第12話「FPSはあまり得意ではないけどレースなら任せてねと勇者は言った」
突如ゾンビシューティングと化した仮想世界。
アキラとシーナはどうなるのか?
―――― 12 ――――
「駄目だよ、すぐ追いつかれちゃう」
「ちょっと待ってろ」
シーナは走りながら通信を入れる。
「シーナだ、逃走手段を頼む。うん、そうか、送ってくれ」
「なに?」
「アキラ、お前レースゲームは得意か? 私はあまり得意じゃない」
「うん、得意。子供のころから家族用カートゲームとかで遊んでたし」
「フォーミュラーカーは?」
「ゲームだよね? 一応やってる」
「よし、任せた」
そういうと、ポーチの中に手を突っ込み、細長いジュエルを取り出した。
「これか」
なおも走りながら、シーナは詠唱した。
「早き者、汝の名はフォーミュラ!」
そして、ジュエルを前方に投げる。
投げた先に出てきたのは、なんといえばいいだろうか、漫画に出てくるようなド派手なタンデムシートのフォーミュラーカーを、スチームパンクっぽく作った代物だった。
「前の席に乗れ!」
そう言いながら、シーナは後部座席に飛び込む。アキラも真似て前部の座席に飛び込んだ。
「ちょっと待って! これハンドルが無い!」
「なんだって!?」
シーナはコックピットを覗き込む。コンパネと思しき者の中央付近に二つ並行で、取っ手が並んでいた。
「両手で持つ取っ手があるな、引っ張ってみろ」
アキラは取っ手を掴むと思いっきり引いた。
「駄目だ、びくともしないよ」
「ちょっと待て、ちょっと待て……そうか、分かった。引くんじゃない、縦になるように回せ!」
「えー……」
不平を垂れながらも、アキラは、横に並行で撮りつけられている取っ手を左手は左、右手は右に回転させた。すると、取っ手はぐるっと回り、ジャコン!、と飛び出してきて、あっという間にハンドルに変わった。
「アクセルは?!」
「アクセル、ブレーキ、ギヤ、後はセル、セルモーター! これか!」
ハンドルの右下に、微妙なでっぱりが有った。もうNPCゾンビもどきが追い付いてきている。慌てながらでっぱりを回したり引っ張ったりしてみる。すると、回して引っ張ることでセルモーターの回転音がした。「キュキュキュキュッ! ドルルルルルルルルル……」
「エンジン掛かった! 行くよ!」
アキラはハンドルを握ると、アクセルを思いっきり踏み込んだ。左手でギヤを操作して、あっという間に6速まで持って行った。
「でもさ」
快速で飛ばしながらアキラは言う。
「なんだ?!」
「草原に凸凹の岩が有る所でこんなシャコタンの車をこんな速度で飛ばしたら――」
ドッカーン!
案の定、岩に乗り上げて車はしこたまに底をぶつけた。しかし――
「あー」
シーナは顔を覆った。
「やっちゃったねえ、バグ報告しなきゃ」
アキラはそう言いながら、へらへらと笑っていた。
車は当然来るであろう転倒ではなく、宙を舞っていた。
「何だっけ、車が空を飛ぶってすっごく古い映画が有った気が」
「チキ・チキ・バン・バンか、あれも夢の話なんだよな」
「そっか、そう言えばこれ、夢なんだっけ。だからこんなことになっちゃったのかな?」
「わからん。しかし本来は物理演算をやってる筈なんだがね」
「ハンドル切れるかな?」
アキラが試しにハンドルを切ると、なんと車は空中で方向転換をした。
「あーこれ面白い」
「頼む、バグで遊ぶな」
「はーい。でもどうやって着地させるんだろう」
「……まさかと思うが、ハンドルを引っ張ってみろ」
アキラが言われた通りにハンドルを引くと、車は下降を始めた。
「これバグじゃないな、仕様だ。ハンドルを押せば上昇する筈だ。空陸両用車かよ」
「フォーミュラーカーだよね? こんなチート仕様で良いの?」
「開発部のプログラマとデザイナー連中が何を考えてこれを作ってたかはよく知らん。ただ、予め用意してあったのがこれだそうだ」
「まあいいか。で、目的地は何処?」
「知らん」
「そんな無責任な」
「NPCがゾンビもどきになって襲ってくるから逃げろ。現状ではそこまでだったからな」
「参ったね」
「ああ」
二人はあてどもなく、異世界(に見えるゲーム)の空を飛び続けた。
§
福本は、明の接続状況を確認した。問題なく動作しているようだ。だが、彼らが用意した仮想現実で日常を送っているにしては、少々脳波のパターンに起伏が激しい。
「どういう事だ?」
彼らの計画では、明は彼らのサーバーに接続されて、感電から復帰したあとを想定した偽の日常を、再び体験することになっていた。工員としての単調な日常を。
福本は不審に思って、明が接続しているネットワークを追跡した。だが、その追跡は、接続先不明で遮断されてしまった。
「うむむ? 何だこれは……」
福本は携帯で渡辺を呼び出した。
「主任、拙い事態です」
「どうしたね」
「クランケの接続先が異常です」
「ほほう、どうなっているんだね」
「それが、ルーティングを追跡したのですが、途中で接続先不明になるんです」
「そうか」
次の瞬間、福本は頭部を強打されて昏倒した。
「余計な事は心配しなくていいんだよ」
背後には、手にゴムハンマーを持った渡辺が立っていた。
「まあ、死ぬことはないだろうが。最悪、重度の遅延性意識障害位にはなるかもな」
福本は、頭部から血を流していた。
「さて、確かに回復されてしまっては困るからな。ちょっと手を加えさせてもらおうか」
渡辺は、明の生命維持装置のコンソールに座り、何事かの操作を開始した。
§
いきなりアキラが意識を失ったので、シーナは慌てた。
「おい、アキラ、起きろ、洒落にならないぞ」
つついたり、ひっぱたいたりといろんな手段を使って起こそうとしたが、アキラはまるで空気が抜けたような状態になっていた。シーナは通信を入れた。
「状態異常が昏倒した。原因は不明だが其方で何かモニターしているか?」
――現状でネットワーク接続の問題等は検出していません。ただ、明さんのバイタルには問題が出ているようです。アバターだけではなくて、本人の心拍数や呼吸も低下しています。
「病院には問い合わせたか?」
――それが、受付時間外とかで、連絡が取れません。
「うちに患者が接続しているという件を話してないのか?」
――クライアントに今事情を聴かせるのは拙い、と、部長の判断がありました。
「なに体裁を繕おうとしてるんだよ……」
――入金に関係ある事ですし。
「分かったよ、こちらで方策を考える」
通信を切って、シーナは爪を噛んだ。
現状ではこの車が墜落する可能性は無いようだが、このままアキラを放置していると、どうなってしまうかが心配ではある。見ず知らずの相手ではあるが、ネット越しとは言え、一日行動を共にしている。無碍にはできない。
意を決すると、シーナはログアウトコマンドを実行した。
§
恭一は起き上がると、接続から抜けた後の遊離感を振り払いながら洗面所に向かった。
それから、大急ぎで数日の汗で汚れた服を脱ぎ、盛って来ていた替えの下着とシャツに着替える。そして、皮のつなぎを着ると、ヘルメットを持って社員証で認証して職場を出ると、裏の駐車場に向かった。
「まったく、世話が焼ける」
愛車のホンダの500ccに跨ると、ヘルメットから指出しグローブを出してはめ、ヘルメットをかぶって顎脇のボタンを押した。シュッ、と音がして繋ぎとヘルメットが接続する。
バイクのナビを起動すると、明が収容されている病院の位置を確認した。
「ログアウトして2分か。あんまりぐずぐずしていられない、ちょっと無理をしなきゃいけないな」
彼はエンジンを起動すると、バイクをそろそろと駐車場から出し、それから一気にアクセルを開いて走り出した。
突然意識を失ったアキラ。
ログアウトして恭一が向かう先は?
次回「ス〇イ大〇戦」!?




