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転職勇者と大魔導師《ハイ・ウィザード》  作者: 吉村ことり


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13/22

第13話「魔術師は不可能作戦を遂行するか?」

恭一は明を助けに現実世界で動く。

果たしてその成果は。

―――― 13 ――――


 建物周辺にバイクで行けば警戒される。


「さて、どうやって中に入るかな」


 恭一はバイクを走らせながら考えた。今は深夜。病院に入れるのは急患くらいなものだ。事故ったと言って救急口から入る……すぐにばれるな。誰か急患に仕立ててついて行く。ここに来れるとは限らないじゃないか。

 会社から病院までは遠くない。余り近付くと防犯カメラやセキュリティに引っかかってしまう可能性もあるので、一旦バイクを止めて彼は考えた。彼の趣味の一つに電子工作、しかもかなり危ない方面の工作が有った。

 恭一がバイクの物入れを探っていると、いろいろ怪しい道具がわらわらと出てくる。それをしばらく見ていた彼は、とあるレトロな海外テレビドラマのテーマ曲を口ずさみ始めた。

 そうしながら取り出したのは何本かのコネクタと、マグネトロン管を改造して作ってある筒、スティック型PC、そして小さなアンテナつきの発信機が3つ。


 彼は携帯電話のコネクタにケーブルをつないで、スティック型PCと接続した。PCにはマグネトロン管が接続されている。電源は通販で買った超小型の積層高圧電池だ。平たく言えば電子レンジ銃だ。電磁波の指向性を整流するための管に包まれたそれは、小型消火器のようにも見えた。遠距離の回路を壊すことこそできないが、妨害することは出来るだろう。

 それと同時に、小さなアンテナ付き発信機3つを、ひとつはバイクに置いて、もうひとつは自分が持ち、もうひとつを20m程先に置き、自作のレーダーアプリで電磁波発生源を探した。何の事は無い、3か所から電磁波を観測して、三角測量でカメラと探知機類、それと電子ロックを探るためだ。

 案の定、病院の壁にはカメラと動体探知機が仕掛けられている。だが、そこに至るまでの道にも、いくつかカメラが仕掛けられていた。


「病院の警備網じゃないなこりゃ。ネクデルドリームの機密保持かね」


 レーダーの表示を確認して、さらに目視して、カメラに写らない道を見つけて、彼は移動していった。

 それでも、途中どうしてもカメラの死角が見つからない場所があった。

 恭一はカメラを狙うと電子レンジ銃で撃った。派手な光線も何も出ない、撃ったかどうかも、装置がほんのり暖かくなる程度でしか分からない。だが、


「ヴー」


 微かな音がして、レーダーで確認した点が消える。カメラが動作を停止した証拠だ。そのカメラがジャミングされている間に駆け抜ければ、証拠は残らない。

 そうやって、彼は夜間通用口傍の警備詰所の近くまでやってきた。


「ここからは目視されるだろうし、さてどうする? 椎名恭一」


 自分はアクション俳優でもないし、いい加減おっさんであることもボチボチ自覚してきている。器用な体術で壁を登ったり、下水を通って院内へ、なんて無理だ。

 

「見つかれば建造物侵入で逮捕拘束、と」


 スマートフォンの電子双眼鏡アプリを立ち上げると詰所を見る。みたところ当直の警備は二人。切り替えてレーダーを確認すると、カメラが3つ、遮断型の警備装置が2つ。とてもじゃないが正面突破は無理だ。しかし、ぐずぐずしていると明の命にも関わりかねない。


「畜生、あれしかないか……痛いかな、やっぱり」


 この病院に明が運び込まれたのは、救急指定の病院だったからだ。救急指定の病院に合法的に入る手段は一つ。

 恭一は来た方法と逆に戻り、アンテナを回収してからバイクに乗った。


「打ちどころを間違えたら、救出どころじゃないからな」


 500ccのバイクがこけたら、でかい出費だ。それなりに事故って受け身は覚えているつもりでも、故意に事故を起こすのは流石にビビりが入る。


「ええい、どうにかなる!」


 それらしくつなぎが裂けて血でも出てればいい、そう思いつつ、病院の傍までバイクで走って行き、角を曲がる際にワザと倒れた。


「ザザザザザーッ!」

「いってえ!」


 つなぎはあんまり裂けなかった。高い奴だもんなあ、と思いつつ、それでもあちこち破れて血が出る状態に、打ち身も結構ある。これで行けば入れてもらえるだろう。バイクは……あんまり考えたくはない。一応なんとか引き起こして転がしていく。致命的に壊れたところは無さそうだが、フレームでも曲がっていたら修理費は洒落にならない。

 病院の通用口まで堂々とバイクを押して行って、窓口に行った。


「済みませーん。そこでコケちゃったんですけど、救急は入れますか?」


 警備員は椎名をちら、と見た後インターフォンを操作していた。


「今先生が来ます。大丈夫ですか?」

「多分骨は折れていないと思うんですけど、ちょっと打ち身が酷いかも」

「あー大変ですねえ」

「ちょっと徹夜の帰りで、頭がボーっとしてたかもしれないです」


 他愛ない会話をしていると、医師がやってきた。


「うーん、擦過傷かすりきずですね。たいした感じではないですけど、取り敢えず手当だけしましょうか、処置室はこちらです」


 医師に連れて行かれながら、頭の中で被害額を計算していた。繋ぎとヘルメットは結構傷が入ってしまった。バイクも板金は必要だろう。幸いフレームは大丈夫な感じだが、一度修理工場に持って行ってみてもらった方が良いかな。あー虎の子10枚じゃ効かないぞ。恭一は身体も痛いが、それより心が痛かった。


§


 急患が来たのは院内ネットワークの情報で渡辺にも伝わっていた。バイクの事故、というので、渡辺は内心蒼くなった。もし警察でも来たら、どんなきっかけで不正接続の件と、殴打して倒れている福本の件が明るみに出ないとも限らない。

 そして何より、このクランケだ。今はネットワークとの接続を一時停止状態にしている。感電による全身まひの原因はほぼ治癒しているし、感覚遮断効果も止まっているから、このままにしているともうじき目を覚ましてしまうだろう。もし騒がれると大問題だ。


 止血スプレーを持って福本の所に行って状態を確認する。取り敢えず脈はある。傷口を見つけてスプレーを塗布した。あとはクランケだ。ナノマシンのプログラムをチェックする。昏睡コーマの維持プログラムを見つけた。これをインストールして作業させれば、昏睡を持続できる。最悪本当の遅延性意識障害――植物人間化してしまう可能性はあるが、致し方ない。今はこの臨床データを得る方が優先だ。


§


 治療を終わった後、「X線で骨折のチェックを行う」と言われて廊下で待機させられた恭一は、もちろん指示にそのまま従う気はさらさらなく、院内の探索に出かけた。入手した情報では、アキラはICUーMEに居る筈だ。


「ICU、ICUっと……ICU-ME(極小装置集中治療室)か。これだな」


 明のいるICUーMEがある場所は別棟だった。


「面倒臭いな」


 そう言いつつも、彼は痛む身体を引きずりながら、迷路のような夜の病院を、集中治療室目がけて歩いて行った。考えればわかる事ではあったのだが、入院棟は消灯されているが、救急棟と集中治療室のある棟は煌々と明かりが付いているのが予想外だった。


「暗闇に紛れて、なんて考えていたんだが。甘かったな」


 院内の防犯カメラにはばっちり写ってしまうだろう。参ったな。まあ、それは迷ったとでも言い訳をすれば良いか。程なく彼はICUーMEのある一角に到着した、大病院ではあるが、それでも最新治療のナノマシン集中治療の施術室は3つしかない。施術室のほかに、モニタールームが一つ、ナノマシンコーディングなどに使う制御室が一つ。


 恭一はモニタールームに行ってみた。と、床に人が血を流して倒れている。


「何かヤバい雰囲気――」


 恭一は床の人物を見ている最中に、背後に気配を感じ、はっとして飛び退く。


「ここは関係者以外立ち入り禁止だ」

「あ、でもここに人が」

「彼はさっき発作を起こして倒れたんだ、今救援を呼んでいる。変に触って悪化してはいかんからそのままにしてある」

「あ、そうなんですか」

「それで、君は何なんだね」

「あ、ええと、バイクでコケてですね。トイレは何処かなと――」


 話しながら、窓から各部屋をささっと確認する。一つ目の部屋に居たのは老人。もう一つは空き部屋だ。もう一つは、カーテンが掛かっていて中をうかがい知る事が出来ない。恐らくそこに明がいるのだろう。


 二人の頭の中には、目の前の人物に対して、共通の認識が芽生えていた。


「こいつ、あやしい」


 そして、恭一は医師が後ろ手にしている手に、何かを握っているのを見て取った。恐らく何か適当な鈍器だろう。倒れている人物もそれで殴られたに違いない。かまを掛けてやれ。


「先生、持ってる得物、見えてますよ」


 言われた渡辺は頭に血が上った。


「うおおおおぉ!」


 渡辺はハンマーを振り上げた。だがその大振りは隙にもなった。恭一は転がって避けながら、ライダースーツの胸から、あるものを掴みだすと、渡辺の背中に押し当て、スイッチを入れた。

 それは、マグネトロン管の電源に使った小型積層高圧電池に、バイクの工具箱に入れていた昇圧装置を組み合わせた即席のスタンガンだった。小さいが、出力は50万ボルトで2ミリアンペアはある。


 渡辺は白目をむいて倒れた。


「ふう……。さて、お姫さま……じゃない、勇者とご対面と行こうか」


 恭一は立ち上がると、カーテンで仕切られているICUーMEに向かった。



そしてついに勇者と魔導師は対面へ。

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