第10章 : 夏空へ踏み出す、最初の一歩
週の始まりを迎えた朝の光が、清涼高校へと続くアスファルトを温かな金色に染め上げていく。校門へと続く l 沿いの青々とした街路樹は、夏の名残をはらんだ爽やかな朝風に揺れていた。白いシャツに灰色のスラックスやスカートを身にまとった数百人の生徒たちの足音が、賑やかな廊下や校門前を埋め尽くしている。週末の思い出を語り合う楽しげな笑い声が、あちこちで弾けていた。
正門の大きな門柱の傍らに、西条朝陽は真っ直ぐに立っていた。
制服のシャツはシワひとつなく整えられ、一番上のボタンは少し緩められて爽やかでありながらもきちんとした印象を与えている。
いつもなら目を覆っていた前髪は少し分けられ、そこから覗く黒い瞳は穏やかで、もう二度と自分の靴先ばかりを見つめてはいなかった。その隣では、吉田大樹がフェンスの壁に背を預け、親友の変貌ぶりを誇らしげな笑みを浮かべながら見つめていた。
「いやー、花火大会でデートしてきた奴はやっぱり違うねぇ」
大樹は肘で朝陽の腕を小突いてからかった。
「背筋がピンと伸びちゃってさ。門をくぐるたびに地面に頭がつきそうだった臆病者の朝陽くんは、もうどこにもいないな!」
朝陽はいつものように慌てたり怒ったりはしなかった。
彼は静かに息を吐き出し、隠すことなく小さく誠実な笑みを浮かべた。
「約束したんだ、大樹。俺はもう、引き下がらないって」
「へへっ、そうでなくっちゃ! さすが俺の親友だ!」大樹は爆笑しながら、朝陽の肩をバシッと叩いた。
門を行き交う生徒たちの間から、ヒソヒソという噂話がまだ聞こえてくる。幾つもの視線が驚きや好奇心を込めて朝陽に向けられ、先週のお弁当事件の偏見を捨てきれていない者もいた。
しかし、藤島亮太がバスケ部の部員数人を引き連れて右側の通路を通りかかると、周囲の空気が一瞬で静まり返る。普段なら顎を突き出して闊歩していた亮太だったが、朝陽を一瞥すると奥歯を噛み締め、それ以上騒ぎを起こすことなく視線を逸らして足早に去っていった。
朝陽は再び駅へと続く交差点に視線を戻した。手首の時計は午前7時45分を指している。昨夜、二人がチャットで交わした約束通りの時間だった。
「朝陽くん!」
朝の喧騒を突き抜けて、聞き覚えのある澄んだ声が響き渡った。
朝陽が振り向く。交差点の角から、話光が軽やかな足取りで近づいてくるところだった。
ぴったりと着こなした制服姿、歩を進めるたびに美しい明るい茶色の髪がふんわりと揺れている。その隣には、橘空、白川澪、君沢凛の三人が、悪戯っぽい笑みを浮かべながらついてきていた。
朝の空気の中で視線が交差した瞬間、光の足取りが一瞬緩やかになった。透き通るような両頬に、甘く綺麗な朱色がさっと広がっていく。学校一の人気者である彼女は友人たちから離れ、校門の前に立つ朝陽の元へと一直線に歩み寄った。
「おはよう、朝陽くん」
朝陽のわずか一拳分前の距離に立ち、光は清涼高校で一番眩しい笑顔を向けた。
「おはよう、光」
朝陽が穏やかに応える。
大勢の生徒が見守る前で、朝陽が躊躇いもなく自分の名前を呼んだのを聞いて、光は一瞬息をのんだ。その茶色の瞳から、溢れんばかりの幸せな輝きが放たれる。周囲の驚く呟きなど少しも気に留めず、光は朝陽のすぐ隣に並んだ。
「ふふ、一緒に教室まで行こ?」
光は背中で両手を組み、愛おしさに満ちた瞳で朝陽を見上げながら誘った。
「うん、行こう」朝陽は力強く頷いた。
二人は並んで学校の門をくぐり抜けた。もう後ろに取り残されることも、不安に頭を垂れることも、屋上へ逃げ込むこともない。
青く澄み渡る夏空の下、二人の最初の一歩が確かに刻まれた。
それは、二人を成長させ、絆をより深めていく長い道のりの始まり——これから訪れる美しい季節を迎えるための、輝かしい第一歩だった。
『かけがえのない宝石にたどり着く、僕の旅の物語』
〜辿り着きたい、僕の掛け替えのない宝物〜
【読者の皆様へ:第2巻 刊行決定のお知らせ】
いつも本作品をお読みいただき、誠にありがとうございます。
第1巻『辿り着きたい、僕の掛け替えのない宝物』はいかがでしたでしょうか。
朝陽と光が踏み出した最初の一歩、そして二人を待ち受ける新たな季節の物語を温かく見守ってくださり、心より感謝申し上げます。
二人の絆がさらに深まり、新たな試練と甘い日常が描かれる**『第2巻(Vol 2)』**は、2〜3週間後を目処に皆様のもとへお届けする予定です。
夏空の下で紡がれる二人の続きの物語を、どうか楽しみにお待ちいただけますと幸いです。
今後とも変わらぬご愛顧のほど、よろしくお願い申し上げます。




