第45話 ギルドマスター、ライム
ここだけの話、魔王城の設定と被らないように苦労しました。
「エメラルさん、査定が終了しましたよ」
「そう、ありがとう」
ネシアが報告しに来てくれた。
如何やら状態が良かったおかげか、査定の方もスムーズに終わったみたい。
手渡された査定書を確認したエメラルは、「いい額ね」と口走る。
「うわぁ、結構貰えるね」
「うん」
正直、ワイルドボア一匹でこの額は凄い。
何たって、ワイルドボア一匹の討伐で、三等分しても二週間以上は、余裕で食べていけるくらい稼いでみせた。
これからは縛りプレイで戦ってもいいかもしれない。エメラルとクロンも納得したから、エメラルもネシアに伝えた。
「ありがとう、ネシア」
「はい。それでエメラルさん、報酬は口座に振込でもよろしいでしょうか?」
「振込? 別にいいわよ」
「ありがとうございます。では……」
もしかして、まとまったお金が無いのかもしれない。
王都の冒険者ギルドに限って、そんなことはあり得ない。
ってことを考えると、何か別で必要なのかもしれない。
「いや、待ってください」
「その声は……」
プイッと視線を向けると、背の高い男性が立っていた。
眼鏡がとてもよく似合う好青年で、不思議な威厳を感じる。
もしかして、凄い人かもしれない。いや、凄い人だ。
「ライムさん?」
「ライムさん? それって……」
「ギルドマスター」
「ディスカベルのギルドマスター?」
初めて会った。まさかこの人がギルドマスターだったなんて。
僕は驚かされてしまうと、見えない魔力の流れを感じる。
水のように滑らかで掴み所が無い。そんな相手を前にして、エメラルは平然と会話をする。
「どうしたのよライムさん。なにを待つの?」
「報酬は振込で無くて構いません。ネシアさん、出してあげてください」
「えっ、は、はい!」
如何やらライムが取り合ってくれるらしい。
本当は振込の予定だったけど、直接現金で手渡してくれる。
ズッシリとした重みのある袋。ネシアはエメラルに手渡してくれる。
「どうぞ、エメラルさん」
「ありがとう、ネシア……確かに受け取ったわ」
サッと確認すると、エメラルは袋の紐を引っ張った。
後で僕とクロンにも分けて貰うことになった。
これもライムのおかげで、エメラルの顔の広さを窺えた。
「凄いね、エメラル。冒険者ギルドの顔だね」
「もう、そんなつもりないわよ」
「でも実際そう」
「クロン、茶化さないでよ。私はただ、私なりの冒険者を全うしているだけ」
エメラルは褒められて気恥ずかしそうだった。
けれど実際エメラルのしていることは、冒険者としてお手本のようなことが多い。
だからこそ、ギルド云々関係なく、エメラルは顔が知れ信頼と信用を勝ち取っているんだ。
「本当に頼りになりますよ、エメラルさん」
「ライムさんまで褒めると、やってるみたいでしょ?」
「本心なのですが……仕方がありませんね」
ギルドマスターに褒められても喜ばなかった。
寧ろ威厳を見せると、援助を受けている訳じゃないとアピールする。
そんなことしなくてもいいのに。そう思うが、ここはライムの方が折れる。
「それでライムさん、表に出るってことは、なにかあったの?」
「はい。実は折り入って相談があるんですよ」
「相談?」
ギルドマスターから直接相談を持ちかけられるエメラル。
規格外の逸材で、Bランクなことが惜しいって思う。
もうAランクまで手が届いているだろうが、そんなことはさておく。
一体何の相談か、エメラルか訝しんでいた。
「はい。トロンの森の一件、お疲れさまでした」
「「「あー」」」
トロン森。その名前が飛び出すと、僕達は全員納得した。
ここ最近、トロン森には行っていない。生態系が完全に変わってしまったからだ。
その原因はトロールが暴れたから。スカイプ達のパーティーを襲い、壊滅させた張本人で、僕達が無事に討伐して事無きを得た。
その筈だったけれど、未だにトロン森に近付けていない。
それが答えであり、ライムの顔色が神妙な理由。
何かしら分かったのだろうか? それともトロン森はもう安全なダンジョンに戻ったのだろうか? そんな筈が無いことは充分承知している。
「トロン森ね。あれからどうなったのよ?」
「そうですね。エメラルさん達がトロールを討伐してくださったおかげで、今までのようにとは行きませんが、比較的平和なダンジョンに戻りました」
「ってことは、今まで通り狩場に使っていいのね」
「ある一定のランクであれば、充分可能だと思いますよ」
トロン森の治安はある程度まとまったらしい。
トロールと言う、圧倒的な生態系の頂点がいなくなったおかげで、元通りとは行かないまでも、再び狩場としてダンジョン利用出来る。
僕達の冒険の幅がまた広がる。これは嬉しい。けれど、しばらくはいいかな。
トロン森にわざわざ行かなくても、僕達の経済状況的に問題無い。
特にエメラルとクロンはあの有名な〈《眩き宝石》〉のメンバーなんだ。食べて行くには充分困らない。
「やったね、エメラル、クロン」
「そうね」
「うん」
あまりトロン森にはいい印象が無い。
それこそ、僕が本領発揮したせいだと思うけど、それ以前の問題もある。
あれだけ凶暴なトロールが何故現れたのか、色んな意味で謎が多い。
「それで、トロン森の状態は分かったけれど、私達が討伐したトロール。そっちからはなにか分かったの?」
「はい。実は相談と言うのは、まさにそれです」
「それって?」
エメラルが気にしていたのは、トロールの方だった。
ダンジョンの方に異常が無いとすれば、考えられる要因は別。
それこそトロールの方で、エメラルは見越した上で魔石核とトロールの体の一部を持ち帰り、ギルドに提出していた。その結果が思いもよらない事実を生む。
「エメラルさん達が討伐されたトロールの死骸からは、妙な薬品の跡が発見されました」
「「「はっ!?」」」
想像以上の結果が飛び出した。
僕はもっとマイルドな感じの理由かと思ったけれど、明らかに人為的。
まさか魔物を意図的に暴走させたってこと? ヤバい奴の臭いがプンプンした。
「妙な薬品の跡ってなによ。もしかして、それでトロールが強くなった訳?」
「恐らくはそうでしょうが、まだ何とも。と言うのも、そのことについて相談したいのです。今、お時間は空いていますか?」
気になった。凄くに気になった。
トロールをわざわざ薬品投与までして、一体何がしたかったのか。
その裏に隠れている正体は何か。だけど、これ以上深追いするのは危険だと訴え掛けられ、僕とクロンの表情を見る前に、エメラルは相談を蹴る。
「うーん、気になるけど少しパスね。他を当たって」
「エメラル?」
「私達ばかりに頼っていてもダメだよ。調査とそっち系なら、〈《黒牙の影》〉の方が優秀でしょ?」
エメラル以外にも、優秀な冒険者は数多く王都には居る。
それこそ調査関係であれば、専門職と言っても過言ではないギルドがあった。
〈《黒牙の影》〉。王都最大規模のギルドの一角、諜報や暗殺に優れた陰なる冒険者集団だ。
「だからライムさん、他を当たって。なにか分かったら、教えて欲しいわ。それくらいの権利、私達には当然あるでしょ?」
「あっ、エメラルさん!」
「行くわよ、オボロ、クロン。なにか食べに行きましょう」
僕とクロンはエメラルに急かされた。
逃げるように冒険者ギルドを後にすると、何やら面倒な依頼を蹴ることに成功。
あのまま引き受けていたら大変だった。それこそワイルドボアの二の舞。エメラルは見本となる冒険者だけど、その前に人間であるからこその怠惰を見せ、誰にも否定させず付け入る隙を与えなかった。
「あはは、逃げられてしまったね」
ライムは何処か寂しそうだった。それだけ頼りにしていた。
けれどエメラルの言い分も一理ある。
専門のギルドに任せることにすると、まずは情報の精査に取り掛かった。
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