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氷銀の魔女  作者: 涼
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9-5 陰謀?

 国武院事件から数日が過ぎた頃。


 国武院では新たな動きがあった。


 夜、カーテンを完全に締め切り、照明の点いていない教室には、大きなプロジェクターに映る画面のみが光源となっている。


 代表の天野巌は、高等部の男子生徒4人を暗い部屋に集めていた。


「お前達に任務を与える」


 ブルーライトに照らされる天野の顔を、男子生徒たちは怪訝そうな表情で見つめる。


「ひとつ目は、暁星学院の生徒になりすまして、悪事を働くことだ」


「せんせーい!悪事って具体的に何すればいいですかー?」


 4人の中ではとりわけ小柄な男子生徒が手を上げて訊ねた。


「しっ、榎本君、声が大きいぞ━っごほん、悪事といっても……殺人が限度だな」


 天野は4人に聞こえる最小の大きさの声で言った。


「殺人が限度って……犯罪の中のトップなんだけど」


「それな」


 2人の男子生徒がある意味正論を述べた。


「お前達の悪事は暁星学院になすりつける。魔法が恐ろしく強大で禁止すべきという世論に誘導するためだ。無差別通り魔や爆破テロのような政府が動かざるを得ない悪事でなければよい」


「無茶苦茶な理屈だな……」


 安堂は露骨に不機嫌そうな顔で思っていたことを思わず口に出していた。一瞬ハッとしたが、表情は戻っていた。


「タナトス様の命令だからな……暁星学院の制服は人数分調達済みだ」


 プロジェクターには人数分の暁星学院の男子用の制服が映っていた。


「こんなもの、どうやって用意したんです?」


 黒縁メガネの魚津(うおづ)が訊ねた。


「暁星学院にも政治的なパイプは1本や2本はあるのだ。もっとも、本件は幹事長経由だがな」


「小渕幹事長か……」


 魚津の言葉に、天野は頷いた。


「こんなの……」


「うん?どうした、安堂君」


「これも武士道教育の一貫なのか?」


 安堂はじっと天野を睨みつけていた。

 

「はいと答えたところで納得はせんだろう。だいたい、武士道教育なんぞ魔法を否定する大義名分に過ぎん」


「なっ……」


「うそやん」


「なははははははははっ、代表がそれ言っちゃう?」


 安堂は絶句、魚津はただ真顔で受け止めた。榎本はただ笑っていた。


「国武院の意味とは」


 気怠そうな男子生徒━大野はぼそっと溢した。


 突然すっと静かになる部屋。誰も何も口にしない。


「……いつまで、その悪事をやればいいですか?」


 魚津が訊ねた。


「2週間もあれば十分だろう。暁星学院の連中に勘付かれて対策される前に引き上げるがいい」


「見返りは?」


 立て続けに大野。


「一生衣食住に困らない程の富と議員特権の一部だ」


「そりゃあいい、ちょうど鬱憤が溜まってたんだよね〜」


 榎本が楽しみと言わんばかりに腕を回した。


「お、お前ら、本気でやるつもりなのか……?」


 安堂は3人の顔を順に見た。


「あったりまえじゃん、やらない理由なくない?」と榎本。


「そこまでの見返りがあるなら、やらないのは損だな」

と魚津。


「それな」

と大野。


 3人の顔は本気だった。


「安堂君、これは『任意』だよ?」


 天野はニヤリと笑った。天野のえも言われぬ圧に、安堂は押された。安堂はただ、拳を握りしめるしかなかった。


「……それで、もう1つの任務だが、ある人物を死なせて欲しいのだ。その人物は━━」



*



 午前9時頃━暁星学院理事長室。


 理事長室は深青色のシルクのカーテンで締め切られており、理事長のデスク上にはノートパソコン。画面には、「通話中」という表記。


 堂ノ上真聖はシックな椅子に腰掛け、画面の向こうの人物と通話している。


「先輩、大丈夫ですか?」


『ああ、身体だけは無駄に頑丈だからな。親父達の教えのおかげでな』


 画面の向こうには、負傷で包帯を頭に巻いている人物、八木沼寿人。


「八木沼重慶元代表は国武院設立以前から武道を重んじておられましたね、先輩も例に漏れず、ですね」


『そうだ、それにしても、2回も殺(・)さ(・)れ(・)か(・)け(・)る(・)とは……』


「……事故ではないと?」


 八木沼の意味深な一言に、堂ノ上は訝しんだ。


『確固たる証拠があるわけじゃない、だがそう考えずにはいられない』


 そう言う八木沼の表情は疑念に満ちていた。


『1回目は車に轢かれそうになった。運転手は熊谷の秘書で、事故を起こした不祥事の火消しとして懲戒免職』


「トカゲの尻尾切り、ですね。しかもその秘書は元々、増税に反対していた官僚」


『ああ、連中にとっては邪魔で仕方なかったんだろうな。そいつは逮捕されたが不起訴だ。警察も事件性は皆無の一点張りだ。2回目は俺が乗っていた車が突然爆発した。俺は頭から血を流す程度で済んだが、運転手は気の毒なことに亡くなった……』


「……」


『流石に表立って病院にまで殺しに来るとは思いたくはないが……SPを付けようにも彼らが熊谷の息がかかっていないとも言えん』


 堂ノ上は難しい表情で目を閉じた。

 

「では、暁星学院に雲隠れするのはどうですか?少なくとも民間の医療機関よりは安全かと。学院の周辺地域はコズミックが警備していますし、いざとなればバリアーでの封鎖も可能です」


 堂ノ上の提案に、八木沼は少し考えた。


『……そうだな、今回ばかりはお前さんに世話になるとするよ、国民の為に命を懸けていることに違いはないが、殺されるとなれば命には代えられん』


「では至急輸送の手配をします。不相応かもしれませんが、目立たないように白色の軽自動車で向かわせます。あとはコズミックの溝呂木隊長の指示に従って下さい」


『助かる。身体はボロボロだが、歩く事くらいはできるからそれで大丈夫だ』

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