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氷銀の魔女  作者:
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8-12 極光魔法

 紅葉は兼孝に指定された場所にやってきた。


 ホワイトボードの傍に、貴重な私服姿の兼孝が立っていた。


「どうしてクラリスが?」


 丸椅子に腰掛け、兼孝の講義を受けるような体制になっている紅葉の横には、制服姿のクラリスがいた。生徒会の仕事を消化していたのだろうか。


「せっかくだからね〜、共有しておこうと思ってね。一応言っとくけど、ここでの話は()()()()でよろ〜」


 兼孝は赤のマーカーで「他言無用!」と圧をかけるようにホワイトボードの端に縦書きした。


「クラリス、大丈夫だったの?」


「問題ない、ちょうど書類作業が終わったところだ。それに『いいも悪いもない』のだろう?」


 クラリスは兼孝に向けて軽く皮肉をこめた。しかし、兼孝には効いていないように見える。


「《ディテクター》で盗み聞きする不届者が居ないことも確認済み。早速だけど━」


「ちょっといい、貝塚?」


「どうしたの、紅葉さん」


「そもそも、極光魔法って機密情報よね?」


「そうだね、それも、おそらく国家機密」


「そんな国家機密を、どうして堂ノ上理事長や貝塚が知ってたの?」


「ボクは昔の魔法学術誌で読んだことがあったんだ。人が持つには強大過ぎるモノだとか、抽象的な内容だったよ。もっとも、その頃のボクはオトギ話レベルのモノだと思ってたけどね」


 兼孝は思い出しながら語る。


「でも、その学術誌の記事がいつのまにか消されてたから、もしかしたら本当のことだったのかなって思って。堂ノ上理事長がなんで知ってたのかは分からないけどね」


「機密情報なら、なんで生徒である私たちに話したのかしら?」


「ほう?」


 兼孝は目を細めた。その様子に紅葉が一瞬たじろいだ。


「機密ならせめて他言無用と言うはずよ。まるで、周囲に知られてもいいかのような感じで、もっと厳重に扱っててもおかしくないんじゃないかなって」


 紅葉は自身が感じた違和感を言語化した。


「流石紅葉さん、ボクもそう思ってたんだ」


「確かに、私にも資料を渡された。極光魔法という言葉の説明はなかったがな」


 クラリスも単語そのものは聞かされていたようだ。


「機密にしちゃあ扱いが雑すぎるよね、盗聴機の件もあるし。知ってる事を政府にバレるのも面白くないだろうにね」


「いくら政府でも暁星学院には介入できないと分かっててもか?」


 クラリスの問いに、兼孝はゆっくり頷いた。


「これはボクの予想なんだけど、堂ノ上理事長にとって、極光魔法すら囮なんじゃないかなって。他に隠したいことがあるのかも知れない」


 兼孝は少し目を閉じた。息を吸い、躊躇うように仮説を語る。


「……あの人は、世界が平和になるために人類がどのように進化すべきかを考えてるんだ。そのために使う事を考えててもおかしくない」


「そ、そんな……」


 話のスケールが大きくなりすぎる。紅葉は言葉を失った。


「流石に考え過ぎではないか?」


「そうよ貝塚、それは陰謀論よ」


 クラリスの言葉に、紅葉が乗った。堂ノ上が世界規模の計画を立てているなど、それこそオトギ話だ。


「……流石にボクの思い過ごしかな、ごめんね、変なこと言って」


 兼孝は少ししょぼくれたように謝罪した。


「いつも変なことを言ってるけど、ベクトルが違うわ」


 紅葉は少し笑いながら言い放った。


「んと、それじゃあ、次は極光魔法の歴史についてかな。堂ノ上理事長の話だと、『100年に1人、極光魔法の使い手が現れる』とかなんとかだったよね?」


「質問よいか?」


「もちろん、クラリスさん」


「魔法がこの世に生まれたのは約10年前のはずだが、どうして100年という期間が分かったのだ?」


「確かに」


 クラリスの問いかけに、紅葉も同調した。


「至極真っ当な質問だと思うよ。魔法誕生から数年後、舞台は宇宙へ。NASAの探索中、月面の地中から、人間が住んでいたと思われる形跡が発見されたんだ。その場所は『べステージ1』と名付けられた」


「べステージ1……」


「vestige……『痕跡』や『名残』という意味だな」


「その人類が月に文明を築いた証である『べステージ1』にて、石のような板を発見したんだ。残留魔力で発光、重力下で浮遊するその石板を『ハイペリオンの涙』と名付けられた」


 兼孝の説明に、紅葉とクラリスは真剣に耳を傾けている。


「『ハイペリオンの涙』を年代測定すると、紀元前5000〜6000年のものであると分かったんだ。これは4大文明の時代よりも前だね」


「私達の知らない文明があったなんて……」


「その石板を解読した内容を要約すると、『100年に1人、極光を持つ者が現れる』とね。もっとも、100年という数字の根拠は無いんだけどね」


 ホワイトボードには、時代を表す数直線、月と地球を表す2つの大きさの異なる円が雑に描かれている。


「そして、『強大な極光の制御を誤り、地球上の文明は滅びた。やがて月に住む我々も滅びるだろう』と。彼らがどうやって月に行ったのか、地球上のどこに魔法文明があったのかは未知の領域だね」


 兼孝はどこかワクワクしたように語る。


 未知の世界という意味では、人類のロマンとも言える。


「21世紀の中盤でもまだ未解明の謎がたくさん眠ってるとはな」


「それは数多くの学者がこぞって探し求めそうだわ」


 兼孝はペットボトルの水を少し飲んだ。再び、マーカーを持った。


「次に、極光魔法で具体的に何ができるのかについてなんだけど、ぶっちゃけボクも知らないんだ」


「確かに、肝心の中身について何も聞いてないわね」


 これまでの極光魔法の説明は「強力」だとか、「人の手に余る」だとか、「文明を滅ぼした」など、抽象的なものだった。


━貝塚も「なんかすごい力」くらいのふわっとした認識なのね。


「ボクの予想だけど、その気になればマグニチュード9を超える地震を起こしたり、ツァーリ・ボンバーを超える核爆発を起こしたりできるんじゃないかな」


「今までの地震のマグニチュードは日本だと9が最大だな」


とクラリスが補足。


「仮にマグニチュードが10だったとして、あれの約32倍のエネルギーなんて……」


「マグニチュードが2増えると1000倍だから、その平方根だね」


 紅葉の言葉を兼孝がさらに補足。


 紅葉は過去の大震災を思い起こした。自身はその頃はまだ産まれていないが、未曾有の大惨事だったと聞いている。それよりも約30倍のエネルギーと考えるとゾッとする。


「そんな地震が東京で起きたら日本は壊滅するだろうな。恐ろしい」


 クラリスは腕を組みながら深刻に考える。


「あくまで例えだから真に受けないで欲しいな━そんなわけで、極光魔法を持つユリィさんが学院にいるのは、監視の為だろうね。というか、そう思いたい」


「と、言うと?」


 世界スケールから個人の話に移行した兼孝の発言に、紅葉が問いかける。


 文明を滅ぼしかねない力を持つユリィが学院にいる理由。


 堂ノ上の真意について。


 兼孝は何を思うか。


「言い方を変えると、保護を名目に監視しているんだと思う。ただ、堂ノ上理事長には、他にも目的があるような気がするんだ」


 一同、しばらくの沈黙━


「山梨の研究所で事実上の監禁されていたのも、ユリィさんを駒として使う為だったのよね?」


「それだと今もプロジェクト・Yに動きがあることと辻褄が合わないな」


 紅葉、クラリスがそう言うと、兼孝は数秒間、目を閉じた。


 ユリィが必須の計画であれば、プロジェクト・Yは頓挫しているはずだ。


 兼孝がパッと目を開くと、発言を躊躇しつつも、口を開く。


「ボクの完全なる予想だけど、人造兵計画よりも遥かにおぞましいことが進行してるのかもしれない」


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