7-7 歪み
和真が倒れると、真っ先に駆け寄ったのはユリィだった。
「かずま!」
「和真君!」
此人が倒れた和真を肩で抱える。
名誉毀損とも言える榎本の発言に、ゆかりは我慢ならなかった。
「あんた達!いくら負けそうだからって━!」
ゆかりが言い返そうとすると、榎本は勝ち誇ったように笑った。
「だって事実だも〜ん。わかる〜?」
火に油を注ぐような言動に、ゆかりは詰め寄ろうとするが━
「無駄よ」
和真を抱えている此人がゆかりを制止した。
「でも━」
「話が通じない連中に何言っても、時間の無駄よ。彼らにとってはそれが事実なら、ここで覆すのは難しいわ」
此人はゆかりを諭した。その声には、静かな怒りがこもっていた。
「……医務室へ連れて行くわ━兼ちゃん!」
「事実関係、調べときますねー!がってんしょーちー!」
此人に呼ばれた兼孝は、ウキウキで返事をしたが、目は笑っていなかった。
「話が早くて助かるわ、お願い」
「……かずま……」
ゆかりとユリィは、和真を抱える此人の後ろを歩くことしかできなかった。
先程までざわざわしていた訓練所は、嘘のように静寂に包まれていた。
*
兼孝は真っ先に資料室へ向かった。
扉をスライドさせると、紙特有の臭いが鼻につく。少し埃っぽいが、完全に放置されているわけでもなさそうだ。
「あれ、かめむし先輩、やっぱりここにいたんですかぁ〜?」
資料室には先客がいた。
「おー、貝塚。面白いことがたくさんあるから共有しとくよ〜」
かめむしはおもむろにファイルを見せてきた。
「色々見てたら、サムライ君の名前があったから、とっても面白いことが書いてあったよ〜」
兼孝は。かめむしが指定したページを開いた。
「ふむふむ」
━2年前の5月17日、東条和真は以下の5人の生徒に対し、暴行を加えた。
以下の5人の生徒の名前には、安堂、榎本の名前があった。
さらに、「殺された」という人物の名前。
━石動智紀、記録上は2日後に死亡したとされている……。
「あのサムライ君がそんな暴行事件を起こすとはオレには到底思えなくて〜、何か理由があるのかな〜、と思って過去を遡ったけど、特に記載されてなかった」
かめむしの呑気な説明を聞いていると、兼孝はある事に気付いた。
「この死亡記録は半年後の11月に発表されてるね。普通なら遅くても1週間以内には公にすると思うんだけどなあ」
何か臭うな〜と鼻で空気を吸う兼孝。
「ハッックション!」
埃を吸い込んだようだ。
「貝塚、何が目的で調べてる?いや、サムライ君に何かあったの?」
かめむしは訊ねた。兼孝は起きたことをかめむしに伝えた。
「そういえば、記載はされてなかったけど、明らかに消されたような跡はあったよ?」
かめむしはそのファイルを兼孝に見せた。
その文書は、一面真っ黒であった。
兼孝とかめむしは互いに顔を見合わせた。
━やっぱり、何か隠蔽してる……。
兼孝の口元が歪んでいた。
「……オレはもう一度、国武院周りの関係者を洗ってみるよ」
かめむしはそう言い、資料室を出ようとした。
「どこへ?」
「一旦学院に帰る〜、矢場内先輩には伝えておくよ〜」
そう言い残し、かめむしは姿を消した。
「……相変わらず、『フリーランス』な人だ」
兼孝は楽しそうに呟いた。
資料室をうろうろしていると、兼孝は、床に置かれていた段ボール箱に躓いた。
その弾みで、積み上がっていた段ボールが崩落し、中身の文書やファイルなどが散乱した。
「あいたたたた、やっちゃった〜……うん?」
散らばった文書やファイルの中に、兼孝の目を引くタイトルのものがひとつ。
プロジェクト・Y。
「……なんでこれがここに?」
━管理が杜撰だね?
ファイルの中身を確認した。
その中には、見覚えのある人物の名前。銀色の髪を持つ少女の写真。
参考文書のスペースに、Tomoki Isurugiを含む文字列。
そして、兼孝は勝利を確信した。
「……ふふふふふ、あっははははははっ!」
兼孝はウキウキで資料を漁り始めた。教員による生徒個人の記録が置かれている棚を物色する。
━真相が、この辺りにあるに違いない。




