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第19話「勇者と魔導師はアイドルデビューする」

大変お待たせしました。

体調不良などいくつかの要因で連載が遅滞していましたが、最新話をお届けします。


現実世界でもバトルをし、これを制したシーナと明。

2人に待ち受けていたものは……。

 FDC.Co.ltd――フューチャードリームクリエイターズ株式会社、代表取締役社長、向井大将(だいすけ)

 シーナ達が数日前に助け出した社長である。

 彼はほくほく顔で、シーナと明を見ていた。

 本来なら、社運を掛けた商品、ネクデルドリーム用アプリケーション、BORG(大脳リンクによる仮想世界オンラインゲーム)第一弾、ArsMagna(アルス・マグナ)の延期が決まって真っ青になっている筈なのだが――。


 理由は別の商品の引き合いが爆発的だったからだ。


 その商品は「MagnaGirls(マグナ・ガールズ)」つまり、シーナと明のデュオだった。

 明が電撃でドラゴンを倒した画像を、記録と称して佐々木が撮っていたのだが、その動画が何故か流出してしまっていた。何の事は無い、流出元は佐々木から動画を接収した社長本人だった。


 明は「ドラゴンスレイヤ―」との銘と共に、かのドラゴン(の着ぐるみ)と共にとったショットがネットで大評判となった。

 そして、勇者でありドラゴンスレイヤ―である明とは、双璧を成す大魔導師として、摩訶不思議な瞳と髪を持つ、異世界衣装を着たシーナが立っている動画は、登録から半日で再生回数数百万回と、爆発的なヒットを飛ばした。

 CGじゃないのかなどの憶測に対して、FDCの入口でブチ切れ半分でカメラ小僧に蹴りを入れるシーナと、人々の目の前で電撃を出して見せる明の姿も公開され、二人は一体何者かという話で、ネット上も大いに盛り上がっていた。


 ゲームの延期はこの異世界の剣と魔法のアイドルデュオの活動とシンクロさせる為、というふれこみになり、様々なメディアとのタイアップも決まって、ゲームリリースの前からムーブメントとなり、流行語まで生まれる社会現象を生んでいた。

 ゲームだけでは達成できない収益が約束されたのだ。マグナ・ガールズは既に様々なところからタイアップの申し込みも来ており、デビュー前からファンクラブまでできる騒動となっていた。


 この状況に対し、明はかなり恥ずかしそうな顔をしていたが、それでも何となく楽しんでいる風ではあった。

 全く納得がいっていないのはシーナの方だった。

 二人はアイドルの衣装合わせをしている最中で、カメラテストの為にスタジオに連れて来られていた。そこに社長が視察に来たのだった。


「おお、シーナ君か。可愛いじゃないか」


 社長がにこやかに話ながらやって来る。シーナは、今の外見こそ異世界の少女だが、中身は椎名恭一という中年のおっさんである。こういう扱いにいきなり慣れろと言われても難しい。


「社長、やっぱりやめませんか」


 シーナは情けない顔で、社長に懇願した。


「なんで? そんなに可愛いのに」

「いや、可愛ければいいって話では」

「可愛いは正義! 正義は勝つ!」


 シーナは無茶苦茶な論理にげんなりした。


「変身の原因も分かってないんですよ? もしいきなり元に戻ったりしたらどうするんですか」

「その心配はない、って、大学の偉い先生から太鼓判貰っている」

「原因も分からない現象に太鼓判出す学者なんて、絶対信用できないと思います」

「もし何かあった時はそいつを吊し上げて晒せばいい」

「えげつないですね。何かあった時、私はどうなるんですか?」

「わが社の為に貢献してくれたわけだから、一戸建てが買える位の特別ボーナスを出してやろう」

「――金で何でもどうにかなるとか思わないで欲しいですよ」


 そう言いつつ、特別ボーナスの言葉に少し心が動いたシーナではあった。

 中年のおっさんだったころに比べて、生活はとにかく大変になっていた。

 元の体では、手入れと言えば精々電動剃刀でざっと髭剃りをして、髭剃りローションを塗り、整髪料で髪を整える程度だった。あとは偶に爪を切り、床屋には2ヶ月に一度行けばいいと思っていた。

 シーナの体になってからは、寝る前に美容クリームを塗り、洗顔後にはローション、ジェルで下地。化粧は自分では出来ないからスタイリスト代わりに本田にお願いするのだが、アイラインを引くために眼球すれすれに筆を持ってこられるのは恐怖以外の何物でもなかった。


「アイメイクの時は目をつぶって居ればいいんです! 毎回暴れないでください」

「だけど本田さん、この前目をつぶっていたら怒ったじゃないですか」

「当たり前です! 力いっぱい顔をしかめて目をつぶられたら、化粧できないじゃないですか」

「難しい事を言う……」

「この前まで化粧なんてろくにしてなかった、っていう明ちゃんも、じっとしてお化粧されているんですから、大差ないです。大人気ないですよ」

「むう……」


 こんなやり取りを毎回した後、髪を毎朝セット(これも本田に頼む)して毎日着る服を選ばなければいけない。週2回は、爪のお手入れも必要だ。

 髪をセットしてもらう間も、髪形を作るために髪を引っ張られて傾いたりして、何度も何度も本田に怒られ、ようやく解放された時は、シーナはまだ仕事も始まっていないのに疲れ切っていた。


「なんで女はこんなに面倒なんですかね」


 シーナは自分のデスクに辿り着いて、思いっきり伸びをしてから、脇でパソコンを使ってプログラムを弄っている佐々木に尋ねた。

 佐々木は肩をすくめると、こともなげに返事を返した。


「男だって気を使う人は似たようなものじゃないんですか。シーナさんが普段気を遣わな過ぎたんですよ」


 シーナはむくれたが、佐々木の作業が気になって覗き込んだ。


「佐々木は今何をやってるんだ?」

「見て分かりませんか、コーディング(プログラムを書く作業)ですよ」

「いや、コードを書いているのは見て分かるけど、ArsMagna(アルス・マグナ)は公開延期だろ?」

「だから、代替の商品を作らなきゃいけなくなって、全然規模は小さいんですけど、アクションゲームの仕事が来ちゃいまして。そのモック(外見だけ整えた試作品)を作ってるんですよ」

「ふむふむ、ってちょっと待て、これNLDコネクタを使うゲームじゃないか」

「そうですよ、あれの技術で一番乗りを上げなきゃいけないこと自体は変わってないんで」

「だがそれはまずいだろ。まだ私の変身のメカニズムとか何にもわかってないんだぞ、危険じゃないか」

「そうは思ったんですけどね、上長指示なもんで」

「津崎部長?」

「ええ。その津崎さんもさらに上の指示で」

「社長からかよ」

「そうみたいですね。言うこと聞くしかないでしょ。僕はしがない雇われ人なもんで」

「ああ、悪かったよ。私に出来ることは何か――」

「あ、シーナさんが手を出そうとしたら何もやらせるな、って社長命令だそうです」

「はあ?」

「『シーナには今芸能界デビューという重大な使命がある、余計な雑事に構っている暇などないんだ』だそうですよ?」


 シーナはその可愛い顔の眉間にしわを寄せてふくれっ面になった。何をやっても可愛いから仕方がない。ただ繰り返し言うなら、中身はおっさんである。

 そのシーナの背後から、明が声をかける。


「シーナさーん。歌の先生が来たからレッスンだそうです」


 半ば切れそうになりつつも、明も自分と同じく巻き込まれた口だと思い出してぐっとこらえて作り笑いをするシーナだった。


「分かった、行くよ」


 重い腰を上げ、老人のように背中を丸くして明の後からついて行くシーナであった。


§


 大事件の火種というのは、大抵見えないところで始まって、発覚した時には手遅れになる程、膨れ上がってしまうものらしい。

 ゲームArsMagna(アルス・マグナ)は、現状ではNPCを停止モードにするのが難しいため、オンラインメンテナンスモード、という、ゲームを立ち上げたまま、世界の動きを止め、NPCは休眠モードにし、いわば全員がその場で眠って仕舞った状態にして保持してあった。

 保持してあった筈だった。


 一人、茂みで倒れていた少女がピクリ、と動いたと思うと、むくりと体を起こした。

 彼女は頭を振り、辺りを見回し、自分の状態を把握しようとしている。


「ん……あれ、私どうしてこんな所で寝てたのかしら」


 エルフの少女は目を覚ますと、辺りが何やら異常な状態になっていることに気が付いた。

 見渡すと、すべての人は眠っている。空は塗りつぶしたような灰色である。


「何が――どうなっているの?」


 少女――ミソラは、慌てて家に取って返した。

 ネットワーク管理者に対して、異常事態を示すアラートが出ていたのだが、その時偶々現実世界が夜間であり、ゲーム自体も休止状態という事もあって、アラートの通知メールを受けとるべき人員は、就寝していたり、海外にダイビングに行っていたりと、メールを見れる状況ではなく、発見は遅れてしまった。

 初動が遅れている間に、少女が休眠していたゲームに波紋を巻き起こすのには、さして時間は掛からなかった。


(続く)




現実と仮想世界、両方で異変が。

そして、シーナの変身についてのヒントが……。

以下次回!

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