第47話 〈《黒牙の影》〉
四大ギルドの一角登場。
「お待たせしました、ヘルシーランチです!」
僕達の前に、ヘルシーランチが置かれた。
冒険者っぽくないけれど、このカフェレストランでランチと言えば、ヘルシーランチだ。
それが分かっていて注文したけれど、まぁ、充分な量だろう。
「うん、美味しそうだね」
「野菜、多い」
「クロンは乾パンとか缶詰ばかりなんだか、食べないとダメよ」
冒険者は何かと健康を崩しやすかった。
それこそ、隊長を顧みないからで、特にお金の無い頃は、食べるものによって健康を害する。常に健康に気遣った食事を摂ることで、心身共に正常を保つことが出来る。
僕達は最高の状態を維持すると、手を合わせて「いただきます」を言った。
「うん、美味しい」
特性ソースの掛ったサラダが美味しかった。
ハムと玉子を一緒に、サニーレタスで巻いて口に運ぶ。
フワッと感とシャキッと感が一緒に広がると、幸せホルモンがドパトパ溢れる。
「今日も新鮮な野菜が使われていていいわね」
「うん」
「本当そうだね。……そう言えば、エメラル」
「なによ?」
エクレアもクロンも満足そうにしている。
そんな折、ふと気になったというより、聞こうと思ったことがあった。
フォークを置き、エメラルは僕の顔をジッと見た。
「トロン森の一件だけど、ライムさんはどうするのかな?」
「そうね、〈《黒牙の影》〉にでも、頼むんじゃないの?」
「それって、王都の冒険者ギルドの一角を担う、長い歴史がある所だよね?」
〈《黒牙の影》〉。それは、王都の冒険者ギルドの一角を担っている。
長い歴史を誇り、主に諜報や暗殺と言った、光の中の影。身を殺し、姿を晒さず、的確に依頼をこなす、陰の集団であり、この国を裏で支えて来たギルドだ。
「ええ、そうよ。〈《黒牙の影》〉、あまりあそこの冒険者は表に出て来ないけど、ちゃんと依頼はこなすから、まあ任せておけばいいでしょ?」
「エメラルがそこまで芯要するんだね」
「一応ね。私達は新参者だから、最初の頃は怪しまれたわ」
〈《黒牙の影》〉は、よほどのことが無い限り、人目に触れることは無い陰の集団。
素性が知れてしまえば、諜報活動や暗殺に支障が出るのは当たり前のこと。
基本に忠実で、それを体現するように、エメラル達も怪しまれたことがあるらしい。
「怪しまれたって?」
「先兵として、軽く見張られていたのよ。王都でパーティーでもクランでも無く、ギルドを作ったんだもの。変に裏があって、邪悪ななにかと繋がっていたら困るでしょ?」
諜報や暗殺に特化しているギルドだ。
何か怪しい動きがあれば、瞬時に気が付く。
エメラル達、〈《眩き宝石》〉もまた、〈《黒牙の影》〉に監視されていたようだ。それがどれだけの時間、どれだけの距離感で行われていたかは分からないが、無事に監視の目から外れたことで、今こうして羽振りを利かせられている。
「確かにそうだね。でも、今は無いよね」
「そうね。普段は無いけど……〈《黒牙の影》〉は、常にこの街の治安維持に貢献してくれているのよ」
「そうだろうね。偶に視線も感じるから」
〈《黒牙の影》〉に属している冒険者は、常に街の治安を見張っている。
何か起これば、すぐに騎士や冒険者、自警団に知らされる仕組みになっていた。
故にこの街では頻繁に起こる事件も、大抵は小さな火の粉で留まる。それを理会しているからこそ、偶に感じる変な視線にも敏感になっていた。
「へぇー、分かっているじゃない。だから任せておけば安心なのよ」
「そうだね。〈《黒牙の影》〉か。信頼できる冒険者ギルドだろうけど、少し不気味でもあるね」
「それはそうよ。なんたって、影なんだもの」
決して光ではない。寧ろ陰に生きることを選んだ冒険者達だ。
素性が割れたらダメだと言ったが、割れている冒険者も中に入る。
とは言えそれもカモフラージュであり、影の中に影を隠すからこそ、自然と不気味さが増し、おどろおどろしく映る。
「ちなみに、すぐ近くにもいるわよ」
「そうだね」
「そうだねって、もう少し驚きなさいよ」
エメラルは僕の反応がつまらなかったらしい。
だけど残念。師匠達の方がもっと恐ろしい。
だからだろうか? 〈《黒牙の影》〉の視線にも容易く気が付くことが出来た。
「いや、いるから……ねぇ?」
「うん。例えばそこ」
杖を使ってクロンが指した方向。
狭い路地になっており、ネコが一匹木箱の上で寝ている。
ネコに化けているのは冒険者で、ああやって街を監視している。
「いい着眼点ね。でも他にもいるわよ」
「そうだね。隣の店のアルバイト、彼もそうだよね」
カフェレストランの隣。花屋を営んでいた。
アルバイト中の青年。視線が右往左往している。
偶に逸らすものの、何処か全体図を見ているようだ。
「あー、オボロもいいわね」
「“も”ってことは、他にもいるの?」
「いるわよ。例えば……はいっ!」
エメラルはサラダにフォークを突き刺した。
そのまま口に運ぶ訳でも無く、何故か放り投げる。
その先にはポッカリと浮かぶ影があり、サラダを刺したフォークは、影の中に吸い込まれる。
「(グサッ!)うひゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!?」
陰の中から男性が飛び出した。
気が付いていたけれど、まさか見張っていたのだろうか?
僕は怪しむついでに、短剣の柄に手を掛けると、フォークが突き刺さった男性はヒィヒィ言っていた。
「痛い……痛い痛い」
「〈《黒牙の影》〉に入ったばかりの新人よね? 影の中に潜むなら、もう少し日当たりを考えなさいよ」
如何して影の中に隠れているのが分かったのか。そんなの決まっている。太陽の動きに合わせて変化する筈の影の動きが、ピタリと止まっていたからだ。
男性冒険者はエメラルの言葉がグサリと刺さった。確かに的を射ていた。
口に加えたフォークを恨めしそうに地面に放り投げると、僕達のことを睨む。
「つ、次こそは上手くやってやるからなっ!」
腹を立てて男性冒険者は去って行く。
トボトボと歩く背中が寂しそうで、〈《黒牙の影》〉に所属する他の冒険者からも溜息を付かれる始末だ。
まだまだ未熟なうちは仕方がない。そう思いたいけれど、〈《黒牙の影》〉は勝手が違う。
「次って、冒険者の実戦で次はあっても……」
「諜報や暗殺に次は無い」
「あはは、厳しいね」
諜報も暗殺も命懸けだ。次なんてあってないもの。
きっとギルドに入ったことを後悔する筈だ。
そうなってもおかしくないと思いつつ、エメラルは落ちたフォークをサッと拾い上げ、新しいものに交換して貰った。
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