風が囁いた ―― 敵対的環境
木々の間に漂う緊張感は濃く、酸素さえも押しつぶされるような絶対的な静寂が支配していた。森は単なる背景ではなく、大気に震える殺意の重さに息を潜める、物言わぬ傍観者と化していた。
カエリアとブリアナは、正確な距離を保っていた。二人を隔てる数メートルの踏み固められた地面は、単なる空地ではなかった。そこは電気を帯びた深淵だった。焚き火は今や消えかけの残り火となり、広場の暗闇に抗っていた。不安定に揺らめくオレンジ色の光は、世界を深い影で塗りつぶし、二人の女性の輪郭を古い映画の摩耗した映像のように揺らめかせていた。
先に仕掛けたのはブリアナだった。
流れるような動作で、彼女は杖を回転させた。彼女の周囲の空気が、突如として放たれた意志に圧縮されて呻き、見えない突風が焚き火の芯を直撃した。
世界がオレンジと赤に爆発した。
灰と残り火が地面から引き剥がされ、風圧に乗って炎の波へと姿を変えた。炎は歪みながら伸び、一瞬の間に芝生の一本一本から鎧の金属の細部に至るまでを照らし出した。その突然の閃光、目を射るような光の中で、私は「異変」に気づいた。
カエリアが、もうそこにはいなかった。
先ほどまでシルエットがあった場所には、今や炎が通り抜ける真空があるだけだった。彼女は数メートル横に再び姿を現した。それはあまりに自然な動きで、まるで空間そのものが彼女を受け入れるために折り畳まれたかのようだった。行き場を失った炎は背後の樹木にぶつかり、貪り食うような音を立てて乾いた樹皮を登り始めた。
ブリアナが笑い声を上げた。その音はこの夜には不釣り合いだった。高く、ひび割れた、純粋な興奮が混じる不協和音が広場に響き渡った。
「ハハハ! まただ!」彼女は叫んだ。その瞳には燃え始めた火の色が反射して輝いている。
彼女は再び放った。そして、さらにもう一度。空気は真空と圧力がぶつかり合う戦場と化した。かまいたちが金属音を立てて大気を切り裂き、古木の枝が悲鳴を上げる。
だが、カエリアは真昼の太陽の下に現れる蜃気楼のようだった。彼女は歩いているのではない。ただ、ある地点に存在することをやめ、別の地点に存在するようになるのだ。それは静かで、致命的で、完璧な回避の舞いだった。ブリアナが撒き散らす混沌の手の届かない、わずか一ミリの外側を常に保っていた。
「避けてばかりいないでよ!」ブリアナの声が鋭くなった。苛立ちが、楽しげな仮面を割り始めていた。「あんた、本当につまんない! これじゃ面白くないじゃない!」
カエリアの返答は、冬に肌を切り裂く氷の吐息のようだった。低く、重く、一切の熱を排して。
「面白くなるのは……貴様の死だ」
彼女が一歩踏み出した。そして、世界が彼女を飲み込んだように見えた。
私の心臓は肋骨を激しく叩いた。もはや目が追いきれない速度に、乱れた鼓動が追いつこうとしていた。森の暗闇は絶対的なものとなり、カエリアはその墨汁の海へと潜り込んだ。ブリアナもまた、虚無の重みを感じ取っていた。彼女の笑みが引きつり、杖を盾のように構えて周囲を回転させ、何もない空間を警戒した。
衝撃。
それは乾いた音だった。木と骨がぶつかり合う衝撃が、胸にまで響いてきた。カエリアがブリアナの背後に現れた瞬間、放たれた一撃の威力は凄まじく、魔導師の体は撃ち落とされた鳥のように宙を舞った。
しかし、地面に叩きつけられることはなかった。
吹き飛ばされながらも、ブリアナは自らの足元に突風を強制的に発生させ、圧力のクッションを作って体勢を立て直した。彼女はブーツで地面を引きずり、湿った土に深い溝を刻みながら着地した。肺を焼くような酸素を求めながら、必死に均衡を保とうとする。
彼女に視線を上げる暇はなかった。カエリアはすでに無慈悲な影となって、再び肉薄していた。
武器がぶつかり合うたびに空気が震え、周囲の現実を歪めるような低い唸りが生じた。ブリアナは絶望的に反撃した。角度を変え、風を強める。しかし、カエリアは正確な時間を刻み続ける狂いなき時計のように、戦闘のテンポを支配していた。
私は麻痺したように、そのすべてを見守っていた。呼吸することさえ忘れていた。世界は、暴力的な運命で結ばれたあの二つの人影と、光と影の円盤の中に凝縮されていた。
やがて、小さく人間味のある音が、戦闘の交響曲を切り裂いた。
「う、ん……何だ……?」
術が解けた。私の視線は戦いから引き剥がされ、キャンプの端へと引き寄せられた。薄暗がりの中で、人影が動き始めていた。兵士たちの眠りが終わりを迎え、外の世界の現実が、広場で起きている悪夢と衝突しようとしていた。
森の地面が、奇怪な形で生命を宿し始めたようだった。低く抑えられた呻き声が霧を切り裂き、強制的な眠りの重さに耐えながら、体が術の表面から必死に這い出そうともがいていた。
私は一番近くにいた兵士に飛びついた。私の指が触れた彼の腕は、石のように冷たかった。
「おい! 起きろ!」私の声はかすれていた。
彼はまばたきをした。その目は幽霊を見た直後のように虚ろで、焦点が定まっていない。私にかかる彼の体重は、混乱の渦中にある肉と骨の錨のように重く感じられた。
「何が……起きているんだ?」彼は口ごもった。熱い吐息が冷たい空気の中で白く濁る。「ひどく……疲れているんだ……」
「ここで一体、何の騒ぎだ?」
アーサーの声が、雷鳴のように薄暗がりを切り裂いた。私の心臓が跳ね上がり、肋骨を叩いた。彼は立ち上がっていた。そのシルエットは、今や木々を舐めるように燃え上がるオレンジ色の炎に照らされていた。
私は彼のもとへ駆け寄り、喉から言葉を溢れさせた。
「アーサー! ブリアナが……彼女が俺たちを裏切ったんだ! 眠りの術をかけて、結界を……そこにカエリアが現れて……!」
アーサーは私の言葉を聞いていなかった。彼の視線は広場の中心、二人の女性が死の舞踏を繰り広げる場所を凝視していた。しかし、突然、彼の焦点が変わった。眉間にしわが寄り、視線が下へと落ちる。
「何だ……これは……?」彼の声が低くなり、急激な重苦しさが漂った。
私は自分の両手を見つめた。その瞬間、それまで背景ノイズに過ぎなかった痛みが、主旋律となって響き出した。血だ。月明かりの下で黒くさえ見える鮮血が、切り裂かれた手のひらから滴り落ちている。凍てつく深夜の空気の中で、その液体の熱さが耐え難かった。
アーサーは舌打ちをした。焦燥の混じった、しかし心配を隠しきれない音だった。彼は危険から目をそらさないまま、装備から粗末な布切れをむしり取った。
「これを巻け。すぐにだ。血を失いすぎて気を失う前に」
宙に放られた布を掴んだ。私の手は、まるで他人のものかと思うほど激しく震えていた。きつく布を巻きつけると、繊維が瞬時に血を吸い込んでいくのを感じた。痛みが脈打ち、熱波となって腕を駆け上がったが、その圧迫が私に必要な安定感をもたらした。
アーサーはもう私を見ていなかった。彼は木々を見ていた。
ブリアナの火が、秋の枯れ葉という燃料を見つけ出していた。炎は今や螺旋を描いて立ち昇り、不安定な光で森を照らし出している。その光の中で、影がまるで悪魔のように踊っていた。
「収拾がつかなくなっているな……」彼は独り言のように呟いた。
彼は胸を大きく膨らませるほど深く息を吸い込み、その号令が爆発した。
「兵士たちよ! 起きろ! 武器を取れ!」
しかし、叫びの途中で彼は凍りついた。常に鉄の仮面を被っているようだったアーサーの顔が、純粋な衝撃に崩れた。体が硬直。見開かれた瞳には、燃え盛る炎の輝きが映っていた。
「神々よ……」それは囁きだったが、恐怖の叫びのように響き渡った。
電気的な戦慄が私の背筋を走った。彼は乱暴な力で私を後ろに突き飛ばした。肩に触れた彼の籠手の金属が冷たかった。
「そこにいろ! 者共! 今日、我らは生き残るために戦うのだ!」
彼の恐怖が向けられた先を追った。木々の梢を飲み込み始めた火のおかげで、私は「それら」を見た。
数十、いや、数百。固形化した煙で作られたかのような漆黒の姿が、捕食者特有の優雅さで動いていた。狼のようだが、どこか歪んでいる。長すぎ、低すぎる。その体表は光を反射せず、逆に光を貪り食っているようだった。幹の間から、何百もの瞳が輝いていた。私たちを死の包囲網で囲む、黄色い光の焦点。
「あれは……何なんだ?」私の声は、風の糸のように細かった。
「わからん……」アーサーは剣の柄を握りしめ、指の関節が白くなっていた。「だが、奴らは我らを殺す気だ」
「エボニー・シャドウ(黒檀の影)……」背後の兵士が、己の処刑人を認めた者の声を漏らした。「奴らは群れで歩く……何も残らなくなるまで止まらない……」
その後に続いた沈静の中で聞こえるのは、木のはぜる音と、足元から伝わってくる地を這うような低い唸り声だけだった。
「円陣を組め!」アーサーが叫び、最後に一度だけ私を振り返った。「英雄アーベン、隠れていろ。今すぐにだ!」
私は巨大で冷たい岩の陰へと走り込み、激しく上下する胸を押さえた。岩と根の間にうずくまりながら、押し寄せる暗闇に対して鋼の円陣を組む兵士たちを見た。怪異たちが前進してくる。開かれた口からは、火災の光を浴びて砕けたガラスのように輝く牙がのぞいていた。
新たな戦いが始まろうとしていた。血と煙の匂いだけが、あの夜に残された唯一の香りだった。
兵士たちは鋼と盾の列を成し、混沌の中で呼吸しようともがく一つの巨大な有機体のようだった。影から漏れる音は、もはや単なる唸り声ではなかった。それは地面の底から響き渡るような、金属的な軋みと重低音の合唱であり、私たちを包囲し、静寂へのわずかな希望さえも踏みにじっていた。
奴らは待っていた。黒檀の怪異たちは、嵐の前の波が崖の根元を舐めるように、冷徹な知性を持って我らの陣形の限界を試していた。
「陣形を崩すな!」アーサーの叫びが、煙で濁った空気を切り裂いた。
一体の獣が均衡を破った。それは盾の壁に激突した一筋の闇の残像だった。アーサーの反撃は銀色の閃光となり、あまりに鮮やかな一撃に、怪異の首が地面に落ちるまでの一瞬、世界が静止したかのように見えた。
「数は奴らの方が多い! だが、我らには規律がある!」彼の声は、男たちのパニックを繋ぎ止める錨となっていた。「共に戦え!」
「おおおっ!」兵士たちの咆哮が響く。勝利が可能に思える、束の間の光だった。
しかし、我らのような物語において、運命というものは残酷な皮肉屋だ。
頭上の空が歪んだ。自然界のものとは思えない力を帯びた突風が、防衛線に激突した。台風に散らされる枯れ葉のように、盾が吹き飛ぶのが見えた。完璧だった抵抗の幾何学は崩れ、人間の体が大地へと投げ出された。
私は目を上げ、その歪みの根源を探した。
ブリアナ。
彼女は夜の帳を背に浮遊していた。月光の下で、乱れた髪が黒い炎のように踊っている。掲げられた杖は局地的な嵐の爆心地となっており、その瞳はこの広場を超えた何かを見つめていた。反対側では、カエリアが鋼の旋風と化していた。私たちを襲うものより遥かに数の多い影の海に囲まれながらも、彼女は一歩も退かない。彼女の動きは血に浸された筆跡のようであり、深淵を押し留める侵しがたい障壁となっていた。
凄惨な悲鳴が、戦闘の交響曲を切り裂いた。
顔を向けると、一体の怪異の牙が兵士の太腿、膝のすぐ上に深く突き刺さっていた。肉の裂ける音は喧騒にかき消されたが、その男の瞳に浮かぶ恐怖は鮮明だった。彼は冷たい土に無駄な爪痕を残しながら、闇の中へと引きずり込まれていく。
本能が動けと叫んだ。力を振り絞ろうと一歩踏み出したその時、現実は拳のような衝撃で私を打ちのめした。
激痛が爆発した。
両手の傷口が、まるで血が溶けた鉛になったかのように燃え上がった。手は硬直し、指は拒絶するように動かない。新たに溢れ出した血の生暖かい熱が、間に合わせの包帯を濡らしていく。私は自分自身の悪夢の中で、無力な傍観者に成り下がっていた。
「ダメだ……!」その叫びは喉の奥で死んだ。
その時、アーサーが巨神のごとく現れた。彼の剣が絶対的な弧を描いて振り下ろされ、獣の頭蓋を割り、死の顎から兵士を解放した。彼は片腕で負傷した男を抱え上げ、もう片方の手で影を退けた。
彼は火災の光を浴びて額に汗を光らせながら、兵士を私の方へ引きずってきた。
「英雄!」彼は革袋を私の足元に投げ出した。地面に叩きつけられたその音が耳を劈くように響いた。「そこに布が入っている! こいつを頼む!」
私の鼓動が乱れ、リズムを崩した。
「俺……やり方がわからない……」
アーサーは一瞬だけ私を見つめた。そこには裁きなどなく、ただ「時間はすでに尽きている」と悟った者だけが持つ残酷なまでの切迫感があった。彼は何も言わなかったが、その視線の重さだけで十分だった。
「……わかった。俺に任せろ」私は震える声で、しかし決然と答えた。
彼は一度だけ頷き、再び鋼と爪が渦巻く激流へと飛び込んでいった。
私は自分の両手の苦痛を無視し、湿った土の上に膝をついた。不自由な指で袋を開けると、乾燥した薬草と清潔な亜麻布の香りが、辺りに充満する金属的な血の臭いと混ざり合った。隣では兵士が呻き、森の地面を赤く染めながら命が糸のように零れ落ちていた。
私は、立ち上る火と消えゆく命の間にいた。止まることを拒む心臓の、一拍ごとの重みを理解し始めていた。
焦りで指をもたつかせながら袋を開けた。中身は空虚に近いものだった。布の切れ端、使い古された紐、そして火災の下で冷たく光る単純な道具。包帯などない。溢れ出し続ける赤色の海を留めるものは何一つなかった。
兵士の脚の血は、単に流れているのではなく、拍動していた。それは生きたリズムであり、早すぎる生物学的なクロノメーターだった。チクタク。ルビーの奔流となって命が消えていく。
(くそっ……これはまずい)
頭がくらくらした。圧迫止血が第一歩だが、この傷を覆うには布が足りない。肌を刺すような絶望感の中で周囲を見渡すと、自分のバッグのストラップが目に留まった。
唾を飲み込む。止血帯だ。
傷口と体の間、その上部に革のベルトを通した。傷ついた両手の限りの力で引っ張ったが、革は滑る。地面、枯れ葉と灰の中に一本の枝を見つけた。ベルトの間にそれを差し込み、ねじり始めた。
一度、二度、三度。
圧力は凄まじいものとなった。兵士が戦闘の交響曲を切り裂くような悲鳴を上げた。純粋な苦痛の叫びに、私の歯の根が震えた。
「ご、ごめん……!」震える手で動作を続けながら、私は何度も繰り返した。
血の流れが緩やかになり、黒く淀んだ跡になるまで回し続けた。枝を固定する。肺が焼けるようだった。
「耐えろ……」私は彼に言い聞かせるよりも自分自身を納得させるように呟き、混沌の中で思考を整理しようとした。傷口を洗浄するものが必要だった。彼がここで死ぬリスクを少しでも減らせるものなら何でもいい。視線を巡らせると、彼の腰に下げられた水筒が目に留まった。
「失礼……」返事を待つ時間などない。私は無理やりそれを引き寄せた。
蓋を開けて鼻を近づけると、即座に強烈な臭いが立ち昇った。純粋なアルコールではないが、安物の強い酒だ。喉を焼くほど強いそれは、今の状況では傷口を消毒する助けになるかもしれない。
これで十分だ。
「……痛むぞ」私はそう告げると、水筒を傷口に向けて傾けた。
「ま、待て……」彼の声は弱々しく、途切れ途切れだった。「一口……くれ……」
私は一瞬手を止め、頷いて水筒を彼の口元へ運んだ。彼はそれを急いで飲み込み、苦しそうに飲み下した。その小さな行為だけが、彼の意識を繋ぎ止めているかのようだった。
水筒を離し、深く息を吸い込むと、私は液体を傷口に直接流し込んだ。
その瞬間、絶望的な叫びが広場の空気を引き裂いた。液体が血と共に流れ落ち、男は身悶えした。
それでも、私は手を止めなかった。
酒の強い臭いと血の鉄錆びた匂いが混ざり合って鼻を突き、私の意識を刺激する。私は残ったわずかな布切れを使い、まだ溢れ出そうとする命を食い止めるために、その場所を力一杯押さえつけた。そして彼の脚を慎重に持ち上げ、近くの岩の上に置いた。血流を抑えるために、心臓より高い位置に保つ。
「そのままにしておけ」手の震えと手のひらの痛みを堪えながら、私は毅然とした声を絞り出した。「下ろすなよ」
彼は激しい呼吸を繰り返しながら、意識を失わぬよう抗い、弱々しく頷いた。
「あ……ありがとう……」
私は短く頷き、一瞬の安堵を感じた。
(まだ意識はある)揺らめく炎が彼の瞳に映るのを見て、自分に言い聞かせた。(大丈夫だ、うまくいく)
だが、運命がこれほど単純な結末を許すことは稀だ。そして、私は決定的に間違っていた。
手の血を拭う暇さえなかった。周囲の空気が、まるで見えない手に握りつぶされるかのように歪み始めたのだ。
周囲の空気がねじれ、真夏の街のアスファルトから立ち昇る陽炎のように、背後の炎を歪ませた。思考が反応に変わるより早く、彼女はそこにいた。
ブリアナ。
飛び起きようとしたが、彼女の動きの方が速かった。無造作と言えるほど軽い手の振りが空を切ると、世界が傾いた。私は荒々しい樹の幹へと叩きつけられた。衝撃は単なる痛みではなかった。肺からすべての空気が力ずくで押し出され、急激な真空状態に陥った私は、回転する夜空の下でめまいと共に崩れ落ちた。
「あんたにはまだ用はないわ……」
彼女の声が、切迫感のかけらもない、退屈そうな響きで流れてきた。
彼女は顔を傾け、瞳の中で火災の光を躍らせながら、私にウィンクしてみせた。この虐殺の最中にはあまりに不釣り合いな、少女のような仕草。
「二人きりになったら……じっくり楽しんであげる」
血の気が引いた。森の夜風とは無関係な、内側から凍りつくような感覚。震える手足に無理やり命令を下し、立ち上がる。その時、さっきまで手当てをしていた兵士の傍らに彼女が立っているのが見えた。銀色の短剣が、すでに彼の汗ばんだ首筋に添えられていた。
「やめろ!」私の叫びは、声の破片となって飛び散った。
だが、遅すぎた。時間は引き伸ばされ、一ミリ秒が数トンの重みを持っているかのようだった。切り口は鮮やかだった。音は、ほとんどしなかった。男は最後の叫びをあげようと口を開いたが、それは形にならなかった。代わりに聞こえたのは、命が零れ落ちる湿った泡立ちと、あるまじき場所から空気が漏れ出す窒息したような口笛の音。彼の両手が絶望的な反射で跳ね上がり、自分の血の熱く濃厚な粘り気の上を滑った。最後の痙攣の後、その肉体は重力に屈した。
「この、悪魔め……!」
ブリアナは私の憎悪を無視した。彼女は死体の上に杖を構え、世界の理に逆らうように、血が上昇し始めた。月光の下でルビーのように輝く深紅の糸が、上へと吸い上げられていく。彼女は祈りではなく、深淵への命令を唱え始めた。
『流されし血より、我は喚ぶ……見つめる暗闇より、我は請う……影に狩りする者よ……境界を越えよ……プレデターX』
「アーベン、彼女に近づくな!」
カエリアが鋼の稲妻となって現れ、死の弧を描いて剣を振り下ろした。しかし、その一撃が標的に届くことはなかった。巨大で鋭い爪が虚空から実体化し、私の胸にまで響く轟音と共にその攻撃を阻んだのだ。
そして、私は「それ」を見た。
それは、身の毛もよだつような威容を誇る、筋肉と影の巨大な塊だった。その皮膚は、荒々しい岩石と古びた樹皮が奇怪に融合したかのようで、深い灰色が森の薄暗がりに完璧に溶け込んでいた。
両腕は不自然なほどに大きく重く、その先には引き裂くためだけに作られたような、湾曲した黒い爪が備わっていた。それが動くたびに、まるで現実そのものがその存在を支えきれずに悲鳴を上げているかのように、空気が軋んだ。
顔は別種の悪夢だった。鼻はなく、人間を思わせる特徴は何一つない。岩のような表面の裂け目に、小さな、落ち窪んだ二つの瞳が鈍い赤色に輝き、その下にはギザギザの歯が並ぶ不規則な巨大な口が、生きた亀裂のように開いていた。
「これがプレデターXよ」ブリアナは残酷な甘さを込めた声で微笑んだ。「さあカエリア、こいつがお相手をしてあげるわ」
怪物が咆哮を上げると、その突進の衝撃で地面が砕けた。カエリアは防御したが、湿った土に溝を刻みながら押し戻された。彼女はオーラを強め、光と精密さの残像となって、常軌を逸した速度で斬りつけた。だが、怪物は止まらない。刃が斬り、裂いても、彼は痛みなど存在しないかのように、終わりを受け入れぬ自然の摂理そのものの如く迫り続けた。
巨神たちの戦いが広場を破壊していく中、ブリアナは再び私に意識を向けた。
「さて……」
風が彼女の周囲で螺旋を描き始め、背後の炎を歪ませる不可視の層へと凝縮されていった。大気が無理やり圧縮されているかのように、重苦しく振動している。
退こうとしたが、体が動かなかった。周囲の圧力が実体化し、巨大な見えない手が私をその場に縫い付けているかのようだった。胸が締め付けられ、反応する間もなく肺から空気が奪われていく。
彼女はまだ、攻撃してこなかった。
残酷なまでの静寂を保ちながら、ただ杖を掲げる。周囲の風は凝縮され、回転し、より密度を増し、鋭くなっていく。
私は捕らえられたまま……その一撃が来るのを待つしかなかった。
「アーベン、そこを離れて!」
顔を向けると、カエリアがこちらへ向かおうとするのが見えた。だが、プレデターXが無慈悲な蹴りを放った。木が真っ二つに折れるような衝撃音が響き、カエリアは吹き飛ばされ、梢の間の暗闇へと消えていった。そして飢えた獣は、彼女を追って跳躍した。
広場に、絶対的な静寂が訪れた。
もう、誰もいない。
私と……今まさに放たれようとしているブリアナの魔術だけが残された。
誰も残っていなかった。私と、ブリアナが作り出した真空だけ。
彼女が踏み出した。周囲の風は不自然な挙動を見せ、背後の炎を歪ませる不可視の螺旋へと凝縮された。退こうとしたが、空気は固体となり、圧倒的な大気圧が私を何もない空間へと押し付けた。巨大な見えない手が私の胸を締め付け、身動きの一つさえも奪い去っていく。
彼女は残酷なまでの優雅さで、杖を掲げた。
風が放たれた。速く、絶対的な真空の刃が、耳を劈くような鋭い音を立てて空気を切り裂く。
その時、一つの人影が私の視界を横切った。
衝撃は乾いていた。金属と肉がぶつかり合う音が広場にこだまする。見えない斬撃が防具を貫き、直後に血が舞った。炎の光を浴びてルビーのように輝いた小さな雫が、土の地面を汚した。
「……アーサー?」
彼は崩れ落ちた。自分の両手の痛みも忘れ、私は彼のもとへ駆け寄った。周囲の世界は煙と絶望の残像へと変わっていく。
「どうして……どうしてこんなことを……?」私の声は信じがたいという思いで震えていた。
彼は私を見た。そして、命が零れ落ちていく中で、彼は微笑んだ。それは、彼の中にそれまで見たことのないような憂鬱を湛えた、疲れ切った微笑みだった。
「お前は……英雄の一人だからな……」彼の声は途切れ途切れで、泡立っていた。「私の命は……お前の命ほど重要ではない……」
胸が締め付けられた。どんな傷よりも激しい、肉体的な痛み。
「そんな……嫌だ……」
「生きろ……」彼は絶望的な苦しさの中で呼吸を繋いだ。「そして……なるべき英雄に……なれ……。お前は……いい子だ……」
沈黙が訪れた。決して消えることのない炎のように見えた彼の瞳の輝きが、ふっと消えた。彼は、動かなくなった。
その瞬間、私の中の何かが壊れた。音ではなく、自分を世界に繋ぎ止めていた絹の糸が断ち切られたような感覚。私は彼の剣を手に取った。その金属には、まだ彼の手の熱が残っていた。私はそれを掲げ、ブリアナに向けた。
彼女は私を見て笑った。澄んでいて、空っぽな音。
「やだ、もう……」彼女は退屈そうに首を振った。「時間の無駄ね」
彼女は両手を顔に当て、足元のアーサーの遺体とは対照的な、子供じみた嘲笑を見せた。
「その剣すら、まともに持てないくせに……。滑稽ね」
両手が激しく震えていた。全身が恐怖と怒りの地震に揺れていたが、私は退かなかった。突き進もうとしたその時、二人の兵士が私の前に立ちふさがり、肉体と職務の壁を作った。
「逃げてください、英雄様。ここは我らが」
「逃げるもんか!」私は風に向かって叫んだ。
一人が私に微笑みかけた。それは、短い別れの仕草だった。
「これが我らの仕事です。あなたがここにいても……足手まといになるだけだ」
その言葉は痛かったが、現実という鋭い透明感を持っていた。私は理解した。一歩一歩が裏切りのように感じられながらも、私は後退した。離れていく視界の中で、彼らがブリアナの嵐へと突き進むのが見えた。彼らは最初の一撃をかわしたが、彼女はほとんど動きもしなかった。
ただ一度、手首を返しただけ。彼らは糸の切れた人形のように吹き飛ばされた。立ち上がろうとしたが、ブリアナの風の刃がとどめを刺した。深く。残酷に。
私は暗闇の縁で立ち止まり、振り返った。
目に入ったのは、ただ「戦争」だった。地面から湧き出す影に囲まれ、すでに敗北が決まったかのような戦いを、それでも一撃一撃に執念を込めて戦い続ける兵士たち。私の体は震え、精神は崩壊しそうだった。あの空の下、あの思い出の中で、こんなことが起きるはずはなかった。だが、起きていた。
そして、誰もが期待を寄せた英雄であるはずの私は、何一つ、できなかった。




