第46話 相談を蹴る
相談を蹴り飛ばしたけど、これはエメラルだから通用する。
「それじゃあ、ランチでお願いね」
「はい、畏まりました」
僕とクロンはエメラルに連れられた。
冒険者ギルドを後にすると、エメラル行きつけのカフェレストランにやって来た。
手早く注文すると、先に運ばれて来たオレンジジュースを、ストローを使って飲む。
「ふぅ。ここのランチは美味しいのよ」
「うん。前に連れて来て貰ったよね」
「そうそう。オシャレで可愛いのよね」
僕はエメラルとクロンに連れて来て貰ったから覚えている。
量としてはそこそこで、デザイン性を重視ている。
シャキシャキの野菜を使った料理が多くて、かなりヘルシー志向。
ボリューミーって感じじゃなくて、オシャレで可愛らしくて、何だか「キャッキャッ」叫んじゃう感じだ。
「エメラル、聞いていい?」
「なによ、オボロ」
僕は一つ気になることがあった。
エメラルは顔を上げると、僕と目を合わせる。
「ライムさんだっけ? 冒険者ギルドのマスターの相談、どうして断ったの?」
「ああ、蹴った理由?」
「うん。なにか意味があるの?」
僕はライムの相談を蹴った理由が気になっていた。
何かやむを得ない理由があったとかじゃないのに、どうしてか?
関係としては決して悪くない。別に断ってもいいけれど、逃げるような感じじゃなくてもいい気がしたのは気のせいだろうか?
「あー、それね。別に、大した意味は無いわよ?」
思った答えとはまた違った。
エメラルのことだから、何か考えがあるのかと思っていた。
でもオレンジジュースを飲む姿からは、そんな思惑は全然見えない。
「本当に無いの?」
「無いわよ、特に意味なんて。ただ、面倒に思っただけかしら」
エメラルの口から珍しい言葉が飛び出す。
“面倒”なんて、僕の知っているエメラルからはあまり聞かない。
寧ろクロンの方がシックリ来て、チラッと視線を送る。
「なに?」
「ううん、なんでもないよ」
僕はスッとエメラルに視線を戻した。
クロンなら本当にシックリ来ると思いつつ、如何して面倒に思ったのか訊ねる。
本当は野暮で、面倒以外の答えなんて無いのは知っていた。
「面倒なんて、エメラルの口から飛び出すなんて」
「意外?」
「うん。責任感の塊みたいな性格だから」
もちろん褒め言葉のつもりで言った。
如何捉えられるかは分からないけれど、エメラルは上手く噛み砕く。
スッと自分に理解出来るよう落とし込むと、「責任感って」と続けた。
「責任感って、私はただ、私がやるべき思ったことをやってるだけよ」
「それが責任感っていうんじゃないかな?」
「うん。エメラルは頑張り過ぎ」
「クロンが堕落しているだけよ」
エメラルとクロンは極端だった。
性格が真逆で、上手く噛み合わなさそう。
でも、連携はバッチリ取れていて、漫才が面白い。
「それで、面倒って?」
「ライムさん、あのまま話を進めていたら、私達に相談を依頼の形で押し付けていたわよ」
エメラルは質問が依頼に変わるのを危惧していた。
確かに分からなくはない。その可能性も充分にあり得る。
でも、ライムの動きからは、そんな風には見受けられなかった。
「そんな風には見えなかったけど?」
「そうね。でも、ギルドマスターが冒険者ギルドの広間にいるのって、なんかおかしくない?」
「うん。それは思ったよ」
ライムの実力は相当高い。それは見た一瞬で分かっていた。
冒険者ギルドのマスターを務めるんだ。普段から鍛えているだろう。
現役は退いたものの、師匠達には劣っていても、油断できない相手だって理解させられる。
それにはライムも充分過ぎる程で、まともに戦えば勝てない。
戦うつもりは無いけれど、そんなライムが自分の足で冒険者ギルドの、しかも目立つ広間に現れた。只の相談ってことは絶対にあり得ない。
「あのライムさんが、冒険者ギルドの広間にいて、私達相手に通帳振込をすんなり現金払いに変えたって、おかしいでしょ?」
「……確かに、変かも」
「そういうことよ。冒険者たるもの、ほんの些細な違和感にも疑って掛からないと、命が幾つあっても足りないわよ」
エメラルの言葉には説得力があった。
身を持って経験しているので、僕は首を縦に振る。
それにしても、ライムの思惑をここまで想像出来るなんて。
エメラルは冒険者として、Aランクの舞台にまで片足を突っ込んでいる。
色々と勉強になるナと思いつつ、ライムがこの後如何するのか気になる。
まさか目を付けられた……なんてことはないと信じたい。
「まさかとは思うけど、この後ライムに目を付けられるなんてこと」
「「あり得ない」わね」
僕の心配をよそに、エメラルとクロンは真っ向から否定した。
しかも即答で、表情が一切変わっていない。
冒険者ギルドのマスターで、自らの依頼を蹴った具合で態度を変えたりしない。そこまで融通が利かない訳じゃないと、二人は知っていた。
「あり得ないわ。こんな小さなことで拗ねていたら、冒険者ギルドの、しかも王都の冒険者ギルドでマスターは務まらないものよ」
「そういうこと。だから心配は要らない」
「……心配はしていないけどね」
確かに二人の言う通りだった。全ては杞憂に終わった。
僕達がこれからも続けて行くことは変わらない。
それが答えであり、ライムも子供みたいに拗ねて、目の敵にはしなかった。
「とは言っても、あの断り方は強引だったかしら?」
「うん。失礼かもね」
一方的に話を蹴っていた。
あれは流石にやり過ぎで、印象もあまりよろしくない。
僕はエメラルに同意すると、反省しているらしい。
「……今度、ちゃんと聞いてあげようかしら」
「そうだね。それがいいと思うよ」
冒険者を続けて行く以上、実力もそうだが信頼や外面も大事だ。
特にエメラルはその筆頭で、ライムの話を聞いてあげることにした。
「それと、その前に……はい、これ」
エメラルは袋を手渡した。
小さな袋の中身はお金で、ズッシリとしている。
いつの間に分けたのか、キッチリ三等分されていた。
「さっき貰った報酬だね」
「キッチリ三等分よ。いいわよね?」
「構わないよ。それが一番揉めなくて済む」
「うん」
冒険者でもなんでもそうだけど、仕事で一番揉めるのは、報酬だ。
結局のところ、報酬の多い少ないで揉め事に発展して、関係を悪くする。
それならいっそのこと、全て均等にしてしまえばいい。まさしくその通りで、僕達は報酬がどれだけ少なくても、端数以外は均等に分けていた。だから揉めなくて済むし、みんな織り込み済みだ。
「それじゃあとはランチが来るのを待ちましょう。はぁ、お腹が空いたわ」
エメラルは頬杖を突いて、ランチが運ばれるのを待った。
多分もうすぐ運ばれて来る筈。僕の嗅覚がそう言っている。
報酬も充分、冒険者としてやれていると、達成感を感じていた。
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