7-5 緊張
事情を聞いた此人と天野は、とある提案を持ちかけた。
決闘。
1対1の勝負。
国武院の武士道教育と、暁星学院の魔法教育の意地とプライドのぶつかり合い。
しかし、和真にとっては、そんなことはどうでもよかった。
ゆかりやユリィ、学院の仲間を侮辱したことを、彼は許すことはできなかった。
授業が終わり、1時間の昼休み。
決闘は昼休み後、訓練所で行うことになった。
この学校の生徒達は指定された食堂にて昼食をとる。和真達は特に指定や制限もされていない。ゆえに教室にいるのは、和真、ゆかり、ユリィの3人である。
「……さて、私は紅葉先輩と食べてくるね」
ゆかりは和真にウインクし、教室を出た。
━ゆかりさん、気を使った……?
和真とユリィは教室に2人、取り残された。
先程の教室の喧騒が嘘のような静かな空間。
「……ユ、ユリィ」
いつも通り接するだけなのに、なぜか身体がそわそわする。
名前を呼ばれたユリィは、首を傾げた。
「お弁当、ユリィのも作ってきたけど、いる?」
わずかな沈黙の後、ユリィは黙って頷いた。
鞄からいつもの和真の弁当箱と、タッパーを取り出した。
ユリィはそれをそっと両手で受け取った。
和真は慌てて箸を渡した。前回の反省を踏まえ、割り箸ではなく、竹製の箸。
ユリィはタッパーの蓋を開いた。卵焼きの甘い香り、ミートボールのしょっぱい匂いが放たれた。
ユリィが真っ先に飛びついたのは、卵焼きだった。
口の中に入れると、ユリィの瞳に光が差し込んだ。
「……おいしい」
「卵焼き、気に入ってくれてたから……」
和真も自身の弁当を食べながら、ユリィの食べる姿を眺めていた。どこかぎこちない動作に和真は、胸の高鳴りを抑えることができなかった。
「……かずま、さっきの、あの人の言ったこと……」
ユリィは心配そうに問いかけた。
安堂が言い放ったこと━
弱くて、泣き虫で、落ちこぼれ━
「……確かに昔の僕はそうだった、けど━」
和真は窓の外を眺めながら語る。
「もう泣かない、落ちこぼれなんて言わせない、って決めたんだ」
窓の外は訓練所━決闘の場。
和真はユリィの方を向き、目を見つめた。
「それができたのは、ユリィ、君のおかげなんだ」
その言葉に、ユリィの瞳は揺らいでいた。
「……ユリィだけじゃない、学院の、みんながいたから」
「……かずまは、よわくない。でも━」
一拍。ユリィは視線を逸らした。
「……かずまは、かずまのままで、いいと思う」
時が、止まった気がした。
その言葉に、和真は目に涙を溜めていた。
━……いかん、泣かないって、決めたんだ。
視界が霞む中、和真は震える声で、ひと言━
「ありがとう、ユリィ」
*
国武院高等部訓練所。
決闘の定刻20分前。
ゆかりと紅葉は昼食を済ませ、予め決闘の場で待機することにした。
2人が訪れた時にはすでに、兼孝と此人がノートパソコンの液晶画面を見ながら話していた。
「確かに何か違うなとは思ったけど、まあ、兼ちゃんが言うならそうなんでしょうね」
「『アンタゴニスト型』のASFですね。アンチスペルという魔法のはずなのに、魔力波が一切検知されない。アンタゴニスト型の特徴」
此人と兼孝はいつになく険しい顔で会話をしていた。
「……例のあの話?」
2人の会話にナチュラルに参加する紅葉。ゆかりは、自分には無関係な話だと思っていた、そう思いたかった。
「すぐにでも堂ノ上理事長に報告したいくらいね……」
此人は腕を組んで悩む仕草を見せた。
「……そういえばかめむし先輩は?」
唐突に兼孝が訊ねた。
「かめむし君はねぇ、多分資料室じゃないかしら?あの子は自由だからね、フリーダム、フリーランス」
「そうそう、かめむし先輩は『フリーランス』なのよ貝塚」
紅葉が此人に便乗する。その顔はどこか緩んでいた。
「紅葉先輩、『フリーランス』って言いたいだけでしょ」
ゆかりは笑いを堪えながら突っ込みを入れた。
「……バレた?」
紅葉はイタズラっぽく笑ってみせた。
4人で雑談していると、和真とユリィがやってきた。定刻の10分前である。
和真は何も言わずに、ただ時間を待っている。ユリィも、和真に合わせて口を開かずにいた。
ゆかりは恐る恐る2人に近づき、話しかける。
「ねえ和真、ちょっと提案、というかお願いがあるんだけど━」




