「はい、こちら***ホスティング――」

「先ほど問い合わせしたフィーチャードリームクリエイターの佐々木です。担当者さんが一向に返事を返さないんですがどうなっていますか?」

「あ、申し訳ありません、担当者はまだ席を外したまま戻ってきていないようで――あ、サーバールームで何かあったようです。ちょっと待ってください」

「待った待った、電話は切らずに!」

「わかりました、ちょっとこのままで――」


 ガタ、ッと受話器を机に置く音がして、しばらくすると怒声。

 そして悲鳴。

 

 そして、沈黙。


「おいどうした!? ――ただ事じゃないみたいだが……社長に……今は無理か、でも椎名さんには連絡入れるなって言われてるし……」


 佐々木はしばらく悩んだが、現状を解決できるのはシーナ以外にいない、と結論して、個人用のスマホを取り出すと、シーナの携帯を呼び出した。


「あ、椎名さんすか? ちょっと問題が起きて。いや、緊急事態なんですって。うちのAIサーバーのホスティング会社でなんか起きてるらしくて。いや、詳しいことは分からないんすけど」


 言われたシーナの方も困惑した。


「そんな不確実な電話されてもなぁ」

「でも、なんか叫び声とかも聞こえたし」

「なんだよそれ、相手は単なるサーバー会社だろ?」

「そうなんすけど、でもシーナさんの例やら社長の例があるじゃないっすか」

「まあ、普通じゃないことはいろいろ起きているが……よし、じゃメールでホスティング会社の住所を送ってくれ、明と二人で行ってみる」

「俺も先に向かってます」

「お前そそっかしいからな、迂闊(うかつ)に近づくんじゃないぞ」


 電話を切ったシーナのスマホには佐々木からの添付ファイル付きのメールが来ていた。ファイルはサーバー会社の住所だった。


「ここからタクシーで5分くらいか、よし」


 シーナは立ち上がると、トレーナーに声をかけた。


「すみません、急用ができたので二人で向かいます」

「あら、でもあなたの社長さんからは二人にみっちりレッスンを、って言われてるんだけれど」

「それが、うちの会社の存続にもかかわるような問題でして。ほら明、準備して」

「シーナさん?」


 シーナは明の手を引っ張って更衣室に突っ込んだ。


§


 一足先に到着した佐々木は、サーバーホスティング会社の事務所で鳴り響く電話が気になった。

 ずっとコールが鳴り響いている、ということは誰も出ていないのだ。


 サーバールームは事務所を通り過ぎて別棟にある。


「嫌な予感しかしないんですが」


 佐々木は独り言を言いつつ、どうしようか考えあぐねていた。

 すると、サーバールームとは反対側から、何かが倒れる様な大きい物音がした。

 びくっとした佐々木は恐る恐るそちらに向かう。


 場所は資料室のようだった。


 大きな金属ラックがいくつも倒れて、段ボール箱に入った資料が散乱している。


「なんか――ひどいな」


 ラックが何もなしに倒れるわけがない。ラックを倒したやつがまだ中にいるのだ。


「やばいなこれ」


 そういって逃げようとした佐々木は、足元に黒い水たまりを発見する。


「インク?」


 指先を付けるとぬるっとしている。迂闊に触ったことを反省しながら手を引き上げると、指先は真っ赤に染まっていた。


「――血?」


 次の瞬間、頭に強い衝撃を感じた後、佐々木は何も分からなくなった。


§


 シーナはバイクで指示された場所に向かっていたが、信号待ちの時に警官に呼び止められた。


「お嬢ちゃん未成年? こんな危ないもの乗り回しちゃいけないよ」


 シーナは黙って免許証を提示した。

 社長が知り合いのつてで手を回してくれて更新したので、男性時代の免許証ではないが、名前と年齢は男性時代のものだ。


「なんだこれ、本物か?」


 警官は眉間にしわを寄せて写真とシーナを見比べた。


「私は急いでるんだ、さっさとしてくれないかね」


 警官は肩をすくめると免許証を返した。


「あんたみたいなのが流行ってるのかね、さっきも変な女の子を保護したばっかりだが――」

「変な女の子?」

「なんていうかな、こう、耳が長くて――、そうそう、まるでファンタジー映画とかに出てくるエルフみたいに」


 シーナと、後部座席にいた明は顔を見合わせた。


「ちょっと、会わせて貰っていいですか?」


 シーナたちは急ぐ先を気にしつつも、保護されたという女の子に会いに交番に向かった。

 佐々木のピンチを、彼らはまだ知らない。


(続く)

どんどんまじりあう現実と仮想世界。

そしてついに……。

以下次回!

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